序
医学の情報量は膨大なものであり,しかも日々新しい情報が更新されている.このような情報の洪水に取り残されずに,知識を確保することは容易なことではない.専門雑誌は言うに及ばず,一般的な新聞や情報誌などのマスコミからの有用な内容も数多く手に入れることができる.現在はコンピュータの普及からインターネットなどから最新の情報を簡単に入手して,日々の診療に活用することが可能である.専門家だけでなく,一般人も,このような情報源にアクセスすることができることから,専門家といえどもうかうかとしてはいられない.
昨今は,毎日のように医療事故とか医療ミスが新聞やテレビで報道され,一般人の医療界への注目が大きく,何かと不審な眼でみられがちである.知らなかったとか,うっかりしていたでは済まされない.医療のプロとしての自覚を持ち,誤りなく日々の診療を行っていかなければならない.診療に必要な情報量は限りなく多いが,頭の中に記憶しておくには限界がある.このような時代においてはどうしても知識の整理とその確認のために自分なりの備忘録,メモとなるものを常備しておくことが必要であり,必要に応じて参照していくことが大切になる.
本書は中外医学社から以前出版された腎臓病診療メモをベースに,腎臓病の進歩にあわせて最新の情報を加筆し増補したものである.本年より医学卒後研修の体制が新しくなった.各科をローテートする研修医にとっても知識の整理と確認は不可欠な事項になる.本書は白衣のポケットに忍ばせることができるハンディな体裁であり,必要に応じてその都度,参照できるように簡潔な記載と要点をまとめたものである.専門的すぎるところもあるが,実際の臨床診療では必要な事項ばかりである.腎臓病を専門とする医師においても内容的に不十分なものとは思わない.記憶しにくい部分,診断基準,ガイドラインなどを参考にすることができる.また,研修医を指導する立場の医師においても有用性があると思われる.
本書は中外医学社から出版されている拙著の図表透析療法マニュアル,図表輸液療法マニュアルとで3部作となる構成である.腎臓内科医として30数年診療してきた経験をもとに自分なりの備忘録のつもりで上梓した.もちろん,本書を完成するにあたっては学会のガイドライン,診断基準,先輩の論文や書籍の情報が基盤となっている.この場を借りて,お礼を申し上げる.医学・医療の進歩は日進月歩であり,いつまでも同じ内容であるはずはない.それまで正しいと信じられてきた内容が訂正される一方で,また新しい概念や治療法が加えられるものである.時代の進歩に応じて刷新されることが必要になるが,当分の間は本書には必要十分な内容が盛り込まれていると自負している.
日々の診療の友として本書を活用されることを切望する.本書が年を重ねて刷新されるような有用性のあるものと評価されることを期待したい.最後に,参考とした主要な書籍を列挙して感謝の意を表したい.
