循環器疾患で入院する患者の約半数が緊急入院である.また,救急外来を訪れる患者の半数以上が脳血管障害を含めた循環器疾患であるといわれている.一方,近年画像診断法の進歩が著しく,診断学上必須の手段となっているが,循環器救急の分野においても画像診断が極めて重要な役割を果たしていることも確かである.このように,循環器救急は極めて身近であり,かつ画像診断が有用であるにもかかわらず,画像診断法を救急の視点からまとめた単行書は少ない.そこで今回「循環器救急と画像診断」というテーマで単行書を企画した次第である.

 循環器救急にはさまざまな疾患が含まれる.心血管疾患ということに限っても,虚血性心疾患,特に最近では急性冠症候群として括られる不安定狭心症や急性心筋梗塞,急性左心不全や心原性ショックなどのポンプ機能不全,急性大動脈解離や大動脈瘤破裂・切迫破裂などの大血管疾患,他にも急性肺血栓塞栓症や心タンポナーデなどがある.これらの疾患は一刻も速く正確な診断をつけ,しかるべき処置を取ることによって生命予後の改善が可能となる.一方,画像診断の手段としては,最も身近な胸部X線写真,CT検査,心エコードップラー法などの他に,MRIや心臓核医学検査,さらに最近では血管内超音波法や血管内視鏡も重要な画像診断手段となりつつある.

 本書ではまず循環器救急疾患の側面から,その診断治療のポイントを解説してもらった.その中には急性心筋梗塞と不安定狭心症,急性左心不全と心原性ショック,急性大動脈解離と大動脈瘤破裂,肺血栓塞栓症の診断治療があり,さらに画像診断とは直接関係はないが,究極の循環器救急であるDOA(最近ではCPAとよばれている)についても救急の視点から解説いただいた.一方,画像診断のモダリティの面から,循環器救急において最も汎用されている画像診断手段である胸部X線写真,経食道心エコー法を含む心エコードップラー法,CT検査,さらにはMRI,心臓核医学の循環器救急における役割,最近の新しい画像診断手段である血管内超音波法と血管内視鏡の急性冠症候群の診断における役割についても解説していただいた.循環器救急における画像診断のすべてが網羅されているわけではないが,いずれの章も著者の深い経験に基づいて書かれており,十分参考にしていただけるものと確信している.

 なお,本書の企画は1997年に行われた第17回日本画像医学会総会(永井純会長)のシンポジウム「循環器救急における画像診断の役割」における発表を中心に,循環器救急に関する総論を加えてまとめたものである.ここにあらためて永井純会長に深謝いたします.

