生理学は読んで字のごとく「生きることの理(ことわり)」,すなわち,生命のメカニズム,機能を学ぶ学問です.生命の営みは分子,細胞,組織,器官,個体の各レベルで協調的に行われており,各レベルの営みが複雑に連携しながら1個体としての機能が発揮されることになります.
 本書はコメディカル医療を目指す方々のために書かれた生理学テキストです.本書が対象とする読者は,何らかの医療関係の職を目指して,その勉強をされようとしている方々です.将来医療職に就いた時には,患者の訴え・症状など限られた情報からその患者の身体に起こっている機能変化を理解し,対処をすることになります.将来適切に対処できるような能力を身につけるためには,人体機能の基礎,すなわち「生理学」をしっかり学ぶことは不可欠です.
 生理学はほとんどの場合,大学・専門学校の1〜2年次に学びますが,学年が進んで臨床実習に出た後になってはじめて,生理学の重要性を認識することも多いようです.本書はそのような学生にも必要かつ十分な情報を提供できるよう,基礎的内容に加えて,いくつかの章では多少余裕を持った内容を目指し,図もなるべく多く使ってわかりやすく解説するようにしました.
 本書で人体の生理機能の基礎をしっかり学び,国家試験対策ならびに将来のコメディカル分野の仕事に役立てて頂くことを心から願っております.
 最後に,本書の完成まで多大なご尽力を頂きました中外医学社の荻野邦義氏,久保田恭史氏に感謝申し上げます.

2006年1月
 著者を代表して 黒澤美枝子
         長谷川 薫


目次

1◆ 神経  <黒澤美枝子,丸山貴美子>  1
 I.神経系機能一般  1
  A.神経系の分類  1
  B.神経系の構造  2
   1.ニューロン  2
   2.支持細胞  2
   3.細胞外空間  4
   4.軸索輸送  4
   5.栄養因子  5
  C.神経機能一般  5
   1.静止電位  5
   2.活動電位  6
   3.シナプス  9
 II.中枢神経系  13
  A.中枢神経系の概要  13
   1.分類  13
   2.中枢神経系の機能  13
  B.脊髄の機能  14
   1.形態  14
   2.入出力  15
   3.脊髄反射  15
   4.脊髄の損傷と脊髄ショック  16
   5.脊髄内の伝導路  16
  C.脳幹の機能  17
   1.延髄  19
   2.橋  19
   3.中脳  20
  D.間脳の機能  20
   1.視床  20
   2.視床下部  21
  E.小脳の機能  22
  F.大脳の機能  22
   1.大脳基底核の機能  23
   2.大脳辺縁系の機能  24
   3.大脳皮質の機能  25
   4.高次脳機能  27
   5.覚醒と睡眠  31
   6.脳波  32
  G.その他  33
   1.脳死と脳の可塑性  33
   2.脳血流  33
   3.血液脳関門  34
   4.脳脊髄液  35
 III.末梢神経系  36
  A.脳神経と脊髄神経  36
   1.脳神経  36
   2.脊髄神経  37
 IV.自律神経系  38
  A.自律神経系の分類  38
   1.交感神経系  39
   2.副交感神経系  41
   3.壁内神経叢  43
   4.内臓求心性神経系  44
  B.自律神経性調節の特徴  44
   1.二重支配  44
   2.拮抗支配  45
   3.神経のトーヌス  45
   4.自律神経節を介する調節  46
  C.自律神経機能の中枢  48
   1.節前ニューロン  48
   2.脳幹  48
   3.視床下部  49
   4.大脳辺縁系  51
  D.自律機能の調節  51
   1.反射性調節  52
   2.情動・本能と自律機能調節  53

2◆ 筋  <鈴木敦子>  54
 I.骨格筋  54
  A.骨格筋の構造  54
  B.骨格筋の微細構造  55
   1.骨格筋細胞  55
   2.筋節  55
   3.筋フィラメントの構造  56
   4.筋小胞体と横行小管系  56
  C.収縮の仕組み  57
   1.滑走説  57
   2.興奮収縮連関  57
  D.筋収縮のタイプ  59
   1.等尺性収縮と等張性収縮  59
   2.単収縮と強縮  59
   3.硬直  60
  E.筋収縮の力学  60
   1.長さと張力との関係  60
   2.負荷と短縮速度との関係  61
  F.骨格筋のエネルギー代謝  61
   1.ATPの供給  61
   2.熱産生  63
  G.筋疲労  63
  H.骨格筋線維のタイプ  64
   1.タイプI線維  64
   2.タイプIIA線維  64
   3.タイプIIB線維  64
  I.トレーニングの効果  65
  J.筋萎縮  65
  K.加齢の影響  65
 II.心筋と平滑筋  65
  A.心筋  66
  B.平滑筋  66

