序
脳血管障害は，日本人の死因一位の座を悪性新生物に譲って久しいが，依然として最も多い罹患疾患のひとつであろう．近年は脳虚血性疾患に対して，heart attack（心臓発作）同様にbrain attack（脳発作）として血栓溶解療法などの超急性期治療の必要性が提唱され，検証されつつある．
一方で，目まぐるしいまでに種々の新しい画像診断法が開発，提唱され，脳血管障害の診断にも応用されてきている．magnetic resonance imaging（MRI）の拡散強調像や灌流画像，multidetector CTの利用によるCT angiography・CT灌流画像，超音波による脳血管の評価，回転三次元脳血管撮影等々である．どのような病態にどの画像診断法が必要にして十分なのか，その施設が置かれた状況も含めた種々の要因が絡んで大変に難しい問題であり，これからの検討をまたねばならない．そのようなモダリティー・検査法の発展だけではなく，超早期虚血性病変の画像所見，脳血管障害による遠隔部の二次変性など，画像診断，病態把握に向けても長足の進歩が遂げられている．
本書では各領域を第一線で活躍されている執筆陣に分担していただいた．種々のモダリティーや検査法の現時点における活用の仕方，利点と問題点，種々の病態における画像診断などについて，分かりやすくしかしかなり突っ込んだレベルまで解説してもらったつもりである．
最終目標は患者さんにとってその時点で最も望ましい医療をすることにあるが，画像診断の面では，どのような検査の組み合わせが適切なのだろうか．個々の患者さんによって，あるいは施設などによっても異なるのであろう．本書が，現場で種々の診断法を利用・取捨選択する際の，また画像所見を解釈する際の良き指針となればこの上ない喜びである．
最後に，日本の脳血管障害の画像診断に大きな貢献を果たして来られた秋田脳血管研究センター前所長である上村和夫先生に心からなる親愛と感謝の念を込めて，序に代えさせていただく．
2002年11月
高橋昭喜
目次
1 脳の画像解剖(高橋昭喜) 1
A．脳回・脳溝の同定… 1
1) MRI横断像の角度… 1
2) 脳回・脳溝の解剖… 1
3) 中心溝と周囲構造の同定… 3
4) その他の部位の同定… 12
B．脳の動脈支配… 15
1) 大脳の主幹動脈… 15
2) 大脳脳底部穿通動脈… 21
3) 内包後脚・放線冠の動脈支配… 31
4) テント下の動脈支配… 33
C．脳梗塞による動脈支配の表現… 39
1) テント上皮質枝域の脳梗塞… 39
2) テント上穿通動脈域の脳梗塞… 42
3) 脳幹梗塞… 50
4) 小脳梗塞… 53
2 脳血管障害の評価に用いられる画像診断法 57
A．種々の画像診断法の特徴…(日向野修一) 57
1) CT… 57
2) MRI… 57
3) 脳血管造影… 59
4) SPECT, PET… 59
B．新しいMR・CT検査法 : 拡散強調像と灌流画像…(日向野修一 田村 元) 61
1) 拡散強調像… 61
2) MRによる灌流画像… 65
3) CTによる灌流画像… 68
C．CT灌流画像…(高木 亮 隈崎達夫 田村 元) 70
1) CTPの原理… 70
2) 検査方法… 72
3) 画像解析および評価… 73
4) 臨床応用の実際… 74
5) 臨床的意義… 76
D．脳血管障害のMRS…(後藤卓美) 78
1) MRSとは… 78
2) 脳梗塞のMRS… 80
3) 症例… 81
E．脳血管のMRA，血管壁の画像診断…(青木茂樹) 85
1) MRアンジオグラフィーとは… 85
2) 非造影MRアンジオグラフィー（3D TOF MRA）の原理，撮像法，
再構成法… 86
3) 通常のMRA（非造影3D TOF MRA）の特徴と適応… 87
4) 造影MRアンジオグラフィーの原理，特徴，適応… 94
5) その他のMRAの撮像法… 97
6) MR venography… 97
7) 血管壁の画像診断… 97
F．中枢神経の三次元CT Angiography（3D-CTA)…(小倉祐子) 103
1) 撮影方法… 103
2) 3D-CTAの臨床応用… 104
G．脳・頸部血管のエコー検査…(寺崎修司 橋本洋一郎) 112
1) 頸部血管エコー検査… 112
2) 経頭蓋超音波検査… 119
3) 脳血管領域の超音波の今後… 124
H．回転三次元脳血管撮影…(安陪等思) 126
1) 3D-DSAの実際… 126
2) 3D-DSAの利点… 126
3) 脳血管内治療における有用性… 128
4) アーチファクトと落とし穴… 130
5) 展望… 131
