序
臨床検査は，現代の医学・医療を実践する上で欠かすことのできないきわめて重要な手段である．すなわち，患者さんが有する病態を的確に把握し，正確かつ精密な診断，さらに治療後の経過観察などにおいて臨床検査の果たす役割は大きい．診療の基本である医療面接並びに身体診察が重要であることは今もって変わってはいない．しかしこれらによって得られる情報は客観性に乏しい欠点が否めない．それに比し，臨床検査は適切な条件で，正確に施行されれば，客観的で正確な情報をもたらす．科学的根拠に基づくEBMの実践に臨床検査が主役をなすともいえよう．
しかし，いくら臨床検査が有用であるとはいえ，的確に実施されなければ意味はない．そればかりか，患者さんに苦痛や経済的負担を×だけの結果になるおそれすらある．臨床検査を医療の実践に活用するには，検査項目を適切に選択し，かつ的確なタイミングで行わなければならない．さらに臨床検査によって得られた情報を正しく判断し，医療に応用しなければならない．
こうした観点から，現代医療の実践に有用な臨床検査を如何に利用し，如何に役立てるかといった「EBMのためのベストアプローチ臨床検査ガイド」を上梓することにした．代表的な50の症候，176の疾患を取り上げ，それぞれについて診断をどのように進めたらよいか，スクリーニング検査として行う必要のある検査はどれか，また診断を確定するために行うべき検査はどれか，これらをわかりやすく，現実の医療に即するように解説した．フローチャートや図表を用い，理解しやすいようにも工夫した．これらの解説には，各分野の専門家に担当を依頼した．
さて，現在医学を巡って教育の改革が急ピッチで進められている．医学部教育では，医学教育モデル コア カリキュラムの導入と，全国共用試験CBT・OSCEの実施，PBLチュートリアルおよびクリニカル クラークシップ教育の普及，卒後教育では臨床研修制度の実施などである．これらの教育改革では，学生や研修医が自ら問題を見いだして思考し，解決する能力の充実が要求される．この意味では，本書は代表的な症候や疾患を解決するプロセスを習得するのに優れた参考書でもある．
医学部学生，臨床研修医，そして医療に携わっておられる実地医家の諸先生に，ぜひとも本書をお使い頂き，科学的根拠に基づいたEBMの実践，そして効率よい医療の実践にお役立ていただきたいと願う．
本書の企画制作には，中外医学社の企画部・編集部の多大なるご尽力を頂いた．ここに深謝する．
2006年初春
奈良信雄
目次
I・症候編
全身
1．発熱 奈良信雄 2
2．全身倦怠感 奈良信雄 5
3．肥満，やせ 奈良信雄 7
4．貧血 奈良信雄 9
5．めまい 奈良信雄 11
神経
6．意識障害，失神発作 川井元晴 13
7．痙攣 川井元晴 15
8．筋力低下，筋肉痛 川井元晴 16
9．運動失調，歩行障害 川井元晴 18
10．視力・視野障害 川井元晴 19
11．頭痛 川井元晴 21
12．麻痺 川井元晴 23
13．知覚障害 川井元晴 25
循環器
14．動悸，脈拍異常 後藤英司 27
15．チアノーゼ 後藤英司 28
16．ショック 井尻理恵子，後藤英司 30
17．Raynaud症状 青木昭子，後藤英司 32
胸部
18．胸痛 久保惠嗣 34
19．胸水 久保惠嗣 36
20．呼吸困難 久保惠嗣 38
21．咳，痰 久保惠嗣 40
22．血痰，喀血 久保惠嗣 44
腹部
23．吐血，下血 日比紀文，井上 詠 46
24．腹痛 日比紀文，久松理一 50
25．悪心，嘔吐 日比紀文，泉谷幹子 52
