人間発達学は,人と関係する職種にとって,人間の基礎となる知識を学びとることができる学問の1つである.これは発達過程にある子どもや発達障害関係の分野にのみ必要と思われがちであるが,高齢社会の現在,多くの小児科医や発達領域に携わっているPT・OT・ST達は,高齢者と接する時に,今まで子どもに提供してきた知識や技術が大変役に立っていると述べている.人間発達学は子どもの領域に限った学問ではなく,人の生涯を考えての学問であることを再認識して触れて頂きたいと感じている.
 本書を執筆して頂いた方々は,OTの分野で臨床と研究を重ね,現在も追い求めておられる方々である.本書では,社会環境が変化しても大幅に揺るがされない身体的・精神的発達に視点を置いてその基本枠を捉えることにした.健常な発達過程と障害学を学んでいるコメディカルスタッフは,臨床実践から,断片的な発達の捉え方でなく,螺旋的発達の連続性を重要視した人間発達過程の捉え方の必要性を感じている.著者達は,螺旋的で連続的な発達過程をどのように表現したら判りやすいのか模索しながら執筆して下さったため,少々重複している部分もある.
 本書の特徴は,前半に全般的な人間発達過程を,後半に深く掘り下げたい領域として視覚,ハンドスキル,感覚・知覚・認知,言語,コミュニケーション,対人機能領域を取り上げ,詳細に述べた点にある.また健常な発達を捉える評価指標を取り上げ,その特徴を示した.健常児の発達の捉え方は,各職種により把握している側面に多少の相違が生じてはいるが,健康な状態を把握していることに変わりはない.
 障害児・者と関係している職種においては,人が障害を持ち行動・行為が滞ったとき,人が辿ってきた発達過程に戻って考える参考として本書を活用し,優しい無理のない対応を心がけて頂けたら著者の一人として大変嬉しい.
 中外医学社の荻野様,上村様に暖かく支えて頂き完成した本であることに感謝したい.
 2005年1月
 福田恵美子


目次
1章 人間発達の概念
1.人間発達とは  <福田恵美子>  2
 1.人間の発達とは  2
 2.発達過程と発達期の区分  2
 3.発達に関する用語  2
 4.発育の4原則  3
2 発達概念の歴史的変遷  <福田恵美子>  6
 1.「小さな大人」としての概念時代  7
 2.子どもの固有の存在としての認識時代  7
 3.ルソーの「エミール」にみる発達概念時代  7
 4.「エミール」以降にみる発達概念時代  8
3 発達理論: 先人たちの理論の概要  <福田恵美子>  9
 1.運動機能の発達  9
  a.ゲゼルの発達理論: 成熟優位説  9
  b.マックグローの発達理論  11
  c.エアハルトの発達学的把持理論  12
 2.感覚・知覚機能の発達  18
  エアーズの感覚統合理論  18
 3.認知機能の発達  18
  ピアジェの発生的認知理論  18
 4.心理・社会的機能の発達  19
  a.フロイドの発達理論: 心理・性的発達論  19
  b.エリクソンの発達段階(人生の8段階): 人生周期説  19

