国立循環器病センターが設立されたのは,1977年であり20年余りが過ぎた.奇しくもGruntzigがZurichでPTCAを始めた年と同じである.この20年間の虚血性心疾患の進歩には目を見張るものがあり,薬物治療やcoronaryinterventionの進歩はCCUにおける治療体系を大きく変えたと言って良い.しかしながら,循環器救急診療における基本的な考え方や診療は,この20年間の積み重ねにより成り立 っているものと考えられ,これまでに蓄積された診療のノウハウはいまだに役立 っている.

 当センターは設立時からレジデント制度を導入し,すでに19期生が3年間の研修を終え,全国へ巣立っていった.レジデントは循環器内科医として心臓血管内科のみならず動脈硬化リスクコントロールあるいは脳血管障害も含めた専門的なトレーニングを受け,3年間を終了すると循環器の全ての領域に精通した医師として,更に専門領域を活かすべく各医療機関で研鑽を積んでいる.

 CCUにおける1単位3ヶ月間のローテーションはレジデント研修に必須であり,3年間で合計2-3単位のローテーションを受ける.その間に後輩レジデントは,先輩レジデントやスタッフとともに24時間昼夜を問わず急性心筋梗塞症をはじめとする循環器救急患者の診療にあけくれるわけである.その短期間に数多くの貴重な経験を学ぶわけである.このような経験から学んだ事柄は,その後の診療に大きく役立つことは言うまでもない.

 この3年間で学んだ事柄を後輩に伝えるため,設立20周年をセンターで過ごした17期生レジデントを中心に本書が作られた.

 当CCUが目指すのは,ある一定の技量の医師が同じ治療指針で診療に望み,治療戦略を考える際に同じレベルの判断を下せることである.その目的のため毎朝症例カンフ ァレンスを行い最善と考えられる治療指針を全体で共有し得ることを目指してきた.これらの経験で得られたノウハウがレジデントにより著述されたことは,我々指導医として大きな喜びであり,また後に続く後輩レジデントに診療の道標として常に参照されるであろう.

 本書がCCUにおける日常の診療に有用となり,多くの重症患者にとってより有益な診療の手助けとなれば,執筆者一同の望外な喜びである.

 最後に,CCUのチーム医療をレジデントとともに支えてくれている看護婦や他のコメデ ィカルの方々に深謝致します.

 また,本書の出版に尽力された中外医学社小川孝志氏,秀島悟氏に深謝致します.

