近年,日本でのがん放射線診療を取り巻く環境は大きく変化してきています.厚生労働省大臣官房統計情報部が毎年刊行している人口動態統計からの推計でも,生活習慣や社会環境の変化に伴い,乳癌や肺癌,前立腺癌など放射線治療の対象となるがん患者の増加が顕著となっています.日本放射線腫瘍学会の構造調査でも,欧米のデータには届かないものの4人に1人のがん患者には放射線治療が選択されるようになってまいりました.人口の高齢化に伴う心身合併症を伴う患者の増加も,多様ながん治療法のなかからより侵襲の少ない放射線が選択されることへの後押しとなっています.
 これに対して最近は日進月歩の治療機器の技術革新やがん遺伝子についての研究の進歩も著しく,それらの変化に遅滞なく対応するために学術大会などでは多彩なリフレッシュコースや生涯教育,教育講演が企画されてきました.しかし,多忙な日常診療のなかでそのすべてに出席していくことは容易ではありません.
 腫瘍放射線医学の分野でも,これまでも数多くの最新の知識を包括した本が出版されてきました.ところが多忙な診療医からは時代の趨勢に応じたより理解しやすい構成の本であることの要求がされてきています.本書は臨床の場で数多くの問題解決に追われている放射線医療従事者のためのEBM本とさせていただきました.執筆者は現役優先で推薦いただき,内容については簡潔,文献についてはより有効に活用していただくために検索のガイドとなる要約をお願いし,疑問が生じたとき根拠となる原著論文に容易にアクセスできるように配慮させていただきました.
 本書での編集者・執筆者一同の意図が理解され,明日の日本の腫瘍放射線医療における診療,研究,教育の一助になればと願っております.

2007年7月

責任編集者
 東京医科歯科大学 澁谷 均
 札幌医科大学   晴山雅人
 京都大学     平岡眞寛


目次

総 論
 1.遺伝子と放射線感受性  〈三浦雅彦〉
 2.放射線急性反応  〈染谷正則 晴山雅人〉
 3.晩期放射線合併症  〈明神美弥子〉
 4.化学放射線治療  〈西村恭昌〉
 5.小線源治療  〈萬篤 憲〉
 6.多分割照射  〈仲澤聖則 柴山千秋 中村道子〉
 7.IMRT  〈永田 靖 平岡眞寛〉
 8.粒子線治療  〈村上昌雄 菱川良夫〉
 9.定位照射
  a.脳腫瘍  〈白土博樹〉
  b.体幹部  〈石橋了知 植松 稔〉
 10.放射線発がん  〈澁谷 均〉

各 論
A.脳腫瘍
 1.原発性脳腫瘍
  a.悪性神経膠腫  〈芝本雄太〉
  b.低悪性神経膠腫  〈張 大鎮 唐澤克之〉
  c.放射線感受性腫瘍  〈長谷川正俊 玉本哲郎〉
 2.転移性脳腫瘍  〈林 靖之〉

B.頭頸部腫瘍
 1.口腔癌
  a.舌癌  〈澁谷 均〉
  b.舌以外の口腔癌  〈三浦雅彦〉
 2.上顎癌  〈吉村亮一〉
 3.喉頭癌
  a.声門癌  〈柴山千秋 中村道子 仲澤聖則〉
  b.声門上・下部癌  〈坂田耕一 晴山雅人〉
 4.上咽頭癌  〈五味光太郎〉
 5.中咽頭癌  〈明神美弥子〉
 6.下咽頭癌  〈羽生菜穂子 唐澤克之〉

C.肺癌
 1.疫学  〈小川恭弘 西岡明人〉
 2.非小細胞肺癌
  a.I,II期肺癌
   (1)従来型放射線治療  〈大西 洋〉
   (2)定位照射  〈石橋了知 植松 稔〉
  b.局所進行肺癌
   (1)放射線単独治療  〈淡河恵津世〉
   (2)化学放射線療法  〈西村恭昌〉
  c.術後照射  〈大西 洋〉
 3.小細胞肺癌
  a.限局型  〈大屋夏生〉
  b.進展型  〈岡本雅彦 唐澤克之〉
 4.肺癌転移の放射線治療  〈淡河恵津世〉

D.食道癌
 1.根治照射
  a.早期癌  〈小川恭弘〉
  b.進行食道癌  〈斎藤眞理〉
 2.化学放射線療法  〈高井良尋〉
 3.術前・術後照射  〈高井良尋〉

E.乳癌
 1.乳房温存療法
  a.手術断端陽性乳癌  〈関口建次〉
  b.手術断端陰性乳癌  〈喜多みどり〉
 2.乳房切除後放射線治療  〈荒川和清 鹿間直人〉
 3.乳癌の化学療法と放射線療法  〈唐澤久美子〉
 4.乳癌のホルモン療法と放射線治療  〈関口建次〉
 5.非浸潤性乳管癌の放射線治療  〈小久保雅樹〉
 6.乳癌転移の放射線治療  〈斎藤眞理〉

F.胃・腸癌
 1.胃癌  〈永田 靖 平岡眞寛〉
 2.直腸癌,大腸癌  〈小口正彦 小塚拓洋 熊田まどか〉

G.肝・胆・膵癌
 1.肝臓,胆管癌  〈玉本哲郎 吉村 均〉
 2.膵臓癌  〈唐澤克之 木口由利絵〉

H.子宮癌
 1.子宮頸癌
  a.根治照射
   (1)化学放射線療法  〈戸板孝文〉
   (2)放射線単独治療  〈戸板孝文〉
  b.術後照射  〈兼安祐子 和田崎晃一 伊藤勝陽〉
 2.子宮体癌  〈兼安祐子〉

I.泌尿器癌
 1.前立腺癌
  a.疫学  〈青木 学〉
  b.手術治療  〈青木 学〉
  c.内分泌療法  〈五味光太郎〉
  d.外部照射治療
   (1)通常X線治療  〈溝脇尚志〉
   (2)IMRT,粒子線治療  〈村上昌雄 菱川良夫〉
  e.小線源治療
   (1)低線量率組織内照射  〈萬 篤憲〉
   (2)高線量率照射  〈平塚純一〉
 2.膀胱癌  〈平塚純一〉

J.悪性リンパ腫
 1.悪性リンパ腫の病理と疫学  〈伊丹 純〉
 2.Hodgkinリンパ腫  〈小口正彦〉
 3.非Hodgkinリンパ腫
  a.indolent lymphoma  〈澁谷 均〉
  b.中高悪性度リンパ腫
   (1)I,II 期  〈長谷川正俊 浅川勇雄〉
   (2)進行期リンパ腫  〈白土博樹〉
 4.胃,その他の特殊リンパ腫  〈伊丹 純〉

K.小児腫瘍
 1.白血病,Wilms腫瘍,神経芽腫,横紋筋肉腫
           〈正木英一 北村正幸 宮嵜 治〉

L.良性疾患
 1.甲状腺眼症  〈宮下次廣 栗林茂彦〉
 2.ケロイド  〈宮下次廣 舘野 温〉

索 引