推薦文
この度,福岡大学筑紫病院消化器科教授の松井敏幸先生によって執筆された「わかりやすい大腸X線診断」が発刊され,推薦文を書かせて頂くことになった.消化管形態診断学をともに追求してきた大学人の一人として,大変光栄に感じている.
近年の消化管内視鏡検査の急速な進歩と普及に伴い,最近X線検査を軽視する風潮がうかがえる.X線は不必要と考える内視鏡専門医もいると聞く.しかし,消化管画像検査の診断能力はX線,内視鏡,病理の各所見を繰り返し対比検討することによってはじめて向上するものであり,X線不要論は暴論といわざるをえない.また,全体像や周囲臓器との関係の把握,罹患部位や病変の大きさの客観的な評価,病像の経時的変化の把握などにおいて,X線検査は内視鏡検査よりも明らかに優れている.したがって,消化管診断においてX線と内視鏡は車の両輪のごとき役割をはたしており,いずれも必要不可欠の検査法であると言って過言ではない.
執筆者の松井教授は,東京で毎月開催されている早期胃癌研究会の運営委員であるとともに,その機関誌である雑誌「胃と腸」の編集幹事も務められている.そのため,本書で呈示されたX線写真はいずれも良質であり,その所見の記述も内視鏡所見や病理所見に裏付けされた,客観性に富んだものとなっている.したがって,呈示されたX線写真をみているだけでも楽しくなるというのが推薦者自身の率直な感想である.
本書は26章から構成されているが,最初の6章では大腸X線検査の意義,前処置,撮影法などの基本的事項が解説され,これから消化器病学を学ぼうとしている初学者の入門書として役立つ内容となっている.とくに見逃し例を敢えて呈示し,その対策方法についてわかり易く解説している箇所などは,比較的経験の浅い消化器医にも理解しやすいように配慮されている.そして,7章から14章までは大腸腫瘍性疾患,15章から24章では大腸炎症性疾患,最後の2章では比較的稀な大腸疾患について,その特徴的X線所見と鑑別診断が典型例の呈示とともに解説されており,かなり経験を積んだ消化器医にとっても有益な内容となっている.
以上のごとく,本書は,初心者からベテランに至るまでのすべての消化器医にとって大変参考になる必読の書である.X線写真が多い割りには比較的安価であり,ぜひ一読をお薦めする次第である.
2006年2月
九州大学大学院病態機能内科学
飯田三雄
序文
大腸腫瘍の増加あるいは炎症性大腸疾患の増加には目を見張るものがある.大腸疾患の様相も変化が多く,新たな知見も多くなった.その病態の把握と診療に際しX線診断は欠かせないものである.しかし,この領域には新たな知見が盛り込まれた教科書が少ない.一方,内視鏡診断学には多くの情熱が注ぎ込まれ,世の中は内視鏡一辺倒である.筆者は,常々この状況を憂えている.それは,腸疾患の微細な面のみが強調され,概観や位置など客観的な診断が蔑にされていると感じることがあるからである.疾患の経時的な変化や自然史はどのようにして得られるのであろうか?部位の同定や大きさの測定,肉眼型の動きなど,X線でしか得られない要因は少なくない.また,診療に際し襞の向こうに隠れた面をどのようにして観察するのか.浸潤の著しい癌の壁変形をどのようにしてみるのか?隣接臓器との関係など,知らなければならない事項は臨床的に多い.それらを抜きにして大腸疾患の臨床はうまくいかない.しかし,現実には内視鏡検査は増え続け,X線検査は減り続ける.このままでは,X線診断学は危機的な状況になる可能性が高い.ここで,興味ある疾患を対象にして,X線診断学からみた新たな知見を整理してみたいとの思いが本書を執筆した理由である.本書は,「臨床医」という雑誌に数年間連載したものに加筆して体裁を整えたものである.使用したX線写真は教室の貴重な財産であり,情熱を傾けた産物である.多くは,原著として使用されたものが多い.したがって,ある程度選択された画像のみが使用されている.
読者におかれては,本書が基本的な記載を無視した面があり,重厚な教科書ではないと思われるかもしれない.その役割は本書には期待せず,面白いところだけを拾い読みする雑誌的な読み物と理解して頂きたい.稀な疾患や自然史などには従来の教科書にない記載に配慮したつもりである.
最後に,福岡大学筑紫病院消化器科の貴重な材料を思うままに使用させていただいたことに対し教室の関係者に厚く感謝する.
