はじめに

 21世紀は,科学の進歩の面からは「脳の時代」としてとらえられ,社会学的には「少子高齢化の時代」と捉えられている.
 科学の進歩は目覚しく,人間が宇宙や太陽系の成り立ちを知るべく探査が行われたり,ヒトの遺伝子の全解読がなされ,さらにヒトの一番ヒトらしい機能を有する「脳」への関心が高まっている.
 他方,加齢に伴い,どのようなヒトも若い時の機能を維持しえず,心身の機能が低下する事を避ける事は出来ない.また,社会学的には,第二次世界大戦後に生まれた団塊の世代が,もうすぐ「高齢者」の仲間入りをする時代であり,かつ若者の価値観の多様化・女性の社会進出等によって出生率が低下し「少子化」を迎えている.
 このような折,高齢者の介護を視野に入れた介護法が1997年に制定され,3年後の2000年から実施に移され高齢者のケアのシステムが一新され,在宅や通所での介護・リハビリテーションがなされるようになった.このような状況から,「時代の要請」としてコメディカルスタッフの養成が全国的にスタートしている.
 縁あって編者らは,コメディカルスタッフを養成する大学において神経内科学を担当する事になり,かつ教科書を創る機会が与えられた.神経内科学は,基本的な骨組みを理解すると基本の組み合わせとして理解できる興味深さがあり,そのような興味深さを伝える事を教科書執筆の基本方針とした.この教科書が,学ぶ学生諸君の「神経内科学」の理解や,目指す国家資格の取得の助けとなれば幸いである.
 当初から暖かくご指導くださった濱口勝彦先生,執筆にご協力くださった先生方,忍耐強く編集を担当して下さった中外医学社の荻野邦義氏,秀島悟氏,稲垣義夫氏に深謝いたします.

2006年(平成18年)春
細川  武
厚東 篤生
齋藤 豊和


■ 1 神経内科学総論  …1
 I.神経内科概論  …2
  A.神経内科とは <厚東篤生>  …2
   I.神経内科でみられる症候  …2
   II.神経内科の疾患  …3
   III.神経疾患の診断法  …4
   IV.神経疾患患者の特徴  …4
  B.神経系の構造と機能 <細川 武>  …6
   I.大脳の構造と機能  …8
   II.間脳の構造と機能  …10
   III.脳幹の構造と機能  …11
   IV.小脳の構造と機能  …11
   V.脊髄の構造と機能  …11
   VI.末梢神経の構造と機能  …12
   VII.脊髄神経の構造と機能  …15
   VIII.末梢神経の分布と神経根の分布  …16
   IX.反射弓  …18
   X.感覚のシステム  …18
   XI.随意運動のシステム  …18
    A.上位運動ニューロンと下位運動ニューロン  …18
    B.錐体外路系  …18
    C.小脳路  …21
   XII.自律神経系  …21
   XIII.脳脊髄液系  …24
   XIV.脳と脊髄の血管系  …27
 II−1.神経疾患診断学〜神経学的診察 <細川 武>  …28
   I.診察道具  …28
   II.神経学的診察  …28
    A.精神状態(意識状態,見当識,記憶,計算)  …28
    B.運動機能(筋緊張,筋力,筋萎縮,協調運動)  …33
    C.反射(腱反射・病的反射)  …33
    D.感覚(表在感覚・深部感覚)  …42
    E.起立と歩行  …43
 II−2.神経疾患診断学〜神経症候学  …45
  A.意識障害 <森田陽子>  …45
   I.意識障害の機序  …45
   II.意識障害の分類・評価法  …46
   III.意識障害の診断  …48
   IV.意識障害に関連した状態  …49
    A.特殊な意識障害  …49
    B.閉じ込め症候群  …49
    C.遷延性植物状態  …49
    D.脳死  …52
  B.記憶および知能の障害 <森田陽子>  …54
   I.記憶の障害  …54
   II.知能の障害(認知症)  …56
  C.高次脳機能障害:失語 <入野誠郎>  …60
   I.失語症の検査方法と簡単な評価  …61
   II.失語症の分類  …61
    A.非流暢型失語  …61
    B.流暢型失語  …62
