序
皮膚科の患者さんのほとんどは発疹（皮疹と粘膜疹を合わせてこう呼ぶ）を主訴として受診される．皮膚科医は目の前に提示されたフルカラーかつ三次元の発疹を肉眼で直接確認し，さらに触診などにより診断する．肉眼で直接確認できない内臓の器質的病変を可視化するために，コンピューター技術を駆使して開発されてきたCTやMRIなどの医療機器を考えると，皮膚科医は情報収集と解析を瞬時に行うことのできるスーパーコンピューターに例えられよう．もちろん，その機能は医師の勉強量および経験した疾患の種類と症例数に大きく依存する．臨床現場で，1人1人の患者さんを漫然と「流し診療」する医師と常に問題意識と反省する態度を持って「診察」する医師との間には10年後，20年後には「医師力」に大きな差が生じるはずである．医師力とは，患者さんを「診て察する」能力を指す．「診る」とは症状を細大漏らさず収集して解析することであり，「察する」とは患者さんの心の有様を察することである．医療がArtであると言われる所以はここにある．
話が脇道にそれてしまったが，皮膚科診断学の第一歩は発疹の性状を正確に把握することから始まる．個疹の性状，分布様式，経過などから肉眼所見だけで診断できる疾患は多い．肉眼所見だけで診断できないこともあるが，その際，皮膚という臓器は比較的容易に生検でき，病理組織学的所見から確定診断を行うことができる．勤務する病院で皮膚病理学を学ぶ機会のない方々にとって皮膚病理学は苦手の分野かも知れない．しかし，臨床診断に際して臨床像と組織像を対比して考えることは非常に重要なことである．組織レベルで起こっている変化が臨床像に如何に反映されているかを理解し整理していくことで診断能力は確実に向上するはずである．同時に，何故そのような病変が起こっているのかをマクロとミクロのレベルで考えることにより，病因・病態の解明や新たな治療法開発のヒントを得ることができる．
本書には群馬大学皮膚病態学教室が経験した症例を中心として掲載した．経験豊富なエキスパートによる記載は，皮膚科専門医を目指す医師ばかりでなく，皮膚科診療に携わる皮膚科以外の科の医師の方々，皮膚疾患研究に携わる研究者の方々が皮膚疾患を理解する上で必ずお役に立つと確信している．診察室や研究室のデスクに置き，ページが擦り切れるほどに可愛がっていただけたら望外の幸せである．
2007年3月吉日
石川 治
目次
A 湿疹・皮膚炎，蕁麻疹，薬疹
1 接触皮膚炎 ［天野博雄］
2 アトピー性皮膚炎
3 Vidal苔癬
4 脂漏性皮膚炎
5 貨幣状湿疹
6 皮脂欠乏性湿疹
7 自家感作性皮膚炎
8 酒さ ［安部正敏］
9 蕁麻疹，Quincke浮腫
10 色素性蕁麻疹
11 痒疹
12 色素性痒疹
13 薬疹
14 Stevens-Johnson症候群
15 中毒性表皮壊死症
16 GVHD
B 紅斑症
17 多形滲出性紅斑 ［石川 治］
18 結節性紅斑
19 Bazin硬結性紅斑
20 Sweet病
21 Behcet病
C 紫斑病，血管炎，血行障害
22 アナフィラクトイド紫斑 ［遠藤雪恵］
23 皮膚アレルギー性血管炎
24 クリオグロブリン血症性紫斑
25 皮膚結節性多発動脈炎
26 結節性多発動脈炎
27 顕微鏡的多発血管炎
28 Wegener肉芽腫症
29 アレルギー性肉芽腫性血管炎
30 慢性色素性紫斑
31 急性痘瘡状苔癬状粃糠疹
32 静脈瘤症候群
33 コレステロール結晶塞栓症
34 閉塞性動脈硬化症
35 Buerger病
D 物理化学的原因による皮膚傷害
36 放射線性皮膚傷害 ［永井弥生］
37 褥瘡
38 熱傷
39 凍瘡，凍傷
E 水疱症，膿疱症
40 天疱瘡 ［永井弥生］
41 水疱性類天疱瘡
42 先天性表皮水疱症
43 掌蹠膿疱症
44 膿疱性乾癬
45 角層下膿疱症
46 稽留性肢端皮膚炎
47 好酸球性膿疱性毛包炎
F 炎症性および非炎症性角化症
48 尋常性乾癬 ［安部正敏］
49 扁平苔癬
50 Gibertばら色粃糠疹
51 毛孔性紅色粃糠疹
52 家族性慢性良性天疱瘡
53 魚鱗癬
54 Darier病
55 掌蹠角化症
56 汗孔角化症
57 毛孔性苔癬，紅色黒皮症
G 自己免疫性リウマチ性疾患
58 全身性強皮症 ［石川 治］
59 限局性強皮症
60 皮膚筋炎
61 エリテマトーデス
62 混合性結合組織病
63 Sjogren症候群
