私たちがEBM(EBN)の普及,啓蒙活動を始めて5,6年になる.その間の医学会,医療界でのEBM(EBN)の普及は非常に急速なものがあり,普及,啓蒙活動をしている私たちですら驚いている次第である.

 EBM(EBN)を確実に行うためには,与えられた臨床(看護)問題に対して,情報検索と信憑性の確認というのが重要な作業になる.今回は,EBM(EBN)を推進する上で重要な情報検索について,最も利用価値の高いPubMedと,信憑性の確認の際の1つの目安で,実際自分たちが論文を投稿する時の重要な判断材料とされるインパクトファクター(Impact Factor)に関する活用法,利用法をまとめさせていただいた.

 今一番旬と言われるPubMedとImpact Factorであるが,PubMedについては従来からのPubMedと新PubMedが並立する時期であるので,どちらにも対応可能なようにまとめ,インパクトファクター(Impact Factor)については最近のホットな議論も充分盛り込むというという非常に欲張りな企画となった.各分担執筆者には色々無理な注文もつけたが,皆最大限の努力でそれに応えてくれたので,かなり完成度の高い作品となったと自負している.

 編者が研究を始めた当時は,研究を始める際の文献検索に非常な努力と時間を必要とするものであった.索引から医学中央雑誌,MEDLINEなどの該当ページを探し,抄録を読み適当なものであれば,さらに文献を入手するという作業であった.勿論抄録のないものもあり,文献入手をすべきか悩む場合もあった.また,文献もすぐに手に入る場合はよいが,「図書間相互貸借」で手に入れる場合などは時には数週間必要とした.まもなく,有料オンラインデータベースが稼働するようになったが,内容は医学系が少ないなどの不充分性と,高額料金の故,めったに利用できるものではなかった.

 10年ほど前からMEDLINEや医学中央雑誌のCD-ROMが図書館で,使えるようになり,文献検索が大分楽になったと感心したものである.

 そこでさらにこのインターネット時代である.多くの会社,病院,研究施設では,LANが構築されインターネットが利用できる環境が整っている.そこでは接続形態にもよるがかなり高速アクセスが可能であり,自分の机の上でインターネットが利用でき,PubMedが利用できる環境が整っている.

 また,コンピュータと電話さえあれば,個人でもプロバイダーに加入する必要はあるが,24時間いつでもPubMedにアクセスできるようになった.そのコンピュータも加速度的に性能は上がり,値段は下がってきた.いまや,5万円前後でもかなり高速,高機能のコンピュータが手にはいる.しかも,通信速度は高速化され(ISDNで128kbps,普通電話でも56kbpsが標準,一部地域ではADSL(最大速度(下り1.5Mbps/上り512kbps))やケーブルテレビでのLAN接続で高速で利用可),最近は無料プロバイダーも増え,電話料金のみでインターネット利用が可能である.

 このような便利な環境の現代,自宅で,病院・会社・研究施設で,文献検索に有用なPubMedを使わない手はないであろう.そして,PubMedの活用には多くのノウハウがあるので,それらを充分理解すると,おもしろいほど効率的検索が可能となる.読者の皆様には,是非その辺を充分理解していただけたらと願っている.

 また,ネット上の変化はまさに日々これ進歩と言った感がある.各著者が校正をする度に,ネット上で確認しているが,いくつかの画面は変化し,時にはアクセス不可能という場合もある.最終校正の時点での,最新情報を掲載してあるが,みなさんのお手元に渡り,実際にPubMedを使う時点では若干の変化があるかもしれない.その際は,編者,もしくは出版社にご連絡いただきたい.編者らは,毎日のようにPubMed,NCBI,NLMを使用し,各部門の担当者とも情報交換を行っているので,対応可能と考えている.

 インパクトファクター(Impact Factor)をめぐる議論が,最近は日本国内の研究者間でも多く聞かれるようになった.大きな要因として,大学設置基準の改正(1991年)が考えられる.基準改訂で大学の自己評価が義務付けられ,定量的な業績評価ということで,インパクトファクター(Impact Factor)を利用するところが増加した.東京慈恵会医科大学などでは,業績年報に,発表論文の掲載雑誌のインパクトファクター(Impact Factor)を記載し,講座や研究者の評価を行っている.

 また,教授(部長)選考にあたって,英語原著論文いくつ以上,インパクトファクター(Impact Factor)##以上などとして教授(部長)募集,選考をしているところもある.

 しかし,実際,その定義や問題点が,きちんと理解されていないようにも思える.インパクトファクター(Impact Factor)は,その創始者のEugene Garfieldが言うように,特定のある雑誌の1論文あたり平均引用回数を算出した雑誌の重要度を示す指標であるが,直接個々の論文評価に利用はできず,当然個々の研究者の評価指標とすべきではないとされる.

