内科臨床は今,大きく変貌してきている.特に大学病院や多くの基幹病院の内科は,高度で先進的な医療を実践するため,循環器内科,呼吸器内科など多くの専門診療科に分かれている.しかし,初期臨床研修では専門分化にあまりに偏ることなく,患者を全人的に診ることができる臨床医の育成が重要であることは言うまでもない.スーパーローテート方式の卒後臨床研修が義務化されたが,2年間のうちで,多くの内科疾患を経験する必要から,一つの専門診療科での研修期間は短くならざるを得ない.したがって,教育病院にて研修医を指導する責任ある人たちは,研修医が効率的な研修ができるよう多くの取り組みを行っている.
 ここに編集が実現した本書「ケースアプローチ内科学」は,研修医あるいはレジデントの教材として活用していただく目的で,群馬大学医学部付属病院循環器内科,呼吸器・アレルギー内科,および内分泌・糖尿病内科にて経験した症例をまとめたものである.私たちの教室(旧 第二内科)でこれまでに蓄積された膨大な症例データベースのなかから,循環器疾患では29症例,呼吸器疾患では12症例,代謝疾患では4症例を選択し,エッセンシャルミニマムを学習していただくことを目指した.内科学書としてはすでに多くのすぐれた成書があるが,本書のように画像を豊富に盛りこんで症例が提示され,視覚的にもわかりやすく解説をした書はあまりないのではないかと自負している.症例からアプローチする臨床内科学書という発想は,先々代の村田和彦教授が1995年に編集された「今日の診断と治療 内科 130症例に学ぶ」を拝見したことから生まれたもので,中外医学社の青木 滋,荻野邦義,久保田恭史各氏にはこの度も大変にご尽力をいただき,心より感謝している.
 先代の永井良三教授(現在,東京大学医学部付属病院長)は,私たちに症例を通じて学ぶという姿勢の重要性を強調され,特に症例の考察に関しては厳しく指導された.症例を詳細に考察し,分析するというプロセスを繰り返し行うことによって,これまでの教科書を改訂していくことができるとお教えいただいた.この書を手にする次世代の若い人たちに伝えたいメッセージの一つでもある.
 「患者は最高の師である」という内科の原点を本書から感じ取っていただければ望外の喜びである.

2005年5月
群馬大学大学院医学系研究科臓器病態内科学 倉林正彦


目 次
I.循環器疾患
  1.労作狭心症:家族性高脂血症  1
  2.冠攣縮性狭心症(安静狭心症):不整脈の合併症  6
  3.急性冠症候群/不安定狭心症  14
  4.急性心筋梗塞−急性期の合併症を中心に  21
  5.虚血性心筋症  29
  6.僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症  36
  7.僧帽弁逸脱症候群  42
  8.大動脈弁狭窄症  48
  9.大動脈弁閉鎖不全症  53
  10.心房中隔欠損症  60
  11.心室中隔欠損  66
  12.急性心膜炎,心タンポナーデ  73
  13.ウイルス性急性心筋炎  80
  14.閉塞性肥大型心筋症  87
  15.拡張型心筋症  95
  16.心サルコイドーシス  103
  17.心アミロイドーシス  110
  18.洞不全症候群  118
  19.房室ブロック  123
  20.発作性上室性頻拍症  129
  21.心房細動  135
  22.心室頻拍  141
  23.大動脈炎症候群  149
  24.解離性大動脈瘤: Marfan 症候群  156
  25.急性肺動脈血栓塞栓症  165
  26.原発性肺高血圧症  174
  27.腎血管性高血圧症  179
  28.内分泌性高血圧  188
  29.感染性心内膜炎  196

II.呼吸器疾患
  1.肺アスペルギルス症  204
  2.特発性肺線維症  210
  3.BOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)  218
  4.薬剤性肺炎  224
  5.原発性肺癌(小細胞癌)  230
  6.原発性肺癌(非小細胞癌)  236
  7.肺胞出血  241
  8.縦隔腫瘍  246
  9.悪性胸膜中皮腫  253
  10.サルコイドーシス  260
  11.自然気胸  266
  12.転移性肺癌  272

III.糖尿病
  1.1 型糖尿病279
  2.Metabolic syndrome/Multiple risk factors syndrome  285
  3.糖尿病腎症  288
  4.インスリノーマ  294

索引  299