1999年2月

齋藤宗靖

玉木長良

目 次

I.循環器救急疾患

1.循環器救急疾患の病態と診断 <齋藤宗靖> 2

 A.循環器救急の現状  3

 B.虚血性心疾患の救急  3

  1.不安定狭心症  3

  2.急性心筋梗塞症  4

 C.急性ポンプ機能不全  5

  1.急性肺水腫  5

  2.心原性ショック  6

 D.大血管疾患の救急  7

  1.急性大動脈解離  7

  2.大動脈瘤破裂  7

  3.急性動脈閉塞  8

 E.その他の循環器救急  8

2.救急疾患としての虚血性心疾患 <桃原哲也,住吉徹哉> 10

 A.急性心筋梗塞症の病態と治療の基本  10

  1.発症機序  10

  2.初期における一般的治療  11

  3.心筋壊死巣の拡大阻止  11

  4.急性期合併症とその治療  12

 B.不安定狭心症の病態と治療の基本  15

  1.不安定狭心症の病態  15

  2.病型分類  16

  3.不安定狭心症における治療の基本  16

3.急性心不全と心原性ショック <高野照夫> 20

 A.急性心不全の病態  20

 B.診 断  21

  1.血行動態と臨床所見との関係  21

  2.心音図(第III音)と胸部X線所見  22

  3.急性心筋梗塞のKillip重症度分類と血行動態  23

 C.治 療  24

  1.心不全の一般的治療  24

  2.軽症心不全の治療  26

  3.重症心不全の治療  28

  4.near shockと心原性ショック  31

4.大動脈疾患の救急 <安達秀雄> 35

 A.症状と所見  35

  1.胸 痛  35

  2.腹 痛  36

  3.下肢痛  36

  4.腰 痛  37

  5.腫瘤の触知  37

  6.脈拍の減弱  37

  7.意識消失,半身麻痺  37

 B.急性大動脈解離  38

  1.病型分類  39

  2.診断のプロセス  40

  3.大動脈解離の治療  41

 C.大動脈瘤破裂  42

  1.腹部大動脈瘤破裂  42

  2.胸部大動脈瘤破裂  43

5.肺血栓塞栓症の救急 <国枝武義> 44

 A.急性肺血栓塞栓症の病態  44

  1.発症時の病態  44

  2.肺血行動態異常  44

  3.肺ガス交換障害  45

  4.肺梗塞の合併  45

 B.急性肺血栓塞栓症の診断  46

  1.まず本症を疑うことから出発  46

  2.急性広範性肺血栓塞栓症の診断の手順  46

  3.診断手順に関する注意点  47

 C.急性肺血栓塞栓症の基礎疾患と頻度  47

  1.深部静脈血栓症(DVT)  47

  2.基礎疾患の頻度  47

 D.致死性急性肺血栓塞栓症  48

  1.どんな病気か  48

  2.1回発症型と再発型  48

  3.発症頻度  49

 E.救急処置の概要  49

  1.全身管理  49

  2.抗凝固療法  50

  3.血栓溶解療法  50

 F.外科的塞栓除去術の適応と方法  51

  1.外科的塞栓除去術  51

  2.術前対策としてのPCPS  51

 G.予 防  51

  1.下大静脈フィルター遮断法  51

  2.急性肺血栓塞栓症の一次予防  51

6.CPAの対処 <上嶋権兵衛> 53

 A.DOAの用語変更について  53

 B.CPAの原因疾患  53

 C.CPAの予後規定因子  54

 D.CPAに対する治療  55

  1.CPAのプレホスピタルケア  55

  2.医療機関におけるCPAの対応  58

  3.CPAの蘇生治療の中止  58

II.各種画像診断の役割

1.循環器救急における画像診断の役割 <玉木長良,塚本江利子> 62

 A.画像診断の条件  62

 B.仮性心室瘤の診断  63

 C.肺塞栓症の診断  64

2.循環器救急における胸部X線写真 <加地辰美> 66

 A.急性肺動脈血栓塞栓症  66

  1.胸部単純写真所見とその評価  66

  2.症 例  68

 B.急性胸部大動脈解離  70

  1.胸部単純写真所見とその解説  70

  2.症 例  71

 C.胸部大血管損傷  72

  1.胸部単純写真所見とその評価  72

  2.症 例  75

3.循環器救急における心エコーの役割 <藤井幹久> 79

 A.急性大動脈解離  79

 B.肺血栓塞栓症  83

 C.急性劇症型心筋炎  85

 D.急性心筋梗塞と合併症  87

 E.その他比較的まれな疾患  92

4.血管内エコー法の有用性 <森内正人,本江純子,斎藤 穎> 97

 A.血管内エコーの原理・装置と画像の解釈  97

 B.冠動脈病変の評価に有用なエコー諸指標  99

  1.定量的評価法  99

  2.病変の性状・形態評価  100

  3.病変形態  101

 C.急性冠症候群の発症病態と血管内エコー  103

5.急性冠症候群における血管内視鏡の役割 <水野杏一> 107

 A.急性冠症候群とは  107

 B.急性冠症候群と血管内視鏡  107

  1.病因の解明  107

  2.黄色プラークと血栓  109

  3.急性冠症候群におけるインターベンションの効果  109

  4.血管内視鏡下インターベンション  110

6.循環器救急におけるCTの役割    <田星紀,内藤博昭,高宮 誠,中村仁信> 112

 A.大動脈解離  112

 B.大動脈瘤あるいは大動脈瘤破裂  118

 C.大動脈外傷  121

 D.肺動脈塞栓  121

7.循環器救急におけるMRIの役割 <似鳥俊明> 129

 A.循環器救急症例のMRI  129

 B.MRI撮像法の選択  129

 C.MRI高速撮像法  130

  1.高速spin echo(SE)法  130

  2.高速gradient echo(GRE)法  131

  3.echo planar(EPI)法  133

8.循環器救急における核医学の役割 <梶谷定志> 135

 A.緊急心筋血流イメージング  135

 B.再灌流治療による救出心筋の定量評価  137

索 引  142