はじめに
 化学療法に関する医療過誤をなくすために

 化学療法に関する医療過誤が多く報道されていることは大変遺憾であるが,人間は必ず思い込みや間違いを起こす.しかしこれまでに私が癌研究会に赴任してから当病院では,院長の強い指導力と薬剤部の協力,看護部の協力や事務関係の理解もあって,システム上もきわめて強力に改善され,間違いが起こりにくくなり,またスタッフ同士のコミュニケーションが改善することによって,診療レベルの向上と安全性の向上が顕著に認められている.そこで前職場自治医科大学血液科での部下にも勧められて,がんの薬物療法マニュアルを作成することにした.現在宮崎県延岡市を中心に開業している高橋弘憲先生,宇都宮市開業冨塚浩先生には下地となる白血病マニュアルを自費出版するときに大変な作業を手伝っていただいた.さらに癌研に異動してから診療する癌の種類が増加し,また共同研究者や臨床試験でお知り合いになっていただいた同世代の先生方を中心に執筆をお願いした.幸い乳癌化学療法部長の伊藤良則,副部長の高橋俊二両先生がマニュアルや説明文書を作成するのに大変な力を発揮してくれて,今回の編集を容易にしてくれた.したがってこのマニュアルは,現場での研修医や薬剤師,看護師の方々だけでなく,外来診療にもそのまま使用しやすいものをめざして作成した.また患者さんへの説明資料などもサンプルとして記載したので,役立つことを望んでいる.
 キーワードは,緊張感の欠如,思い込みをしない.確認をする.システムの構築,コミュニケーションを大切に,である.
 なお発刊が遅れたのは偏に私のせいであるが,新規薬剤で承認されたものはできるだけ具体的に入れることにしたためである.

 2005年10月
 畠 清 彦


目次

A◆ 総論 <畠 清彦> 1
 1.Performance Status(PS)  1
 2.抗癌剤の分類  1
 3.定義  2
 4.効果の判定  2
 5.副作用対策について  3
  a.支持療法  3
  b.貧血  11
  c.血小板減少  14
  d.制吐剤について  17
 6.リスクマネジメント  18

B◆ 外来治療研修の実際を学んで -- 後輩へのアドバイス <多田敬一郎> 23
 1.患者の把握  23
 2.レジメの決定  24
 3.副作用の説明  24
 4.投与指示票の作成  24
 5.投与直前の確認  26
 6.末梢ラインの確保  27
 7.実際の投与にあたって  28
 8.副作用のモニターおよび出現時の対応  28
 9.効果判定  29

C◆ 外科からみた化学療法の重要性
   <山口俊晴 山本順司 大矢雅敏 大山繁和 上野雅資 瀬戸泰之> 30
 1.外科治療と化学療法  30
 2.術前化学療法  31
 3.術中化学療法  31
 4.術後化学療法  32
 5.今後の展望 -- oncologistとしての外科医  33

D◆ Oncologic Emergency <高橋俊二> 35
 1.代謝・電解質障害  35
  a.高カルシウム血症  35
  b.高尿酸血症  36
  c.Tumor lysis syndrome  36
  d.低ナトリウム血症  37
  e.lactic acidosis  38
  f.低血糖症候群  39
 2.Neurologic emergencies  39
  a.脊髄圧迫  39
  b.頭蓋内圧亢進症  40
 3.化学療法に伴うemergencies  40
  a.血管外漏出  40
  b.hypersensitivity reaction  41

E◆ 化学療法におけるリスクマネジメント
    -- 化学療法におけるシステム管理と処方監査業務 <庄司大悟> 43
 1.化学療法のシステム構築と安全対策  43
  a.治療レジメンの院内登録制度  43
  b.化学療法における安全対策  44
 2.化学療法科専属薬剤師による処方監査業務  46
  a.処方監査業務における問い合わせ状況  46
  b.医局カンファレンスでの問題点提示  47

F◆ 代表的な薬剤 50
 1.リツキシマブ <畠 清彦>  50
 2.トラスツズマブ <伊藤良則>  60
 3.イマチニブ <薄井紀子>  63
 4.カペシタビン <水沼信之>  68
 5.オキサリプラチン <篠崎英司 宇良 敬>  70
 6.テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル剤 <新井達広 白尾國昭>  84
 7.メルファラン <増田昌人>  87
 8.パクリタキセル <伊藤良則>  90
 9.ドセタキセル <伊藤良則>  93
 10.ダカルバジン <畠 清彦>  95
 11.ミトキサントロン <佐野公司>  96
 12.シスプラチン <陳 勁松>  99
 13.ゲムシタビン <水沼信之>  102
 14.ビノレルビン <伊藤良則>  105
 15.リン酸フルダラビン <増田昌人>  107
 16.塩酸イリノテカン <水沼信之>  110
 17.塩酸ドキソルビシン <和泉 透>  113
 18.トレチノイン <三嶋裕子>  116
 19.シタラビン <佐野公司>  118
 20.イダルビシン <佐野公司>  122
 21.ダウノルビシン <佐野公司>  125
 22.エトポシド <畠 清彦>  127
 23.ゲフィチニブ <西尾誠人>  128
 24.高カルシウム血症の薬剤 <高橋俊二>  131

