2年前,当時の病棟医長の渡邉学郎先生から,中外医学社から主任教授の片山容一先生へ脳神経外科看護の教科書作成の依頼があったことを伺いました.この教科書の依頼を受けた時,渡邉先生と脳神経外科病棟の看護師と共に,「自分たちが必要とする本とは?」「どういうものが欲しいのか?」といろいろ検討したところ,「必要な時にパッと見て看護のポイントがすぐにわかるものが欲しい! 標準的な脳神経外科の周手術期をベースに考えてみよう」といった内容に決定し,執筆が始まりました.忙しい現場の中で一目見たら看護のポイントがわかるような本,エキスパートナースは知っているが,成書には書かれていないコツが書いてある本が欲しいと,企画が進むにつれて,内容は具体的になっていきました.
 脳神経外科看護には,疾患・病態に関する深い知識と熟練した看護技術・感性が求められます.知れば知るほど奥が深く,やればやるほど自分達の行った看護の成果が結果として得られ,やりがいのある仕事であると感じています.病棟のスタッフは「大変だけど脳外科看護は好き!」と言います.主任教授の片山容一先生がいつもおっしゃっているのが,「脳神経外科治療には脳神経外科医の力だけではなく,看護師の力が必要なのだ」という言葉です.病棟の看護師は,脳神経外科医を良きパートナーとして,日々の看護の中で,いつも自分達に何ができるかを考えています.忙しい業務の中で,多くの看護スタッフが,自分のスキルアップのため,脳神経外科看護の質をさらに上げるために,率先して執筆してくれたことを病棟の責任者として嬉しく思います.この本が,脳神経外科看護に携わる看護師や学生の方々の参考書としてご活用していただければ幸いです.
 最後に,この教科書の執筆の機会を与えてくださった片山容一先生に深く感謝するとともに,本を作成するにあたり協力してくださった本病院のICUおよび手術室の看護師の方々,埼玉県立小児医療センターの方々,日本大学松戸歯学部の方々,そして監修をして下さった渡邉学郎先生をはじめとした多くの脳神経外科の先生方に心から感謝申し上げます.また,発刊にあたり最後までお付き合いいただきご苦労をおかけした中外医学社の皆様に心からお礼を申し上げます.

2006年10月
日本大学医学部附属板橋病院脳神経外科病棟師長補佐 富澤かづ江


目次

§1.総 論

1.術前看護  〈富澤かづ江 渡邉学郎〉
   病歴の聴取
   主要徴候
   頭蓋内圧亢進
   手術前日までの看護

2.術中看護  〈西野裕子 浅子聖子 平井裕子 皆川 仁 川原千恵美 森 達郎〉
   術前看護のポイント
   入室から麻酔導入まで
   術中看護のポイント

3.術後看護
  3-1.術後出血  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-2.頭蓋内圧亢進  〈関口由美子 加納恒男〉
  3-3.けいれん  〈関口由美子 加納恒男〉
  3-4.意識障害  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-5.循環血液量の変化  〈関口由美子 加納恒男〉
  3-6.肺合併症  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-7.深部静脈血栓症  〈安部斉子 加納恒男〉
  3-8.皮膚損傷  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-9.発 熱  〈関口由美子 加納恒男〉
  3-10.栄養管理  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-11.せん妄,サーカディアンリズム  〈柴 陽子 加納恒男〉
  3-12.髄液漏  〈柴 陽子 加納恒男〉

§2.各 論

A.脳血管疾患
 1.脳動脈瘤直達術  〈桑子美樹 村田佳宏〉
    脳動脈瘤の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 2.脳動脈瘤に対する血管内手術  〈桑子美樹 加納恒男〉
    術前看護のポイント
    術中看護のポイント
    術後看護のポイント
 3.頚動脈内膜切除術  〈十八公綾子 加納恒男〉
    頚部頚動脈狭窄の病態と外科的治療法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 4.頭蓋外・内血管吻合術  〈十八公綾子 村田佳宏〉
    手術適応と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 5.脳動静脈奇形摘出術  〈宇野恵理 村田佳宏〉
    脳動静脈奇形の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 6.脳内血腫除去術と定位的血腫吸引術  〈肥後恭子 村田佳宏〉
    高血圧性脳内出血の病態生理と外科的治療法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導