3 虚血性変化，脳梗塞 133
A．脳梗塞一般…(日向野修一) 133
1) 分類… 133
2) 脳梗塞の組織像および画像所見とその経時変化… 138
B．拡散強調像と灌流画像による脳虚血性病変の診断…(日向野修一) 150
1) 拡散強調像… 150
2) 灌流画像… 154
C．血管周囲腔とラクナ梗塞…(小川敏英 木下俊文 杉原修司) 160
1) 血管周囲腔とラクナ梗塞との鑑別… 160
2) 拡大した血管周囲腔の好発部位と巨大な血管周囲腔… 161
D．ラクナ出血…(木下俊文) 164
E．脳梗塞様所見を示すもの… 165
1) 白質の非特異的異常高信号…(木下俊文 小川敏英 宮田 元 大浜栄作) 165
2) 高血圧性脳症…(木下俊文 小川敏英 森谷聡男 沼口雄治) 169
3) MELAS…(日向野修一) 171
4) てんかんに伴う大脳皮質の浮腫性変化…(日向野修一) 172
5) 正常構造…(日向野修一) 173
F．低酸素脳症…(高橋昭喜) 176
1) 分類… 176
2) 乏血性低酸素脳症の病理所見… 176
3) 乏血性低酸素脳症のMR所見とその経時的変化… 177
4) 低血糖症… 180
G．病巣遠隔部の二次変性…(小川敏英 木下俊文 杉原修司) 182
1) 皮質脊髄路のWaller変性… 182
2) 下オリーブ核仮性肥大… 184
3) 中脳黒質の変性… 184
4) 視床の変性… 185
5) 橋小脳路のWaller変性… 187
H．血栓溶解療法の適応…(江面正幸) 189
1) 臨床病型の診断… 189
2) 適応症例の選択… 189
3) 脳血管撮影から局所線溶療法の手順… 191
4 脳出血(河田 泰) 193
1) 脳出血の病理… 193
2) 脳出血の画像所見と経時変化… 194
3) 種々の疾患でみられる出血… 201
4) 鑑別診断（出血とまぎらわしい病変など)… 208
＜参考＞… 213
5 くも膜下出血，脳動脈瘤 217
A．くも膜下出血と脳動脈瘤一般…(栗原紀子 石井 清) 217
1) 症状… 217
2) くも膜下出血のCT診断… 218
3) 動脈瘤破裂によるくも膜下出血… 218
4) くも膜下出血を認めた後の検査… 220
5) 未破裂動脈瘤の診断… 220
6) 巨大動脈瘤の画像所見… 226
7) 動静脈奇形によるくも膜下出血… 227
8) 外傷性くも膜下出血… 227
9) 合併症… 228
10) perimesencephalic SAH… 229
11) くも膜下出血のMRI診断… 230
B．脳動脈解離…(細矢貴亮) 234
1) 脳動脈解離の臨床… 234
2) 脳動脈解離の基本的画像所見… 235
3) 脳動脈解離の画像診断… 239
C．感染性動脈瘤…(吉岡邦浩) 244
1) 概念と分類… 244
2) 特徴… 244
3) 心臓手術との関連… 245
D．脳動脈瘤の治療…(江面正幸) 250
1) 動脈瘤の状態と臨床症状… 250
2) 治療方法… 251
6 脳血管奇形 253
A．動静脈短絡奇形…(日向野修一) 254
1) 実質内動静脈奇形/瘻… 254
2) ガレン静脈奇形… 260
3) 硬膜動静脈瘻（硬膜動静脈奇形)… 261
B．海綿状奇形… 266
C．毛細血管性奇形（毛細血管拡張症)… 270
D．静脈性奇形… 271
E．脳血管奇形の治療…(江面正幸) 273
7 もやもや病 277
A．画像所見…(麦倉俊司) 277
1) 概念… 277
2) 臨床所見… 277
3) 血管撮影所見… 277
4) MR/MRA所見… 282
B．もやもや病の治療…(日下康子) 286
1) 小児症例… 286
2) 成人症例… 287
8 静脈血栓症(江面正幸) 289
A．画像所見… 289
1) 血栓症の診断… 289
2) 随伴所見… 293
B．静脈血栓症の治療… 295
9 小児の脳血管障害(佐々木真理 及川博文) 297
1) 胎児期の脳血管構築とその発達… 297
2) 胎児期の脳血管障害… 297
3) 未熟児の周産期脳血管障害… 298
4) 成熟児の周産期脳血管障害… 300
5) 周産期脳血管障害の予後… 304
6) 乳児期以降の脳血管障害… 304
10 脳血管障害の核医学(下瀬川恵久) 308
1) 虚血性脳血管障害の核医学検査と病態生理学的背景… 309
2) 遠隔効果… 311
3) 虚血性脳血管障害の経時的画像所見… 312
4) 発症6時間以内の超急性期脳梗塞… 315
5) 脳出血… 317
6) くも膜下出血… 318
7) その他の脳血管障害… 320
索引… 323