改訂にあたり

 解剖学イラスト事典は,好き嫌いにかかわらず,解剖学を学ばなければならない人たちが「解剖用語の海」を泳ぐ手助けとなるように,との願いを込めた事典である.本事典がはじめて世に出たのは2001年であるが,幸いにも今日まで「本事典を利用したがために解剖用語の海で溺れてしまった」という苦情はない(もっとも溺れてしまった人たちは文句を言う気にもならないだろうが…).
 今回,本書を改訂するにあたり,医療従事者が現場で遭遇する用語をできる限り採用した.解剖学用語と臨床用語との間には少なからず違いがあり「同じものを指すのか,別のものを指すのか」という疑問がぬぐいきれないケースが見られるからである.また,用語の読み方についても人によって異なるが,原則として「日本医学会医学用語辞典」に記載されている読み方を採用した.実際にはここに示されている読み方にも異論があるとは思うが,その点は批判を覚悟で無視した.
 今は,改訂版の本事典を手にされた方々が「蘊蓄をかたむける時」以外にも,「患者さんへの説明の前にちょっと調べたい」といった実際の役に立てて頂ければと思っている.イラストがマンガなので「信用できない」と感じられる方も多いだろうが,著者としてはまじめに説明を書いたつもりである.イラストと用語説明を効果的に利用していただくことを切に願ってやまない.
 本書の改訂にあたっては,たくさんの同僚や友人のご協力・ご教示をいただいた.本事典の中にはたくさんの方々からの情報や教えが詰まっており,その点から言えば本書は松村一人の力でつくられたものではない.このような表に出ないご協力に厚く感謝するとともに,本事典の初版をご購入いただいた皆様には心より御礼申し上げたい.購入してくださったからこその改訂の機会である.
 最後に,本書の改訂にあたっては中外医学社編集部の上村裕也氏に少なからずお世話になった.この場をお借りして御礼申し上げる.


  2004年9月
   松村讓兒

はじめに

 医療従事者をめざす人たちは「解剖学はとにかくたくさんの用語を憶える科目」と思っているようだ.そして,解剖学の授業が始まるとともに「訳の分からない解剖用語」が「津波のように押し寄せてくる」と感じるという.その結果,たくさんの人が「解剖用語の海」の中で溺れてしまうらしい.このまま行けば,今,この本を手にとっているあなたも「解剖用語の海に漂うモクズ」となってしまうかもしれない.
 本書は,すでに溺れてしまった人も含め,「解剖用語の海」を泳ぐための手助けになるように,との願いを込めて作られた「解剖学事典」である.また「事典」としてばかりはでなく,見開き読み切り形式の「解剖学入門書」としても使えるよう,かつて「解剖用語の海で溺れかけた著者」が「ワラをもつかむ」気持でアレンジした.パラパラと気楽にめくりながら「クイズ」のつもりで読んで頂ければ本書の利用価値は倍増し,確信を持って「ワラよりずっと役に立つ」と断言できる.
 この本は,これまでに献体された多くの方々から頂いた「無言の教え」や,学生から寄せられた「数々の不平や文句」があればこそできたものである.改めて感謝の意を捧げたい.
 また,原稿作成中の平成12年度実習に亡父の遺体が供され,学生とともに解剖を行うことができた.これにより,いくつかの記載を確かめることができたことは望外の喜びであった.
 本書を書き上げるにあたっては,多くの方々にご教示・ご協力を賜った.とくに小林靖助教授をはじめとする杏林大学医学部第一解剖の方々には,ある時は尻を叩かれ,ある時は頭を叩かれながら「檄」を飛ばして頂いた.また,出版にあたっては中外医学社企画部の小川孝志氏,編集部の久保田恭史氏にお骨折り頂いた.この場をお借りして厚く御礼申し上げる.
 末筆ながら,本書を購入された方には著者として最大の感謝を捧げたい.そして,もし不十分な記載や誤まりについてお気づきの点があれば,是非ともお知らせ頂き,ともに「解剖用語の海」を泳いで行きたいと願っている.

