今回,「EBM血液疾患の治療2008−2009」を出版させていただいた.最初の刊行は2002年9月の「同2003−2004」,次が2004年9月の「同2005−2006」で,本書はシリーズ3冊目になる.
 EBM(evidence−based medicine)という言葉はすでに定着していて,毎日の診療では常にEBMを心がけるようになってきている.しかし,EBMの根拠となるデータは日々新しく塗り替えられていて,昨日の常識が今日には覆されることもあるし,昨日は分からなかったことが今日には氷解していることもある.血液疾患治療の分野も例外ではなく,その進歩には目を見張るものがある.というわけで,本シリーズも定期的に改編する必要があり,今回も原則として取り上げるテーマは一新し,もしも同じテーマを取り上げるなら執筆者を替えるという工夫をしている.したがってすべて新原稿により構成され,今日的な内容になっている.またこれまでのA5判の判型を,この版から読みやすいようにB5判と大きくした.
 医学的にエビデンスとよばれるものにはさまざまなレベルのものがある.血液疾患には頻度が低い疾患が多い.頻度が低いと,同じような症例を多数集めてランダム化比較試験を行うのがむずかしくなる.多数例による前方視的ランダム化比較試験が不可能なときは,どうしてもエビデンスのレベルは低下する.当然meta−analysisのレベルも下がる.また,示されたデータが日本人での試験結果ではなく欧米人のものだったりすることも多い.日本人で同じ成績が得られるとは限らない.
このような点に留意して本書を読んでいただきたいのだが,なかにはエビデンスがほとんどないが注目されている領域があって,このような場合の書き方は執筆者に一任してあることをご承知いただきたい.
 本書は,診療に多忙な臨床医にもすぐに役立つように,最初におおまかな治療指針を提示し,次に治療指針の根拠となった論文を具体的に解説し,次に根拠となった臨床研究の問題点と限界を示し,さらに本邦の患者に用いる際の注意点,そして最後にまとめ(コメント)の順で解説してある.
本書が血液専門医のみならず多くの医師や研修医,看護師にとって,有益かつ楽しい書になることを願うとともに,多忙な折にご執筆いただいた諸先生方にこの場を借りて深謝する次第である.
 最後に蛇足ではあるが,血液内科の診療を行うに当たってはevidenceが重要なのは言うまでもないことだが,expertise(専門技術とでも訳すのか)を日々研鑽し続けることも必要不可欠であることを付け加えたい.

2007年8月
編 者


目次

I.赤血球の疾患
  1.鉄欠乏性貧血における経口鉄剤の至適投与法 〈森 茂久〉
  2.鉄欠乏性貧血における非経口鉄剤の適応と至適投与法は? 〈檀 和夫〉
  3.ステロイドに不応性(不耐性含む)の温式抗体による
    自己免疫性溶血性貧血の治療は? 〈亀崎豊実〉
  4.冷式抗体による自己免疫性溶血性貧血の治療は? 〈唐澤正光〉
  5.再生不良性貧血の重症度別の初回治療方針は? 〈大橋春彦〉
  6.初回免疫抑制療法無効の再生不良性貧血に対する治療方針は? 〈松田 晃〉
  7.再生不良性貧血に対する造血幹細胞移植療法の適応 〈中尾眞二〉
  8.骨髄異形成症候群に対するリスク別治療方針は? 〈伊藤良和 大屋敷一馬〉
  9.骨髄異形成症候群に対する免疫抑制療法の適応と方法は? 〈石川隆之〉
  10.骨髄異形成症候群に対する新規薬物療法は? 〈通山 薫〉
  11.骨髄異形成症候群に対する造血幹細胞移植の適応と移植法 〈谷本光音〉
  12.発作性夜間血色素尿症に対する治療指針は? 〈金丸昭久〉
  13.発作性夜間血色素尿症に対する造血幹細胞移植の適応と移植法は?
                          〈寺村正尚〉
  14.発作性夜間血色素尿症(PNH)の溶血発作に対する治療は? 〈中熊秀喜〉
  15.赤芽球癆(慢性特発性)の初回治療方針は? 〈小松則夫〉
  16.難治再発性赤芽球癆の治療方針は? 〈澤田賢一〉
  17.保存期慢性腎不全(CRF)患者の腎性貧血の治療方針は? 〈椿原美治〉
  18.真性赤血球増加症の治療方針は? 〈村手 隆〉
  19.遺伝性球状赤血球症の治療方針は? 〈増田道彦〉
  20.再生不良性貧血・骨髄異形成症候群に対する
    G−CSFの適応と至適投与法は? 〈木村文彦〉

