序
感染症の患者を治療することも大切です.しかし,予防接種で個人を感染症から守るだけでなく,流行を防ぐことによって予防接種できない人や乳児などの弱者を守ることも重要です.残念ながらわが国では予防接種率は低く,諸外国と異なり麻疹や風疹ワクチンは1回のみの接種です.そのため,流行を繰り返し,重篤な合併症や死亡者,先天性風疹症候群の患者が発生しています.しかし,わが国における予防接種も,麻疹や風疹ならびに先天性風疹症候群を排除する目的でMRワクチンを2回接種するように決定され,ようやく世界水準に近付いてきました.また,さまざまな法令改正や通知などがあり,最近予防接種そのものが大きく流動的に変化するようになってきています.
予防接種は健康な子どもに十分に予診を尽くし,安全にワクチンを接種することが肝要です.万が一,予防接種による副反応がでた場合,健康な小児が逆に病気となりますので,予防接種の副反応は治療による副作用とは根本的に異なります.従来より我々は予防接種の啓発推進を行ってきましたが,一方的に「病気にかからないように接種しなさい」としか言っていなかったのではないでしょうか.保護者や保健師,養護教諭,保育士,実地医家,看護師の目線に立っていただろうか,また情報を十分提供できていただろうかと反省しておりました.ちょうどその頃,中外医学社から予防接種の本をまとめてみないかとの依頼があり,若輩ではありますがお引受けすることにいたしました.
執筆者はできるだけ実地医家を中心にお願いして,役に立つ知識と知恵がお伝えできるように努力いたしました.また,この本は最新の情報を取り入れるために,何度も追加校正を行い,執筆者の皆様にはご迷惑をおかけいたしました.予防接種全般やそれぞれのワクチンのことに加えて,予防接種をまちがいなく接種できるように,予防接種ミスやヒヤリハットのことを記載し,リスクマネジメントや副反応についても力を入れました.
予防接種に関連することは,新ワクチンや考え方,法律や通知などを含めどんどん変化している分野であります.読者の皆様からのご意見を頂き,改訂できる機会があるならば,さらによいものを提供できればと思っております.
最後に,中外医学社宮崎雅弘氏,小児科学教室の濱野明美さん,雪吉孝子さんにたいへんお世話になりました.感謝いたします.
2005年9月吉日
寺田喜平
目次
I ◆予防接種の概要 <寺田喜平> 1
A.予防接種 1
1.予防接種の歴史 1
2.予防接種のしくみ 1
3.ワクチンの分類 2
4.接種間隔 3
5.接種量 5
B.ワクチンの添加物 6
1.ゼラチン 6
2.ヒトアルブミン 6
3.チメロサール 7
4.ホルマリン 7
5.アルミニウム塩 7
6.抗生物質 8
C.定期接種と任意接種 8
1.定期接種 8
2.任意接種 9
3.臨時接種 10
D.集団接種と個別接種 10
1.個別接種 10
2.集団接種 11
E.予診票 11
1.体温 11
2.説明書の事前確認 12
3.発育歴 12
4.最近1カ月以内の病気 12
5.家族や遊び仲間の病気 12
6.1カ月以内の予防接種 12
7.既往歴 13
8.ひきつけ(痙攣) 13
9.薬や食品による蕁麻疹や体調の変化 13
10.先天性免疫不全 13
11.予防接種による副反応歴 14
12.家族の予防接種副反応歴 14
13.輸血,γグロブリン投与歴 14
F.接種不適当者と接種要注意者 14
1.接種不適当者 14
2.接種要注意者 15
G.副反応 18
1.各ワクチンによる軽い副反応の特徴 19
2.副反応に対する対応法 19
3.副反応の報告 20
4.補償(健康被害救済制度) 23
H.接種方法 23
II ◆予防接種のリスクマネジメント <寺田喜平> 25
A.ワクチンの取り扱いと保管 25
1.生ワクチンの温度管理 25
2.その他の管理 26
B.予防接種関連のミス 27
1.ヒヤリハット 27
2.実際の予防接種ミス 28
C.具体的な対応法 29
1.期限切れワクチン接種 29
2.ワクチンの種類まちがい 29
3.接種量のまちがい 30
4.方法のまちがい 30
D.成人女性に対するワクチン予診票における問題 31
E.よくされる質問の問答集 32
III ◆疾患とワクチン
1.麻疹 <知念正雄> 40
臨床症状 41
原因 45
診断 45
治療 46
隔離および感染防止 46
疫学 47
ワクチン 49
ワクチンの有効性と持続性 52