2004年5月
北岡建樹
目次
I.腎臓の構造と機能
1.腎臓の機能 2
2.腎臓の構造 3
3.腎臓の血管系と傍糸球体装置 4
4.ネフロンの機能とホルモン作用 5
5.ネフロン 6
6.腎臓の大きさと原因疾患 7
II.腎尿路系疾患の検査・診察法
1.腎尿路系疾患の検査手順 10
2.病歴 11
3.尿検査の手順 12
4.血液検査 13
5.画像検査 14
III.尿検査
1.尿検査の意義と採尿法 16
2.尿検査の目的 17
3.尿の外観・色調の異常 18
4.混濁尿の鑑別診断 19
5.尿沈渣の解釈 20
6.試験紙法による尿検査 21
7.タンパク尿の診察要点 22
8.タンパク尿の分類 23
9.タンパク尿の検査法 24
10.尿タンパク検査法の特徴 25
11.尿タンパク選択性 26
12.血尿の診察の注意 27
13.血尿の原因 28
14.血尿の診療指針 29
15.膿尿の診療 30
16.細菌尿の診療 31
17.尿比重と尿浸透圧 32
18.尿pHの評価 33
19.尿中電解質の測定と解釈 34
20.尿量の異常 35
21.乏尿の原因 36
22.急性乏尿の診察 37
23.多尿の原因 38
24.多尿の鑑別 39
25.排尿異常の診察 40
26.無症候性タンパク尿 41
27.無症候性血尿 42
28.免疫学的検査法の種類 43
29.免疫複合体腎炎の種類 43
30.腎疝痛の原因と検査 44
IV.腎機能検査
1.腎機能検査の種類 46
2.クリアランスの概念 47
3.腎血漿流量(RPF)と腎血液流量(RBF) 48
4.PSP試験 49
5.糸球体濾過値(GFR)の検査 50
6.血清クレアチニン濃度と腎機能 51
7.尿素窒素と腎機能 52
8.尿素窒素の異常 53
9.尿中β2MG濃度と腎機能 54
10.尿中NAG(N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ) 55
11.尿酸の異常 56
12.尿濃縮試験 57
13.浸透圧クリアランスと自由水クリアランス 58
V.画像検査
1.単純腹部X線検査 60
2.経静脈性腎盂撮影法 61
3.腎CT検査 62
4.腎エコー検査 63
5.腎生検の目的と種類 64
6.腎生検の適応 65
7.糸球体病変の命名 66
8.腎尿路系疾患の画像診断検査法の適応 67
9.分腎機能検査 68
10.嚢胞性腎疾患の画像診断 69
11.腎石灰化症を呈する疾患の検査 70
VI.腎炎とネフローゼ症候群の臨床
1.糸球体疾患の分類 72
2.急性腎炎症候群の定義 73
3.急性腎炎症候群の種類 74
4.急性糸球体腎炎症候群の特徴 75
5.急性腎炎症候群の治療指針 76
6.急速進行性糸球体腎炎症候群 77
7.急速進行性腎炎の原因 78
8.急速進行性糸球体腎炎の臨床像 79
9.溶連菌感染症後急性腎炎と特発性半月体形成性腎炎の鑑別 80
10.急速進行性糸球体腎炎の治療指針 81
11.慢性糸球体腎炎症候群 82
12.慢性腎炎の診断基準 83
13.腎炎の治療指針 84
14.腎疾患の治療法 85
15.副腎皮質ステロイドによる治療法 86
16.IgA腎症の特徴 87
17.IgA腎症の診断基準 88
18.IgA腎症の予後に影響する因子 89
19.IgA腎症の治療指針 90
20.遺伝性腎炎 91
21.成人ネフローゼ症候群の診断基準 92
22.ネフローゼ症候群の原因 92
23.ネフローゼ症候群の病態生理 93
24.ネフローゼ症候群の鑑別 94
25.微小変化型と巣状糸球体硬化症の鑑別 95
26.微小変化型ネフローゼ症候群の治療方針 96
27.膜性腎症の原因 97
28.膜性腎症の病期分類 98
29.膜性腎症と膜増殖性糸球体腎炎 99
30.膜増殖性腎炎の分類 100
VII.2次性腎疾患
1.続発性腎疾患の種類 102
2.主要続発性腎疾患の腎病変 103
3.膠原病による腎障害(1) 104
4.膠原病・類似疾患による腎障害(2) 105
5.SLEの診断基準 106
6.ループス腎炎の組織学的分類 107
