改訂第2版のまえがき
　放射線治療マニュアルは，経験の浅い医師でも現在の標準治療をほぼ問題なく行えることを目標に，日常診療に直接役立つ書籍として2001年4月に刊行された．幸いにも多くの読者の支持を得ることができ，日本における放射線治療の普及にいくらかの貢献ができたのではないかと思われる．
　放射線治療の進歩は著しく，この5年間に多くの治療技術の進歩，新たな知見が得られた．化学放射線治療が数多くの局所進行癌の標準治療になったこと，定位放射線治療，強度変調放射線治療といった高精度放射線治療が研究から実践に大きく踏み出したことは特に大きな進歩であろう．これらの進歩を踏まえたアップデートな標準治療を盛り込んだ改訂版を上梓することになった次第である．
　執筆者は基本的に初版を担当して頂いた放射線腫瘍医，医学物理士，放射線生物学者である．お忙しい中，この5年間の成果を加えていただき，アップデートな標準治療を提供するという本書の目的を達成できたことに深謝申し上げる．
2006年4月
　平岡真寛
　笹井啓資
　井上俊彦

目 次

◆　総論　◆
1．放射線療法の概説＜平岡真寛＞　…2
　1．放射線療法の特徴
　2．放射線治療の目的
　3．集学的治療の中の放射線治療
2．治療計画の手順＜晴山雅人　大内　敦　舘岡邦彦＞　…7
　1．はじめに
　2．治療計画の実際
　3．放射線治療計画システムの構築
　4．今後の放射線治療
3．治療装置・治療計画装置＜西臺武弘＞　…24
　1．外部放射線治療装置と関連機器
　2．小線源治療機器
　3．治療計画装置
4．固定具等の周辺器具＜土器屋卓志＞　…38
　1．固定具
　2．照射野設定のための周辺機器・用具
　3．線量分布に変化をつける用具
5．三次元放射線治療計画（IMRTを含む）＜永田　靖　溝脇尚志　平岡真寛＞　…49
　1．はじめに
　2．三次元放射線治療計画とは
　3．三次元放射線治療計画の流れ
　4．三次元放射線治療計画画像
　5．三次元放射線治療の実際
　6．intensity modulated radiation therapy（IMRT）強度変調放射線治療
　7．三次元放射線治療の今後
　8．おわりに
6．定位放射線照射＜白土博樹＞　…66
　1．頭頸部（頭蓋内を含む）定位放射線照射
　2．体幹部定位放射線治療
　3．線量の精度に関する必要条件
　4．適応症
7．小線源治療＜井上武宏＞　…70
　1．はじめに
　2．放射線治療に使われる放射性同位元素
　3．小線源治療の方法による分類
　4．線量率による分類
　5．永久挿入と一時挿入
　6．マンチェスター法とパリ法
　7．ICRU Report 58による組織内照射の線量と容積の定義
8．放射線治療のQA＜広川　裕＞　…82
　1．放射線治療のQC・QA
　2．外部放射線治療の物理的QA
　3．小線源治療のQA
　4．臨床的QA
9．臨床に必要な放射線生物学＜小野公二＞　…94
　1．放射線による細胞死の機構
　2．放射線による細胞死
　3．放射線の組織への効果
　4．哺乳動物細胞の線量生存率曲線
　5．線量生存率曲線のLQ（linear quadratic）モデル
　6．放射線損傷の回復
　7．分割照射における細胞生存率曲線
　8．酸素効果
　9．分割照射と酸素効果
　10．細胞周期と放射線感受性
　11．線量率と放射線感受性（線量率効果）
　12．線エネルギー付与（LET＝keV／μm）と生物効果
　13．腫瘍制御確率
　14．治療可能比：therapeutic gain factor
10．線量分割法と照射期間＜西村恭昌＞　…110
　1．はじめに
　2．LQ（linear quadratic）モデル
　3．急性反応の線量時間関係
　4．晩期反応の線量時間関係
　5．腫瘍制御の線量時間関係
　6．照射期間
　7．過分割照射の分類
　8．過分割照射法の臨床成績
　9．まとめ
11．術中照射＜芝本雄太＞　…122
　1．術中照射の特徴
　2．術中照射の方法
　3．各疾患に対する術中照射
　4．まとめ
12．化学放射線療法＜末山博男＞　…132
　1．化学放射線療法の目的
　2．化学放射線療法の理論的背景
　3．化学放射線療法の生物学的作用機構
　4．放射線治療と化学療法の併用時期
　5．化学放射線療法の実際
　6．まとめ
13．温熱療法＜今田　肇　寺嶋廣美＞　…138
　1．はじめに
　2．温熱療法の歴史
　3．温熱療法の生物学的根拠
　4．温熱による放射線の増感比（TER）と治療効果比（TGF）
　5．加温方法
　6．温度の測定と新しい測温技術
　7．臨床治療成績
　8．温熱療法の副作用
　9．温熱療法の問題点と将来展望

