この度,「アレルギー疾患 専門医にきく最新の臨床」を刊行できることとなった.周知のごとく,今日気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー疾患罹患者は著増しており,現時点では全国民の約1/3が何らかのアレルギー症状を有するとされる.この増加傾向は21世紀に入っても衰えてはおらず,たとえば最近東京都健康局が小学校高学年を対象に行った調査では,児童の60%以上がダニ,スギ,カビのいずれかについてIgE抗体陽性であったという.このデータから判断すると,近い将来にはアレルギー疾患罹患者は全国民の50%をはるかに超すのではなかろうか.いずれにせよアレルギー疾患は,今世紀においても大きな問題の1つとなるであろう.このような状況下では,アレルギー疾患症例の診療の上手下手は,あるいは臨床医としての鼎の軽重を問われることにもつながりかねないとも思う.

 本書ではこの観点から,臨床の現場における適切な対処法をマスターして頂くことを目的として,(1)症状,症候,(2)検査,(3)生活指導と治療の考え方,(4)アレルギー疾患の診断と治療,の目次立てのもと,100余りの質問を設定してみた.また最近の話題を提供するために,(5)としてアレルギー疾患のトピックス,の5問をつけ加えた.そしておのおのの質問に最もふさわしい専門医にお答え頂く形で,執筆を依頼した.執筆者が内科,小児科,耳鼻科,皮膚科,眼科と多岐にわたる点を心配したが,全体を今通覧してみると,最新のガイドラインも盛り込んだ形で答えが示されており,満足できる1冊として完成できたと思う.

 第一線の臨床医の方々にとって本書が日常診療に役立ち,ひいてはアレルギー疾患罹患者のQOL向上に少しでもつながるものとなれば,編集を担当した者として望外の喜びとなる.またQ & Aの形となっているので,若手の医師を含めてアレルギー疾患の臨床を,問題解決型の思考プロセスとして学んで頂くことになれば幸いである.最後に,御多忙中にもかかわらず御執筆頂いた諸先生方,および中外医学社関係各位に深謝申し上げて,序文の結びとする.