7.ループス腎炎の活動性指標 108
8.ループス腎炎の病型分類(1) 109
9.ループス腎炎の病型分類(2) 110
10.ループス腎炎の臨床像 111
11.ループス腎炎の治療方針 112
12.紫斑病性腎炎(Henoch−Schonlein腎炎) 113
13.多発性骨髄腫腎(myeloma kidney) 114
14.多発性骨髄腫の病像の特徴 115
15.本態性M蛋白血症 116
16.糖尿病の合併症と腎障害 117
17.糖尿病性腎症の診かた 118
18.糖尿病性腎症の病期分類 119
19.糖尿病性腎症の経過 120
20.高尿酸血症性腎症(痛風腎) 121
21.多発性骨髄腫と腎障害 122
VIII.尿路感染症・間質性腎炎,その他
1.尿路感染症の種類と症候 124
2.尿路感染症の診療 125
3.尿路感染症の症候と検査 126
4.腎盂腎炎の特徴 127
5.下部尿路感染症の特徴 128
6.急性間質性腎炎 129
7.慢性間質性腎炎 130
8.腎結石 131
9.薬物による腎障害の原因 132
10.薬剤性腎障害の型 133
11.非ステロイド系消炎鎮痛薬による腎障害 134
12.造影剤と腎障害 135
13.腎静脈血栓症 136
14.腎梗塞 137
15.腎実質性腫瘍 138
16.水腎症 138
IX.高血圧症の臨床
1.高血圧の診療(1)定義 140
2.高血圧の診療(2)症候と検査 141
3.高血圧の診療の進め方 142
4.2次性高血圧症の検査 143
5.高血圧の原因 144
6.高血圧のリスク層別化 145
7.内分泌性高血圧 146
8.高血圧の一般的治療指針 147
9.良性腎硬化症 148
10.悪性腎硬化症 149
11.悪性高血圧の診断基準 150
12.腎血管性高血圧 151
13.腎血管性高血圧の病態 152
14.腎血管性高血圧の治療方針 152
15.降圧薬の種類と使用上の注意 153
16.主要降圧薬の種類と投与量 154
X.水電解質代謝の異常
1.水電解質異常の診療アプローチ 156
2.身体所見の診かた 157
3.体液量の区分比(体重当たりの%) 158
4.体液量の調節機構 159
5.レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 160
6.体液量の評価 161
7.体液量調節に関与する因子 162
8.体液のバランス: 水分出納(成人) 163
9.血漿浸透圧の異常 164
10.血漿浸透圧と体液量の関係 165
11.アニオンギャップ 166
12.オスモラールギャップ 167
13.体液量の異常 168
14.体液量の欠乏(脱水症)の診かた 169
15.脱水症の原因 170
16.体液量欠乏の病態 171
17.脱水症の比較 172
18.体液量欠乏の程度 173
19.水分欠乏量の求め方 174
20.Na欠乏量の求め方 175
21.輸液療法におけるチェックポイント 176
22.主要な電解質輸液剤の種類と特徴 177
23.栄養輸液剤(1) 178
24.栄養輸液剤(2) 179
25.浮腫の診療の進め方 180
26.浮腫の成因 181
27.浮腫発生の局所性因子 181
28.浮腫の原因 182
29.主要な全身性浮腫の特徴 183
30.浮腫の治療方針 184
31.利尿薬の種類 185
32.利尿薬の種類と作用部位 186
33.利尿薬の特徴 187
34.利尿薬の副作用と対策 188
XI.血清電解質濃度の異常
1.電解質異常の原因となる薬物 190
2.血清Na濃度の異常 191
3.低Na血症の鑑別 192
4.高Na血症の鑑別 193
5.血清K濃度の異常 194
6.低K血症の鑑別 195
7.高K血症の鑑別 196
8.低K血症の治療方針 197
9.高K血症の緊急治療法 198
10.血清Cl濃度の異常 199
11.Ca濃度の調節機構 200
12.血清Ca濃度の補正 201
13.血清Ca濃度の異常 202
14.低Ca血症の鑑別 203
15.高Ca血症の鑑別 204
