はじめに

 近年の画像診断学はヘリカルCT,特にマルチスライスCTならびに高速のMRIの導入によって大きな変革がもたらされた.これらのmodalityによって単にスピードが上がったばかりか,三次元の画像も臨床の場に数多く登場するようになっている.腹部領域も例外ではなく多くの疾患がCT,MRIなしには診断困難となる一方,従来の侵襲的な検査である血管造影やERCPなどの検査が不要となりつつある.しかしこのような画像診断の進歩はあるにせよ,画像診断学の本質は以前から培われたきた解剖学,病理学を背景としたものであることには何ら変わりない.本書は画像は病態,病理の反映であるという観点からパターン認識を排除し各疾患の病態,病理を重視し,画像としてそれらがどのような形で描出されるかということを主眼にして執筆した.

 本書は腹部画像診断の入門書であり,研修医やレジデント,放射線診断専門医,消化器内科あるいは消化器外科医などを対象として肝胆膵の最新の知見をコンパクトにまとめたものである.しかし,内容的には腹部画像診断に従事するに当たっては必要にして十分な内容であると考えている.本書で用いた症例の大多数は熊本大学医学部附属病院で経験した最新の症例で,現在のstate-of-artの画像診断学が反映されているものと自負している.多くの例はCTを中心とし,MRIでより多くの情報が得られるものについてはMRIについても詳述した.

 本書は私自身がライフワークとして完成させたい“病態を理解する画像診断”の序章であると考えている.ただ十分に煮詰まっていない内容や訂正すべき点も多々あると思われるので,読者らの忌憚無き意見を仰ぎたい.1人でも多くの医師に画像診断の面白さをわかっていただけたら幸いである.

 最後に日々の臨床で診断に携わってくれた熊大放射線科のスタッフ,良好なCTやMRIを撮像してくれた熊大附属病院中央放射線部技師のスタッフならびに本学の臨床各科の先生方,症例を提供していただいた宮崎県立病院放射線科伊東博文先生,近畿大学放射線科粟井和男先生に心より感謝する.また筆者の無理な願いを快く聞き入れ,出版に尽力していただいた中外医学社の小川孝志氏にお礼を申し上げる.