 また,問題点としては,上記のような単純な指標故,編集方針次第で簡単に数値をあげることが可能である.例えば,1.他誌と協定し,雑誌間で互いに引用をする,2.雑誌内で引用する(これは実際行っている雑誌もありそれなりに効果があった),3.引用が多そうな論文しやレビューを増やし,早い号(1,2月号)に集中させる などである.

 このように問題点もあり,分野間の比較も適当でないが,分野を限定すると,その分野内では,インパクトファクター(Impact Factor)は雑誌のグレード,重要度の指標としてはおおむね的を得ていると思われる.その辺の詳細な議論は本文を参照してほしい.

 また,本著は数名の著者で記載しているため,用語の統一,一冊の本としての流れの一貫性などには編著者,分担著者が細心の注意を払った.しかし,編集・校正期間の制限などもあったため,不完全の部分があるやもしれない.この点に関しては読者の皆様方の忌憚のない御意見をいただきたい.

 また,類似した図表が何カ所かに見られるが,これは1箇所にまとめるよりも,適宜必要箇所で参照できた方が煩雑さがなくなり,理解を助けるものと判断したので,そのような形式とした.これらの点に関しても読者の皆様方の御批判,御意見をいただきたい.

 企画から,校正,編集に至るまで長期にわたり,ひとかたならぬ協力と激励をいただいた中外医学社,小川孝志氏を初めとする編集スタッフ一同には心から感謝を申し上げたい.また,著者らの原稿を精読し,貴重なコメントをいただいた西岡真樹子医師,中村晃士医師(東京慈恵会医科大学大学院)をはじめとする関係諸氏にも深く感謝したい.さらに,資料整理,イラスト・図表作成などにご協力をいただいた縣千聖氏,縣賢太郎氏には最大の謝意を表したい.

  2001年5月

    編著者 縣 俊彦


目 次

1.医学・看護研究とは  1

  1.医学研究とEBM  1

  2.看護研究とEBN  8

  3.臨床試験  13

  4.臨床研究,看護研究とGCP,ICH  17

2.情報検索  21

  1.特定の興味,テーマの検索  22

  2.EBM(Evidence-Based Medicine),GCP(Good Clinical Practice)関連資料の検索  29

  3.EBN(Evidence-Based Nursing),看護活動全般関連資料の検索  34

  4.サーチエンジンによる検索  35

3.PubMed 1  44

  1.NLM,IGMとは  44

  2.PubMedへのアクセス  50

  3.PubMedの特徴  53

  4.PubMed検索の基本: Basic Search  54

4.PubMed 2-Advancedな使い方(1)  60

  1.Advanced Searchへのアクセス  60

  2.Search Fieldの使い方  61

  3.Clinical Queries  66

5.PubMed 3-Advancedな使い方(2)と新PubMed  78

  1.Journal Browser画面  78

  2.MeSH Browser  84

  3.Citation Matcher for Single Articles  96

  4.Boolean Search画面  101

  5.新PubMed  103

6.インパクト ファクター(Impact factor)  116

  1.雑誌の評価: インパクト ファクター  116

  2.インパクト ファクターの詳細  119

  3.インパクト ファクターの正当性?  120

  4.インパクト ファクターのデータ  121

  5.最新文献指数,即時性指数(Immediacy Index)  124

  6.被引用半減期(Cited Half-Life)  124

7.総合・基礎・社会医学分野のインパクト ファクター  126

  1.総合医学,内科  128

  2.総合自然科学  129

  3.行動科学  129

  4.生化学,分子生物学  129

  5.生物学  134

  6.細胞生物学  134

  7.化学  135

  8.生態学  135

  9.遺伝学  140

  10.免疫学  140

  11.微生物学  141

  12.寄生虫学  141

  13.病理学  146

  14.薬理学,薬剤学  146

  15.生理学  147

  16.社会医学  147

  17.毒性学  152

  18.ウイルス学  152

  19.発生生物学  153

  20.実験医学,医学研究  153

8.臨床医学系のインパクト ファクター  159

  1.総合医学,内科  159

  2.循環器病学  161

  3.臨床神経学  161

  4.内分泌,代謝学  164

  5.消化器病学  164

  6.血液病学  165

  7.感染症学  165

  8.神経科学  170

  9.産婦人科学  170

  10.腫瘍学  171

  11.眼科学  171

  12.小児科学  176

  13.精神医学  176

  14.放射線医学  177

  15.外科学  181

  16.泌尿器科学,腎臓病学  181

  17.皮膚科学,性病学  184

  18.耳鼻咽喉科学  184

  19.実験医学,医学研究  185

索引  191