はじめに

　本書は「新臨床耳鼻咽喉科学」全5巻の姉妹書として企画された．耳鼻咽喉科領域の代表的疾患の標準的な薬物療法が紹介されている．日常の臨床の伴侶とするためにB6判とした．

　耳鼻咽喉科領域の薬物療法は，数年前までならば，そのテキストの作成は難しいものではなかったことであろう．しかし，最近のEBMの影響で，自分の経験で記述するだけではなく，根拠に基づいた薬物療法が求められるようになっている．しかし，国内外の文献を通して調べ，根拠に基づきながら書くことは容易ではない．EBM的アプローチから，この疾患の薬物療法のガイドラインとして書くことはさらに厄介である．もう一つはリスクマネージメント的な立場からのアプローチである．一回あたりの過大投与あるいは過剰投与，誤投与を行わないのはもちろんであるが，有害事象は思いがけないところで生じる．科学哲学者の村上陽一郎氏は，医療事故をスイスチーズに例えている．1枚1枚穴のあいたスイスチーズは何枚も重ねると穴がないように見える．しかし医療事故はスイスチーズを何枚も注意深く重ね，穴などまったくないはずなのにかかわらず，何と1つだけ穴があいていることが偶然生じることに似ているという．したがって医療では，いくら注意しても注意しきれないところがある．このことを自覚し意識しながら薬物投与をするのとしないのとでは何かが起きた時の対処が異なるであろう．

　本書を手にする読者はそのようなことはわかりきっていることと思われる．「油断大敵」とは薬物療法においてもあてはまることを肝に銘じ，適切な薬物療法に取り組まれることを期待する．

　　2004年4月

　　　　加我君孝

目次

I．耳

A．耳介および外耳道疾患…〈八木昌人〉　2

　1．耳介軟骨膜炎…　 2

　2．悪性外耳道炎…　 3

　3．耳性帯状疱疹…　 5

　4．外耳道真菌症…　 6

B．急性中耳炎，耳管の疾患，滲出性中耳炎　〈奥野妙子〉　8

　1．急性中耳炎…　 8

　2．耳管の疾患…　10

　3．滲出性中耳炎…　12

C．中耳の疾患

　1．慢性化膿性中耳炎…〈石本晋一〉　14

　2．真珠腫性中耳炎…　17

　3．迷路炎…〈山岨達也〉　19

　4．髄膜炎・硬膜外膿瘍・脳膿瘍…21

D．顔面神経麻痺…〈近藤健二〉　25

　1．Bell麻痺…　25

　2．Hunt症候群…　27

　3．頭部外傷性麻痺…　30

　4．中耳炎による顔面神経麻痺…　32

E．感音難聴…〈伊藤 健〉　34

　総論…　34

　1．薬物による感音難聴…　36

　2．音響刺激による感音難聴…　37

　　a．音響外傷…　37

　　b．急性音響性難聴…　38

　　c．ディスコ難聴…　38

　3．進行性感音難聴…　38

　4．突発性難聴…　38

F．耳鳴…〈岩崎真一〉　40

G．めまい疾患

　1．Meniere病…〈室伏利久〉　44

　2．良性発作性頭位めまい症…　49

　3．前庭神経炎…　54

　4．Ramsay Hunt症候群…　56

　5．薬物中毒によるめまい…〈深谷 卓〉　59

　6．内耳梅毒…　61

　7．めまいの救急…　63

II．鼻

A．鼻出血…〈石橋敏夫〉　66

B．急性および慢性鼻炎…〈石橋敏夫〉　69

　1．急性鼻炎…　69

　2．慢性鼻炎…　70

C．アレルギー性鼻炎（花粉症を含む）…〈竹内直信〉　73

D．急性副鼻腔炎…〈石尾健一郎〉　79

E．慢性副鼻腔炎…〈石尾健一郎〉　83

F．嗅覚障害…〈石尾健一郎〉　87

III．口腔・咽頭・唾液腺・頭頸部

A．口腔粘膜疾患…〈水野正浩〉　92

　1．口腔・咽頭カンジダ症…　92

　2．梅毒…　94

　3．アフタ性口内炎…　96

　4．結核…　98

B．唾液腺疾患…〈奥野妙子〉　100

　1．急性炎症… 100

　　a．流行性耳下腺炎… 100

　　b．化膿性耳下腺炎… 100

　2．慢性炎症… 102

　　a．反復性耳下腺炎… 102

　　b．唾石症… 103

　3．特殊性炎症… 104

　　a．シェーグレン症候群… 104

　　b．線維素性唾液管炎… 104

　4．唾液腺症… 105

C．咽頭炎…〈鈴木光也〉　106

　1．急性咽頭炎…106

　2．慢性咽頭炎…112

D．扁桃およびアデノイドの疾患…〈鈴木光也〉　114

　1．急性口蓋扁桃炎…114

　2．急性咽頭扁桃炎…115

　3．急性咽頭側索炎… 116

　4．扁桃周囲炎および扁桃周囲膿瘍の慢性疾患… 117

E．頭頸部腫瘍… 120

　1．扁平上皮癌（分化，未分化）…〈朝蔭孝宏〉　120

　2．肉腫… 124

　3．悪性黒色腫…〈中尾一成〉　126

　4．甲状腺癌…〈持木将人〉　130

F．悪性リンパ腫…〈菅澤 正〉　133

G．頭頸部の神経痛…〈矢野 純〉　138

IV．喉頭・気管・気管支・食道

A．喉頭の炎症… 142

　1．急性喉頭炎…〈角田晃一〉　147

　2．慢性炎症… 151

　　a．慢性喉頭炎… 151

　　b．声帯結節… 153

　　c．声帯ポリープ… 154

　　d．ポリープ様声帯… 155

　　e．声帯嚢胞… 156

　　f．声帯溝症… 157

　3．喉頭肉芽腫…〈二藤隆春〉　157

B．呼吸困難と喉頭…〈肥後隆三郎〉　160

　1．急性喉頭蓋炎… 160

　2．クループ（症候群）… 161

C．痙攣性発声障害…〈竹内 啓　熊田政信〉　163

D．咽喉頭異常感（症）…〈二藤隆春〉　165

V．薬効別薬物リスト　〈仲村裕子〉

　点鼻用局所血管収縮剤… 172

　抗菌製剤… 172

　アレルギー性鼻炎治療剤… 186

　抗アレルギー剤… 186

　耳垢除去剤… 190

　抗悪性腫瘍薬… 190

　鎮痛剤… 198

事項索引… 213

薬品索引… 218