3◆ 運動  <黒澤美枝子,今井 樹>  68
 I.運動とは  68
 II.骨格筋の神経支配  69
  A.運動単位とα運動ニューロン  69
  B.神経 -- 筋伝達  71
  C.骨格筋の感覚受容器  72
   1.筋紡錘  72
   2.ゴルジ腱器官  74
  D.筋紡錘とγ運動ニューロン  74
 III.脊髄レベルでの運動調節  74
  A.伸張反射  76
  B.伸張反射と誘発筋電図(H波とM波)  77
  C.拮抗抑制  78
  D.レンショウ抑制  79
  E.Ib抑制  80
  F.屈曲反射  80
  G.交叉性伸展反射  80
  H.皮膚反射  81
  I.長脊髄反射  81
  J.内臓 -- 運動反射  82
 IV.脳幹による運動調節  82
  A.姿勢反射  82
   1.緊張性迷路反射  82
   2.緊張性頸反射  83
   3.立ち直り反射  83
  B.脳神経が関与するその他の反射  83
   1.眼輪筋反射  84
   2.眼瞼(角膜)反射  84
   3.咽頭反射  84
   4.下顎(咬筋)反射  84
   5.嚥下反射  84
  C.除脳固縮  84
  D.中枢パターン発生器  85
 V.小脳による調節  85
 VI.大脳基底核による調節  86
   1.パーキンソン病  87
   2.ハンチントン舞踏病  88
 VII.大脳皮質による調節  88
  A.一次運動野  88
  B.運動前野  88
  C.補足運動野  89
 VIII.錐体路系と錐体外路系  89
  A.錐体路系  89
  B.錐体外路系  90
 IX.随意運動のプログラム調節  91

4◆ 感覚  <堀田晴美,柴 加奈子>  93
 I.感覚総論  93
  A.感覚受容器と適刺激  94
  B.感覚の神経経路  94
  C.感覚投射  95
  D.刺激強度と感覚  95
  E.刺激部位と感覚  95
  F.感覚の順応  95
 II.体性感覚  96
  A.触圧覚  96
   1.触圧覚の受容器とその性質  96
   2.2点弁別閾  97
  B.温度感覚  97
  C.体の位置や動きの感覚  98
  D.痛覚  98
   1.表在性痛覚と深部痛覚  99
   2.痛覚の増強と抑制  99
  E.体性感覚の神経経路  100
 III.内臓感覚  101
   1.臓器感覚  101
   2.内臓痛覚  101
   3.意識にのぼらない内臓感覚  102
 IV.特殊感覚  102
  A.視覚  103
   1.目の構造  103
   2.遠近調節  104
   3.光量調節  105
   4.視力  105
   5.眼球運動  105
   6.視細胞における光の受容  106
   7.暗順応と明順応  107
   8.視覚の神経経路  107
   9.色覚異常  108
  B.聴覚  108
   1.音  108
   2.伝音部  109
   3.感音部  110
   4.聴覚の神経経路  110
  C.平衡感覚  111
   1.半規管  111
   2.耳石器  111
   3.平衡感覚の神経経路  111
  D.味覚と嗅覚  112
   1.味覚  112
   2.嗅覚  113

5◆ 内分泌  <黒澤美枝子>  115
 I.ホルモンの種類と作用一般  116
  A.ホルモンの種類  116
  B.ホルモンの作用様式  116
   1.細胞内の受容体に作用  117
   2.細胞膜上の受容体に作用  117
  C.ホルモン分泌の調節  118
   1.ホルモンのホルモンによる調節  118
   2.血中の物質による調節  118
   3.自律神経による調節  119
 II.各内分泌器官とそのホルモン作用  120
  A.視床下部  120
  B.下垂体前葉  120
   1.成長ホルモン(GH)  121
   2.プロラクチン(PRL)  121
   3.甲状腺刺激ホルモン(サイロトロピン,TSH)  122
   4.副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン,ACTH)  122
   5.性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン,LHとFSH)  122
  C.下垂体後葉  123
   1.バゾプレッシン(抗利尿ホルモン)  123
   2.オキシトシン  123
  D.甲状腺  124
   1.サイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3)  124
   2.カルシトニン  126
  E.副甲状腺(上皮小体)  127
  F.副腎皮質  128
   1.糖質コルチコイド  129
   2.電解質コルチコイド  129
   3.副腎アンドロジェン  129
  G.副腎髄質  131
  H.膵臓  133
   1.インスリン  133
   2.グルカゴン  133
   3.ソマトスタチン  133
   4.膵ポリペプチド  133
   5.血糖調節  134
  I.精巣  134
  J.卵巣  135
   1.卵胞ホルモン  135
   2.黄体ホルモン(プロジェステロン)  135
  K.消化管  136
  L.腎臓  137
   1.エリスロポエチン  137
   2.活性型ビタミンD  137
  M.その他  137

