序文
ウイルス肝炎は,グローバルに重要な疾患です.本邦においては,戦後はA型肝炎,1970年代はB型肝炎,1980年代にはNon-A,Non-Bとしての輸血後肝炎(C型肝炎)が重要となり,最近では,肝炎由来の肝癌が主な治療の目標となっている.さらに,近年A型肝炎重症化の問題と輸入感染症としての肝炎の位置づけ,C型肝炎患者の高齢化と発癌が問題となっている.
ウイルス肝炎研究の進展は,1970年代の抗原抗体系,1979年クローニングによるHBVゲノムの発見,その後の分子生物学的手法によりC型肝炎の発見につながり,近年ではレプリコンの作成によりその構造と機能の解析へと進んでいる.
治療に際してはB型肝炎に対するインターフェロン治療の有用性の進展と共に,この治療法がウイルス発見前に非A非B(C型肝炎)肝炎にも有用であることが分かってきた.最近では,リバビリンとの併用が標準治療となっている.さらに近年HIV研究の進展に伴い,同じような複製機構を持つB型肝炎に対する各種ウイルス剤が開発されてきている.
本書は,消化器領域の卒後研修者,シニアレジデントを対象として,肝炎ウイルスの臨床から基礎に入る形式で作成した.すなわち,臨床像からみたウィルス肝炎の病態,ウイルス肝炎の自然史,最後にウイルスの基礎研究と臨床編から基礎編へと通常と逆の構成で作成することで,より臨床に即して,分かりやすく通読してもらえるものと期待している.更に,各章で多くの症例を提示していただき,診断・治療の参考になるよう配慮し,その領域の臨床・研究の第一人者に執筆をお願いした.
本書を契機に肝炎の臨床に親近感を持っていただければ,編者及び著者の望外の喜びとするところです.
2005年5月
岡山大学大学院医歯学総合研究科
消化器・肝臓・感染症内科
白鳥康史
目次
I.ウイルス肝炎の診断と治療
A.急性肝炎:症状・診断・治療 <平松 憲 茶山一彰> 1
1.急性A型肝炎 2
2.急性B型肝炎 3
3.急性C型肝炎 7
4.急性D型肝炎 9
5.急性E型肝炎 10
症例にみる
1.急性A・B・C型肝炎 <田川一海> 13
2.急性A・B・C型肝炎 <小橋春彦 白鳥康史> 18
B.慢性肝炎:症状・診断・治療 <高木章乃夫 岩崎良章 白鳥康史> 24
1.B型肝炎 34
2.C型肝炎 35
3.その他の慢性肝疾患 36
症例にみる
慢性B・C型肝炎 <島村淳之輔> 39
C.劇症肝炎:症状・診断・治療 <鈴木一幸 滝川康裕> 44
症例にみる
劇症肝炎 <鈴木一幸 滝川康裕> 51
D.その他の肝炎 53
1.EBV肝炎 <植松周二 白神邦浩 荒木康之> 53
2.CMV肝炎 <植松周二 白神邦浩 荒木康之> 54
3.自己免疫性肝炎 <岡本良一 荒木康之> 55
症例にみる
その他の肝炎 <白神邦浩 植松周二 岡本良一 荒木康之> 57
II.臨床実施におけるウイルス肝炎
A.A型肝炎ウイルス感染症 <藤山重俊> 61
症例にみる
急性腎不全を合併した急性A型肝炎の治療 <藤山重俊> 70
トピックス 1.重症化症例のウイルスゲノム <藤山重俊> 72
2.海外と日本の相違 72
3.海外渡航上の注意 74
B.B型肝炎ウイルス感染症 <横須賀 収 川居重信> 75
症例にみる
1.急性B型肝炎 <横須賀 収> 86
2.慢性B型肝炎 88
トピックス 1.セロコンバージョンの意義 <加藤直也> 99
2.ゲノタイプと臨床 100
3.変異と臨床 101
4.抗ウイルス薬の作用機序 102
5.新たな治療薬 103
C.C型肝炎ウイルス感染症 <田守昭博 西口修平> 105
症例にみる
1.急性C型肝炎 <田守昭博 西口修平> 118
2.慢性C型肝炎 120
トピックス 1.HCV抗体の捉え方 <藤原 圭 溝上雅史> 125
2.HCVゲノタイプの違いと臨床 125
3.HCVのウイルス変異と臨床 126
4.インターフェロンの作用機序とその抑制 <泉 並木> 128
5.Viraldynamicsと臨床作用 130
D.D型肝炎ウイルス感染症 <五藤 忠 加藤直也 小俣政男> 132
症例にみる
慢性D型肝炎 <五藤 忠 加藤直也 小俣政男> 138
トピックス 日本のD型肝炎の特徴 <五藤 忠 加藤直也 小俣政男> 140
E.E型肝炎ウイルス感染症 <髭 修平> 142
症例にみる
E型肝炎 <髭 修平> 148
トピックス 日本土着のE型肝炎ウイルス <髭 修平> 150
F.その他の肝炎症例 <山本和秀> 151
1.EBウイルス肝炎 151
2.サイトメガロウイルス肝炎 153
3.単純ヘルペスウイルス肝炎 154
4.自己免疫性肝炎 155
5.脂肪性肝炎 157
6.薬剤性肝炎 160
7.アルコール性肝炎 161
症例にみる
その他の肝炎 <山本和秀> 163
III.各ウイルスの構造,発症および病態進展の機序
A.A型肝炎ウイルス <今関文夫> 169
1.A型肝炎ウイルスの構造 169
2.A型肝炎の発症機序 170
3.A型肝炎の重症化機序 171
B.B型肝炎ウイルス <加藤直也> 175
1.HBVの構造 175
2.B型肝炎の発症・病態進展の機序 176
C.C型肝炎ウイルス <雨宮史武 榎本信幸> 179
1.5'UTR領域 179
2.構造タンパク領域 180
3.非構造タンパク領域 180
4.3'UTR 182
D.D型肝炎ウイルス <五藤 忠 加藤直也 小俣政男> 184
1.HDVの構造 184
2.HDVと複製機構との病態−ゲノタイプによる違い 185
3.デルタ抗原(HDAg)と病態 187
E.E型肝炎ウイルス <岡本宏明> 190
1.E型肝炎ウイルスの構造と性状 190
2.HEVの遺伝子構造 190
3.E型肝炎の発症および病態進展の機序 191
4.HEVの遺伝子型と病態 192
5.国内感染E型肝炎の発症にかかわる感染源と感染ルート 192
索引 197