ワクチン接種方法と注意点 54
ワクチンの副反応 54
2.風疹 <寺田喜平> 57
臨床症状 57
原因 58
診断 58
治療 59
隔離(出席停止) 60
疫学 60
ワクチン 64
ワクチンの有効性と持続性 65
ワクチン接種の注意点 65
ワクチンの副反応 66
3.三種混合ワクチン(ジフテリア/百日咳/破傷風) <永井崇雄> 69
ジフテリアdiphteria 69
百日咳whooping cough 70
破傷風tetanus 72
疫学 73
ワクチン 75
ワクチンの有効性と持続性 76
ワクチン接種の注意点 79
ワクチンの副反応 79
DTワクチン 80
破傷風ワクチン 81
4.ポリオ(急性灰白髄炎) <新妻隆広> 83
臨床症状 83
原因 83
診断 84
治療 84
隔離(出席停止) 84
疫学 85
ワクチン 86
ワクチンの有効性と持続性 88
ワクチン接種の注意点 88
ワクチンの副反応 88
5.BCG <及川 馨> 92
臨床症状 92
原因 92
診断 92
治療 93
隔離(出席停止) 93
疫学(外国・日本) 93
BCG 97
ツベルクリン廃止 103
新しい検査法(結核菌の感染の有無) 104
6.日本脳炎 <庵原俊昭> 106
臨床症状 106
原因 107
診断 108
治療 110
隔離(出席停止) 110
疫学 110
ワクチン 111
ワクチンの有効性と持続性 113
ワクチンの副反応 114
ワクチン接種の問題点 114
7.インフルエンザ <菅谷憲夫> 116
臨床症状 116
原因 117
診断 117
治療 118
隔離 119
疫学 119
不活化インフルエンザワクチン 122
ワクチンの有効性 123
ワクチン接種の注意点 125
ワクチンの副反応 126
8.ムンプス <庵原俊昭> 128
臨床症状 128
原因 130
診断 130
治療 131
隔離(出席停止) 132
日本と外国の疫学 132
ムンプスワクチン 133
ワクチンの効果 134
ワクチン接種の注意点 135
ワクチンの副反応 136
9.水痘 <尾崎隆男> 138
臨床症状 138
原因 139
診断 139
治療 141
隔離(出席停止) 142
疫学 142
ワクチン 144
ワクチンの有効性と持続性 144
ワクチン接種の注意点 146
ワクチン副反応 147
10.狂犬病 <高山直秀> 148
臨床症状 148
原因 149
感染経路 150
診断 150
治療 151
疫学 151
ワクチン 152
咬まれてからの発病予防(狂犬病曝露後発病予防) 153
咬まれる前の予防(曝露前免疫) 154
ワクチンの有効性と持続性 155
ワクチン接種の注意点 155
11.B型肝炎 <藤澤卓爾> 157
臨床症状 157
原因 158
診断 158
治療 158
隔離 159
疫学 159
ワクチン 160
ワクチンの有効性と持続性 165
ワクチン接種の注意点 165
ワクチン副反応 166
12.A型肝炎 <藤澤卓爾> 168
臨床症状 168
原因 168
診断 168
治療 169
隔離 169
疫学 169
ワクチン 173
ワクチンの有効性と持続性 176
ワクチン接種の注意点 176
副反応 176
13.これから認可の予防接種
a.インフルエンザ菌感染症(ヘモフィルスインフルエンザ菌b型ワクチン) <河合泰宏,尾内一信> 178
臨床症状 178
原因 178
診断 178
治療 179
隔離 179
疫学 180
ワクチン 181
ワクチンの有効性と持続性 182
ワクチン接種の注意点 183
副反応 184
b.肺炎球菌感染症(7価肺炎球菌ワクチン) <佐々木敦子,尾内一信> 185
臨床症状 185
原因 185
診断 185
治療 186
隔離 187
疫学 187
ワクチン 187
ワクチンの有効性と持続性 188
ワクチン接種の注意点 189
副反応 190
IV ◆予防接種と関連する法律 <多屋馨子> 191
A.予防接種法
1.対象疾病の変遷 191
2.予防接種法に関連した省令,政令を含めた法律改正の流れ 195
3.現行の予防接種法の要点 201
4.予防接種実施要領の改訂 208
B.感染症法 210
1.定義・類型 211
2.感染症サーベイランス 213
C.学校保健法 216
1.学校保健法 216
2.学校保健法施行規則 217
D.結核予防法 220
索引 223