16.血清Ca濃度異常の治療方針 205
17.P濃度の異常 206
18.慢性低P血症症候群 207
19.Mgの調節に影響する因子 208
20.酸塩基平衡の概念 209
21.酸塩基平衡の調節系 210
22.腎臓における調節系−酸排泄機構 211
23.酸塩基平衡の異常(単純性) 212
24.酸塩基平衡障害のsignificance band 213
25.尿酸性化能試験 214
26.代謝性アシドーシスの原因 215
27.代謝性アシドーシスの鑑別 216
28.代謝性アルカローシスの鑑別 217
29.呼吸性酸塩基平衡障害 218
30.酸塩基平衡異常の治療方針 218
XII.体液・電解質異常を呈する症候群
1.尿崩症 220
2.尿崩症と心因性多飲症の鑑別 221
3.SIADHの概念と原因 222
4.SIADHの診断基準 223
5.SIADHと中枢性塩類喪失症候群の鑑別 224
6.Bartter症候群 225
7.Bartter症候群とGitelman症候群の病因 226
8.Bartter症候群とGitelman症候群の比較 227
9.尿細管性アシドーシス(RTA)の定義と分類 228
10.近位尿細管性アシドーシスと遠位尿細管性アシドーシス 229
11.尿細管性アシドーシスの鑑別法 230
12.尿細管性アシドーシスの特徴 231
13.遠位尿細管性アシドーシスの鑑別 232
14.低レニン・低アルドステロン症の特徴 233
15.尿細管性アシドーシスの治療方針 234
16.Fanconi症候群 235
17.遺伝性腎疾患 236
XIII.急性腎不全と慢性腎不全の臨床
1.急性腎不全(ARF)の定義・診断 238
2.急性腎不全の原因 239
3.急性腎不全と慢性腎不全の鑑別 240
4.急性腎不全の鑑別診断(病歴・身体所見) 241
5.急性腎不全の鑑別(検尿) 242
6.横紋筋融解症による急性腎不全 243
7.播種性血管内凝固(DIC) 244
8.DICの診断基準 245
9.腎皮質壊死(ACN) 246
10.腎障害の原因となる薬物・物質 247
11.急性腎不全の治療方針(1) 248
12.急性腎不全の治療方針(2) 249
13.急性腎不全の一般的な透析導入基準 250
14.慢性腎不全(CRF) 251
15.慢性腎不全の原因 252
16.慢性腎不全の病期分類 253
17.慢性腎不全の増悪因子 254
18.腎機能障害による病態 255
19.尿毒症の病像 256
20.慢性腎不全の保存的治療方針 257
21.慢性腎不全に対する透析適応基準 258
22.主要な合併症,病態時の薬の使用法 259
23.血液浄化法の種類 260
24.血液浄化法の選択 261
25.長期透析療法の合併症 262
26.腎性貧血 263
27.腎性貧血の対策 264
28.エリスロポエチンの副作用 265
29.エリスロポエチン抵抗性貧血の原因 266
30.腎性骨症の成因 267
31.腎性骨症の治療方針 268
32.二次性副甲状腺機能亢進症の成因と症候 269
33.二次性副甲状腺機能亢進症の治療方針 270
34.循環器系の合併症 271
35.腎不全の高血圧の型と治療方針 272
36.透析期低血圧の成因 273
37.透析困難症の症候と対策 274
38.透析アミロイドーシス 275
39.透析アミロイドーシスの対策 276
付.
1.食事療法のガイドライン 278
2.主要薬剤の使用法(1) 279
3.主要薬剤の使用法(2) 280
4.原子量とmg,mEqの関係 281
5.各物質1gのmM,mEq,mOsmの換算 281
6.単位の概念 282
7.mEq/lとmg/dlの相互変換法 282
8.mOsm/lの求め方 283
9.FENaの求め方 283
10.補正Ca濃度とイオン化Ca濃度の求め方 284
11.リン再吸収量(%TRP) 284
12.アニオンギャップの計算式 284
13.計算による浸透圧の求め方 285
14.水分欠乏量の推定式 285
15.Na欠乏量の推定式 286
16.HCO3欠乏量の推定式 286