医師からの説明と患者の同意によって治療法が選択されるシステムが癌治療へも取り入れられ,医師の一方的な判断による治療の着手が不可能になって以降,放射線治療を受ける患者は全国的に増加,治癒率も上がってきている.しかし,全国で治療施設が700カ所を超えてきているにもかかわらず,治療専任の医師や技師の養成は追い付いておらず,ましてや放射線治療専任看護師養成の議論は始まったばかりである.多くの現場スタッフは今,仕事の掛け持ちを余儀なくされて勉強不足となり,不安を抱えながら日常業務に追われている.操作ミスや誤入力による誤照射も頻繁にマスコミに取り扱われ,せっかく放射線の有益性が日本社会に認知される機会にありながら未だ放射線にたいする疑惑と不信は払拭されていないというのが実情である.

 今回はこれらの不安を解消する目的で多忙な治療現場のなかの疑問の声をなるべく多く汲み上げ,出来うるかぎりそれぞれの課題における専門家を推薦いただき,最新の情報をコンパクトに解説していただいた.多忙ななか,協力いただいた執筆者には深く感謝したい.なお,専門用語の略語はなるべくfull termを最初に書いていただいて読者の苦痛をとりのぞいている.治療現場で多くスタッフが抱く可能性のある疑問に10分以内という短時間で答えがえられるスタイルをとったために必要な項目が欠落している可能性もあり,また寡聞にして本当の専門家を失念した恐れは消えないが編者の責任としてお許しいただきたい.