B.頭部外傷
 1.急性硬膜外血腫除去術  〈羽場崎直美 小林一太〉
    急性硬膜外血腫の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
 2.急性硬膜下血腫・脳挫傷に対する減圧術  〈羽場崎直美 小林一太〉
    急性硬膜下血腫の病態生理と治療方法
    脳挫傷の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 3.慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫洗浄術  〈富澤かづ江 渡邉学郎〉
    慢性硬膜下血腫の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 4.頭蓋顎顔面外傷における頭蓋・顔面形成術  〈松永小余子 神 尚子 前田 剛〉
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導,リハビリテーションについて

C.脳腫瘍
 1.大脳腫瘍摘出術  〈江崎智子 小林一太〉
    大脳腫瘍の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 2.小脳腫瘍摘出術  〈高野純子 渡邉学郎〉
    小脳腫瘍の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 3.小脳橋角部腫瘍に対する腫瘍摘出術  〈竹中敦美 福島崇夫〉
    小脳橋角部腫瘍の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 4.トルコ鞍近傍腫瘍摘出術  〈和田万里 吉野篤夫〉
    トルコ鞍近傍腫瘍の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    リハビリテーション
    退院指導
 5.放射線治療  〈江崎智子 渡邉学郎〉
    基礎知識
    急性期障害とその対策
    慢性期障害
 6.化学療法  〈江崎智子 渡邉学郎〉
    悪性脳腫瘍治療における化学療法の意義
    各種抗がん剤
    多剤併用療法
    悪性リンパ腫に対するメトトレキサート大量療法
    副作用対策

D.脊椎・脊髄疾患
 1.脊髄腫瘍摘出術  〈根本幸恵 森 達郎〉
    脊髄腫瘍の病態生理
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
 2.頚椎症に対する前方手術・後方手術  〈片桐道子 森 達郎〉
    頚椎症の病態生理と治療法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
 3.腰椎椎間板ヘルニア切除術  〈根本幸恵 森 達郎〉
    腰椎椎間板ヘルニアの病態生理
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導
 4.脊髄損傷に対する減圧・固定術  〈片桐道子 森 達郎〉
    脊髄損傷の発生機序・病態生理
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント

E.機能神経外科  1.不随意運動症や難治性疼痛に対する定位脳手術  〈手塚華子 深谷 親〉
    病態生理
    定位脳手術とは
    治療対象疾患
    手術の適応
    手術の種類と効果
    手術合併症と刺激副作用
    術前検査
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導
 2.顔面けいれんおよび三叉神経痛に対する微小血管減圧術  〈手塚華子 深谷 親〉
    病態生理
    発生起序
    微小血管減圧術の方法
    手術の適応
    手術効果と合併症
    手術検査
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント

F.感染性疾患
 1.脳膿瘍の治療  〈秦野智子 深谷 親〉
    脳膿瘍の病態生理
    頻度,好発年齢
    好発部位
    起炎菌
    症 状
    画像診断
    治 療
    術後管理
    周術期看護のポイント
    予 後

G.小児疾患
 1.小児水頭症患者に対するシャント手術  〈能町由香 酒井弘美 栗原 淳 西本 博〉
    小児水頭症の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導
 2.脊髄披裂(二分脊椎)に対する根治手術  〈田邉尚子 酒井弘美 栗原 淳 西本 博〉
    脊髄披裂(二分脊椎)の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導
    神経管閉鎖不全症の予防
 3.狭頭症(頭蓋骨縫合早期癒合症)に対する頭蓋形成術
  〈高橋裕子 酒井弘美 栗原 淳 西本 博〉
    狭頭症の病態生理と治療方法
    術前看護のポイント
    術後看護のポイント
    退院指導

文 献

あとがき

索 引