6◆ 生殖・成長と老化  <内田さえ,花田智子>  138
 I.生殖  138
  A.男性生殖器の働き  138
   1.精子形成  138
   2.性反射  140
  B.女性生殖器の働き  141
   1.卵子形成  141
   2.性周期  142
  C.妊娠  144
   1.受精・着床・妊娠  144
   2.胎児の発育  145
   3.分娩  146
   4.乳汁分泌  146
 II.成長と老化  146
  A.成長  146
   1.身長・体重の成長率  146
   2.各器官の成長率  147
   3.成長に影響を与える要因  147
  B.老化  147
   1.高齢者の生理機能の特徴  148
   2.身体機能の加齢変化  148

7◆ 血液  <長谷川 薫>  150
 I.血液の組成と一般的性質・機能  150
  A.血液の組成  150
  B.血液の機能  151
  C.血液の一般的(物理的)性質  151
 II.血球  152
  A.赤血球  152
   1.赤血球の性状と機能  152
   2.赤血球の生成と破壊  154
  B.白血球  158
   1.白血球の種類  158
   2.白血球の機能  158
  C.血小板(栓球)  160
 III.血漿タンパク質  160
 IV.止血と血液凝固  161
  A.止血  161
  B.血液凝固  161
 V.血液型  163
  A.ABO式血液型  163
   1.ABO式血液型の意味  163
   2.ABO式血液型の型判定  165
  B.Rh式血液型  165
  C.輸血  168

8◆ 循環  <長谷川 薫>  170
 I.循環経路  170
  A.体循環(大循環)と肺循環(小循環)  170
  B.臓器への血液の配分  171
 II.心臓の機能  172
  A.心臓の自動性  172
  B.心筋の特性  173
  C.心周期と心音  174
  D.心電図  176
   1.心電図の記録法  176
   2.心電図の波形  178
   3.心電図波形の意味  180
   4.心臓の興奮の向きと大きさ  180
   5.心電図によって得られる情報  182
 III.血管  182
  A.血管の働き  182
  B.血流速度,脈拍  183
  C.血圧  184
   1.血圧の意味  184
   2.血圧の異常  184
   3.血圧の測定原理  185
 IV.循環の調節  187
  A.局所性循環調節  188
  B.ホルモン性循環調節  188
  C.神経性循環調節  189
   1.心臓の神経支配  189
   2.血管の神経支配  190
   3.反射による循環調節  190
  D.心拍出量の調節  193
  E.静脈還流量の調節  193
  F.リンパ循環  194
  G.特殊部位の循環  196
   1.脳循環  196
   2.冠状循環(冠循環)  196
   3.肺循環  196
   4.肝循環  196
   5.皮膚循環  196

9◆ 呼吸  <長谷川 薫>  198
 I.外呼吸と内呼吸  198
 II.呼吸器と呼吸運動  199
  A.呼吸器  199
  B.呼吸運動の調節  200
   1.呼吸運動  200
   2.呼吸中枢  200
   3.呼吸運動の神経性調節  201
  C.呼吸中枢の調節  202
   1.化学性調節  202
   2.神経性調節  203
 III.肺の換気機能  204
  A.肺気量分画(肺気量区分)  204
  B.肺の換気機能  206
   1.死腔量  206
   2.肺胞換気  206
  C.呼吸器の異常による換気障害  207
   1.%肺活量の測定  207
   2.1秒率の測定  207
   3.換気障害の区分  207
 IV.ガス交換  209
  A.肺胞・血液・細胞におけるガス交換  209
  B.換気・血流比  210
 V.血流による酸素・二酸化炭素の運搬  210
  A.酸素の運搬とヘモグロビンの酸素結合特性  210
  B.二酸化炭素の運搬  212

