最近の医療をめぐる環境は疾病構造の変化や人口動態における少子高齢化などにより大きく変化している.運動器の疾患を扱う整形外科学分野においても小児の骨関節の感染症や先天性疾患が激減している一方で,高齢者の外傷や退行変性性疾患が増加している.
 また,近年の科学技術の進歩にも目ざましいものがあり,臨床医学領域においても新しい診断機器の登場や治療技術が開発されてきた.それにつれ医療に携わる者,とくにコメディカルスタッフに要求される知識や技術の範囲も格段に拡がってきている.
 整形外科学は臨床医学のなかではその歴史は比較的浅いが,21世紀の初頭よりWHOが提唱した「骨と関節の10年」(わが国では「運動器の10年」と呼称)キャンペーン,つまり国民の健康を守るために運動器や運動器疾患への理解を深め,関心を高める啓発活動に象徴されるように,近年,整形外科学への期待が大きくなっている.しかし,コメディカルに関連した医学教育には整形外科学の講義時間が少なく運動器疾患への理解が十分であるとはいえない現状である.
 従来,PT・OTに対しては,整形外科学がリハビリテーション医学と密接な関係があるところより運動器に関する知識は重視され,教授されてきていると思われる.しかし,全人的医療,チーム医療が重視される現代的医療観からすればリハビリテーション関連職種のみならず,すべてのコメディカルは運動機能の障害に直接むすびつくことが多い運動器疾患への理解をさらに深めることが大切である.
 本書はこのような観点からコメディカルスタッフおよびコメディカルを目指す学生向けに執筆したものである.内容的には臨床に直接結びつく基礎的事項や最新の知見をできるだけ多くとりいれ,コメディカルとして必要にして十分な学ぶべき知識を網羅したつもりである.本書が臨床や臨地実習において活用され,整形外科学への理解,関心を一層深めることに役立つことができれば幸いである.

2004年11月
  茂原重雄


目 次
■総 論
1.運動器の構造と機能 <茂原重雄> 2
 I.整形外科概説  2
 II.基礎知識  2
   A.運動器の構造と機能  2
    1.骨  2
    2.関節  6
    3.骨格筋  9
    4.神経系  11
 III.症状と病態生理  15
   A.疼痛  15
   B.変形  16
    1.脊柱の変形  16
    2.肘関節の変形  16
    3.手および指の変形  16
    4.股関節の変形  18
    5.膝関節の変形  18
    6.足関節および足趾の変形  19
   C.運動機能障害  20
    1.関節運動の異常  20
    2.運動麻痺  21
    3.歩行異常(跛行)  21

2.整形外科診断法と検査法 <茂原重雄> 23
   A.基本的診断法  23
    1.問診  23
    2.視診  23
    3.触診  24
    4.計測  25
    5.筋力検査  26
    6.神経学的検査  34
    7.画像検査  37
    8.関節鏡検査  38
    9.骨密度測定  38
    10.その他の検査  39

3.整形外科治療法 <茂原重雄> 40
   A.保存療法  40
    1.薬物療法  40
    2.局所注射法  40
    3.固定法(整形外科包帯法)  41
    4.牽引療法  42
    5.矯正法  44
    6.装具  45
    7.理学療法と作業療法  50
   B.手術療法  51
    1.皮膚の手術  51
    2.筋・腱の手術  52
    3.神経の手術  53
    4.骨の手術  56
    5.関節の手術  57
    6.脊椎と脊髄の手術  58