  2003年10月

    熊本大学大学院医学薬学研究部放射線診断学部門

    山下康行


1章 肝

1 肝臓の肉眼解剖  2

2 CTの区域解剖  4

3 ミクロ解剖  5

4 古典的肝細胞癌/結節型肝細胞癌  6

5 肝細胞癌のダイナミックCT  8

6 細小肝細胞癌  9

7 CTAPとCTHA  10

8 肝細胞癌のMRI像  12

9 腺腫様過形成  14

10 腺腫様過形成内に生じた肝細胞癌ならびに細小肝細胞癌  15

11 びまん型肝細胞癌  18

12 門脈内腫瘍栓  19

13 straight border sign  20

14 肝静脈内腫瘍栓  21

15 肝臓癌の胆管浸潤  22

16 肝細胞癌破裂  23

17 肝細胞癌のリンパ節転移  24

18 脂肪沈着した肝細胞癌  25

19 肝細胞癌のchemical shift imaging  26

20 肝血管筋脂肪腫  28

21 硬化型肝細胞癌  29

22 その他特殊な肝細胞癌  30

23 肝臓癌治療後のリピオドールCT  32

24 肝臓癌Ablation治療後  33

25 胆管細胞癌(肝内胆管癌)  34

26 末梢型肝内胆管癌  36

27 肝門部胆管癌  38

28 肝嚢胞腺腫・腺癌  40

29 転移性肝癌  42

30 MRIによる血管腫と転移性腫瘍  44

31 転移性肝腫瘍のSPIOによる診断  45

32 多血性の転移性腫瘍  46

33 嚢胞性の転移性腫瘍  48

34 類上皮性血管内皮腫  50

35 肝悪性リンパ腫  52

36 海綿状血管腫  54

37 巨大肝血管腫  57

38 非典型例の肝血管腫  58

39 肝ペリオーシス  59

40 肝細胞腺腫  60

41 限局性結節性過形成  63

42 限局性結節性過形成のMRI  66

43 肝芽腫  68

44 肝未分化肉腫  70

45 肝血管内皮腫  72

46 肝間葉性過誤腫  73

47 孤立性肝嚢胞  74

48 多発性肝嚢胞  75

49 前腸性肝嚢胞  76

50 胆管周囲嚢胞  78

51 胆管性過誤腫  79

52 胆汁漏  80

53 肝膿瘍  81

54 肝膿瘍のMRI  83

55 多発性肝膿瘍  84

56 炎症性偽腫瘍  85

57 日本住血吸虫症  87

58 肝肉芽腫  88

59 肝内門脈−肝静脈シャント  90

60 肝内動脈−門脈シャント  92

61 門脈血栓症  93

62 門脈の海綿状変化  95

63 急性肝炎  96

64 劇症肝炎  98

65 慢性肝炎  100

66 肝硬変  101

67 再生結節  103

68 慢性のアルコール性肝障害に伴う過形成性結節  105

69 肝硬変に伴う塊状線維化巣  106

70 門脈圧亢進症  107

71 特発性門脈圧亢進症  111

72 うっ血肝(急性肝静脈閉塞症)  112

73 Budd−Chiari症候群  114

74 脂肪肝  116

75 限局性脂肪肝(脂肪沈着)あるいはまだら脂肪肝  118

76 focal spared area  120

77 糖原病  121

78 肝鉄沈着症(ヘモジデローシス,ヘモクロマトーシス)  122

79 鉄沈着症のMRI  124

80 肝壊死  126

81 原発性胆汁性肝硬変  127

82 カロリー病  128

83 肝内結石  131

84 肝裂傷  133

85 胆道閉鎖症  134

86 遺残ガーゼによる異物肉芽腫  135

2章 胆

1 胆嚢,胆管の構造  138

2 胆道系の変異,奇形  139

3 膵管胆管合流異常  140  

4 総胆管嚢腫,先天性胆道拡張症  141

5 胆石  144

6 浮腫性胆嚢壁肥厚  147

7 急性胆嚢炎  149

8 気腫性胆嚢炎  151

9 慢性胆嚢炎  152

10 黄色肉芽腫性胆嚢炎  154

11 胆嚢腺筋症  155

12 胆嚢ポリープ  157

13 胆嚢癌  159

14 隆起型,塊状型の胆嚢癌  161

15 浸潤型の胆嚢癌  163

16 肝外胆管癌  164

17 総胆管結石  167

18 急性化膿性胆管炎  170

19 原発性硬化性胆管炎  171

20 Vater乳頭部癌  173

21 Lemmel症候群  174

3章 膵

1 膵臓の解剖  176

2 膵臓のダイナミック CTでの造影パターン  178

3 膵の発生  179

4 膵管癒合不全  180

5 輪状膵  181

6 膵体尾部欠損症  182

7 膵嚢胞  183

8 膵脂肪置換,脂肪浸潤  185

9 急性膵炎  186

10 感染性脾壊死  191

11 膵膿瘍  192

12 慢性膵炎  193

13 膵炎に伴う石灰化  195

14 慢性膵炎の合併症  197

15 腫瘤形成性膵炎  198

16 groove pancreatitis  200

17 自己免疫性膵炎(膵管狭細型慢性膵炎)  201

18 様々な原因による膵炎  203

19 膵癌  204

20 膵癌の進展度診断  206

21 膵癌のMRI  210

22 膵癌の術後再発  211

23 膵癌の亜型  212

24 漿液性嚢胞腺腫  215

25 粘液性嚢胞腺腫・腺癌  217

26 粘液産生膵腫瘍,主膵管型  219

27 粘液産生膵腫瘍,分枝型  220

28 IPMT癌  221

29 solid and cystic tumor(SCT) of pancreas  222

30 膵島細胞腫瘍  224

31 インスリノーマ  226

32 ガストリノーマ  227

33 転移性膵腫瘍  228

34 膵悪性リンパ腫  229

35 膵動静脈奇形  230

4章 脾

1 脾の解剖  232

2 脾臓の造影パターン  233

3 脾腫  234

4 脾の先天異常  235

5 膵内副脾  236

6 脾外傷  237

7 脾梗塞  239

8 脾腫瘍  240

9 脾嚢胞  241

10 血管腫,リンパ管腫  243

11 脾過誤腫  245

12 脾炎症性偽腫瘍  246

13 脾悪性リンパ腫および白血病  247

14 悪性脾腫瘍  249

15 脾サルコイドーシス  251

16 Gammna Gandy body  252

17 脾石灰化  253

18 脾動脈瘤  254

索引  255