26．食欲不振 日比紀文，泉谷幹子 54
27．下痢 日比紀文，矢島知治 56
28．便秘 日比紀文，矢島知治 57
29．肝・脾腫 佐藤千史 59
30．黄疸 佐藤千史 60
31．腹部腫瘍 佐藤千史 62
32．腹水 佐藤千史 63
血液
33．出血傾向 奈良信雄 65
34．リンパ節腫脹 奈良信雄 67
腎臓
35．高ナトリウム血症，低ナトリウム血症 冨田公夫，宮崎博喜 69
36．高カリウム血症，低カリウム血症 冨田公夫，宮崎博喜 72
37．高カルシウム血症，低カルシウム血症 冨田公夫，宮崎博喜 75
38．アシドーシス 冨田公夫，宮崎博喜 78
39．アルカローシス 冨田公夫，宮崎博喜 81
整形
40．腰痛 高橋 誠，宗田 大 83
41．関節痛，関節腫脹 宗田 大 85
皮膚
42．多毛，脱毛 伊藤雅章 88
43．発疹 伊藤雅章 92
泌尿器
44．血尿 横山みなと，小林 剛 98
45．排尿異常 浅野桐子，増田 均 100
46．脱水 高沢亮治，小林 剛 102
47．浮腫 飯村康正，小林 剛 104
ホルモン
48．甲状腺腫 橋本琢磨 106
婦人科
49．月経異常 久保田俊郎 109
50．不正性器出血 久保田俊郎 112
II・疾患編
神経・精神・筋疾患
1．脳梗塞 川井元晴 116
2．脳内出血 川井元晴 118
3．くも膜下出血 川井元晴 120
4．脳腫瘍 川井元晴 121
5．脳膿瘍 川井元晴 123
6．Parkinson病 川井元晴 124
7．脊髄小脳変性症 川井元晴 125
8．脊髄腫瘍 川井元晴 127
9．Guillain-Barre症候群 野口もえ子，山田正仁 129
10．末梢性顔面神経麻痺 野口もえ子，山田正仁 130
11．筋萎縮性側索硬化症 古川 裕，山田正仁 131
12．重症筋無力症 古川 裕，山田正仁 133
13．周期性四肢麻痺 丸田高広，山田正仁 134
14．神経Behcet病 丸田高広，山田正仁 135
15．Creutzfeldt-Jakob病 浜口 毅，山田正仁 136
16．多発性硬化症 浜口 毅，山田正仁 137
17．髄膜炎 佐村木美晴，山田正仁 139
18．ウイルス性脳炎 佐村木美晴，山田正仁 140
19．てんかん 小野賢二郎，山田正仁 142
20．認知症（Alzheimer病） 小野賢二郎，山田正仁 143
消化器疾患
21．食道静脈瘤 今枝博之，日比紀文 145
22．食道癌 今枝博之，日比紀文 147
23．胃・十二指腸潰瘍（Helicobacter pylori検査を含む） 日比紀文，鈴木秀和 149
24．胃癌 日比紀文，樋口 肇 152
25．虚血性腸炎 日比紀文，中澤 敦 155
26．急性虫垂炎 日比紀文，松岡克善 156
27．Crohn病 日比紀文，久松理一 157
28．吸収不良症候群 日比紀文，佐藤俊朗 159
29．潰瘍性大腸炎 日比紀文，桜庭 篤 161
30．大腸癌 日比紀文，高石官均 165
31．イレウス 日比紀文，岡本 晋 167
32．腹膜炎 日比紀文，諸星雄一 170
33．急性肝炎 佐藤千史 172
34．劇症肝炎，肝性脳症 佐藤千史 174
35．慢性肝炎 佐藤千史 176
36．自己免疫性肝障害 佐藤千史 178
37．肝硬変 佐藤千史 180
38．肝悪性腫瘍 佐藤千史 182
39．脂肪肝 佐藤千史 184
40．薬物性肝障害 佐藤千史 185
41．体質性黄疸 佐藤千史 186