  2001年1月
   松村讓兒


目次
第1部 人体構造の概観
I.人体の区分と構成
 人体の区分と記載 2
 細胞について 4
 組織・器官・器官系 6
II.発生
 受精と初期発生 8
 胚子期と胎児期 10
 妊娠について 12
III.骨格系
 骨について 14
 骨組織について 16
 骨の連結 18
 骨の発生 20
 骨折について 22
IV.筋系
 筋について 24
 骨格筋について 26
 骨格筋と腱 28
V.神経系
 神経系について 30
 神経系の構成 32
 軸索とシナプス 34
 神経叢について 36
 自律神経系 38
VI.循環系
 心血管系 40
 血管の構造としくみ 42
 胎児の血管系 44
 リンパ管系 46
 血液について 48
 血液やリンパの細胞をつくる器官 50
VII.内臓系
 内臓について 52
VIII.皮膚・感覚器系
 皮膚について 54
 感覚と感覚器 56

第2部 上肢
I.上肢の骨と関節
 上肢帯とその連結 58
 腕の骨 60
 肘関節と前腕 62
 手の骨 64
 手の骨の連結 66
II.上肢の筋
 上肢帯の筋 68
 肩関節に働く筋 70
 肘関節に働く筋 72
 手首や指を曲げる前腕の筋 74
 手首や指を伸ばす前腕の筋 76
 親指と小指の筋 78
 手のひらの中央部 80
III.上肢の脈管
 上肢の動脈 82
 上肢の静脈 84
 上肢のリンパ管系 86
IV.上肢の神経
 腕神経叢について 88
 肩周辺の筋の支配神経 90
 上肢の代表的神経 92
 上肢の皮膚感覚 94
 上肢の神経絞扼障害 96

第3部 下肢
I.下肢の骨と関節
 寛骨について 98
 股関節と大腿骨 100
 膝関節と脚の骨 102
 足首と足の骨 104
 足の骨の連結 106
II.下肢の筋
 下肢帯の筋(1) 108
 下肢帯の筋(2) 回旋筋群 110
 太ももの筋 112
 足首に働く筋 114
 足の底屈・外反・内反に働く筋 116
 足根管と伸筋支帯 118
 足の筋 120
III.下肢の脈管
 下肢の動脈 122
 下肢の静脈 124
 下肢のリンパ管系 126
IV.下肢の神経
 腰神経叢について 128
 仙骨神経叢について 130
 下腿と足の神経 132
 下肢の神経障害 134

第4部 背部
I.背部の骨と連結
 脊柱について 136
 椎骨について 138
 椎骨の連結 140
II.背部の筋
 背筋の区分 142
 背骨を動かす筋 144
 首を動かす筋 146

第5部 胸部
I.胸壁の構造
 胸郭について 148
 胸壁の筋 150
 横隔膜と呼吸筋 152
 乳房と乳腺 154
 胸壁の血管と神経 156
 胸壁のリンパ管系 158
II.胸腔の臓器
 食道について 160
 気管と気管支 162
 肺の外形 164
 肺の内部構造 166
 胸膜 168
 心臓の位置と形 170
 心臓内部 172
 心臓の壁と心膜 174
 刺激伝導系 176
 心拍動と心音 178
 心臓の血管と神経 180
 冠動脈造影をみる 182
 心臓の発生 184
 縦隔について 186
III.胸腔の脈管・神経
 胸腔の動脈 188
 胸腔の静脈 190
 胸部臓器のリンパ系 192
 胸腔の神経 194