◆　各論　◆
1．中枢神経系＜田中良明＞　…154
　1．放射線治療の役割
　2．脳腫瘍に対する放射線療法の特殊性
　3．病理分類と発生頻度
　4．進展様式
　5．放射線治療の実際
　6．脳腫瘍の放射線治療：各論
　7．放射線脳壊死と照射後の神経機能障害
　8．まとめ
2．上咽頭＜今城吉成＞　…172
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．化学放射線治療
　7．治療合併症とその対応
3．中咽頭＜今城吉成＞　…183
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法，照射線量
　5．治療合併症とその対応
4．舌＜澁谷　均＞　…192
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．治療合併症とその対応
5．口腔＜澁谷　均＞　…203
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．治療合併症とその対応
6．口唇＜澁谷　均＞　…212
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法と照射線量
　5．治療合併症とその対応
7．下咽頭＜茶谷正史＞　…216
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．合併症とその対応
8．喉　頭＜茶谷正史＞　…225
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．合併症とその対応
9．副鼻腔＜手島昭樹＞　…237
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．放射線治療に伴う合併症と対策
　7．その他
10．外耳＜手島昭樹＞　…246
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．治療合併症とその対応
11．耳下腺＜村山重行＞　…252
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．放射線治療に伴う合併症と対策
　7．その他
12．眼科領域＜徳植公一＞　…259
　1．はじめに
　2．眼球内腫瘍
　3．悪性リンパ腫
　4．眼瞼腫瘍
13．甲状腺＜村山重行＞　…267
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．放射線治療に伴う合併症と対策
　7．その他
14．肺＜早川和重＞　…275
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．密封小線源治療
　7．放射線治療に伴う合併症と対策
15．食道＜根本建二＞　…290
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射法
　5．照射線量
　6．Brachytherapy
　7．治療合併症とその対応
16．乳　腺＜光森通英＞　…309
　1．放射線治療の役割
　2．他の治療との組み合わせと適応
　3．放射線治療に必要な解剖
　4．治療計画
17．膵臓＜西村恭昌＞　…322
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖・病理
　3．治療計画
　4．線量分割
　5．術中照射
　6．放射線治療に伴う合併症と対策
　7．治療効果の判定
18．胆管，胆嚢＜吉村　均　玉本哲郎＞　…333
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法と線量
　5．放射線治療に伴う合併症と対策
　6．放射線治療との併用療法
19．肝臓＜大原　潔＞　…348
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．治療合併症とその対策
　7．治療効果の判定
20．結腸，直腸＜唐澤克之＞　…359
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．放射線治療に伴う合併症とその対策
　7．治療効果の判定
21．肛　門＜清水わか子　山下　孝　小口正彦＞　…372
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖と病理
　3．放射線治療計画
　4．治療後の経過観察と合併症
22．膀　胱＜秋元哲夫　三橋紀夫＞　…382
　1．放射線治療の役割
　2．病期分類による放射線治療の適応
　3．放射線治療に必要な解剖
　4．治療計画
　5．併用化学療法の意義
　6．標準的な治療成績
　7．放射線治療に伴う有害事象とその対策
23．前立腺＜笹井啓資＞　…393
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．放射線治療に伴う合併症と対策
　7．治療効果の判定
24．陰茎＜笹井啓資＞　…406
　1．放射線治療の役割
　2．解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．治療合併症
25．精巣＜笹井啓資＞　…410
　1．放射線治療の役割
　2．解剖
　3．治療計画
　4．照射方法および線量
　5．放射線治療に伴う合併症と対策
26．子宮頸癌＜伊東久夫　宇野　隆　磯部公一＞　…416
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射法
　5．照射線量
　6．小線源治療
　7．治療合併症とその対策
27．子宮体癌＜宇野　隆　伊東久夫　磯部公一＞　…431
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．腔内照射
　7．治療合併症とその対応
28．腟＜磯部公一＞　…439
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．小線源治療
　7．治療合併症とその対応
29．卵巣＜兼平千裕＞　…447
　1．疫学と特徴
　2．放射線治療の役割
　3．照射方法
　4．全腹照射による有害事象と対処法
30．骨・軟部腫瘍＜小泉雅彦＞　…453
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．組織型別の各論
　7．その他の治療法
　8．治療合併症とその対策
31．悪性リンパ腫＜小口正彦＞　…477
　1．はじめに
　2．治療方針：放射線治療の役割と他の治療法との組み合わせ
　3．放射線治療に必要な解剖
　4．放射線治療計画・照射法
　5．照射線量
　6．治療による有害反応と対策
　7．緩和目的の放射線治療
32．骨髄腫＜西山謹司＞　…501
　1．骨髄腫とは
　2．多発性骨髄腫
　3．孤立性形質細胞腫：骨孤立性形質細胞腫と髄外性形質細胞腫
33．小児＜正木英一＞　…506
　1．白血病
　2．悪性リンパ腫
　3．ウイルムス腫瘍
　4．神経芽腫
　5．横紋筋肉腫
　6．Kasabach-Merritt 症候群
34．全身照射＜西山謹司＞　…526
　1．全身照射とは
　2．全身照射の適応
　3．全身照射の実際
　4．治療成績
　5．合併症
35．対症療法＜早渕尚文＞　…535
　1．対症療法とは
　2．対症的治療 - 肺癌の場合
　3．骨転移に対する対症照射
　4．脳転移に対する対症照射
　5．おわりに
36．緊急照射＜中島俊文＞　…549
　1．転移性脊髄圧迫
　2．上大静脈（SVC）症候群
37．バセドウ病眼症（グレーヴス眼症 Graves’ ophthalmopathy）＜広田佐栄子＞　…555
　1．放射線治療の役割
　2．放射線治療に必要な解剖
　3．治療計画
　4．照射方法
　5．照射線量
　6．治療合併症
38．ケロイド＜大屋夏生＞　…563
　1．放射線治療の役割
　2．照射方法
　3．放射線治療に伴う合併症
　4．経過観察と再発
39．翼状片＜井上俊彦＞　…570
　1．翼状片と治療方針
　2．90Sr眼科アプリケータ
　3．照射線量と再発率
　4．治療合併症
　5．手術療法と再発率

索引　…575