64 成人Still病
65 抗リン脂質抗体症候群
66 好酸球性筋膜炎
H 代謝異常症，沈着症
67 亜鉛欠乏症候群 ［石川 治］
68 石灰沈着症
69 黄色腫
70 ポルフィリン症
71 ムコ多糖症
72 ペラグラ
73 皮膚限局性アミロイドーシス
74 全身性アミロイドーシス
I 結合組織疾患
75 浮腫性硬化症 ［石川 治］
76 日光弾性線維症
77 弾力線維性仮性黄色腫
78 萎縮性硬化性苔癬
79 小児腹壁遠心性脂肪萎縮症
80 Werner症候群
81 Rothmund-Thomson症候群
82 アクロジェリア
83 Ehlers-Danlos症候群
J 肉芽腫症
84 サルコイドーシス ［永井弥生］
85 環状肉芽腫
86 顔面播種状粟粒性狼瘡
87 肉芽腫性口唇炎
K 母斑，母斑症
88 表皮母斑 ［田村敦志］
89 脂腺母斑
90 色素性母斑
91 Spitz母斑（若年性黒色腫）
92 太田母斑
93 肝斑，雀卵斑
94 青色母斑
95 ポートワイン母斑
96 表在性皮膚脂肪腫性母斑
97 神経線維腫症1型
98 結節性硬化症
99 Sturge-Weber症候群
100 Klippel-Weber症候群
101 Peutz-Jeghers症候群
102 色素血管母斑症
103 青色ゴム乳首様母斑症候群
104 色素失調症
105 汎発性黒子症候群
106 基底細胞母斑症候群
107 表皮母斑症候群
L 皮膚良性腫瘍
108 脂漏性角化症 ［田村敦志］
109 表皮嚢腫
110 皮下皮様嚢腫
111 多発性脂腺嚢腫
112 石灰化上皮腫
113 増殖性外毛根鞘性腫瘍
114 汗管腫
115 エクリン汗孔腫
116 いちご状血管腫
117 海綿状血管腫
118 毛細血管拡張性肉芽腫
119 グロムス腫瘍
120 血管芽細胞腫
121 Kasabach-Merrit症候群
122 リンパ管腫
123 皮膚線維腫
124 ケロイド
125 軟性線維腫
126 脂肪腫
127 口腔粘膜粘液嚢腫
128 指趾粘液嚢腫
129 神経鞘腫
130 皮膚平滑筋腫
131 若年性黄色肉芽腫
132 腱鞘巨細胞腫
133 肥満細胞症
134 爪下外骨腫
135 皮膚骨腫
136 顆粒細胞腫
M 皮膚悪性腫瘍
137 日光角化症 ［田村敦志］
138 Bowen病
139 紅色肥厚症
140 ケラトアカントーマ
141 有棘細胞癌
142 基底細胞癌
143 Paget病
144 悪性黒子
145 悪性黒色腫
146 隆起性皮膚線維肉腫
147 悪性線維性組織球腫
148 血管肉腫
149 Kaposi肉腫
150 Merkel細胞癌
151 Langerhans細胞組織球症
152 菌状息肉症
153 成人T細胞白血病/リンパ腫
154 Sezary症候群
155 皮膚B細胞リンパ腫
N 細菌・抗酸菌感染症，STD
156 ざ瘡 ［永井弥生］
157 丹毒，蜂窩織炎
158 伝染性膿痂疹
159 壊死性筋膜炎
160 ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
161 毛巣洞
162 皮膚結核
163 非定型抗酸菌症
164 Hansen病
165 梅毒
166 HIV感染に伴う皮膚症状
O ウイルス感染症
167 単純ヘルペス ［中村元信］
168 Kaposi水痘様発疹症
169 ウイルス性疣贅
170 伝染性軟属腫
171 水痘
172 帯状疱疹
173 伝染性紅斑
174 手足口病
175 麻疹
176 Gianotti症候群
P 真菌感染症
177 白癬 ［中村元信］
178 カンジダ症
179 癜風
180 スポロトリコーシス
181 ケルスス禿頭
182 黒色真菌症
Q 寄生性皮膚疾患
183 疥癬 ［永井弥生］
184 ニキビダニざ瘡
185 ツツガムシ病
186 クリーピング病
R 膿皮症
187 壊疽性膿皮症 ［永井弥生］
188 禿髪性毛包炎
189 臀部慢性膿皮症
190 電撃性ざ瘡
S デルマドローム
191 内臓悪性腫瘍と皮膚 ［石川 治］
192 妊娠と皮膚
193 糖尿病と皮膚
194 甲状腺疾患と皮膚
195 副腎疾患と皮膚
196 肝臓疾患と皮膚
197 消化管疾患と皮膚
198 腎疾患・透析と皮膚
199 光線過敏疾患
200 心身症と皮膚
索引