   平成12年2月

国立循環器病センター緊急部長

野々木 宏

目 次

1章 CCU総論  1

 1.CCUの概念  <立脇禎二>  2

 2.CCU看護婦  <福島聖二>  3

 3.CCUレジデント  <福島聖二>  4

 4.CCUのメンバー,チームの条件  <中川 毅>  5

 5.チームとしてのトレーニング  <永谷憲歳>  7

 6.診療と研究  <永谷憲歳>  8

 7.地域協力  <久保隆史>  9

 8.CCUへの入院数と予後  <柳谷良裕>  10

 9.ケースカンファレンス  <柳谷良裕>  13

 10.カルテ記載  <内田一生>  14

2章 CCUの基本手技  17

 1.ライン確保(末梢,中心)  <立脇禎二>  18

   1.末梢静脈確保  18

   2.中心静脈カテーテル挿入  18

   3.経路選択の原則  18

 2.ショック時の動静脈確保  <内田一生>  20

   1.実際の挿入法  20

   2.合併症  24

 3.心肺蘇生術(CPR)  <中川 毅>  25

   1.一次救命処置  25

   2.二次救命処置  25

   3.CPRの実際  26

   4.人工呼吸  27

   5.心マッサージ  27

   6.気管内挿管  27

   7.静脈路確保  29

   8.救急薬物  30

 4.電気的除細動(直流除細動DCshock)  <馬場 健>  32

   1.基本手技(心室細動,心室頻拍の場合)  32

 5.一時的ぺーシング  <永谷憲歳>  35

   1.目的  35

   2.適応  35

   3.ペーシングの種類  35

   4.主な作動方式  36

   5.経静脈的ペーシングブテーテル挿入方法  36

   6.挿入後の管理  37

   7.合併症  37

 6.スワン-ガンツカテーテル(S-Gカテーテル)  <柳谷良裕>  38

   1.目的  38

   2.構造  38

   3.S-Gカテーテルからわかること  38

   4.CCUにおいての実際  38

   5.準備  39

   6.挿入方法  39

   7.管理  41

   8.合併症  41

   9.合併症予防  42

   10.各挿入部位による利点,欠点  42

 7.観血動脈圧モニタ  <伊藤達郎>  43

   1.適応  43

   2.穿刺の前に  43

   3.穿刺部位  44

   4.穿刺手技(橈骨動脈時)  44

   5.圧波型がおかしい場合  45

 8.血液ガス検査  <野口輝夫>  46

   1.動脈血液ガス分析の意義  46

   2.肺胞換気不均衡の指標  46

 9.人工呼吸器  <久保隆史>  48

   1.適応  48

   2.気管内挿管  49

   3.維持  50

   4.人工呼吸器管理中の麻酔  51

   5.人工呼吸器管理中の合併症とその予防  52

   6.離脱  52

   7.抜管  54

   8.長期人工呼吸器管理  55

   9.サーボ・ベンチレーター  56

 10.大動脈内バルーンパンピング(IABP)  <福島聖二>  58

   1.CCUにおけるIABPの適応  58

   2.IABPの禁忌  59

   3.IABカテーテルの種類  59

   4.IABカテーテル挿入法  59

   5.IABP駆動装置の設定  60

   6.IABPの稼動  61

   7.IABP稼動中の管理,注意点,合併症  61

   8.IABPのweaning  61

   9.IABP抜去の手順  62

 11.経皮的人工心肺補助装置(PCPS)  <伊藤智範>  63

   1.PCPSの適応  63

   2.PCPSの禁忌  63

   3.当センターで用いているPCPSシステムの概略  64

   4.PCPS駆動までの手技の実際  65

   5.PCPS駆動後のチェックポイント  68

   6.PCPSに伴う合併症  69

   7.PCPSからの離脱の指標  69

 12.補助人工心臓(VAS)  <野口輝夫>  71

   1.VASの概要  71

   2.VASの適用  72

   3.VASの管理  73

   4.補助循環の離脱の指標  74

3章 CCUの診療  75

 1.AMIの診断  <野口輝夫>  76

   1.AMIの診断  76

   2.入院時チェック項目  76

   3.身体所見  77

   4.心電図  77

   5.断層心エコー図  78

   6.CPK  78

   7.CK-MB  79

   8.AMIに伴う心雑音  80

   9.一般検査にてAMIと診断困難な例に対して  82

   10.AMIの重症度  83

 2.AMIの治療  <馬場 健>  84

   1.来院時処置  84

   2.ショック  85

   3.急性期治療  87

   4.準急性期の治療  90

   5.合併症に対する治療  93

   6.慢性期治療  103

   7.退院時指導  103

 3.AMIに対する緊急心臓カテーテル検査  <伊藤達郎>  104

   1.目的  104

   2.適応  104

   3.家族および患者本人への説明と同意の実際  105

   4.術者のカテーテル前の診察  106

   5.術前検査  107

   6.心臓カテーテル検査の手技  108

    a)穿刺部位  108

    b)使用器材の決定  109

    c)診断造影  109

    d)再灌流療法の実際  110

    e)カテーテル治療終了後の管理  116

    f)冠動脈造影報告書の作成  116

 4.経皮的冠動脈形成術(PTCA)  <野口輝夫>  119

   1.PTCAに必要な器具  119

   2.手技手順  120

   3.急性期合併症  121

   4.術後管理  122

   5.バルーンPTCAの問題点  122

 5.梗塞後狭心症,無症候性心筋虚血への対策,食事,リハビリテーション  <内田一生>  123

  A.梗塞後狭心症(PIA)  123

   1.定義  123

   2.原因  123

   3.診断  123

   4.治療  123

  B.無症候性心筋虚血(SMI)  125

   1.定義  125

   2.分類  125

   3.注意点  125

   4.予後  126

   5.治療  127

  C.食事  128

  D.心臓リハビリテーション  129

   1.目的  129

   2.急性期のリハビリテーション  129

   3.回復期のリハビリテーション  131

 6.不安定狭心症  <伊藤智範>  133

   1.発症機序と定義  133

   2.CCUへ入室してからの流れ  136

   3.院内予後と重症度  140

   4.心電図モニタの意義  141

   5.治療指針  141

 7.不安定狭心症の治療  <伊藤智範 福島聖二>  143

   1.安静  143

   2.酸素投与  144

   3.抗狭心症薬の投与  145

   4.薬物投与の終点  148

   5.安静度の拡大の手順  149

   6.二次性不安定狭心症の治療  149

   7.不安定狭心症における冠動脈内血栓溶解療法の位置づけ  150

   8.PTCAの適応  151

   9.CABGの適応  152

   10.治療成績,予後  154

 8.心不全  <中川 毅>  156

   1.AMIにおける重症度分類  156

   2.虚血性心疾患による心不全  156

   3.薬物治療  156

 9.不整脈  <中川 毅>  160

   1.頻脈性不整脈  160

    a)心室性不整脈  160

    b)心室性頻脈  161

   2.徐脈性不整脈  163

 10.肺動脈塞栓症  <永谷憲歳>  165

   1.分類  165

   2.確定診断までの過程  165

   3.鑑別診断  166

   4.各種検査所見  166

   5.診断のまとめ  166

   6.治療  167

 11.呼吸不全  <永谷憲歳>  169

   1.呼吸不全の分類  169

   2.呼吸管理法  170

   3.各酸素投与法の特徴  170

   4.合併症  170

 12.急性大動脈解離  <立脇禎二>  171

   1.臨床症状  171

   2.検査  171

   3.治療  171

   4.薬物療法  172

   5.意識状態,vitalsignに異常  172

 13.急性心筋炎(AcuteMyocarditis)  <久保隆史>  173

   1.診断  173

   2.治療  173

 14.拡張型心筋症(DCM)  <立脇禎二>  174

   1.診断  174

   2.治療  174

 15.CCU患者の一般的マネージメント  <立脇禎二>  176

   1.感染症対策  176

   2.輸血  176

   3.高齢者マネージメント  177

   4.インフォームドコンセント  177

   5.CCU症候群  177

付録  179

 1.データベース  <伊藤達郎>  180

 2.CCUで繁用される薬物マニュアル  <伊藤達郎>  186

 経皮的冠動脈形成術について  194

 冠動脈造影検査について  196