神経疾患の治療を扱った成書や雑誌での特集が多いなか,今回「EBM 神経疾患の治療 2007-2008」を刊行することになりました.日本神経学会からは,パーキンソン病,慢性頭痛,てんかん,痴呆疾患,筋萎縮性側索硬化症の治療ガイドラインが2002年に刊行されています.その他,「脳卒中治療ガイドライン2004」,「慢性頭痛治療ガイドライン」,「神経免疫疾患治療ガイドライン」なども刊行されております.  そのようななかで,敢えて本書を発刊する意義は,日常の診療で疑問に思っている点や,すでにガイドラインで記載されている事項などに関しての疑問点について,その道の専門家がどう考えて診療にあたっているのか,さらにその根拠となるエビデンスを紹介してもらうことにあります.
 ですから,診療上の問題点を疑問文で問い,その疑問に対して専門家が答える形式としました.具体的には各項目とも,序論,現時点での治療指針,その根拠をなしているエビデンス(論文や臨床試験)の要約,根拠となった臨床研究の問題点と限界,本邦患者に適応する際の注意点,そして最後に簡単なコメントを記載していただく形式としました.
 編者の3名が日常疑問に思っている事項を中心に,脳血管障害(脳虚血,脳出血,くも膜下出血,脳卒中の予防・管理),脳腫瘍,感染症,変性疾患(パーキンソン病,パーキンソン病関連疾患),Alzheimer病,脊髄小脳変性症,運動ニューロン疾患,不随意運動,代謝性疾患,脱髄性疾患,末梢神経疾患,脊髄・脊椎疾患,筋疾患,自律神経疾患,機能性疾患などの中から110 項目を選択しました.各項目とも,その分野で実際に活躍しておられる第1人者に執筆をお願いしました.ご多忙の中,短時間にもかかわらず密度の濃い内容を執筆していただいたことに感謝申し上げます.
 編者らの意図を汲んでいただき,各項目とも専門家ならではのすばらしい内容となっております.通常のガイドラインでは記載されていないような専門家の本音が垣間見られ,一読の価値があると思います.
 診療の合間に,関心のあるところから気楽に読んでいただけると幸いです.おそらく日常疑問に思っておられる内容がすっきりしたり,また現時点での問題点がさらに浮き彫りになることでしょう.本誌が少しでも日常診療のお役に立てば望外の喜びです.

2006年10月
編 者 


目次

A. 脳血管障害
 1) 脳虚血(脳梗塞,一過性脳虚血発作,脳静脈洞血栓症)
  1. 脳梗塞のt-PA静注療法の適応症例は 〈高田達郎〉
  2. 進行性脳梗塞にヘパリン治療は有効か 〈長尾毅彦 片山泰朗 横地正之〉
  3. 脳血栓症急性期にアスピリンとオザグレルはどう使い分けるか 〈山脇健盛〉
  4. 脳梗塞急性期に局所線溶療法は有効か 〈寺山靖夫〉
  5. 脳梗塞に脳保護療法をどう使うか 〈阿部康二〉
  6. 脳梗塞重症例に低体温療法の適応はあるか 〈成冨博章〉
  7. 脳梗塞急性期に高気圧酸素療法は有用か 〈本田英比古〉
  8. 脳梗塞急性期におけるMRI拡散強調画像は梗塞巣を予測するか 〈野川 茂〉
  9. 一過性脳虚血発作の治療はどうするか 〈星野晴彦〉
  10. 脳静脈洞血栓症の急性期治療はどうするか 〈荒木信夫〉
  11. 脳動脈解離に抗血栓薬を使用すべきか 〈荒川千晶 高木 誠〉
  12. 脳梗塞後遺症に脳循環代謝改善薬をどのように使い分けるか 〈古屋大典〉
  13. 非心原性脳梗塞の再発予防に抗血小板薬をどう使い分けるか
                       〈山崎昌子 内山真一郎〉
  14. 心房細動を伴う脳梗塞患者の再発予防にワルファリンをどう使うか 〈永山正雄〉
  15. 抗リン脂質抗体症候群での脳梗塞再発予防はどうするか 〈北川泰久〉
  16. 卵円孔開存患者の脳梗塞再発予防はどうするか 〈玄 富翰 長束一行〉
  17. 脳梗塞症例に抗血小板療法を行った場合,モニタリングを行うべきか
                              〈後藤信哉〉
  18. 内頸動脈閉塞例に対して頭蓋内-外バイパス手術は有効な方法か
                         〈小笠原邦昭 小川 彰〉
 2) 脳出血,くも膜下出血
  1. 脳出血の外科治療の適応はあるか 〈安井信之〉
  2. 破裂脳動脈瘤治療で外科的手術と血管内手術の適応基準は 〈石原正一郎〉
  3. 未破裂脳動脈瘤の管理はどうするか 〈佐藤 徹 宮本 享〉
 3) 脳卒中の予防,管理
  1. 脳卒中急性期の血圧管理はどうするか 〈萩原のり子 井林雪郎〉
  2. 脳血管障害慢性期の血圧管理目標と推奨薬剤は 〈棚橋紀夫〉
  3. スタチンは脳卒中予防に有効か 〈野村栄一 郡山達男 松本昌泰〉
  4. 無症候性脳梗塞は治療すべきか 〈高橋若生 高木繁治〉
  5. CRPの上昇は脳梗塞の危険因子か 〈佐藤秀樹〉
  6. 高コレステロール血症は脳梗塞の危険因子か 〈野村栄一〉
  7. メタボリックシンドロームは脳梗塞の危険因子か 〈高橋一司〉
  8. くも膜下出血の危険因子は何か 〈石川達哉 松居 徹〉
  9. 脳血管障害患者における脳血流測定に臨床的意義(エビデンス)があるか
                              〈畑 隆志〉
  10. 脳梗塞患者での凝血学的マーカーの有用性はあるか 〈卜部貴夫〉
  11. Stroke unit, Stroke care unitは脳卒中患者の予後を改善するか
                        〈上原敏志 峰松一夫〉
  12. 頸動脈プラークの性状は血管イベントと関係するか 〈米村公伸 橋本洋一郎〉

