がん化学療法が根治に寄与する比率は7〜10%と思われる.この数字は随分低くみえるが,実際がんによる死亡が国民の死亡原因の一位を占める現在,助かっている癌患者の絶対数は少なくない.根治する患者以外にも化学療法により延命したり,症状がとれ痛み等から解放される患者も多い.しかしがん化学療法は他の薬物療法に比べ強い副作用を伴う.副作用の出現する投与量の方が効果を示す投与量よりも低い場合も多い.奏効率はいくら投与量を増やしても改善しないが副作用の出現率は限りなく100%に近づく.

 新しいGCP導入後“副作用”という言葉の妥当性に関する議論が続いたが,本著ではその経緯を明確に説明している.最近の欧米の出版物をみても“side effect”という表現は数多くみられる.JCOGでは副作用という言葉を使わず薬剤有害反応という表現をとっているが,この二つの言葉は同義語と考えてよい.副作用は抗悪性腫瘍薬投与の場合に限定されず用いられている.

 副作用の評価方法として従来NCI-CTCが広く用いられてきたが,新しいGCPに基づき国際的に共通のcriteriaを用いようとする機運が高まりrevised NCI-CTCが出された.本著に掲載されているversion 2.0は最終版で今後全てこの基準に基づき副作用を評価することになると思われる.現在JCOGが和訳を行っているがそれが出されるまではversion 2.0そのものを用いると良いと思う.

 各々の副作用に対しどのように対応すべきかについては,学会あるいは班会議のワーキンググループがワークショップを行い,そのコンセンサスレポートに基づきState of the artが作成される必要がある.わが国では副作用対策の比較試験はあったとしても少数であり症例数も少ないため,ワークショップなどには耐えられないことが多い.本著にみられる副作用対策の多くも国外で行われた研究の成果を基に確立されている.がん化学療法の際,最も頻繁にみられる造血器障害,消化器症状に対する対策はほぼ確立されたといえる.しかし実質臓器障害に対する対策は不十分で,今後の研究の成果が期待される.

 副作用とその対策に関わる文献・成果は数多い.しかしほとんど全ては分担執筆であるがために凹凸があり何が重要かわかりにくい.本著は国立がんセンターチーフレジデントの山本昇先生が膨大な最新の資料を集め実地医療にも役立つようわかりやすく解説した.がん化学療法は未だ臨床試験の域を出ないものが大半である.より秀れた臨床試験を計画し治療法を確立する上で,本著は重要な情報を提供すると思われる.

1998年8月

西條長宏


目 次

はじめに  1

総 論

 §1.副作用と有害事象  2

  1.有害事象(AE)  2

  2.副作用(ADR/薬物有害反応)  2

 §2.副作用の概要  4

  1.副作用の種類  4

  2.副作用発現のメカニズム  4

  3.副作用発現時期  5

  4.副作用の程度に影響する因子  5

  5.抗悪性腫瘍薬処方と副作用  6

  6.薬剤の相互作用  7

 §3.副作用とインフォームド コンセント  9

 §4.副作用の評価方法  11

 §5.薬剤間相互作用  45

  1.methotrexate(MTX)  45

  2.5-fluorouracil(5-FU)  47

  3.mercaptopurine(6-MP)  50

  4.cyclophosphamide(CPA)  50

  5.doxorubicin  51

  6.cisplatin(CDDP)  52

  7.vinca alkaloids  53

  8.etoposide(VP-16),teniposide(VM-26)  53

  9.paclitaxel(Taxol),docetaxel(Taxotere)  54

  10.drug-drug interactionと副作用  58

各 論

 §6.血液毒性  59

  1.癌化学療法と血液毒性  59

  2.好中球減少  60

  3.貧血(赤血球減少)  74

  4.血小板減少  76

 §7.febrile neutropeniaと感染症対策  84

  1.発熱を伴う好中球減少  84

  2.診 断  84

  3.empirical antibiotic therapy  85

  4.empirical antibiotic therapyの変更  88

  5.empirical antifungal therapy  89

  6.カテーテル留置中の発熱の対応策  90

 §8.消化器毒性  92

  1.口内炎  92

  2.悪心・嘔吐  98

  3.下 痢  108

 §9.肺毒性  115

  1.肺毒性の発生機序  115

  2.肺毒性のタイプと病理組織学的変化  115

  3.肺毒性の臨床症状  116

  4.肺毒性の診断  116

  5.肺毒性をきたす抗悪性腫瘍薬  117

  6.肺毒性の対策  121

 §10.心毒性  122

  1.anthracycline系抗悪性腫瘍薬  122

  2.mitoxantrone  129

  3.心毒性をきたす他の抗悪性腫瘍薬  129

  4.今後の展望  131

 §11.腎毒性  132

  1.腎機能の評価  133

  2.尿酸性腎症  134

  3.tumor lysis syndrome  134

  4.腎毒性をきたす抗悪性腫瘍薬  135

  5.腎機能による投与量修正  141

 §12.肝毒性  142

  1.肝機能の評価  142

  2.肝代謝の抗悪性腫瘍薬  143

  3.肝毒性の種類  143

  4.肝毒性をきたす抗悪性腫瘍薬  146

  5.肝機能による投与量修正  152

 §13.神経毒性  153

  1.抗悪性腫瘍薬と神経毒性  153

  2.神経毒性をきたす抗悪性腫瘍薬  154

  3.神経毒性の対策  160

 §14.過敏症状  161

  1.HSRsをきたす抗悪性腫瘍薬  162

  2.現時点での方針  165

 §15.漏出性皮膚障害  167

  1.血管外漏出のリスクを増悪する因子  167

  2.注意すべき抗悪性腫瘍薬  168

  3.抗悪性腫瘍薬注射時の注意点  168

  4.漏出後の対策  169

  5.予防の重要性の再認識  171

 §16.二次癌  172

  1.抗悪性腫瘍薬と二次癌  172

  2.Hodgkin病  174

  3.非Hodgkinリンパ腫(NHL)  178

  4.精巣腫瘍  179

  5.乳 癌  181

 §17.性腺機能障害  184

  1.化学療法と成人男性  184

  2.化学療法と成人女性  187

  3.受精能保持の対策  189

おわりに  191

文 献  193

索 引  237