2006年正月寓居にて
松井敏幸
目次
1●大腸X線検査の意義 1
A 本書を読むにあたって 1
B X線検査と内視鏡検査の比較 1
C X線検査の特徴 2
D X線読影の基本 3
E 本書の項目 6
2●大腸検査-前処置法 7
A 前処置法 7
B バリウムと器具 9
C 前処置を省いた検査 10
D 必要とされる大腸X線解剖 11
3●ルーチン検査と撮影のこつ 13
A 大腸ルーチンX線検査,撮影法 13
B 直腸撮影法 16
C S状結腸撮影法 17
D 上行結腸・盲腸撮影法 17
E 精密検査撮影法 18
4●読影法 - 盲点なく診断するためのこつ 19
A 基本的撮影手順 19
B 存在診断 19
C X線誤診原因とその対策 20
D 性状判断 22
5●大腸腫瘍の見逃し例(弱点対策):病変部位,重なり,空気量 24
A 病変部位の特徴 24
B 重なり 28
C 空気量 30
6●大腸腫瘍の見逃し例(弱点対策):撮影法;付着不良,前処置不良,読影ミス 32
A 撮影手技上の問題点 32
7●大腸良性ポリープ(腺腫) 39
A 形態分類 39
8●大腸の腺腫以外の良性隆起性病変(ポリープ,ポリープ様病変) 46
A 鑑別診断の進めかた 47
B 良性疾患の解説 47
9●大腸のポリポーシス 53
A 分類 53
B 遺伝性ポリポーシス 54
C 非遺伝性ポリポーシス 57
10●早期大腸癌:(1)表面型癌を中心に 61
A 大腸癌の肉眼分類 61
B 割面形態分類 61
C 早期大腸癌の実際 62
11●早期大腸癌:(2)sm癌を中心に 68
A 早期癌の内視鏡治療適応 68
B sm癌深達度細分類 68
C X線検査による深達度診断 69
D X線検査と内視鏡検査の違い 75
12●大腸癌の発育:遡及的経過例を中心に 76
A 大腸癌発育モデル 76
B 大腸癌の発育と実例 77
13●進行大腸癌 83
A 大腸癌の分類と記載方法 83
B 大腸進行癌のX線診断 84
C 潰瘍性大腸炎などの大腸炎に伴う進行癌 84
D 進行癌と便潜血検査 84
14●大腸の非上皮性悪性疾患 89
A 大腸非上皮性腫瘍の分類(大腸癌取り扱い規約) 89
B 大腸非上皮性悪性腫瘍のX線像 89
15●大腸の炎症性腸疾患に対するX線検査のありかた 95
A 炎症性腸疾患の分類 95
B 炎症性疾患に対するX線検査の適応と内視鏡検査との対比 97
C 追跡検査のありかた 98
D 炎症性腸疾患の鑑別診断の進めかた 99
16●潰瘍性大腸炎:典型例 100
A 潰瘍性大腸炎の診断手順 100
B X線検査の適応 101
C X線検査所見 102
D 病型(病変範囲)別X線像 105
E 活動性 106
17●潰瘍性大腸炎:非典型例 107
A 非典型的潰瘍性大腸炎 107
B 区域性病変,虫垂病変 107
C 潰瘍性大腸炎の合併症 109
18●Crohn病:典型例 114
A 概念と特徴像 114
B 診断基準 115
C X線診断 115
19●Crohn病:非典型例,合併症例 122
A 上部消化管病変 122
B 大腸病変 124
C 腸管合併症 125
20●Crohn病と潰瘍性大腸炎の鑑別:鑑別困難例とindeterminate colitis 128
A 潰瘍性大腸炎とCrohn病鑑別の意義 128
B Crohn病の疾患単位としての成立 128
C UCとCDの鑑別 128
D 鑑別の進めかた 134
E アフタ性潰瘍のみからなるCrohn病 135
21●大腸結核 136
A 腸結核の発症過程 136
B 腸結核の診断 136
C 腸結核診断基準 141
D 腸結核とCrohn病の鑑別 141
E 内視鏡検査とX線検査の比較 141
22●腸管Behcet病,単純性潰瘍 143
A Behcet病の診断基準 143
B 腸管Behcet病と単純性潰瘍の定義 144
C 非典型的腸管Behcet病 147
D 他の疾患との鑑別 148
23●腸管感染症 150
A 腸管感染症の分類 150
B 腸管感染症のX線学的分類 151
C 急性炎症 151
D 慢性炎症 155
24●その他の大腸炎:
(1)急性腸炎(感染症以外);虚血性大腸炎,薬剤性腸炎,憩室炎 158
A 虚血性大腸炎(ischemic colitis) 158
B 大腸憩室炎(diverticulitis) 160
C 薬剤性腸炎(drug induced colitis,含むNSAIDs起因性腸炎) 163
25●その他の大腸炎:
(2)慢性腸炎;変形と狭窄を生ずる大腸疾患 166
A 静脈硬化症 166
B 子宮内膜症 166
C 粘膜脱症候群 168
D 慢性関節リウマチに伴う腸炎 169
E 悪性腫瘍の浸潤転移 170
F 大腸のhypoganglionosis 171
G 魚骨の大腸刺入による腸炎(膿瘍) 172
26●その他の大腸炎:
(3)盲腸と虫垂の炎症性疾患と腫瘍性疾患 173
A 盲腸の炎症 173
B 炎症性疾患に類似した盲腸の腫瘍 173
C 虫垂の炎症 177
D 虫垂の腫瘍 179
索引 181