序
いろいろな内科的疾患あるいは外科的疾患では種々の程度の腎機能障害を伴ってくることから,内科のみならず多くの領域において腎臓病学の重要性は高くなってきている.糖尿病や高血圧,膠原病,血管炎などでは,腎合併症を伴い末期腎不全から透析療法に移行することが多い.また,薬物投与や併用禁忌による薬物治療,長時間にわたる手術などにより,急性腎不全を呈することも少なくない.腎臓は尿生成による代謝終末産物を排泄する外分泌的作用のほかに,血圧調節や赤血球産生,骨代謝に関与するなど内分泌的作用をも有している.こうしたことから,腎臓病学の習得は臨床医にとって全身管理を行ううえで重要な役割を果たしていると言っても過言ではない.
これまで腎臓病学に関する成書は多数刊行されており,それぞれ特徴をもっている.しかし,その一部は専門的すぎたり,あまりにも簡単な箇条書きの形式をとっているため,医学生や臨床研修医が病態から治療にいたる過程を十分理解するのに適していないものもみられている.今回,私が本書を図解テキストシリーズの一環として編集した意図は,これらの中間をいく形で企画したものである.本書の大きな特長は,総論と各論の 2 つに分け図表を多くし,それにしたがって解説を箇条的にまとめることで視覚にうったえて腎臓病の理解を高めようとしたことである.また,「最近のTopics」と「Self Check」を各項目に加え,知識を整理している点も特長の一つである.
本書は医学生や臨床研修医ばかりでなく,腎臓病に関心をお持ちの方々のお役に立つものと確信している.しかし,内容の不備な点も多々あろうかと思われるので,読者のご批判やご叱正を心から願う次第である.
最後に,いろいろとご尽力いただいた中外医学社の皆さまに厚くお礼申し上げる.
2004年2月
神田川のほとりにて
富野康日己
目次
I.総論
1.腎の構造 <富野康日己> 2
1.腎臓の外観・割面 2
2.腎の組織像:糸球体と尿細管 3
3.腎臓の微細構造 4
最近のTopics 糸球体上皮細胞障害による蛋白尿 5
2.腎の機能 <堀越 哲> 6
A.糸球体の機能 6
最近のTopics hyperfiltration 7
B.尿細管の機能 8
最近のTopics 尿酸輸送 12
3.腎臓病の症候 13
A.蛋白尿 <船曳和彦> 13
最近のTopics 微量アルブミン尿の有用性 14
B.血尿 <船曳和彦> 15
最近のTopics 特発性腎出血に対する診断法の進歩 16
C.糖尿 <船曳和彦> 17
最近のTopics 腎性尿糖の病因 17
D.浮腫 <船曳和彦> 18
最近のTopics Na利尿ペプチド 19
E.乏尿・多尿 <船曳和彦> 20
最近のTopics バゾプレシンとアクアポリン 2 21
F.高血圧 <船曳和彦> 22
最近のTopics レニン−アンジオテンシン抑制薬 23
G.電解質異常による症候 <宮崎正信> 24
1.高・低Na血症 24
2.高・低K血症 26
3.高・低Ca血症 29
4.高・低P血症 32
5.高・低Mg血症 34
最近のTopics 最近の二次性副甲状腺機能亢進症の治療:塩酸セベラマーの登場 35
H.酸塩基平衡異常 <宮崎正信> 37
1.酸塩基平衡の概念とその調節 37
2.代謝性アシドーシス 39
3.代謝性アルカローシス 41
4.呼吸性アルカローシス 42
5.呼吸性アシドーシス 42
最近のTopics 尿中アニオンギャップ 43
4.腎臓病の検査 44
A.尿検査 <前田国見> 44
1.採尿の方法と種類 44
2.尿量,尿浸透圧,尿比重 44
3.蛋白尿 44
4.尿NAGと低分子蛋白(β2MG,α1MG) 46
5.アミノ酸尿 46
6.尿中ビリルビン,尿中ウロビリノーゲン 46
7.尿中ケトン体 46
8.尿中尿酸 47
9.血尿 47
10.膿尿 47
11.乳糜尿 48
12.糖尿 48
13.尿沈渣 49
最近のTopics nephrinとpodocin 50
B.腎機能検査 <前田国見> 51
1.血液生化学検査 51
2.その他の腎機能検査 54
最近のTopics 尿中IV型コラーゲンと糖尿病性腎症 55
C.免疫血清検査 <前田国見> 56
最近のTopics 尿酸と飲酒の関係 58
D.ホルモン検査 <遠藤正之> 59