■各 論
1.外傷性疾患および脊椎・脊髄損傷 <茂原重雄> 62
1-1外傷性疾患  62
 I.骨折  62
   A.骨折総論  62
    1.骨折の分類  62
    2.骨折の転位  66
    3.骨折の症状  66
    4.骨折の診断  66
    5.骨折の合併症  66
    6.骨折の治療  67
    7.骨折の治癒過程  69
   B.骨折各論  72
    1.鎖骨骨折  72
    2.上腕骨骨折  73
    3.肋骨骨折  79
    4.骨盤骨折  79
    5.大腿骨骨折  80
    6.膝蓋骨骨折  85
    7.脛骨近位端骨折または脛骨顆部骨折  85
    8.下腿骨骨幹部骨折  85
    9.足関節果部骨折  86
    10.足部の骨折  87
    11.中足骨・足趾骨骨折  87
 II.関節の外傷  88
   A.捻挫  88
    1.足関節捻挫  89
    2.膝関節靭帯損傷  89
   B.脱臼  92
    1.脱臼総論  92
    2.外傷性脱臼各論  94
 III.筋・腱の外傷  98
   A.筋損傷  98
   B.腱損傷  98
   C.神経・血管の損傷  100
1-2脊椎・脊髄損傷  102
 I.脊椎の外傷  102
    1.脊椎骨骨折  102
    2.脊椎脱臼および脱臼骨折  103
    3.脊椎の捻挫  104
 II.脊髄損傷  106
    1.受傷機転  106
    2.病理  106
    3.症状  106
    4.治療  108

2.先天性疾患 <茂原重雄> 113
   A.先天性奇形  113
    1.先天性股関節脱臼  113
    2.先天性内反足  118
    3.先天性筋性斜頚  119
   B.先天性骨系統疾患  120
    1.低身長をきたす疾患  120
    2.奇形症候群  122

3.骨・関節の炎症性疾患 <白倉賢二> 123
   A.感染性疾患  123
    1.化膿性骨髄炎  123
    2.化膿性関節炎  125
    3.骨・関節結核  127
   B.非感染性疾患  128
    1.単純性関節炎  128
    2.離断性骨軟骨炎  128
    3.関節リウマチ  128
    4.痛風と偽痛風  131

4.変形性関節症 <白倉賢二> 133
   A.変形性股関節症  134
   B.変形性膝関節症  135
   C.その他の関節症  139
    1.血友病性関節症  139
    2.神経病性関節症  140
    3.ステロイド関節症  140

5.四肢の循環障害と骨端部の疾患 <土屋一郎> 141
   A.四肢の循環障害  141
    1.閉塞性血栓血管炎  141
    2.閉塞性動脈硬化症  141
    3.深部静脈血栓症  141
    4.レイノー症候群  142
   B.外傷性循環障害  142
    1.コンパートメント症候群  142
    2.フォルクマン拘縮  142
    3.反射性交感神経性ジストロフィー  143
   C.骨の循環障害  144
   D.骨端部の疾患  144
    1.ペルテス病  145
    2.特発性大腿骨頭壊死症  146
    3.大腿骨頭辷り症  147
    4.オスグッド-シュラッテル病  148
    5.キーンベック病  148
    6.第1ケーラー病  149
    7.第2ケーラー病  149
    8.踵骨骨端炎  150

6.代謝・内分泌疾患 <渡辺秀臣> 151
    1.骨粗鬆症  151
    2.くる病,骨軟化症  152
    3.上皮小体機能亢進症  153
    4.副腎皮質ホルモン  154

7.骨・軟部腫瘍 <渡辺秀臣> 155
   A.骨の良性腫瘍  155
    1.骨腫  155
    2.骨軟骨腫(外骨腫)  156
    3.軟骨腫  158
    4.類骨骨腫  159
    5.骨巨細胞腫  159
   B.骨腫瘍類似疾患  161
    1.骨嚢腫  161
    2.動脈瘤様骨嚢腫  163
    3.線維性骨異形成  163
   C.骨悪性腫瘍  164
    1.骨肉腫  164
    2.ユーイング肉腫  165
    3.軟骨肉腫  166
    4.骨髄腫  166
   D.続発性骨腫瘍(がんの骨転移)  168
   E.良性軟部腫瘍  169
    1.脂肪腫  169
    2.血管腫  170
    3.神経鞘腫,神経線維腫  170
   F.悪性軟部腫瘍  171
    1.脂肪肉腫  171
    2.悪性線維性組織球腫  171
    3.横紋筋肉腫  172