  2003年4月

    編集者を代表して

    中川武正


目 次

§1.症状,症候

 1.喘 鳴

  a.内科の立場から  2

  b.小児科の立場から  5

 2.慢性の咳

  a.内科の立場から  8

  b.耳鼻科の立場から  11

  c.小児科の立場から  14

 3.鼻漏,くしゃみと鼻閉  16

 4.目の痒み  18

 5.皮膚の痒み  20

 6.薬物アレルギーを疑うのは  23

 7.食物アレルギーを疑うのは  26

 8a.職業性皮膚アレルギーを疑うのは  28

 8b.職業アレルギーを疑うのは  31

§2.検 査

A.検査の組み立て方

 1.内科の立場から  36

 2.小児科の立場から  39

 3.耳鼻科の立場から  41

 4.皮膚科の立場から  44

B.アレルゲン検索法

 1.スクリーニングの方法  47

 2.CAP RASTなどでのアレルゲン選択法と解釈  50

 3.ヒスタミン遊離試験の適応と使い分け  52

C.アレルゲン確定法

 1.気管支誘発試験  54

 2.鼻粘膜誘発試験  56

 3.眼反応  58

 4.食物除去負荷試験  60

D.臓器過敏性

 1.気道過敏性検査  63

 2.鼻粘膜過敏性検査  65

 3.皮膚過敏性の検査  68

E.その他の検査

 1.好酸球とECP  70

 2.総IgE測定の意義  73

 3.貼布試験  76

 4.リンパ球刺激試験  80

§3.生活指導と治療の考え方

A.生活指導のポイント

 1.アレルゲン除去,回避

  a.ダニ対策  84

  b.花粉対策  85

  c.室内ペット  86

  d.食物アレルゲンと代替食  87

 2.食生活と嗜好品(酒,タバコなど)  90

 3.運動と鍛錬  92

 4.感冒対策(風邪と喘息発作)  95

 5.小児でのワクチン接種  97

B.治療での留意点

 1.免疫療法とその留意点

  a.内科の立場から  100

  b.小児科の立場から  103

  c.耳鼻科の立場から  106

 2.変調療法とその留意点(ヒスタグロビン,ノイロトロピンなど)  109

 3.薬物の気をつけるべき副作用

  a.内科の立場から  112

  b.小児科の立場から  114

  c.耳鼻科の立場から  118

  d.皮膚科の立場から  121

 4.妊娠,授乳時に使える薬物は?  124

 5.小児での薬物療法の留意点  126

 6.高齢者での薬物療法の留意点

  a.内科の立場から  129

  b.耳鼻科の立場から  131

  c.皮膚科の立場から  133

§4.アレルギー疾患の診断と治療

A.成人気管支喘息と関連疾患

 1.気管支喘息の機序  136

 2.気管支喘息の診断  139

 3.喘息発作時の対応  142

 4.長期管理のポイント(ピークフローモニタリングを含む)  146

 5.難治化の要因と対策  148

 6.アスピリン喘息の診断と治療  150

 7.咳喘息の診断と治療  153

 8.COPDの診断と治療  156

 9.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の診断と治療  159

 10.アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)の診断と治療  162

B.小児気管支喘息と関連疾患

 1.小児喘息の定義・成人との違い  166

 2.小児喘息の診断  168

 3.喘息発作時の対応  172

 4.長期管理  178

 5.運動誘発喘息への対応  184

 6.思春期喘息への対応  188

 7.予後とアウトグローのみきわめ  190

 8.喘息性気管支炎の診断と治療  193

 9.小児喘息の発症は予防できるか?  194

C.アレルギー性鼻炎

 1.小児のアレルギー性鼻炎の特徴  196

 2.喘息との関連  198

 3.手術治療について  200

 4.通年性アレルギー性鼻炎の治療の組み立て方  203

D.花粉症

 1.初期治療について  206

 2.花粉症治療の組み立て方  209

 3.花粉症と合併症  212

 4.風邪との鑑別は  214

 5.自然治癒は  216

E.アレルギー性結膜炎と関連疾患

 1.アレルギー性結膜炎の診断,鑑別  218

 2.アレルギー性結膜炎の治療  220

 3.アレルギー性結膜炎の合併症  223

F.アトピー性皮膚炎

 1.アトピー性皮膚炎の診断基準・重症度分類  224

 2.アトピー性皮膚炎の皮膚症状  227

 3.アトピー性皮膚炎の鑑別疾患  230

 4.アトピー性皮膚炎の治療ガイドライン  233

 5.アトピー性皮膚炎の悪化因子と患者指導  236

 6.難治性アトピー性皮膚炎の治療法  239

 7.注意すべき合併症とその対策  242

G.蕁麻疹と血管浮腫

 1.アレルギー機序か?  245

 2.感染症と蕁麻疹の関係  248

 3.蕁麻疹患者に対する薬物療法の指針と注意点  251

 4.慢性蕁麻疹患者への生活指導  254

 5.血管性浮腫の病態,診断,治療について  257

H.薬物アレルギー

 1.薬物アレルギーを疑うとき  260

 2.薬物アレルギーの証明法  262

 3.ウイルス感染症との鑑別点  264

 4.薬物アレルギーの病型と臨床症状  266

 5.多数の薬を服用している患者への指導法  268

 6.薬物アレルギーカード  270

I.食物アレルギー

 1.食物アレルギーの機序  272

 2.食物アレルギーの診断  274

 3.食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの診断と治療  277

 4.除去食とその中止時期(予後を含めて)  280

 5.食物アレルギーの薬物療法  282

 6.学校生活での注意点  284

J.アナフィラキシーショック

 1.アナフィラキシーショックの機序  287

 2.アナフィラキシーショックの診断と治療  289

§5.アレルギー疾患のトピックス

 1.ラテックスアレルギー  294

 2.口腔アレルギー症候群(OAS)  297

 3.シックハウス症候群  300

 4.日本における喘息死の実態とその対策  302

 5.アレルギー治療薬の将来展望  305

索 引  307