   2004年5月

   澁谷 均

   笹井啓資

   小久保雅樹


目次

§1.総論

 A.装置と治療法

   1.ICRU62 2

   2.外部照射装置の機種による違いと特徴 4

   3.ガンマナイフ治療とXナイフ治療(ライナックナイフ)の違いと特徴 6

   4.体幹部腫瘍に対する定位照射の特徴と適応 8

   5.強度変調放射線治療(IMRT)の特徴と日本での将来 10

   6.ITVを小さくする方法 14

   7.高LET放射線治療と超高圧X線治療の違い 15

   8.日本における荷電重粒子線治療の現状と将来 18

   9.小線源治療の現況と線量率の違い 22

   10.多分割照射の方法と適応・治療効果 25

 B.QAとQC

   1.外部照射装置の導入時に必要なチェックすべき項目 29

   2.外部照射装置での定期的チェック項目と必要な理由 31

   3.日々の治療における患者固定法のポイント 34

 C.放射線治療の周辺における基礎知識

   1.治療法の変遷に伴って放射線治療法が変わってきた疾患 36

   2.放射線治療に伴う急性消化管合併症に対する対応 39

   3.放射線治療に伴う重要な晩期反応 44

   4.放射線皮膚炎の治療のタイミングと治療法 48

   5.放射線治療の反応に影響を与える全身合併症 49

   6.放射線治療に伴うインフォームドコンセント 51

   7.放射線治療患者の誘発癌・重複癌の特徴 55

   8.放射線照射に伴う事故(過剰照射,過少照射など)防止対策 58

   9.放射線治療に伴う訴訟とその結果 61

§2.各論

 A.中枢神経腫瘍

  a.原発性脳腫瘍

   1.悪性神経膠腫における拡大局所照射 66

   2.低悪性度神経膠腫の照射野と線量 68

   3.全脳全脊髄照射の適応 70

   4.胚芽腫(胚腫)の標準的治療 73

   5.中枢神経悪性リンパ腫の標準的治療法 76

   6.脳腫瘍における化学療法併用の意味と効果 78

   7.下垂体腫瘍での放射線治療の適応 81

   8.聴神経腫瘍におけるガンマナイフと定位放射線治療 82

   9.脳動静脈奇形の定位照射と予後 84

  b.転移性脳腫瘍

   1.転移性脳腫瘍の手術,定位放射線治療の適応 86

   2.転移性脳腫瘍での全脳照射と局所照射の適応と結果 89

 B.頭頸部腫瘍

   1.外部照射治療での唾液腺障害 92

   2.放射線治療に伴う口腔合併症の予防と対策 94

   3.放射線治療での甲状腺機能低下の実態と治療法 98

   4.放射線化学療法の内容とその効果 101

   5.多分割照射の内容と急性反応および晩期合併症 104

   6.小線源治療の適応と障害の予防措置・治療結果 108

   7.手術拒否III〜IV期喉頭癌の放射線治療と治療予後 111

   8.頭頸部多発癌の治療とその治療法の決定で必要な知識 114

   9.上咽頭癌の標準的治療法 116

   10.再発上咽頭癌の再照射の適応・治療法・注意点 119

   11.上顎洞癌の3者併用療法とその治療結果 122

   12.頸部転移の予防照射,頸部郭清後の術後照射 125

 C.肺癌

   1.肺癌根治治療と最新の治療結果 128

   2.非小細胞肺癌根治照射の適応と照射野決定で注意すべき点 132

   3.非小細胞肺癌の術後照射の適応と意味 135

   4.小細胞肺癌における放射線治療の適応 138

   5.小細胞肺癌における予防的全脳照射 141

   6.肺癌における腔内照射の適応と効果 144

   7.肺癌の放射線治療に伴う放射線肺臓炎の頻度と予防法・治療法 147

   D.食道癌

   1.根治放射線治療とその治療法別の最新の結果 151

   2.腔内照射とEMRの適応と利点・欠点 154

   3.EMR後の放射線治療 157

   4.食道癌の術前・術後照射とその臨床的意義 160

   5.放射線化学療法の内容とその臨床的意義 162

   6.食道癌放射線治療での急性反応・晩発反応 166

 E.乳癌

   1.乳房温存治療法での再発率 168

   2.DCISの術後照射 170

   3.乳房温存療法で注意する必要のある組織型 173

   4.乳房温存療法で腋窩はどこまで入れるか 175

   5.断端陽性の時の乳房温存治療法 177

   6.乳房切断術後の術後放射線治療の意義,照射野と線量 180

   7.リンパ節転移陽性温存療法での化学療法との最適な組み合わせ 184

   8.乳癌術後皮膚再発の最適の治療法 186

   9.長期生存を期待できる乳癌遠隔転移の治療法 189

 F.消化器癌

   1.直腸癌の術前照射と術後照射の意義 191

   2.再発直腸癌における放射線治療と治療結果 192

   3.肝細胞癌の放射線治療 194

   4.胆道癌の腔内照射・術中照射の意義 198

   5.膵癌の放射線治療と効果 201

   6.肛門癌における放射線治療の意味 205

 G.子宮癌

  a.子宮頸癌

   1.手術療法と放射線治療での治療成績と合併症 207

   2.放射線化学療法の内容と治療結果 209

   3.放射線根治治療と予後因子 212

   4.extended field radiotherapyとその臨床的意義 215

   5.術後照射の適応と方法・治療結果 218

   6.子宮頸部断端癌の治療 221

  b.子宮体癌

   1.子宮体癌の根治的腔内照射法とその意義 223

   2.術後予防照射の方法と意義 226

 H.前立腺癌

   1.前立腺癌の手術治療と放射線治療の適応 228

   2.前立腺癌のホルモン治療と放射線治療の併用療法 231

   3.前立腺癌におけるI-125シード治療とRALS治療の適応 234

   4.Gleason scoreとその臨床的意義 237

   5.様々な照射法と急性反応と晩発反応とその対策 239

   6.放射線治療とPSA値の変化 242

   7.前立腺癌根治治療における全骨盤照射 244

 I.その他の泌尿器癌

   1.膀胱癌の根治的放射線化学療法と意義 246

   2.精巣上皮腫瘍の放射線治療と化学療法の意義 251

 J.悪性リンパ腫,白血病

   1.リンパ腫治療における併用療法

    (化学療法と放射線治療の役割と至適線量) 253

   2.リンパ腫I・II期の標準的治療と放射線治療の役割 256

   3.I・II期濾胞性リンパ腫の放射線治療 259

   4.胃リンパ腫治療と放射線治療の時期と役割 262

   5.眼窩悪性リンパ腫の治療法 265

   6.全身照射で注意すべき点 267

   7.小児白血病の全脳照射の適応と意義 270

   8.新WHO分類 271

   9.悪性リンパ腫の予後因子 274

   10.皮膚リンパ腫(菌状息肉症など)の放射線治療の適応と治療法 278

 K.骨・軟部腫瘍と良性疾患

   1.骨・軟部腫瘍における放射線治療の適応 282

   2.ケロイドの放射線治療の意義・タイミングと効果 285

   3.Graves眼症の放射線治療の適応と結果 288

   4.放射線治療の適応となっている小児固形腫瘍と治療法 291

 L.転移性骨腫瘍

   1.乳癌と肺癌,甲状腺癌における転移性骨腫瘍の放射線治療法 294

   2.転移性脊椎腫瘍に対する放射線治療の時期と適応 297

   3.骨髄腫での最近の治療と放射線治療の関係 299

   4.骨転移での放射線治療とmorphine治療の使い分け 302

索引 306