G◆ 疾患別標準治療  135
 1.頭頸部腫瘍 <三浦弘規 川端一嘉> 135
  a.neo-adjuvant chemotherapy(術前・照射前化学療法)  136
  b.adjuvant chemotherapy(手術・照射後の補助化学療法)  136
  c.放射線と化学療法の同時併用  138
  d.姑息・緩和治療としての化学療法  140
  e.second line  141
 2.肺癌 <西尾誠人> 143
  a.小細胞肺癌に対する化学療法  143
  b.非小細胞肺癌に対する化学療法  144
  c.化学療法の実際 -- 方法および留意点  146
 3.乳癌 <伊藤良則> 150
  a.広義の抗癌剤  150
  b.乳癌薬物療法の目的  150
  c.転移乳癌に対するfirst line化学療法  154
  d.転移乳癌に対するsecond line化学療法  154
  e.HER2陽性転移乳癌のfirst line,second line  155
  f.転移乳癌に対するthird line化学療法  155
  g.外来治療での注意,入院の適応  156
  h.局所療法を優先する場合  157
  i.閉経後転移乳癌に対するfirst lineホルモン療法  158
  j.閉経後転移乳癌に対するsecond lineホルモン療法  158
  k.閉経前転移乳癌に対するfirst lineホルモン療法  159
  l.閉経前転移乳癌に対するsecond lineホルモン療法  159
  m.術後療法としての標準化学療法  159
  n.術後療法としてのホルモン療法  160
  o.術前化学療法  160
 4.食道癌 <陳 勁松> 164
  a.病期別治療方針  164
  b.標準的治療レジメ  168
 5.胃癌 <新井達広 白尾國昭> 174
  a.切除不能または再発胃癌に対する標準化学療法  174
  b.化学療法の実際 -- 方法および留意点  176
 6.進行大腸癌の標準化学療法 <水沼信之> 183
  a.単剤の成績とbiochemical modulation  183
  b.併用療法  186
  c.将来の治療  188
 7.肝臓癌,胆道癌,膵臓癌 <坂田宏樹 國土典宏 幕内雅敏> 190
  a.肝臓癌  190
  b.胆道癌  193
  c.膵臓癌  194
 8.婦人科癌 <今野 良> 198
  a.卵巣癌  198
  b.卵巣胚細胞性悪性腫瘍  203
  c.子宮体癌  203
  d.子宮頸癌  205
 9.泌尿器癌 <米瀬淳二> 208
  a.精巣腫瘍  208
  b.膀胱癌(尿路上皮癌)  212
 10.骨肉腫 <松本誠一> 216
  a.総論  216
  b.薬剤と投与法  216
  c.代表的プロトコール  219
  d.副作用対策  219
  e.補助化学療法に抗して転移が現れたときの治療法  221
  f.外来での治療  221
 11.急性白血病の治療について -- 急性骨髄性白血病 <三嶋裕子> 224
  a.M3以外  224
  b.骨髄移植について  224
  c.M3(APL)  225
  d.急性リンパ性白血病  225
  e.Mature B-ALL  233
 12.慢性白血病 <薄井紀子> 235
  a.慢性骨髄性白血病  235
  b.慢性リンパ性白血病療法  243
 13.悪性リンパ腫の標準治療 <畠 清彦> 248
  a.ホジキンリンパ腫  248
  b.非ホジキンリンパ腫の治療 -- 低悪性度リンパ腫の治療  250
  c.び漫性大細胞性B細胞性リンパ腫に対する治療  258
  d.幹細胞移植について  262
 14.ATL <増田昌人> 263
  a.ATLの診断と病型分類  263
  b.くすぶり型と慢性型ATLに対する治療  263
  c.皮膚型ATL  265
  d.70歳以下の急性型とリンパ腫型ATLに対する治療  265
  e.70歳以上の急性型とリンパ腫型ATLに対する治療  270
  f.支持療法: 特に感染症対策  273
  g.緩和医療と緩和的化学療法  273
  h.ATL治療の特殊性  274
 15.骨髄腫 <和泉 透> 276
  a.多発性骨髄腫(MM)の診断  276
  b.MMの治療  279
 16.皮膚癌 <菊池かな子> 283
  a.有棘細胞癌  283
  b.悪性黒色腫  285
  c.皮膚付属器癌  288
  d.悪性血管内皮細胞腫  289
  e.Kaposi肉腫  289
  f.Langerhans細胞組織球症  290
  g.悪性末梢神経鞘腫瘍  290
  h.悪性線維性組織球腫  290
 17.原発不明癌 <西森久和> 291
  a.疫学・頻度  291
  b.診断・検査  291
  c.治療および予後  295

索引  303