42．Budd-Chiari症候群 佐藤千史 187
43．胆石症 佐藤千史 189
44．急性膵炎 佐藤千史 191
45．慢性膵炎 佐藤千史 192
46．膵癌 佐藤千史 194
循環器疾患
47．虚血性心疾患 後藤英司 195
48．弁膜症 藤代健太郎 197
49．先天性心疾患 瀧聞浄宏，高梨吉則 198
50．心筋症（特発性） 畑 明宏 200
51．急性心筋炎 畑 明宏 202
52．急性心膜炎 畑 明宏 203
53．肺性心 畑 明宏 204
54．不整脈 平尾見三 206
55．大動脈解離，解離性大動脈瘤 稲垣 裕，平尾見三 209
56．Burger病（閉塞性血栓血管炎） 村岡幸彦 211
57．下肢静脈瘤 村岡幸彦 212
58．静脈血栓症，血栓性静脈炎 村岡幸彦 213
59．高血圧 岡田寛之，平尾見三 214
60．感染性心内膜炎 畑 明宏 217
呼吸器疾患
61．肺炎 本田孝行 220
62．肺化膿症 本田孝行 222
63．肺結核 山崎善隆 224
64．肺非結核性抗酸菌感染症 山崎善隆 225
65．肺真菌症 山崎善隆 226
66．COPD（慢性閉塞性肺疾患） 藤本圭作 227
67．気管支喘息 藤本圭作 228
68．びまん性汎細気管支炎 藤本圭作 230
69．気管支拡張症 小泉知展 231
70．睡眠時無呼吸症候群 漆畑一寿 232
71．特発性間質性肺炎 安尾将法 233
72．過敏性肺炎 津島健司 235
73．サルコイドーシス 小泉知展 237
74．原発性肺癌 小泉知展 238
75．肺血栓塞栓症 花岡正幸 239
76．原発性肺高血圧症 花岡正幸 240
77．自然気胸 漆畑一寿 242
78．急性肺損傷/急性呼吸促迫（窮迫）症候群 津島健司 243
腎疾患
79．急性糸球体腎炎 江田幸政 245
80．慢性腎炎 江田幸政 247
81．IgA腎症 江田幸政 249
82．ネフローゼ症候群 江田幸政 251
83．急性腎不全 江田幸政 253
84．慢性腎不全 江田幸政 254
85．腎血管性高血圧症 江田幸政 256
86．糖尿病性腎症 江田幸政 258
87．膠原病による腎症 江田幸政 260
88．尿細管アシドーシス 江田幸政 262
89．急性腎盂腎炎 江田幸政 263
90．多発性嚢胞腎 江田幸政 265
血液・造血器疾患
91．鉄欠乏性貧血 奈良信雄 266
92．再生不良性貧血 奈良信雄 267
93．巨赤芽球性貧血 奈良信雄 268
94．自己免疫性溶血性貧血 奈良信雄 270
95．遺伝性球状赤血球症 奈良信雄 271
96．発作性夜間ヘモグロビン尿症 奈良信雄 272
97．急性白血病 奈良信雄 273
98．慢性骨髄性白血病 奈良信雄 276
99．成人T細胞白血病 奈良信雄 278
100．真性赤血球増加症 東田修二 279
101．本態性血小板血症 東田修二 281
102．骨髄線維症 東田修二 282
103．骨髄異形成症候群 東田修二 283
104．悪性リンパ腫 東田修二 285
105．多発性骨髄腫 東田修二 287
106．特発性血小板減少性紫斑病 東田修二 289
107．播種性血管内凝固症候群 東田修二 290
108．血栓血小板減少性紫斑症，溶血性尿毒症症候群 東田修二 292
109．血友病 東田修二 293
内分泌疾患
110．甲状腺機能亢進症，Graves病 橋本琢磨 295
111．甲状腺機能低下症，慢性甲状腺炎 橋本琢磨 297
112．亜急性甲状腺炎 橋本琢磨 299