B. 脳腫瘍
  1. グリオーマの最新の治療法は 〈峯田寿裕 田渕和雄〉

C. 感染症
  1. 細菌性髄膜炎のガイドラインは 〈和田健二 中島健二〉
  2. 単純ヘルペス脳炎の治療ガイドラインは 〈新藤和雅 長坂高村 塩澤全司〉
  3. 結核性髄膜炎では副腎皮質ステロイド薬を併用すべきか否か 〈水谷智彦〉
  4. HIV脳症・日和見感染症の最新の治療法は 〈岸田修二〉

D. 変性疾患
 1) Parkinson病
  1. 本邦と米国での治療ガイドラインはどこが違うか 〈大熊泰之〉
  2. 抗Parkinson薬の使い分けはどうしたらよいか 〈藤本健一〉
  3. 初期治療は本当にドパミン作動薬から始めた方がよいのか
                    〈北川まゆみ 田代邦雄〉
  4. 精神症状に対する薬物療法はどうするべきか 〈長谷川一子〉
  5. 定位脳手術療法の適応をどう選ぶべきか 〈平戸政史〉
  6. 磁気刺激療法は有効か 〈岡部慎吾 宇川義一〉
 2) Parkinson関連疾患
  1. レビー小体病に対する治療は 〈岩崎 鋼 荒井啓行〉
  2. 大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻痺に有効な薬剤はあるか 〈西澤正豊〉
  3. 前頭側頭型認知症の治療法は 〈池田 学〉
 3) Alzheimer病
  1. 認知症に対する治療はどうすべきか 〈玉岡 晃〉
  2. 脳活性化リハビリテーションで本当に認知症は防げるのか 〈山口晴保〉
 4) 脊髄小脳変性症
  1. TRHやTRH誘導体は本当に有効なのか 〈矢部一郎 佐々木秀直〉
  2. 磁気刺激療法は有効か 〈岡部慎吾 宇川義一〉
 5) 運動ニューロン疾患
  1. 本邦と米国での治療ガイドラインはどこが違うか 〈森田光哉 中野今治〉
  2. 治療薬の開発の現状はどうなっているのか 〈青木正志〉
 6) ジストニア,振戦
  1. 捻転ジストニアにエビデンスのある治療法は 〈目崎高広〉
  2. 本態性振戦に有効であるとのエビデンスのある薬剤は何か 〈日下博文〉

E. 代謝性疾患
  1. Wilson病治療のスタンダードは 〈永沢 光 加藤丈夫〉
  2. 副腎白質ジストロフィー 〈辻 省次 小野寺 理〉
  3. Fabry病の酵素療法はどのくらい有効か 〈衛藤義勝〉
  4. 成人型シトルリン血症(CTLN2)はどのように治療するか 〈矢崎正英〉
  5. 水溶性ビタミン欠乏症の治療は 〈小林高義〉
  6. 脂溶性ビタミン欠乏症の治療は 〈田中優司 犬塚 貴〉
  7. ビタミンE単独欠損性運動失調は治るか 〈横田隆徳〉
  8. Wernicke-Korsakoff症候群の治療の第1選択は 〈白川健太郎 宮嶋裕明〉
  9. 急性ポルフィリア治療のポイント 〈堀江 裕〉
  10. 肝性昏睡に分枝鎖アミノ酸は有効か 〈磯部夕美子 坂井田功〉