第6部 腹部
I.腹壁の構造
 腹壁の筋 196
 腹壁の脈管と神経 198
II.腹腔の臓器
 胃について 200
 胃の中の様子 202
 小腸 204
 大腸 206
 直腸と肛門 208
 肛門付近の血管と神経 210
 腸管の基本構造 212
 肝臓の外形 214
 肝臓周辺の腹膜構造 216
 肝臓の内部 218
 肝臓の静脈系 220
 胆嚢と胆道 222
 膵臓 224
 脾臓 226
 腹腔と腹膜腔 228
 消化器の発生 230
 腎臓の外形 232
 腎臓の内部構造 234
 腎臓の血管 236
 尿路 238
 副腎 240
III.腹腔の脈管・神経
 腹腔の動脈 242
 腹腔の静脈 244
 門脈系について 246
 腹部のリンパ系 248
 腹部の神経 250

第7部 骨盤部
I.骨盤
 骨盤の構造 252
 骨盤計測 254
II.骨盤臓器と骨盤底
 膀胱と尿道 256
 男性生殖器 258
 女性生殖器 260
 外陰部 262
 会陰と骨盤底 264
III.骨盤部の脈管・神経
 骨盤部の動脈 266
 骨盤部のリンパ系 268
 骨盤部の神経 270

第8部 頭頸部
I.頭部の骨と連結
 頭蓋について 272
 頭蓋腔の内外を結ぶ連絡路 274
 頭蓋骨の連結 276
II.頭頸部の筋
 顔面筋 278
 顎関節と咀嚼筋 280
 前頸部の筋 282
 頸部の三角 284
III.頭頸部の器官
 鰓性器官 286
 眼瞼と涙腺 288
 眼球の構造 290
 網膜について 292
 眼球の運動 294
 両眼運動のしくみ 296
 耳について 298
 鼻について 300
 口について 302
 舌と唾液腺 304
 咽頭 306
 嚥下に働く筋 308
 喉頭のはなし 310
 甲状腺と上皮小体 312
IV.頭頸部の脈管・神経
 頭頸部の動脈 314
 頭頸部の静脈 316
 頭頸部のリンパ系 318
 頭頸部の神経 320
 脳神経について 322
 脳神経の区分 324
 顔の感覚 326

第9部 中枢神経系
I.脳
 脳の区分 328
 髄膜について 330
 脳室と髄液 332
 脳に分布する動脈 334
 大脳内の動脈分布 336
 脳の静脈と硬膜静脈洞 338
 終脳について 340
 大脳皮質の外形 342
 大脳皮質の機能分担 344
 大脳核あるいは基底核 346
 間脳のはなし 348
 脳幹というもの 350
 中脳・橋・延髄 352
 脳幹反射 354
 小脳 356
 小脳のはたらき 358
II.脊髄
 脊髄のかたち 360
 脊髄の内部 362
 脊髄反射 364
 脊髄の髄膜と血管 366
III.伝導路
 伝導路について 368
 下行性伝導路 370
 上行性伝導路 372
 特殊感覚の伝導路 374

付録 関節・筋のまとめ
 関節分類のまとめ 378
 眼球の運動に働く筋のまとめ 380
 下顎骨に働く筋のまとめ 381
 環椎後頭関節・環軸関節に働く筋の
 まとめ 382
 喉頭・舌骨の運動に働く筋のまとめ 383
 脊柱の運動に働く筋(固有背筋ほか)
 のまとめ 384
 会陰の筋のまとめ 385
 骨盤の筋のまとめ 385
 肩甲骨を動かす筋のまとめ 386
 肩関節に働く筋のまとめ 387
 肘関節に働く筋のまとめ 388
 上・下橈尺関節に働く筋のまとめ 388
 手関節に働く筋のまとめ 389
 母指手根中手関節に働く筋のまとめ 390
 母指中手指節関節に働く筋のまとめ 391
 母指指節間関節に働く筋のまとめ 391
 中手指節関節に働く筋のまとめ 392
 指節間関節に働く筋のまとめ 392
 股関節に働く筋のまとめ 393
 膝関節に働く筋のまとめ 394
 足関節に働く筋のまとめ 395
 足根間関節に働く筋のまとめ 395
 足指の運動に働く筋のまとめ 396
 足の指節間関節に働く筋のまとめ 396
 日本語索引 397
 外国語索引 415