序文
 この本はコメディカルの学生にとって十分な精神医学の内容を,簡潔でわかりやすく説明するという方針で作成しています.最近の精神医学の知識を得るとともに,精神医学への興味,精神障害者への理解も深めてほしいと考えています.それと同時に,現在およびこれからの精神医学,精神医療の流れなどを知るため,以下のような面で配慮しています.
 最近の精神医療,ことに統合失調症の医療および福祉においては,多職種のコメディカルスタッフと協働連携するチーム医療・チームケアの重要性が増しています.そのため,精神保健福祉および精神科リハビリテーションについて,比較的多くのページをさいています.また,さまざまな刑事事件で,しばしば加害者の精神鑑定が実施されたり,成年後見制度の問題などがとりあげられており,このような事情と関連して司法精神医学に1章を設けています.さらに最後の章では,近い将来の精神医学の姿をわかりやすく描写しています.
 精神医学については,精神科はもちろん,一般身体科でも精神障害を合併している患者さんが多いこと,また地域での相談やケアに携わっているスタッフの方も精神医学の知識をしばしば必要とすること,その他の広い領域でも不可欠になってきていると思われます.
 そこでこの本が,学生の日々の勉強だけでなく,日常の医療および福祉領域の場面で少しでも役立つことを願っています.
 本書の出版にあたり執筆者各位,中外医学社の方には大変お世話になりましたこと,感謝申し上げます.

  平成16年9月
    編者を代表して 永峰 勲


目次
I 精神医学とは 〈永峰 勲〉 1
 1.精神医学とその特徴(身体医学と比較して)  1
 2.精神医療,精神医学の歴史   2
 3.精神医学の最近の状況   3
 4.精神疾患の分類   4

II 精神症状 〈大蔵雅夫〉 7
 1.精神症状   7
  a.客観症状と主観症状   7
  b.意識の障害   7
  c.記憶の障害   9
  d.知能の障害  12
  e.知覚の障害  13
  f.思考の障害  14
  g.自我意識の障害  16
  h.感情の障害  19
  i.意欲・行動の障害  21
  j.病識  24
  k.疎通性  24
 2.精神状態  24
 3.高次脳機能障害  25
  a.高次脳機能障害と神経心理学  25
  b.大脳半球優位性と側性化  25
  c.失語  26
  d.失認  28
  e.失行  29
  f.その他の脳局在症状  29

III 診察と検査 〈永峰 勲〉 32
 1.精神医学的診察法  32
 2.脳波検査  37
 3.画像検査  40
 4.心理検査  41
 5.主な精神症状評価尺度  45

IV 治療 46
A 薬物療法   〈大森哲郎〉46
 1.薬物療法の意義と役割  46
 2.向精神薬の分類  48
 3.抗精神病薬  49
 4.抗うつ薬  53
 5.気分安定薬  56
 6.抗不安薬  59
 7.睡眠薬  60
 8.抗てんかん薬  61
 9.抗痴呆薬  63
B 身体療法   〈永峰 勲〉64
 1.電気けいれん療法(ECT)  64
C 精神療法   〈永峰 勲〉66
 1.技法による分類  66
 2.代表的精神療法  66
  a.支持的精神療法  66
  b.精神分析的精神療法  67
  c.行動療法  68
  d.認知療法  69
D 精神保健福祉および精神科リハビリテーション  70
 1)精神科救急医療と精神保健福祉法   〈石元康仁〉 70
  1.精神科救急医療  70
  2.精神保健福祉法  70
 2)地域精神保健と社会精神医学   〈山崎正雄〉 72
  1.精神保健について  72
  2.精神保健・医療・福祉の歴史  73
  3.わが国の地域精神保健福祉施策  75
 3)心理社会的治療とチームケア   〈谷岡哲也 大坂京子〉 85
  1.心理社会的治療  85
   a.心理社会的治療の基本的考え方:脆弱性−ストレスモデル  85
   b.心理社会的治療  86
   c.治療時期と心理社会的治療  86
   d.障害に応じた心理社会的治療  87
   e.セルフケア能力と心理社会的治療  89
   f.患者と家族を対象にした心理教育  91
   g.生活技能訓練  93
  2.チーム医療およびチームケア  94
 4)精神科リハビリテーションサービス   〈真野元四郎〉 95
  1.精神科リハビリテーションの目標  96
  2.精神科リハビリテーションサービス  97
  3.社会生活を可能にする要件  97
  4.居住支援  98
  5.就労支援  100
  6.地域生活支援  102
  7.セルフヘルプグループ  103
 5)精神医療福祉とソーシャル サポート  〈橋本文子 松下恭子 多田敏子〉 105
  1.ソーシャル サポート  105
  2.地域生活を支えるための法的根拠およびそのサポート資源の特徴  107
  3.的確なサービスを導入するためのケアマネジメント  108
  4.ソーシャル サポートの課題  112

