まえがき

 運動学は,物理学(力学)の分野,スポーツの分野,医学の分野など多くの分野で重要な科目として位置づけられている.各分野により,内容が多少異なることが多い.特に,コ・メディカルである理学療法士,作業療法士,看護師,義肢装具士などにとって,コ・メディカルに対応した運動学テキストの必要性がいわれていた.
 運動学は,人体の構造と機能を運動の面から捉えた学問である.人間の運動,動作,行為に関係するコ・メディカルにとって,運動学は非常に重要な科目である.これらをマスターすることで,人間の観察,触診などにより,傷害の部位および原因,障害の状況把握が可能となる.痛みがある場合,筋が弱い場合,呼吸が乱れている場合などがあると,運動,動作などに異常を示す.この異常を観察,検査測定することにより原因の追究,治療方法などが決定される.そのためには,運動学が非常に重要である.歩き方がおかしい場合は,観察により,その原因を追究し,予測する.それを確認する意味で,筋力検査,関節可動域検査,四肢長の測定など必要な検査測定を行い,原因を探求する.その原因が判明すれば,対応策である治療方法が決定される.そのためには,観察の目,運動学的な検査測定が基本となる.
 運動学は,構造である解剖学と機能である生理学を基本として,運動との関係から生じる学問であることから,解剖学,生理学を理解することも必要である.本書では,必要な解剖学,生理学も加えながら,運動との関係をわかりやすく述べているので,理解しやすいのではないかと思う.運動学には,機能解剖学,運動生理学,運動心理学,発達的運動学,バイオメカニクスなどで構成され,本書でも幅広く執筆している.
 最後に,編集および出版にご協力いただきました,中外医学社の関係の皆様に感謝する.

  2004年10月
  国際医療福祉大学  丸山仁司


目次

I.運動学総論 1
 1.運動の定義 〈丸山仁司〉 1
  A.運動学とは何か 1
  B.運動学の基礎 1

 2.運動器の構造 〈竹井仁〉 5
  A.骨 5
   1.骨の数と種類 5
   2.骨の基本構造 5
   3.骨表面の特徴を表す用語 7
  B.関節 8
   1.骨の連結 8
   2.関節の種類 11
   3.連結部の血管と神経 13
   4.関節運動学 14
  C.皮膚と筋膜 15
   1.筋膜の構造と機能 16
   2.膠原線維と弾性線維 16
  D.筋 17
   1.骨格筋の機能と形状 17
   2.骨格筋の微細構造 19
   3.筋腱移行部(筋腱接合部)23
   4.骨格筋の筋収縮機序 23
   5.骨格筋の神経と血管 26
   6.筋線維の種類 28
   7.筋収縮様式 30
   8.筋の働き 32
  E.神経 34
   1.中枢神経系 35
   2.末梢神経系 35
   3.体性神経系 36
   4.自律神経系(臓性神経系)37
   5.脊髄反射機構 37
  F.呼吸 41
   1.呼吸のメカニズム 42
   2.肺気量 42
   3.呼吸の調節 43
   4.呼吸刺激と身体運動 44
  G.循環 44
   1.体循環 44
   2.肺循環 45
   3.運動と酸素輸送 45
   4.運動による心臓循環系の変化 47
  H.運動のエネルギー代謝 47
   1.筋へのエネルギー供給の2つの機構 47
   2.熱量代謝 50
   3.人体エネルギー代謝量の測定 50

 3.運動の要素 〈解良武士〉 55
  A.筋力 55
  B.筋持久力 57
  C.筋パワー 58
  D.柔軟性(可動域)59
  E.敏捷性 59
  F.協調性 61
  G.平衡性 63
  H.全身持久力 65

 4.運動のバイオメカニクス 〈勝平純司〉 69
  A.運動の法則 69
   1.運動の第1法則(慣性の法則)69
   2.運動の第2法則(運動の法則)69
   3.運動の第3法則(作用反作用の法則)71
  B.モーメント 72
   1.力のモーメント 72
   2.テコにおける力のモーメント 73
   3.テコの種類 73
  C.仕事とエネルギー 75
   1.仕事とは 75
   2.位置エネルギーと運動エネルギー 76
   3.力学的エネルギーの保存 77
   4.歩行時における力学的エネルギー 78

II.部位別運動学 81
 1.上肢の運動学 〈齋藤昭彦〉 81
  A.肩甲帯と肩関節 81
   1.構造 81
   2.機能(運動)87
   3.障害(代表的な傷害と検査法など)92
  B.肘関節 96
   1.構造 96
   2.機能(運動)100
   3.障害(代表的な傷害と検査法など)104
  C.手関節と手指 104
   1.構造 104
   2.機能(運動)106
   3.障害(代表的な傷害と検査法など)111

 2.下肢の運動学 〈安藤正志〉 112
  A.下肢の骨格 112
  B.下肢骨の連結 112
  C.骨盤 112
   1.寛骨 112
   2.骨盤の指標 113
  D.股関節 114
   1.股関節の構造 114
   2.股関節の動き 116
   3.股関節の靱帯 116
   4.股関節の筋 119
  E.膝関節 124
   1.下腿骨の主な名称 124
   2.膝関節の構造と機能 124
   3.膝関節の靱帯 126
   4.膝関節の筋 126
  F.足部の関節 127
   1.足部の構造 127
   2.足部の関節 128
   3.足部の運動 131
   4.足部の靱帯 131
   5.足部の筋と働き 132
   6.足指の筋と働き 135
  G.足のアーチ 136

 3.脊柱・胸郭の運動学 〈黒澤和生〉 138
  A.頚椎 139
   1.構造 139
   2.機能 142
   3.障害 144
  B.胸椎 146
   1.構造 146
   2.機能 146
   3.障害 146
  C.腰椎 147
   1.構造 147
   2.機能 147
   3.障害 148
  D.胸郭(呼吸を含む)148
   1.構造 148
   2.機能 151
   3.障害 153

III.運動学応用 155
 1.姿勢 〈西條富美代〉 155
  A.重心 155
  B.姿勢の安定性 155
   1.姿勢の安定性と力学的要因 155
   2.姿勢制御機構 156
  C.姿勢の特徴 157
   1.立体姿勢 157
   2.坐位姿勢 159
  D.姿勢 159
   1.体位と構え 159
   2.姿勢の分類 159
   3.よい姿勢と悪い姿勢 159

 2.歩行 〈丸山仁司〉 163
  A.歩行の定義 163
   1.時間的な定義 163
   2.空間的な定義 164
   3.時間と空間の組み合わせ 164
  B.歩行分析 165
  C.正常歩行 166
   1.時間的変化 166
   2.重心の移動 166
   3.角度変化 166
   4.歩行の決定要因 168
   5.床反力 168
   6.筋活動 168
   7.エネルギー代謝と効率 170
  D.特殊な歩行 171
   1.小児 171
   2.高齢者 171
  E.異常歩行 171
   1.歩容による分類 171
   2.疾患,症状などによる分類 172

 3.スポーツにおける動作 〈福井勉〉 173
  A.コメディカルからみたスポーツ動作 173
  B.身体重心と足圧中心 173
  C.運動の始動と方向転換 174
  D.運動の終了 176
  E.運動の反復 177
  F.身体正中化 177

索引 180