113．甲状腺腫瘍 橋本琢磨 300
114．副甲状腺機能亢進症 橋本琢磨 301
115．先端巨大症 橋本琢磨 305
116．下垂体前葉機能低下症 橋本琢磨 307
117．尿崩症 橋本琢磨 309
118．ADH分泌異常症候群 橋本琢磨 310
119．Addison病 橋本琢磨 311
120．原発性アルドステロン症 橋本琢磨 313
121．副腎性器症候群 橋本琢磨 314
122．Cushing症候群 橋本琢磨 315
123．褐色細胞腫 橋本琢磨 317
124．成人GH分泌不全症 橋本琢磨 318
125．多発性内分泌腺腫瘍 橋本琢磨 320
126．Bartter症候群 橋本琢磨 321
代謝性疾患
127．糖尿病 宮崎 滋 322
128．糖尿病性昏睡 宮崎 滋 324
129．グリコーゲン病（糖原病） 川村光信 326
130．原発性高脂血症 川村光信 328
131．痛風，高尿酸血症 宮崎 滋 331
132．ポルフィリン症 川村光信 332
133．アミロイドーシス 川村光信 334
134．ヘモクロマトーシス 川村光信 336
135．ビタミン欠乏症・過剰症 宮崎 滋 337
アレルギー疾患
136．食物・薬物アレルギー 佐々木 毅 339
137．花粉症 佐々木 毅 340
膠原病・免疫疾患
138．全身性エリテマトーデス 佐々木 毅 341
139．抗リン脂質抗体症候群 佐々木 毅 344
140．多発性筋炎，皮膚筋炎 佐々木 毅 345
141．進行性全身性硬化症（強皮症） 佐々木 毅 347
142．関節リウマチ 佐々木 毅 349
143．Felty症候群 佐々木 毅 351
144．Sjogren症候群 佐々木 毅 352
145．血管炎症候群 佐々木 毅 353
146．Behcet病 佐々木 毅 355
147．混合性結合織病 佐々木 毅 357
感染性疾患
148．細菌性食中毒 森尾友宏 359
149．劇症型A群連鎖球菌感染症 森尾友宏 360
150．伝染性単核症 森尾友宏 362
151．麻疹 森尾友宏 363
152．風疹 森尾友宏 364
153．敗血症 森尾友宏 365
中毒性疾患
154．一酸化炭素（CO）中毒 小山完二 367
155．シアン（青酸）中毒 小山完二 368
156．農薬中毒 小山完二 369
157．フグ中毒 小山完二 370
眼・耳鼻咽喉疾患
158．眼底出血 大野京子，望月 學 371
159．Meniere病 角田篤信 372
運動器疾患
160．化膿性骨髄炎 関矢一郎，宗田 大 373
161．骨腫瘍 阿江啓介，宗田 大 374
162．骨粗鬆症，骨軟化症 関矢一郎，宗田 大 377
泌尿器・男性性器疾患
163．膀胱炎（単純性） 大塚幸宏，小林 剛 378
164．腎尿管結石（尿路結石症） 小林 剛，木原和徳 379
165．膀胱腫瘍 沼尾 昇，木原和徳 380
166．前立腺肥大症 漆原正泰，小林 剛 381
167．前立腺癌 川野圭三，木原和徳 383
168．精巣腫瘍 矢野晶大，木原和徳 384
妊産婦・女性性器疾患
169．子宮頸癌 小坂元宏，久保田俊郎 385
170．子宮体癌 小坂元宏，久保田俊郎 386
171．子宮筋腫 久保田俊郎 388
172．卵巣癌 小坂元宏，久保田俊郎 389
173．妊娠高血圧症候群 久保田俊郎 391
小児疾患
174．腸重積症 森尾友宏 393
175．川崎病 森尾友宏 394
176．若年性関節リウマチ 森尾友宏 396
索引 398