V 精神障害各論  116
A 器質性精神障害  〈大蔵雅夫〉116
 1.器質性症状性精神障害の原因  116
 2.器質性症状性精神障害の症状  116
  a.急性期の症状  116
  b.亜急性期の症状  119
  c.慢性期の症状  119
  d.脳の局所症状  120
 3.器質性症状性精神障害の治療  120
 4.主な器質性精神障害  122
  a.脳の感染症  122
  b.頭部外傷  122
  c.脳血管障害  123
  d.一酸化炭素中毒  123
  e.正常圧水頭症  124
 5.主な症状性精神障害  124
  a.内分泌疾患  124
  b.膠原病,自己免疫疾患  125
  c.代謝・栄養障害  125
  d.薬剤性精神障害  126
B 精神作用物質使用による精神および行動の障害  〈永峰 勲〉127
 1.薬物依存  128
 2.アルコールによる精神障害  128
  a.急性アルコール中毒  129
  b.アルコール依存  130
  c.離脱症状  132
  d.精神病性障害  132
  e.健忘症候群  133
  f.残遺性および遅発性精神障害  133
  g.治療  133
 3.精神作用物質使用による精神障害  134
  a.各種依存型  134
  b.覚醒剤精神病  136
  c.精神病症状の治療  136
  d.精神作用物質依存の治療  137
C 統合失調症と妄想性障害  〈上野修一〉138
 1.統合失調症  138
  a.症状  138
  b.診断  141
  c.検査  143
  d.病因  143
  e.治療  144
  f.社会復帰に向けて  149
  g.発症予防と経過:薬物による予後の改善  149
  h.犯罪と統合失調症  150
 2.妄想性障害  151
D 気分障害  〈石元康仁〉152
 1.病型  152
 2.症状  152
 3.病因  156
 4.診断  157
 5.経過  160
 6.治療  160
 7.予後  161
E 神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害  〈兼田康宏〉162
 1.疾患概念  162
 2.発症機序  162
 3.防衛機制(適応機制)  165
 4.各障害について  167
  a.恐怖症性不安障害  167
  b.パニック障害(恐慌性障害)  168
  c.全般性不安障害  168
  d.強迫性障害  168
  e.重度ストレス反応および適応障害  169
  f.解離性(転換性)障害  170
  g.身体表現性障害  171
  h.離人・現実感喪失症候群  172
 5.治療  172
F 生理的障害および身体要因に関連した行動症候群  〈友竹正人〉174
 1.摂食障害  174
  a.神経性無食欲症  175
  b.神経性大食症  178
 2.睡眠障害  179
  a.不眠症  179
  b.過眠症  179
  c.睡眠・覚醒スケジュール障害  180
  d.睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症,悪夢  180
 3.性機能不全  180
 4.産褥に関連した精神障害  180
 5.物質乱用(依存を生じない物質の乱用)  181
G 成人の人格および行動の障害  〈永峰 勲〉182
 1.特定の人格障害  182
  a.全般的診断ガイドライン  182
  b.主な人格障害  182
   1)妄想性人格障害  182
   2)分裂病質人格障害  183
   3)非社会性人格障害  183
   4)情緒不安定性人格障害  183
   5)演技性人格障害  184
   6)強迫性人格障害  185
   7)不安性(回避性)人格障害  185
   8)依存性人格障害  185
   9)自己愛性人格障害  185
  c.人格障害の治療  185
 2.性同一性障害  186
  a.性転換症  186
  b.両性役割服装倒錯症  186
  c.小児期の性同一性障害  186
H てんかん  〈大蔵雅夫〉187
 1.てんかんの概念  187
 2.てんかんの出現頻度  187
 3.てんかんの原因  187
 4.てんかん発作の誘因  188
 5.てんかん発作の分類  188
 6.てんかんの分類  191
 7.てんかんに随伴する精神障害  192
 8.てんかんの治療  193
 9.てんかんの予後  194
I 児童期の精神障害  〈森内 幹〉195
 1.知的障害(精神発達遅滞)  195
 2.自閉性障害  196
 3.注意欠陥多動性障害  197
 4.学習障害  198
 5.行為障害  199
 6.選択性緘黙(場面緘黙,部分緘黙)  200
 7.チック  200
 8.分離不安障害  201
 9.愛着障害  201
 10.遺尿症  202
 11.遺糞症  202
 12.抜毛症  203
 13.異食症  203
 14.適応障害  203
 15.児童虐待  204
J 老年精神医学  〈大蔵雅夫〉206
 1.老年期における精神と身体の変化  206
 2.老年期痴呆  207
 3.アルツハイマー型痴呆  213
 4.その他の痴呆  217
  a.脳血管性痴呆  217
  b.レビー小体型痴呆  218
  c.前頭側頭型痴呆(ピック病)  218

VI コンサルテーション・リエゾン精神医学〈永峰 勲〉 219
 1.概 説  219
 2.コンサルテーション・リエゾン精神医学の例  220
  a.集中治療室(ICU)  220
  b.サイコネフロロジー  221
  c.サイコオンコロジー  221
  d.心身症  222

VII 司法精神医学〈大蔵雅夫〉 225
 1.精神鑑定  225
  a.精神鑑定とは何か  225
  b.鑑定人  225
  c.起訴前鑑定  226
  d.正式鑑定  226
  e.民事精神鑑定  226
  f.責任能力  227
  g.精神鑑定の実際  228
 2.精神疾患と犯罪  230
  a.触法精神障害者  230
  b.各精神疾患における犯罪と責任能力  231
 3.成年後見制度  232
  a.新しい成年後見制度  232
  b.成年後見制度の精神鑑定  234
VIII 精神障害の将来 遺伝と環境, 研究および治療の展望〈上野修一〉 235
 1.病気の原因を調べる  235
 2.精神障害は生物学的背景のある病気である  235
 3.遺伝・環境因の割合は病気によって異なる  235
 4.遺伝の影響を調べる方法  236
 5.遺伝がその他の病気の発症に与える影響は?  237
 6.分子遺伝学的研究  237
 7.その他の研究  238
 8.現在推定されている精神疾患の原因  238
 9.将来への展望  239

索引