1.腎疾患に関与するホルモン 59
2.腎臓に作用するホルモン 59
3.腎臓で産生されるホルモン 60
4.腎臓病の診断と治療に有用なホルモン検査 61
最近のTopics グリチルリチン服用による高血圧 62
E.画像診断 <遠藤正之> 63
1.腎疾患の診断検査に用いられる画像検査 63
2.各種腎尿路疾患における画像検査の適応 66
最近のTopics MRアンギオ 67
F.腎生検 <神出毅一郎・遠藤正之> 68
1.腎生検の適応 68
2.腎生検の実際 69
3.腎組織の読み方 70
最近のTopics 腎生検と医学研究 72
5.腎臓病の治療 <福井光峰> 73
A.生活指導 73
1.急性腎炎症候群 73
2.慢性腎炎症候群 74
3.ネフローゼ症候群 74
4.急速進行性腎炎症候群 75
5.糖尿病性腎症 75
最近のTopics 腎疾患における運動療法 76
B.食事療法 77
1.急性腎炎症候群 77
2.ネフローゼ症候群 77
3.保存期慢性腎不全 78
4.糖尿病性腎症 78
5.血液透析患者 79
6.持続性携行型腹膜透析(CAPD) 80
7.食事療法の指導 80
最近のTopics 腎不全における低蛋白食の効果 81
C.薬物療法 82
1.ステロイド薬 82
2.免疫抑制薬 83
3.抗凝固薬 84
4.抗血小板薬 84
5.降圧薬 84
最近のTopics 降圧薬の第一選択はどれか 87
D.血液透析 88
1.透析療法の原理 88
2.血液透析の種類と特徴 88
3.ブラッドアクセス 90
4.抗凝固薬 90
5.透析液 91
6.透析導入基準 91
7.合併症 92
8.透析中または透析直後の合併症 92
9.長期透析に基づく合併症 93
最近のTopics 腎不全患者の高リン血症 95
E.腹膜透析 96
1.腹膜の解剖とCAPDの原理 96
2.CAPDの長所 98
3.CAPDの短所 98
4.CAPDの適応 99
5.カテーテルとその挿入法 100
6.CAPDのシステム 100
7.CAPDの変法 101
8.CAPDの合併症と治療 102
最近のTopics 新しいCAPD透析液 105
II.各論
1.急性腎炎症候群:溶連菌感染後急性糸球体腎炎 <鈴木重伸> 108
最近のTopics 無症候性急性糸球体腎炎/非溶連菌性急性糸球体腎炎 112
2.急速進行性腎炎症候群 <平山浩一・小山哲夫> 113
A.Goodpasture症候群 113
最近のTopics Goodpasture抗原 119
B.ANCA関連腎炎 120
最近のTopics European Vasculitis Study Group 125
C.MRSA関連腎炎 126
最近のTopics superantigen 129
3.再発性・持続性血尿 <山尾哲清・佐藤 博> 130
最近のTopics 菲薄基底膜病と原因遺伝子 132
4.慢性腎炎症候群 133
A.IgA腎症 <富野康日己> 133
最近のTopics IgA腎症とACE遺伝子 137
B.膜性腎症 <柴田孝則> 138
最近のTopics 膜性腎症における蛋白尿出現のメカニズム 142
C.膜性増殖性糸球体腎炎 <大井洋之> 143
最近のTopics HCV腎症 146
D.巣状糸球体硬化症 <斉藤喬雄> 147
最近のTopics 遺伝性巣状糸球体硬化症 150
5.ネフローゼ症候群 <田代享一> 151
最近のTopics 難治性ネフローゼ症候群/ネフリン 156
6.家族性・遺伝性腎疾患 157
A.多発性嚢胞腎 <堀江重郎> 157
最近のTopics PKD1・PKD2の遺伝子機能 160
B.Fabry病 <西 慎一> 161
最近のTopics Fabry病の新治療 163
C.Alport症候群 <西 慎一> 164
最近のTopics Alport症候群の腎移植 166
D.菲薄基底膜病 <西 慎一> 167
最近のTopics 菲薄基底膜病の病因 169
E.爪膝蓋骨症候群 <西 慎一> 170
最近のTopics 爪膝蓋骨症候群の病因 172
7.全身性疾患による腎障害 173
A.ループス腎炎 <西川和裕・今井裕一> 173
最近のTopics WHO病理組織分類の改訂 178
B.多発動脈炎ならびに類縁疾患による腎障害
