本書は心エコーの読み方を効率的に習得していただきたいという願いにて企画しました.現在,心エコーに従事している方が,知識を整理して反省し,時には軌道修正にも役立つ本という思いもあります.
 画像診断は自分の技能に基づいて積極的に病態と診断に迫る視覚的行為であります.心エコーにも定量的指標はありますが,EBMにはなりにくい学問であります.それだけ,数多くの臨床経験が要求されます.これは心エコーのおもしろさでもあります.EBMは当然,習得しなければなりませんが,それだけで診断ができるほど臨床医学は単純ではなく,奥深い学問であります.すぐれた臨床医はエビデンスだけでなく,例外的所見や誤認例を数多く経験しているはずです.これは積極的に読むという診断行為の賜物であり,診断なくして誤認はありません.ある所見の解釈や診断をするとき,われわれは心の中でどれだけの確かさかを考えているはずです.ほぼ間違いない,何ともいえない,あるいはこれは否定できないなど,常に可能性を考えて読影しているはずです.
 今回の企画では以上の思考過程を念頭に置いて各執筆者には総論ではわかりやすく,各論では確診的なもの,特徴的なもの,否定できるものは何か,自分の考えを書いていただきました.誤認は裏返せばピットフォールになります.100%確信できるものはありません.また,執筆者間で意見が一致しているわけでもありません.Controversialな所見も多くあります.執筆者には書きにくいことは熟知の上で,多忙のところ無理を言ってお願いした次第であります.あらためて感謝します.
 本書から執筆者の経験を読みとっていただきたいと思います.私ならこう思う,少し考えが違う,なるほどこういう読みもあるかという箇所も多々ある筈です.他人の経験を自分の知識にできるところが画像診断の良さであります.経験を積んで何がわからないかがわかるようになること,また,独断的意見を修正することが臨床医の努めであります.ぜひ,執筆者の経験を学んでいただきたいと思います.
 私たちの最終目標は疾病の診断と治療です.弁を見て心臓を忘れてはならないし,心臓を見て患者を忘れてはなりません.また,患者を診ても1拍にて人の一生を決定してはなりません.これは専門を究めようとする人の反省であります.
 本書が明日からの臨床に役立つことを祈っております.
 本書の刊行に際し,御協力いただいた中外医学社の荻野邦義氏,稲垣義夫氏に感謝の意を表します.

 2005年3月
 榊原記念クリニック  羽田勝征


目次
■総論
第1章   心エコー検査の特質と限界  2
 A.断層法,Mモード法  <三神大世>  2
  1.原理  2
  2.わかるもの,わからないもの  6
  3.測定法  7
  4.ピットフォール  10
 B.ドプラ法  <赤石誠>  13
  1.原理  13
  2.種類  14
  3.わかるもの,わからないもの  15
  4.測定法  16
  5.組織ドプラ法  21
  6.ピットフォール  23

第2章   経食道心エコー検査の適応  <石塚尚子>  26
  1.検査の特質と限界  26
  2.適応疾患の病態と所見  27
  3.観察できない領域,評価できない疾患と病態  30
  4.ピットフォール  32

第3章   アーチファクトの問題  <渡邉望,吉田清>  34

第4章   Integratedbackscatter  <増山理,山本一博>  39
  1.原理と手技  39
  2.本法が参考となる病態とその所見  41
  3.本法の適応とならない病態  41
  4.ピットフォール  44

第5章   コントラスト心エコー法  <石蔵文信,林英宰>  46
  1.原理と手技  46
  2.左室心腔造影法  46
  3.心筋コントラストエコー法  48
  4.ピットフォール  50

第6章   血管内エコー法  <中村正人>  54
  1.原理と手技  54
  2.いつ利用するか  54
  3.どのように利用するか  55
  4.本法で得られない所見と本法の限界  59
  5.ピットフォール  60

第7章   心機能:収縮機能の評価  <室生卓>  63
  1.心腔容積の計測  63
  2.左室心筋重量  68
  3.相対的壁厚  69
  4.收縮能評価  71