10◆ 消化・吸収  <長谷川 薫>  213
 I.消化・吸収の意味  213
 II.口腔と食道における消化  214
  A.口腔での消化  214
   1.口腔における運動  214
   2.唾液の性状と生理作用  215
   3.唾液の分泌機序  216
  B.食道における運動  217
 III.胃における消化と吸収  218
  A.胃の運動  219
   1.蠕動運動  219
   2.胃からの排出調節  220
   3.飢餓収縮  220
  B.胃液の性状と生理作用  221
   1.胃液の性状  221
   2.胃液の重要成分と生理作用  221
  C.胃液の分泌機序  222
 IV.小腸における消化と吸収  223
  A.小腸の運動と腸内容の移送  223
   1.小腸の運動  223
   2.小腸内容物の移送  225
  B.小腸における二段階消化  225
   1.中間消化と終末消化  225
   2.終末消化の意義  226
  C.膵液  226
   1.膵液の性状と生理作用  226
   2.膵液の分泌機序  228
  D.胆汁  229
   1.胆汁の性状と生理作用  229
   2.胆汁の分泌機序  230
   3.小腸液  232
  E.小腸における吸収  232
   1.吸収の様式  232
   2.糖(炭水化物)の消化のまとめと吸収  233
   3.タンパク質の消化のまとめと吸収  234
   4.脂肪の消化と吸収  236
   5.ビタミン,電解質,水の吸収  238
 V.大腸における消化・吸収  241
  A.大腸の運動  241
  B.大腸における吸収  242
  C.腸内細菌の作用  243
  D.糞便の性状  243
  E.下痢と便秘  244
 VI.肝臓の機能  245

11◆ 栄養と代謝  <大橋敦子>  247
 I.栄養素と代謝  248
  A.糖質  249
   1.糖質の働き  249
   2.糖質の構造  249
   3.糖質の代謝  250
  B.脂質  254
   1.脂質の働き  254
   2.脂質の構造  255
   3.脂質の代謝  256
  C.タンパク質  259
   1.タンパク質の働き  259
   2.タンパク質の構造  259
   3.タンパク質必要量  259
   4.タンパク質の代謝  259
  D.ビタミン  261
   1.脂溶性ビタミン  262
   2.水溶性ビタミン  263
  E.無機質(ミネラル)  263
  F.水  265
  G.核酸  265
   1.核酸の働き  265
   2.核酸の構造  265
   3.核酸の代謝  265
 II.エネルギー代謝  266
  A.基礎代謝  266
  B.安静時代謝  267
  C.エネルギー代謝率  267
  D.特異動的作用  267

12◆ 体温  <中山智宏>  268
 I.体温とは  268
  A.核心温度と外殻温度  268
  B.核心温度を測定するには  269
 II.産熱と放熱  270
  A.産熱 -- 体温を上昇させる要因  270
   1.筋肉の収縮による産熱  270
   2.代謝  271
   3.食事後の発熱  271
  B.放熱 -- 体温を低下させる要因  271
   1.伝導と対流  271
   2.放射  272
   3.蒸発  273
   4.汗腺と発汗  274
 III.体温調節  274
  A.体温調節中枢  274
  B.末梢血管の拡張または収縮  275
  C.体温調節反応  276
  D.行動性温熱調節  277
 IV.生理的な体温の変動  277
  A.日内変動  277
  B.性周期による変動  278
 V.体温異常  278
  A.低体温  278
  B.高体温  279
   1.熱中症  279
   2.発熱  279
 VI.暑さ寒さへの適応  281

13◆ 排泄機能の生理 -- 尿生成と体液調節  <島村佳一>  282
 I.腎臓と尿生成  282
  A.尿生成とネフロン  282
  B.糸球体の機能 -- ろ過  285
  C.尿細管の機能 -- 再吸収と分泌  287
   1.Na+と水の再吸収  287
   2.K+輸送  291
   3.H+排泄  291
   4.Ca2+と無機リンの輸送  291
   5.有機物質の輸送  292
  D.腎クリアランス -- 腎の排泄機能の指標  292
  E.尿の濃縮機構  294
 II.排尿の機構  295
 III.体液  297
  A.組成  297
  B.水バランス  298
  C.Na+バランス  299
  D.K+バランス  299
  E.H+バランス  299
  F.Ca2+および無機リンのバランス  300

索引  301