解剖学の勉強は,頭の中に『人体の地図』をつくる作業にたとえることができる.その地図は生涯にわたって続く医学の勉強の基礎となる.細部にわたってくわしく情報が盛り込まれるよりも,おおまかではあるが全体を把握できるものであって欲しい.それを基礎として,地域を視点とした個別の領域の地理,すなわち臨床科目が展開される.系統解剖学はまさにその『地図作り』のための教科である.

 解剖学を含めて基礎医学の教育は,この10年,国内・海外を問わず時間数の減少だけでなく,授業方法も含めた変化の真っ只中にある.わが国でもモデルコアカリキュラムや共用試験に大きく影響され,解剖学の授業の時間短縮は激しく,指導する側は時間内に系統解剖学の知識と実習をどこまで盛り込むか,腐心している.授業時間の短縮は,学生が覚える解剖学用語数の減少と直結し,とくにラテン語・英語など外来語の学習が犠牲となっている.外来用語の修得は言わずもがなの常識ということか,モデルコアカリキュラムでは外来用語に関する視点が決定的に欠如している.加えて,大学以前の漢字教育のレベルダウンも影響が大きい.能動的な学習方法が推奨されてはいるものの,学生諸君が自学自習するための教材も,米国や欧州諸国と比べ豊富とはいえない.系統解剖学の授業時間数は減ったが,系統的知識の重要性に変わりはなく,医学教育の中で,用語学習の責任の一端を解剖学が負わなければならない点にも変わりはない.

 このような解剖学教育の現状を背景に,自習用のワークブックをめざしたのが本書である.前著『解剖学コメンタリー』を元にまとめたこの小冊子が,医学をまなぶスタートラインに立った学生諸君の頭の中に,『人体の地図』をつくるガイドブックとして利用してもらえれば,これに過ぎる喜びはない.図をまとめるに当たり,仕上げを川崎医科大学解剖学教室の技術員,須田満寿美さんに御助力いただいた.深く感謝したい.