第8章   心機能:拡張機能と総合機能の評価  <瀬尾由広>  74
  1.ドプラ左室流入血流速波形と
        肺静脈血流速波形による血行動態評価  74
  2.左室流入血流伝播速度による評価  85
  3.Teiindexによる総合機能評価  92

第9章   収縮不全  <中谷敏>  94
  1.定義と病態生理  94
  2.診断的心エコー所見  94
  3.その他の検査所見  95
  4.否定できる心エコー所見  95
  5.ピットフォール  96

第10章   拡張不全  <山本一博,増山理>  101
  1.定義と病態生理  101
  2.診断的心エコー所見  102
  3.その他の検査所見  105
  4.否定できる心エコー所見  106
  5.ピットフォール  106

■各論
第1章   虚血性心疾患  110
 A.狭心症  <根石陽二,赤阪隆史>  110
 B.心筋梗塞  <赤石誠>  120
 C.心筋梗塞時の合併症  132
  1.心不全  <岡本光師>  132
  2.心室中隔穿孔  <田内潤>  140
  3.乳頭筋断裂と乳頭筋不全  <谷知子>  143
  4.右室梗塞  <村田和也>  147
  5.心室瘤(真性と仮性)  <玉野宏一,高橋正樹>1  52

第2章   高血圧性心疾患  <木佐貫彰,高崎州亜,鄭忠和>  157

第3章   弁膜疾患  162
  1.僧帽弁閉鎖不全  <高元俊彦>  162
  2.僧帽弁狭窄  <宝田明>  170
  3.大動脈弁閉鎖不全  <田中伸明>  178
  4.大動脈弁狭窄  <水重克文,野崎士郎>  190
  5.三尖弁閉鎖不全と狭窄  <大門雅夫>  197
  6.肺動脈弁閉鎖不全  <秋山真樹>  204
  7.人工弁機能不全  <孫崎栄津子>  211

第4章   心筋疾患  220
  1.肥大型心筋症  <田畑智継>  220
  2.拡張型心筋症  <杉浦厚司,岩瀬正嗣>  232
  3.拘束型心筋症  <皆越眞一>  248
  4.心筋炎  <太田剛弘>  259
  5.二次性心筋疾患  <田中信大>  266

第5章   先天性心疾患  274
  1.大動脈二尖弁  <園田誠>  274
  2.心房中隔欠損症  <佐伯文彦>  279
  3.心室中隔欠損症  <高田博之>  287
  4.ファロー四徴症  <相川大>  295
  5.肺動脈狭窄  <浅川雅子>  301
  6.エプスタイン奇形  <上嶋徳久,澤田準>  307

第6章   心膜疾患  311
  1.エコーフリースペース:心膜液か脂肪か  <福田信夫>  311
  2.急性心膜炎  <岩永史郎,団真紀子>  316
  3.心タンポナーデ  <田中信大>  323
  4.収縮性心膜炎  <大野忠明,本間博>  327
  5.心膜欠損  <田辺一明>  336

第7章   大動脈疾患:大動脈瘤と解離  <知久正明,西上和宏>  339

第8章   感染性心内膜炎  355
  1.疣贅  <皆越眞一>  356
  2.腱索断裂  <村田恵理子,太田剛弘>  364
  3.膿瘍  <谷本京美>  369
  4.弁瘤と穿孔  <谷本京美>  375

第9章   肺性心と肺高血圧  <佐藤義浩,那須雅孝>  380

第10章   血栓  <尾辻豊,水上尚子,鄭忠和>  388
  I.左室内血栓  388
  II.左房内血栓  390
  III.右房内血栓  392
  IV.右室・肺動脈内血栓  393
  V.大動脈内血栓  394

第11章   腫瘍  <木佐貫彰,弓削慶子,鄭忠和>  395

第12章   急患室あるいは病棟往診における心エコー検査:
      ポータブルエコー検査の進め方  <浅川雅子,羽田勝征>  401
  I.検査の考え方  401
  II.ポータブル心エコー検査の限界と注意点  402
  III.緊急エコーが不可欠な病態とその所見  405
  IV.心エコー検査のピットフォール  408

索引  411