<市川健司・河田哲也・小池隆夫> 179
最近のTopics 抗リン脂質抗体症候群,劇症型抗リン脂質抗体症候群 185
C.紫斑病性腎炎 <川村哲也> 186
最近のTopics 紫斑病性腎炎患者のIgA1ヒンジ部糖鎖不全 187
D.糖尿病性腎症 <谷亀光則> 188
最近のTopics レニン−アンジオテンシン−アルドステロン抑制薬と腎機能障害 194
E.痛風腎 <大野岩男・細谷龍男> 195
最近のTopics 高尿酸血症のコントロールは腎障害の改善につながる 197
F.肝疾患に伴う腎障害 <山田 明> 198
A.B型肝炎に伴う腎障害 198
B.C型肝炎に伴う腎障害 199
C.肝腎症候群 200
最近のTopics 肝腎症候群の治療 201
G.HIV腎症 <堀越 哲> 202
最近のTopics highly active antiretroviral therapy 203
H.アミロイド腎症 <上野光博・下条文武> 205
最近のTopics 原発性ALアミロイドーシスにおける自己末梢血幹細胞移植
を併用したメルファラン大量療法 209
I.骨髄腫腎 <林野久紀> 210
最近のTopics 軽鎖沈着症 212
J.リポ蛋白糸球体症 <斉藤喬雄> 213
最近のTopics アポE分子とその異常 216
K.腎硬化症 <藤野智弥・木村健二郎> 217
最近のTopics 腎硬化症と進展素因 222
L.腎梗塞 <林 健志> 223
最近のTopics 腎梗塞と血栓溶解療法 225
M.腎血管性高血圧 <平山智也・菊池健次郎> 226
最近のTopics 血管内エコーとドップラーフローワイヤー 229
N.腎静脈血栓症 <小島一郎・南学正臣> 230
最近のTopics 線溶療法について 231
O.溶血性尿毒症性症候群 <小島一郎・南学正臣> 232
最近のTopics 遺伝子異常とHUS 234
P.immunotactoid glomerulopathy <内田啓子> 235
最近のTopics B細胞増殖因子とITG 238
Q.クリオグロブリン血症に伴う腎病変 <山辺英彰> 239
最近のTopics クリオグロブリン血症に伴う腎病変に対する新しい治療 240
R.中毒性腎症 <蒔田雄一郎> 241
最近のTopics チャイニーズハーブ腎障害 244
8.尿細管・間質性腎炎(急性・慢性) <来栖 厚> 246
最近のTopics 尿細管・間質の線維化と肥満細胞 249
9.尿細管機能異常 250
A.腎性糖尿 <四家敏秀> 250
最近のTopics 腎性糖尿の原因遺伝子について 251
B.腎性尿崩症 <四家敏秀> 252
最近のTopics 遺伝性腎性尿崩症の遺伝子変異 253
C.Fanconi症候群 <保元裕一郎> 255
最近のTopics 閉塞性黄疸/抗ウイルス薬による尿細管障害 258
D.Dent病 <五十嵐 隆> 259
最近のTopics de novo mutationと女性保因者の重症度について 261
E.Gitelman症候群 <五十嵐 隆> 262
最近のTopics ヘテロ患者の臨床像 263
F.低P血症性ビタミンD抵抗性くる病 <五十嵐 隆> 264
最近のTopics FGF−23 265
G.尿細管性アシドーシス <来栖 厚> 266
最近のTopics Sjogren症候群に伴う尿細管・間質病変 268
H.Bartter症候群 <浅野健一郎・深川雅史> 269
最近のTopics renal chloride channel(ClC)−Ka,Kbとbarttin 272
I.Liddle症候群 <梅津道夫・深川雅史> 274
最近のTopics ubiquitinationとNedd4/表現型の多様性 276
J.腎性低尿酸血症 <玉垣圭一・深川雅史> 277
最近のTopics 尿酸輸送の分子生物学的機構 279
10.妊娠と腎:妊娠中毒症 <富野康日己> 280
最近のTopics 腎機能低下患者の妊娠 285
11.腎不全 286
A.急性腎不全 <濱田千江子> 286
最近のTopics 生体適合性の高い透析膜の効果 291
B.慢性腎不全:保存期 <彰 一祐> 292
最近のTopics 保存期腎不全の食事療法 296
索引 297