   III.失語症の治療  …63
  D.高次脳機能障害:失行 <入野誠郎>  …65
   I.失行の分類  …65
    A.観念運動性失行  …65
    B.観念性失行  …66
    C.着衣失行  …67
    D.構成失行  …68
    E.肢筋運動失行  …68
    F.口部顔面失行  …68
  E.高次脳機能障害:失認 <入野誠郎>  …70
   I.失認の分類  …70
    A.視覚失認  …70
    B.相貌失認  …70
    C.聴覚失認  …71
    D.触覚失認  …71
    E.半側空間無視  …72
    F.身体失認  …75
  F.運動障害 <齋藤豊和>  …77
   I.運動麻痺の性質  …77
   II.運動麻痺の種類と出現部位  …79
   III.歩行障害  …80
  G.不随意運動 <楠 淳一,齋藤豊和>  …83
   I.不随意運動とは(不随意運動の発生メカニズム)  …83
    A.大脳の機能異常  …83
    B.脊髄の機能異常  …84
    C.末梢神経の機能異常  …84
   II.不随意運動の分類  …84
  H.筋萎縮 <齋藤豊和>  …91
   I.筋萎縮  …91
    A.神経原性筋萎縮  …91
    B.筋原性筋萎縮  …92
    C.廃用性萎縮  …92
   II.筋萎縮の分布と疾患  …92
   III.筋萎縮の分布に特徴のある疾患  …93
    A.びまん性(全身性)の筋萎縮  …93
    B.顔面,頚部,肩甲帯,上肢近位部,下腿  …93
    C.四肢遠位筋の萎縮  …94
    D.局所性筋萎縮  …95
  I.感覚障害 <荻野 裕>  …96
   I.症状  …96
   II.病因・病態  …97
   III.検査  …100
   IV.診断・鑑別診断  …101
  J.言語障害 <入野誠郎>  …103
   I.言語障害の分類  …103
    A.失語症  …103
    B.構音障害  …103
    C.発話失行  …107
    D.音声障害  …107
  K.嚥下障害 <井口貴子,野村恭一>  …109
   I.病態  …109
   II.病因  …110
   III.検査と診断  …111
   IV.鑑別診断  …112
  L.視覚障害 <高砂子由佳子,野村恭一>  …114
   I.視覚路の解剖  …114
   II.視力障害  …114
   III.視野障害  …115
   IV.検査  …116
    A.視力検査  …116
    B.視野検査  …116
    C.眼底  …117
   V.鑑別診断  …117
  M.自律神経障害 <阿部達哉,田村直俊>  …120
   I.自律神経の支配について  …120
   II.自律神経症候  …120
    A.起立時のめまい,気分不快,嘔気,冷汗,顔面蒼白,失神など  …122
    B.排尿障害  …123
    C.性機能障害  …124
    D.疼痛  …124
    E.発汗障害  …125
    F.加齢と自律神経  …126
 II−3.神経疾患診断学〜神経学的補助検査  …127
  A.画像診断 <森田陽子>  …127
  B.脳波・筋電図 <三井隆男,野村恭一>  …133
   I.脳波(EEG)  …133
   II.筋電図(EMG)  …135
  C.自律神経機能検査 <阿部達哉,田村直俊>  …139
   I.起立試験,ヘッドアップ・ティルト試験  …139
   II.発汗試験  …141
   III.排尿機能検査  …142
  D.血液・髄液検査 <木下俊介>  …143
   I.血液検査  …143
   II.髄液検査  …143
  E.神経生検,筋生検 <齋藤豊和>  …148
   I.神経生検  …148
   II.筋生検  …149
  F.遺伝子検査 <荻野 裕>  …152
   I.筋疾患  …152
   II.末梢神経疾患  …152
   III.神経変性疾患  …153
   IV.トリプレットリピート病  …154