F. 脱髄性疾患
  1. 多発性硬化症の最新の治療法は 〈松下拓也 吉良潤一〉
  2. 急性散在性脳脊髄炎に対する治療法は 〈菊地誠志〉
  3. 神経Behcet病で十分量のステロイド投与が必要な根拠は 〈佐藤由紀夫〉

G. 末梢神経疾患
  1. Guillain-Barre症候群で治療が必要となるのはどのようなときか
                      〈小鷹昌明 結城伸泰〉
  2. Fisher症候群の治療はGuillain-Barre症候群とはどう違うか 〈荻野美恵子〉
  3. 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の治療の第1選択は
                         〈宮本勝一 楠 進〉
  4. 多巣性運動ニューロパチーの治療は 〈栗田 正〉
  5. 自律神経ニューロパチーに治療法はあるか 〈國本雅也〉
  6. 単クローン性γグロブリン異常症に伴うニューロパチーの治療は
                       〈千葉厚郎 内堀 歩〉
  7. 原発性(AL)アミロイドーシスに伴うニューロパチーをどう治療するか
                              〈山田正仁〉
  8. 家族性アミロイドポリニューロパチーに肝移植は有効か
               〈山下太郎 安東由喜雄 内野 誠〉
  9. Churg-Strauss症候群の治療のポイントは 〈大越教夫〉
  10. 膠原病に伴うニューロパチーの治療法は皆同じか 〈神田 隆〉
  11. Sjogren症候群におけるニューロパチーへの対応は 〈鈴木千恵子 馬場正之〉
  12. 糖尿病性ニューロパチーの治療 〈長谷川修〉
  13. 手根管症候群で外科的治療法を選択する目安は 〈上坂義和〉
  14. 帯状疱疹にステロイドは有効か 〈井上 健〉
  15. Bell麻痺にアシクロビルは使用すべきか 〈齋藤豊和〉
  16. 三叉神経痛の第1選択は 〈秋口一郎〉
  17. 坐骨神経痛治療のEBM 〈佐藤浩則〉
  18. Isaacs症候群治療の第1選択は 〈渡邊 修 有村公良〉
  19. Charcot-Marie-Tooth病の治療エビデンス 〈山本悌司〉

H. 脊髄脊椎疾患
  1. HAMの最新の治療法は 〈出雲周二〉
  2. 変形性脊椎症で外科的処置が必要だとする判断基準は 〈中江啓晴 黒岩義之〉

I. 筋疾患
  1. 多発筋炎と皮膚筋炎の治療とその違い 〈谷田部可奈 川井 充〉
  2. ステロイドが効かない筋炎はどう治療するか 〈齋藤祐子 松村喜一郎 清水輝夫〉
  3. 全身型重症筋無力症に術前ステロイド治療を行うポイントは 〈吉川弘明〉
  4. 抗AChR抗体陰性抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の第1選択は 〈佐橋 功〉
  5. 筋無力症候群の薬物治療はどうするか 〈田中惠子〉
  6. 周期性四肢麻痺の薬物治療 〈栗原照幸〉
  7. 筋強直性ジストロフィーにおけるミオトニアの治療は必要か
                     〈澁谷誠二 若山吉弘〉
  8. ミトコンドリア脳筋症にはコエンザイムしかないのか 〈後藤雄一〉
  9. 筋ジストロフィーに副腎皮質ステロイドは有効か 〈埜中征哉〉

J. 自律神経疾患
  1. Shy-Drager症候群の起立性低血圧に対する治療はどうするか 〈田村直俊〉
  2. Shy-Drager症候群に対する いびき,突然死に対する対策は 〈丸木雄一〉

K. 機能性疾患
  1. 片頭痛に対してトリプタンはどう使い分けるか 〈濱田潤一〉
  2. 前兆のある片頭痛に対してエルゴタミン製剤は使用してはいけないのか
                               〈清水利彦〉
  3. 片頭痛予防薬はどのように選択するか 〈金 浩澤〉
  4. 緊張型頭痛に対して鎮痛薬をどのように使い分けるか 〈永田栄一郎〉
  5. 群発頭痛の発作予防はどうするか 〈小張昌宏〉
  6. 薬物長期乱用に伴う頭痛の対処はどうするか 〈平田幸一 木村裕一〉
  7. 部分発作に対する抗てんかん薬の選択は 〈浅野賀雄〉
  8. 全般発作に対する抗てんかん薬の選択は(成人の場合) 〈吉井文均〉
  9. てんかん重積状態の管理方法は 〈大平雅之 高尾昌樹〉
  10. 妊婦に対する抗てんかん薬はどうするか 〈伊藤義彰〉

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