2章 ライフステージにおける生活活動の発達過程と取り組んでいる課題
1. 乳児期  <篠川裕子> 22
 1.身体的機能の発達  22
 2.運動的機能の発達  26
 3.認知的機能の発達  32
 4.情緒・社会的機能の発達  35
2.幼児期前期  <篠川裕子>  38
 1.身体的機能の発達  38
 2.運動的機能の発達  39
 3.認知的機能の発達  40
 4.情緒・社会的機能の発達  43
3.幼児期後期  <篠川裕子>  44
 1.身体的機能の発達  44
 2.運動的機能の発達  44
 3.認知的機能の発達  45
 4.情緒・社会的機能の発達  46
4.学童期  <日田勝子>  48
 1.身体・生理的機能の発達  48
  a.身体的発達  48
  b.永久歯  49
 2.運動的機能の発達  49
 3.認知的機能の発達  50
  a.認知の発達  50
  b.記憶の発達  52
  c.言語の発達  52
 4.情緒・社会的機能の発達  54
  a.感情の発達  54
  b.社会性の発達  57
  c.性格的発達  64
5.青年期前期  <福田恵美子>  65
 1.身体・生理的機能の発達  66
  a.身体的機能の発達  66
  b.生理的機能の発達  66
  c.健康状態  69
 2.認知・心理・社会的機能の発達  70
  a.認知的機能の発達  70
  b.心理・社会的機能の発達  71
  c.生活と意識  73
6.青年期後期  <福田恵美子>  78
 1.身体・生理的機能の発達  78
 2.認知・心理・社会的機能の発達  78
  a.認知的機能の発達  78
  b.心理・社会的機能の発達  79
  c.健康状態  79
7.成人期前期  <外里冨佐江>  81
 1.身体・生理的機能の発達  81
 2.心理・社会的機能の発達  82
  a.職業について  82
  b.結婚について  83
  c.育児について  84
8.成人期中期  <外里冨佐江>  86
 1.身体・生理的機能の発達  86
 2.心理・社会的機能の発達  87
  a.心理的機能の発達  87
  b.社会的機能の発達  87
 3.運動的機能の発達  88
9.成人期後期  <外里冨佐江>  90
 1.身体・生理的機能の発達  91
  a.身体的機能の発達  91
  b.生理的機能の発達  91
 2.運動的機能の発達  93
 3.心理・社会的機能の発達  95
  a.心理的機能の発達  95
  b.社会的機能の発達  96
10.高齢期  <外里冨佐江>  98
 1.身体・生理的機能の発達  99
  a.身体的機能の発達  99
  b.生理的機能の発達  101
 2.運動的機能の発達  106
  a.姿勢制御  106
  b.歩行  107
 3.知的機能の発達  108
  a.知能  108
  b.記憶  109
  c.生活  109
 4.心理・社会的機能の発達  110
  a.心理的機能の発達  110
  b.生活・社会的機能の発達  113
  c.個性化と統合  113
  d.死とその受容,信仰  114

3章 ライフステージにおける機能別発達過程と取り組んでいる課題
1.視覚・眼球運動  <境 信哉>  120
 1.視覚の発達  120
  a.視覚発達研究の方法  120
  b.胎児期における視覚の発達  122
  c.出生後の視覚の発達  122
 2.眼球運動の発達  127
  a.胎児期における眼球運動の発達  127
  b.出生後の眼球運動の発達 128
2.ハンドスキル  <境 信哉>  129
 1.ハンドスキルの発達に影響する様々な要因  129
 2.種々のハンドスキルの発達  129
  a.リーチ  129
  b.把握  131
  c.自発的リリース  134
  d.手内操作スキルとその発達  134
  e.書字,描画からみたハンドスキルの発達  135
3.姿勢調整,移動動作  <村井和之>  137
 1.原始反射  137
 2.反射と反応  140
 3.姿勢・運動の発達における課題  141
4.知覚・認知の機能  <村井和之>  143
 1.感覚情報の処理機能  143
 2.聴覚  144
 3.認知の能力  144
5.言語・コミュニケーションの機能  <村井和之>  145
 1.コミュニケーションの基礎  145
  a.記憶の能力  145
  b.模倣の能力  146
  c.音に対する反応  147
  d.泣くこと  147
  e.コミュニケーションのダンス  148
 2.言語の獲得  148
  a.喃語  148
  b.身振り語  149
  c.指差し  150
  d.ことばと発達  150
 3.会話の発達  151
  a.会話の成立  151
  b.語彙の獲得  153
  c.内容やテーマの発達  153
6.心理・社会的(対人関係)機能  <村井和之>  154
 1.情緒の発達  154
 2.思考の発達  155
  a.アニミズム  155
  b.自己中心性  155
 3.社会性の発達  156
  a.信頼関係の獲得としつけ  156
  b.対人関係  156
  c.社会人への準備  157
  d.交友関係の発達  158

4章 発達検査について
1.発達検査の意義  <福田恵美子>  160
2.発達測定尺度  <黒渕永寿>  162
 1.発達検査の目的  162
 2.発達検査の種類  162
 3.各発達検査の概要解説と検査表  164
  a.一般的発達検査  164
  b.知能発達検査  170
  c.感覚・知覚・認知の処理過程の発達検査  175

索引   182