II.白血病
A.急性骨髄性白血病(AML)
  1.正常核型AMLの予後予測に有用な指標は何か? 〈朝倉義崇 小林幸夫〉
  2.(8;21)転座を有するAMLの予後予測に有用な指標は何か? 〈酒井リカ〉
  3.Up−frontでの化学療法とMylotarg併用の有用性は
    どこまで明らかとなったか? 〈薄井紀子〉
  4.非寛解期AMLに対する同種造血幹細胞移植の成績を規定する要因は?
    ─非寛解移植で比較的良好な予後が期待できるのはどのような場合か?
                               〈入沢寛之〉
  5.AMLに対するRISTの有用性はどこまで明らかになったか? 〈田野崎隆二〉
  6.AMLに対する免疫療法の有用性はどこまで明らかになったか?
                     〈山崎 聡 平家勇司〉
  7.移植が適応とならない高齢者AMLの治療 〈森 眞由美〉
  8.新規薬剤(Fludarabine,Clofarabineなど)のAMLに対する有用性は?
                           〈宮脇修一〉
B.急性前骨髄球性白血病(APL)
  1.寛解導入における砒素(As2O3)とATRAの併用療法の有用性は?
                           〈竹下明裕〉
  2.APLにおける至適な維持療法は何か? 〈高山信之〉
  3.高齢者のAPLの治療をどのように行うべきか? 〈田中順子〉
  4.APLで造血幹細胞移植を必要とするのはどのような場合か?
                      〈趙 龍桓 西村美樹〉
C.急性リンパ性白血病(ALL)
  1.現時点における第1寛解期ALL(Ph陽性ALLを除く)の再発危険因子は?
                         〈小林寿美子〉
  2.再発のhigh riskと考えられるALL第1寛解期の治療の第1選択は
    同種造血幹細胞移植か? 〈森 慎一郎〉
  3.第1寛解期ALL(Ph陽性ALLを除く)において自家移植の成績は
    化学療法に勝るか? 〈田近賢二〉
  4.ALLに対して骨髄非破壊的移植(RIST)は適応となるか? 〈松橋佳子〉
  5.Ph+ALLの初回治療にイマチニブと化学療法はどのように併用すべきか?
                          〈秋山秀樹〉
  6.T細胞性ALLではB細胞性ALLとは異なった化学療法を選択すべきか?
                       〈大島久美 神田善伸〉
  7.思春期のALLはどのように治療すべきか? 〈仲里朝周〉
D.慢性骨髄性白血病(CML)
  1.慢性期CMLに対するイマチニブの効果は治療開始前に予測可能か?
                          〈鬼塚真仁〉
  2.分子遺伝学的完全寛解が得られた時点でイマチニブを中止することは可能か?
                             〈淡谷典弘〉
  3.CMLに対する第2世代型チロシンキナーゼ阻害剤(Dasatinib,Nilotinibの
    治療への位置づけは? 〈田内哲三〉
  4.イマチニブのdose-escalationによって慢性期のCMLの生存率は
    改善するのか? 〈大西一功〉
  5.慢性期CMLに対するイマチニブの効果はどのように
    評価すればよいか? 〈得平道英〉
  6.BCR−ABL変異の検査は,どの時点で行うべきか?
    また,mutationが認められた場合の治療法は? 〈矢ケ崎史治〉
  7.イマチニブと他剤の併用によってイマチニブ単独に勝る成績を
    期待できるか? 〈宮村耕一〉
  8.CMLに対する第2世代tyrosine kinase inhibitor(TKI)以降の
    分子標的薬剤の開発はどこまで進んだか? 〈東條有伸〉
E.慢性リンパ性白血病(CLL)
  1.予後因子からみた治療成績は? 〈青木定夫〉
  2.フルダラビンの治療成績は? 〈高松 泰 鈴宮淳司〉
  3.抗体療法の治療成績は? 〈友松純一〉
F.成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)
  1.化学療法の成績は? 〈塚崎邦弘〉
  2.移植療法の適応と治療成績は? 〈宇都宮 與〉

III.悪性リンパ腫
  1.限局期Hodgkinリンパ腫の治療法は? 〈堀江良一〉
  2.進行期Hodgkinリンパ腫の治療法は? 〈小椋美知則〉
  3.濾胞性リンパ腫でリツキシマブは本当に有効か? 〈伊豆津宏二〉
  4.濾胞性リンパ腫は治るか? 〈渡辺 隆〉
  5.限局期びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療法は? 〈新津 望〉
  6.進行期びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療法は? 〈大間知 謙〉
  7.血管内大細胞型B細胞リンパ腫の治療法は? 〈正木康史〉
  8.免疫不全に伴い発症する悪性リンパ腫の治療法は? 〈岡本昌隆〉
  9.末梢性T細胞リンパ腫の治療法は? 〈鏡味良豊〉
  10.肝脾T細胞リンパ腫の治療法は? 〈築根 豊 磯部泰司〉
  11.血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の治療法は? 〈亀岡淳一〉
  12.未分化大細胞型リンパ腫の治療法は? 〈佐々木 純〉
  13.鼻NK細胞リンパ腫の治療法は? 〈山口素子〉
  14.リツキシマブ以外の抗体療法の進歩は? 〈照井康仁〉
  15.悪性リンパ腫に対する抗体療法以外の分子標的療法は? 〈安川正貴〉