  2004年6月

    著者


この本の使い方  1

1.運動器(骨・靭帯・筋)系

解剖学の基準となる正位と体の区分  2

 正位からの関節運動の方向  3

 面・方向を示す用語  4

 全身の骨格  5

頭蓋  6

 頭蓋の骨構成  6

 脳頭蓋の連結−縫合  7

 頭蓋底  8

 頭蓋骨と対応する脳  10

 外頭蓋底  11

 顔面頭蓋  12

 鼻腔と副鼻腔  13

 顎関節の運動−咀嚼筋  14

 顎関節の運動−開口  16

  EXERCISE−1  17

脊柱  20

 椎骨の基本形  21

 椎骨の連結  22

 脊柱管と脊髄  23

 腰椎穿刺と脊髄の位置  24

 特殊な椎骨−第一頚椎と第二頚椎  25

 特殊な椎骨−仙骨  27

 横突起と棘突起の特徴  28

  EXERCISE−2  29

胸郭  31

 肋骨の特徴  32

 胸郭の骨連結と胸腔  33

 胸郭の各部  34

 胸郭上口と縦隔  35

 胸郭下口と横隔膜  36

 横隔膜を通過する器官  37

 横隔膜と横隔神経  38

 横隔膜の位置と隣接器官  39

 肋間隙と腹壁の筋  40

  EXERCISE−3  41

上肢  44

 上肢帯の連結と構成  45

 上肢の運動と胸鎖関節  46

 脊柱と上肢の間の筋  47

 胸・頚部の筋  48

 上腕骨と肩関節  49

 上腕骨・肩甲骨・胸郭の間の筋  51

 前腕の骨と手の連結  52

 肘関節  53

 回内と回外  54

 手の骨と関節  55

 指の骨と関節  56

  EXERCISE−4  57

下肢  60

 寛骨=下肢帯  61

 骨盤の構成  62

 恥骨と坐骨  63

 骨盤下口と骨盤隔膜  64

 外腹斜筋と鼡径靭帯  65

 腹腔を囲む筋  66

 筋裂孔と血管裂孔  67

 大腿骨と股関節  68

 殿筋群と回旋筋群  69

 下腿の骨・骨と腓骨  70

 膝関節  71

 膝関節の運動と筋  72

 膝窩と下腿の筋  73

 足の骨と関節  74

 2つの足弓  75

 距腿関節の構成  76

  EXERCISE−5  77

2.循環・呼吸器系

血液の循環  80

心臓  81

 心臓の部屋と大血管の位置関係  81

 心臓の輪郭と体表からの位置  82

 右心系の構成  83

 右心房の内部構造  84

 左心系の構成  85

 心膜腔と心臓壁の構造  86

 心外膜の壁側板と心膜洞  87

 心臓の収縮拡張と弁の開閉  88

 心臓骨格−線維輪と線維三角  89

 肺動脈弁と大動脈弁  90

 心房中隔と心室中隔  91

 冠状血管・冠状動脈  92

 心臓の静脈  93

 刺激伝導系  94

  EXERCISE−6  95

体循環・動脈系  98

 大動脈を主幹とする動脈ルート  98

 胸部・腹部への動脈のルート  99

 頭蓋腔への動脈  100

 大脳動脈輪―ウィリスWillis動脈輪  101

 顔面・頭部への動脈  102

 手の動脈  103

 胸大動脈から胸壁・胸部臓器へ  104

 腹腔動脈の分布−胃に分布する動脈  105

 上腸間膜動脈と下腸間膜動脈  106

 総腸骨動脈・内腸骨動脈  107

 下肢への動脈  108

体循環・静脈系  109

 上・下大静脈と奇静脈系  109

 門脈系−腹部内臓からの静脈  110

 門脈の根と側副路  111

 硬膜静脈洞−頭蓋腔からの静脈の還流  112

 リンパの静脈への還流  113

 リンパ節  114

  EXERCISE−7  115

呼吸器系  118

 呼吸器系の器官構成  118

 呼吸器系の発生  119

 咽頭と喉頭  120

 喉頭軟骨  121

 喉頭の内部  122

 頚・胸部の器官配置  123

 肺葉と肺区域(左肺)  124

 肺葉と肺区域(右肺)  125

 肺の内側面  126

 胸膜腔の広がり  127

 胎児の循環・呼吸器系  128

  EXERCISE−8  129

3.内臓学−消化器系と尿生殖器・骨盤臓器

消化管  132

 消化管の発生  133

 消化管の基本構造  134

 消化管と腹膜との関連  135

 消化管に付属する腺  136

  EXERCISE−9  137

口腔内の器官  139

 口腔壁の構造と咀嚼  140

 歯の名称と構造  141

 永久歯の萌出の時期  142

 舌と口峡  143

 舌筋  144

 大唾液腺  145

  EXERCISE−10  146

食道から肛門  148

 食道胸部と隣接臓器  149

 胃の部位  150

 食道から胃への移行  151

 胃三角  152

 胃の発生と腹膜  153

 肝臓(右葉)の増大による腹部内臓の移動  154

 胃幽門と十二指腸  155

 小腸と大腸  156

 十二指腸  157

 膵臓  158

 膵管の走行  159

 膵臓の体表への投影  160

 膵臓への動脈  160

 腸管の発達と立体交叉  161

 小腸壁の構造  162

 結腸壁の構造  163

 大腸と腹膜  164

 腹膜内器官(臓器)と後腹膜器官(臓器)  165

 直腸と肛門管  166

 肛門管と肛門括約筋  167

 肛門管の上皮  168

  EXERCISE−11  169

肝臓  172

 肝門  173

 肝臓の線維膜と漿膜  174

 肝小葉と肝細胞索  175

 総肝動脈と胆道  176

 総胆管と肝十二指腸間膜  177

 前腹壁の腹膜のヒダ  179

  EXERCISE−12  180

尿生殖器・骨盤臓器  182

 腎臓と腹部脈管系  183

 尿管の走行  184

 腎盂から尿管へ  185

 副腎  186

 男性の骨盤臓器  187

 男性生殖器の外観  188

 精巣への脈管と精管  189

 前立腺と精嚢  190

 尿生殖隔膜と骨盤隔膜  191

 女性の骨盤臓器  192

 女性生殖器  193

 卵管  194

 子宮体部の壁の構造  195

 女性の生殖器と骨盤隔膜  196

 外陰部の形成  197

  EXERCISE−13  198

4.神経系と感覚器

中枢神経の構成  200

 脳の下面  201

 中枢神経の発生  202

 脳室  203

 脳室の特徴  204

 脳脊髄液とクモ膜下腔  205

 中枢神経の髄膜  206

 大脳鎌と小脳テント  207

 大脳葉と主要な大脳回  208

 脳と脊髄の内部構造  209

 大脳の内側面と脳幹の断面  210

 間脳の構造  211

 下垂体と下垂体門脈  212

 中脳  213

 脊髄の内部構造  214

 脊髄の下端  215

  EXERCISE−14  216

脊髄神経  219

 皮膚の感覚装置  220

 ニューロンの走行と種類  221

 胸神経  222

 デルマトーム  223

 脊髄神経による神経叢−腕神経叢  224

 腰神経叢  225

 仙骨神経叢  226

  EXERCISE−15  227

脳神経と特殊感覚器  229

 内頭蓋底−脳神経の通る孔  230

 嗅神経  231

 視神経と眼球  232

 眼球から一次視覚中枢への経路  233

 眼球の構造  234

 眼球壁  235

 外眼筋  236

 眼窩後壁  237

 涙器  238

 脳神経の出る部位  239

 三叉神経  240

 顔面・頚部の皮膚知覚  241

 顔面神経  242

 表情筋  243

 内耳神経  244

 外耳,中耳と内耳  245

 内耳・膜迷路  246

 迷走神経  247

 交感神経幹  248

 胸部交感神経幹と隣接器官  249

  EXERCISE−16  250