■ 2 神経疾患各論  …155
  A.脳血管障害 <森田陽子>  …156
   I.脳梗塞  …159
   II.一過性脳虚血発作  …164
   III.脳出血  …164
   IV.くも膜下出血  …167
   V.脳動脈瘤  …170
   VI.脳血管奇形  …170
   VII.ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)  …171
   VIII.高血圧性脳症  …171
   XI.静脈洞血栓症  …172
  B.認知症(痴呆) <森田陽子>  …173
   I.アルツハイマー型認知症  …173
   II.ピック病  …175
   III.多発梗塞性認知症  …175
   IV.ビンスワンガー病  …176
   V.正常圧水頭症  …176
   VI.クロイツフェルト・ヤコブ病  …177
   VII.進行麻痺  …177
  C.頭蓋内圧亢進(脳腫瘍や頭部外傷の症状を理解するために) <杉山 聡>  …178
   I.頭蓋内圧とは  …178
   II.頭蓋内圧亢進とは  …178
   III.脳ヘルニアとは  …178
   IV.治療  …178
  D.頭部外傷 <杉山 聡>  …179
   I.原因  …179
   II.重症度の評価  …179
   III.分類  …179
   IV.各論  …180
    A.頭皮損傷  …180
    B.頭蓋骨骨折  …180
    C.頭蓋内損傷  …182
    D.外傷性くも膜下出血腔  …188
  E.脳腫瘍 <杉山 聡>  …189
   I.分類  …189
   II.症状  …189
   III.治療  …190
   IV.各論  …191
    A.神経膠腫  …191
    B.髄膜腫  …192
    C.下垂体腺腫  …194
    D.聴神経腫瘍  …195
    E.転移性脳腫瘍  …196
  F.変性性神経疾患 <楠 淳一,齋藤豊和>  …197
   I.認知症  …197
   II.運動ニューロン病  …197
    A.筋萎縮性側索硬化症  …201
    B.家族性筋萎縮性側索硬化症  …203
    C.遺伝性脊髄性筋萎縮症  …203
    D.球脊髄性筋萎縮症(ケネディ・アルタ・サング症候群)  …203
    E.良性限局性筋萎縮症  …204
   III.脊髄小脳変性症  …204
    A.非遺伝性で小脳症状のみを呈する脊髄小脳変性症  …206
    B.遺伝性で小脳症状のみを呈する脊髄小脳変性症  …206
    C.非遺伝性で小脳症状以外の症状も合併する脊髄小脳変性症  …207
    D.遺伝性で小脳症状以外の症状も合併する脊髄小脳変性症  …209
   IV.錐体外路疾患(大脳基底核疾患)  …210
    A.パーキンソン病  …211
    B.症候性パーキンソン症候群  …216
   V.その他  …221
    A.ハンチントン舞踏病  …221
  G.脱髄疾患 <富岳 亮,野村恭一>  …223
   I.多発性硬化症  …224
   II.急性散在性脳脊髄炎  …230
  H.感染性疾患 <野村恭一>  …231
   I.髄膜炎  …231
    A.細菌性髄膜炎  …233
    B.ウイルス性髄膜炎  …234
    C.結核性髄膜炎  …234
    D.真菌性髄膜炎  …235
   II.脳膿瘍  …236
   III.脳静脈洞血栓症(静脈炎)  …238
   IV.神経系のウイルス感染症  …238
    A.ウイルス性脳炎  …238
    B.単純ヘルペス脳炎  …239
    C.日本脳炎  …240
    D.インフルエンザ脳症  …241
    E.狂犬病  …241
    F.急性灰白脊髄炎  …241
    G.ライ症候群  …242
   V.遅発性ウイルス感染症  …242
    A.亜急性硬化性全脳炎  …242
    B.進行性多巣性白質脳症  …242
   VI.レトロウイルス感染症  …243
    A.AIDS認知症症候群  …243
    B.HAM  …244
   VII.プリオン病  …244
    A.クロイツフェルト・ヤコブ病  …244
    B.遺伝性プリオン病  …245
   VIII.スピロヘータ感染症  …246
    A.神経梅毒  …246
    B.ライム病  …247
   IX.原虫・寄生虫感染  …248
  I.脊髄疾患 <荻野 裕>  …249
   I.症状  …249
    A.脊髄障害でみられる症状  …249
    B.局在診断  …251
   II.病因・病態  …252
    A.脊髄の外に原因があるもの(主に整形外科的疾患)  …252
    B.脊髄の中に原因があり局在があるもの  …254
    C.脊髄内に病巣があるが局在性ではないもの  …255
   III.検査  …255
    A.画像診断  …255
    B.生理学的検査  …256
    C.髄液検査  …256
    D.尿・血液検査  …256
   IV.診断・鑑別診断  …256
   V.治療  …256
  J.代表的なニューロパチー <齋藤豊和>  …258
   I.ギラン・バレー症候群  …258
   II.慢性炎症性脱髄性ニューロパチー  …259
   III.糖尿病性ニューロパチー  …260
   IV.遺伝性ニューロパチー  …261
    A.CMT病  …261
    B.家族性アミロイドニューロパチー  …263
   V.絞扼性ニューロパチー  …264
  K.代表的なミオパチー <齋藤豊和>  …266
   I.筋ジストロフィー  …266
    A.デュシェンヌ型筋ジストロフィー  …266
    B.ベッカー型筋ジストロフィー  …268
    C.肢帯型筋ジストロフィー  …268
    D.筋強直性ジストロフィー  …269
   II.ミトコンドリア病(ミトコンドリア脳筋症)  …270
   III.多発筋炎,皮膚筋炎  …270
  L.神経筋接合部疾患 <齋藤豊和>  …272
   I.重症筋無力症  …272
   II.筋無力様症候群(ランバート・イートン症候群)  …274
   III.周期性四肢麻痺  …275
  M.小児神経疾患 <細川 武>  …277
   I.小児の発達  …277
   II.小児の神経疾患  …281
    A.フロッピーインファント  …281
    B.運動発達遅延  …283
    C.脳性麻痺  …283
    D.知的障害(精神発達遅滞)  …284
    E.二分脊椎  …285
  N.機能性疾患 <細川 武>  …287
   I.頭痛  …287
   II.てんかん  …288
   III.ナルコレプシー  …289

■ 3 急性期と慢性期のケア  …293
  A.急性および慢性期における看護 <山下香枝子>  …294
   I.急性期の看護:迅速な対応を  …294
    A.アセスメント  …294
    B.急性期の治療と看護  …298
   II.慢性期の看護  …300
    A.再発を予防するための服薬指導  …301
    B.危険因子をさけるための生活習慣病の管理と生活習慣の指導  …302
    C.再発の徴候を見逃さないための定期検査のすすめ  …305
  B.急性期と慢性期のケア[リハビリテーション] <齋藤豊和>  …306
   I.概論  …306
    A.急性期  …306
    B.慢性期  …307
    C.廃用症候群  …310
   II.リハビリテーションにかかわる職種について  …311
   III.理学療法と作業療法  …311
    A.理学療法  …311
    B.作業療法  …313

復習問題  …315
索 引  …337