8.神経・筋疾患 <加藤和夫> 173
   A.中枢神経系の疾患  173
    1.脳性麻痺  173
    2.脊髄性小児麻痺  174
    3.筋萎縮性側索硬化症  175
   B.筋原性疾患  175
    1.進行性筋ジストロフィー  175
    2.筋緊張性ジストロフィー  176
    3.筋炎  176
   C.末梢神経損傷の総論  178
    1.末梢神経損傷の原因  178
    2.末梢神経損傷の分類  179
    3.神経の変性と再生  179
    4.症状と診断  181
    5.治療  182
   D.末梢神経損傷の各論  183
    1.腕神経叢麻痺  183
    2.橈骨神経麻痺  185
    3.正中神経麻痺  185
    4.尺骨神経麻痺  186
    5.坐骨神経麻痺  187
    6.腓骨神経麻痺  187
    7.脛骨神経麻痺  187

9.軟部組織の疾患 <渡辺秀臣> 190
    1.ガングリオン  190
    2.滑液包炎  190
    3.石灰沈着性腱炎  191
    4.骨化性筋炎  192

10.四肢切断と義肢 <茂原重雄> 193
   A.切断および離断  193
    1.切断・離断の原因  193
    2.切断の部位  193
    3.切断術  196
    4.切断術後のケアー  198
   B.義肢  199
    1.義手  199
    2.義足  202

11.脊椎の疾患および脊髄腫瘍 <加藤和夫> 207
   A.脊柱の機能解剖  207
    1.脊椎  207
    2.脊柱管  209
    3.椎間板  209
    4.靱帯  210
    5.脊柱起立筋  211
   B.脊柱の変形  211
    1.側弯症  212
    2.生理的弯曲異常  216
   C.椎間板ヘルニア  217
    1.腰椎椎間板ヘルニア  217
    2.頚椎椎間板ヘルニア  223
   D.変形性脊椎症  224
    1.頚部脊椎症  228
    2.変形性腰椎症  229
   E.脊椎分離症および脊椎辷り症  230
    1.脊椎分離症  230
    2.脊椎辷り症  232
   F.脊柱管狭窄症  233
   G.脊柱靱帯骨化症  236
    1.後縦靱帯骨化症  236
    2.黄色靱帯骨化症  238
    3.強直性脊椎骨増殖症  238
   H.脊椎の炎症性疾患  239
    1.強直性脊椎炎  239
    2.リウマチ性脊椎炎  240
    3.化膿性脊椎炎  241
    4.結核性脊椎炎(脊椎カリエス)  242
   I.脊椎骨粗鬆症  243
   J.脊椎の腫瘍と脊髄腫瘍  244
    1.脊椎腫瘍  244
    2.脊髄腫瘍  244

12.上肢および上肢帯の疾患 <土屋一郎> 248
   A.頚肩腕症候群  248
   B.胸郭出口症候群  248
   C.肩関節の疾患  250
    1.肩関節の機能解剖  250
    2.インピンジメント症候群  251
    3.肩腱板断裂  252
    4.投球肩障害  253
    5.五十肩  253
    6.石灰沈着性滑液包炎  253
   D.肘関節の疾患  254
    1.肘関節の機能解剖  254
    2.上腕骨外側上顆炎  254
    3.離断性骨軟骨炎  255
    4.変形性肘関節症  256
    5.肘部管症候群  256
   E.手関節および手部の疾患  257
    1.手関節および指の機能解剖  257
    2.手根管症候群  258
    3.腱鞘炎  259
    4.ヘバーデン結節  259
    5.デュプイトレン拘縮  260
    6.指伸展機構の損傷,障害による運動障害  260

13.下肢および下肢帯の疾患 <白倉賢二 茂原重雄> 263
    1.弾発股  263
    2.外反股と内反股  263
    3.外反膝と内反膝  264
    4.反張膝  266
    5.膝内障  267
    6.足部の変形  271
    7.趾関節の変形  274

索 引  277