IV.多発性骨髄腫と関連疾患
  1.保険適応範囲内で実施可能な最も優れた治療法は? 〈村上博和 半田 寛〉
  2.海外の報告からみた最も優れた治療法は? 〈服部 豊〉
  3.Bortezomibを用いた治療法の成績は? 〈尾崎修治〉
  4.レナリドマイドを用いた治療法の成績は? 〈澤村守夫〉
  5.その他の分子標的療法の開発状況は? 〈矢野寛樹 飯田真介〉
  6.どのような移植療法が薦められるか? 〈浜埜康晴〉
  7.治癒可能な治療法はあるのか? 〈島崎千尋〉
  8.形質細胞性白血病に対する治療は? 〈三輪哲義〉
  9.原発性マクログロブリン血症の治療法は? 〈原田奈穂子 畑 裕之〉
  10.Bisphosphonateの有効性は? 〈安倍正博〉

V.凝固・血小板異常
  1.難治性特発性血小板減少性紫斑病に対する治療法
    ―ステロイド,摘脾無効例の治療はどのようにしたらよいか? 〈藤村欣吾〉
  2.特発性血小板減少性紫斑病におけるH.pylori除菌療法の治療成績は?
    難治例では無効か? H.pylori陰性例では無効か? 〈桑名正隆〉
  3.特発性血小板減少性紫斑病患者の妊娠,分娩に対する治療は
    どのようにしたらよいのか? 〈柏木浩和〉
  4.血友病に対する治療は? 〈桑原光弘 新井盛大〉
  5.von Willebrand病に対する治療法は? 〈白幡 聡〉
  6.播種性血管内凝固(DIC)の治療法は? 〈和田英夫〉
  7.抗リン脂質抗体症候群の治療はどのようにすればよいのか?
    一般的治療法は? 妊娠・分娩時の治療法は? 〈鏑木淳一〉
  8.先天性血栓性疾患の治療法―先天性血栓性疾患にはどのようなものがあるか?
    その治療法は? 〈岩崎年宏 小嶋哲人〉
  9.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対する治療法
    ―一般的治療法は? 難治例に対する治療法は? 〈矢冨 裕〉
  10.獲得性凝固因子インヒビターに対する治療法は? 〈小山高敏〉
  11.本態性血小板血症に対する治療法は? 〈田丸智巳 西川政勝〉
  12.Heparin-induced thrombocytopenia(HIT)に対する治療は?
                     〈宮田茂樹 山本晴子〉

VI.支持療法・輸血
  1.輸血後鉄過剰症に対する治療方針は? 〈高徳正昭〉
  2.化学療法と造血幹細胞移植における血小板輸血のトリガー値は? 〈池淵研二〉
  3.輸血関連急性肺障害の予防と治療方針は? 〈前川 平〉
  4.日和見感染におけるガンマグロブリン製剤の適正使用法は? 〈吉田 稔〉
  5.Febrile Neutropeniaでの抗生剤使用法は? 〈金丸昭久〉
  6.抗真菌薬の併用の有用性はどこまで明らかになったのか? 〈菊池隆秀〉
  7.真菌感染症のsurrogate markers(β−D−glucan,galactomannan,
    PCR)を用いたpreemptive therapyの有用性は? 〈藤田浩之〉
  8.Intravenous immunoglobulin(IVIG)の予防投与を必要とするのは
    どのような場か? 〈渡部玲子〉

VII.造血幹細胞移植
  1.臍帯血移植後のHHV−6感染症に対するpreemptive therapyの有用性は?
                             〈森 毅彦〉
  2.臍帯血ユニットを選択する場合の基準
    ―細胞数,CD34陽性細胞数,HLA適合度― 〈高橋 聡〉
  3.同種末梢血幹細胞移植はどのような場合に選択すべきか? 〈福田隆浩〉
  4.同種臍帯血移植後の移植片対宿主病予防法として何を選択すべきか?
                         〈宮腰重三郎〉
  5.移植前治療としての静注ブスルファンはどのように投与すべきか?
                          〈山下卓也〉
  6.Campath−1Hを用いた前処置の有用性はどこまで明らかになったか?
                           〈神田善伸〉
  7.治療抵抗性慢性GVHDに対する有用な治療法は? 〈小澤真一 中世古知昭〉


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