3版の序

 本書の初版は1997年11月,第2版は2000年4月に上梓された.第2版が上梓され約3年しか経過していないにもかかわらず,その間,肝疾患の診断,治療の面,また基礎的研究の面でも目覚ましい進歩と展開がみられた.そこで第3版を出版し,従来の項目に内容的に追加,改訂を行うとともに,また,新たな項目を追加することとなった.また,本書が好評であったことも第3版出版のもう一つの理由である.本書は,肝疾患に関する最新,最先端の情報を簡潔で,同時にわかりやすい形で提供すること,もう一つは日常診療における疑問に肝臓専門家の立場から答えることを当初の目的として刊行された.このように好評の内に版を重ねることができたことは,この目的をある程度達成できたのではないかと思っている.

 終わりにご多忙にもかかわらずご寄稿頂いた先生,原稿の改訂,追加を頂いた先生,また編集に当たられた中外医学社の諸兄姉に深甚の感謝を申し上げる.

  2003年2月

    戸田剛太郎

    沖田 極

    田中直見

初版の序

 本書は肝臓病学の教科書ではなく,肝疾患患者の日常診療に役立つことを目的として編集された実践の書である.この目的を達成するために質疑応答の形をとり,設定された質問に対し肝疾患診療に経験の深い専門家の方々に日常診療における経験を踏まえて答えて頂く形式をとった.

 20世紀も数年で終わろうとしている.20世紀の科学は物理の世紀であったとよくいわれる.現象,物質を分析し,現象,物質を構成する最小単位を明らかにすることが最終的な目標であった.医学,生物学もこの大きな潮流から逃れることはできなかった.そして今世紀も終わり近くなって生物現象の最小単位を構成する要素の一つ,遺伝子を分離,解析する手段を手中に入れた.その結果,病態,疾患を遺伝子レベルで解析し,説明することが可能となった.しかし,日常診療においては現象を説明するだけでは不十分であることを,日常診療に携わる臨床医はよくご存知と思う.患者からは日常生活,食事内容,運動などさまざまな質問がある.それぞれに対し適切な答えが必要である.一方,肝疾患を専門とする医師には,肝臓病学の知識を背景にした診療経験から演繹された多くの事実の蓄積がある.また,第一線での診療の現場では成書には十分に記述されていない現象に遭遇することがしばしばある.これに対し的確に判断し,対応することは肝疾患の臨床においては是非とも必要である.

 このような観点から本書は編集され,そのため系統だった構成とはなっていない.しかし,本書が日常診療に役立ち,成書に書かれた肝臓病学を補完するものとして役立って欲しいと思う.

 終わりにご多忙にもかかわらずご寄稿頂いた諸先生,また編集にあたられた中外医学社の諸兄姉に深甚の感謝を申し上げる次第である.

  1997年10月

    戸田剛太郎

    沖田 極

    田中直見


目 次

§1.肝臓病の考え方と臨床

 1.肝臓病の病因別分類 2

 2.肝臓病の病態別分類 4

 3.HCV−RNA陽性,その他肝機能検査が正常な人のフォロー 5

 4.肝障害が起きやすい全身疾患 8

 5.脂肪肝の対策 10

§2.症状,検査

A.どのような場合,肝疾患を考えるか

 1.肝疾患の主訴 14

 2.手掌紅斑があれば肝硬変か 15

 3.潜在性肝性脳症とは 16

 4.肝性昏睡の診断 17

B.肝機能検査の考え方

 1.効率のよい肝機能検査項目の組み合わせ 18

 2.AST(GOT),ALT(GPT)と組織学的活動度の相関 20

 3.プロトロンビン時間とヘパプラスチンテストの違い 21

 4.TTT,ZTTの上昇の意義 22

 5.α−フェトプロテインと肝細胞癌 23

C.腹部エコー診断のポイント

 1.肝臓全域を描出するためのプローブ操作 24

 2.慢性肝障害のエコー所見 27

 3.脾腫大の診断 30

 4.肝限局性疾患のエコー所見 32

 5.腹部エコーによる肝血流測定法 35

 6.肝内占拠病変とは 37

 7.腹部エコーによる胆道疾患発見のコツ 39

 8.慢性肝疾患の腹部エコー所見 41

 9.アンジオエコーの有用性 44

D.CT診断から何が分かるか

 1.肝内占拠性病変とは 48

 2.びまん性肝疾患における意義 50

 3.造影CTの意義 52

 4.ヘリカルCTの意義 54

 5.脳のCT検査の意義 56

 6.胆道疾患のCT診断 58

E.MRI診断から何が分かるか

 1.肝細胞癌のMRI所見 60

 2.T1強調画像とT2強調画像の意味 62

 3.肝血管腫と肝細胞癌の鑑別 64

 4.造影MRIの意義 66

F.血管造影の意義

 1.よりよい肝血管造影を行うには 68

 2.肝血管造影で何がわかるか 70

 3.肝血管造影の適応と禁忌 72

 4.肝血管造影法の手技に伴う合併症 74

G.腹腔鏡診断の役割

 1.腹腔鏡の意義 76

 2.腹腔鏡検査・肝生検の禁忌 78

H.肝生検診断の意義

 1.組織診断に必要な標本採取と染色法 80

 2.サンプリングエラーの防止対策 82

 3.超音波映像下肝生検の意義 83

I.遺伝子診断の現状と方向

 1.ウイルス性肝炎の遺伝子診断 84

 2.肝炎ウイルス遺伝子のPCR法 87

 3.肝癌の遺伝子診断 89

§3.治 療

A.生活指導のポイント

 1.禁酒の必要性 92

 2.ゴルフの制限は 93

 3.C型肝炎ウイルスキャリアに垂直感染はあるか 94

 4.家族内にウイルス肝炎患者がいる場合 96

 5.肝硬変患者の入浴上の注意点 97

 6.東南アジア,中近東,アフリカへの長期派遣者のA型肝炎ワクチン接種 98

 7.肝硬変患者の車の運転 100

 8.筋力アップと肝性脳症 102

 9.食後の安静の必要性 104

B.栄養,食事療法

 1.高蛋白,高カロリー食の意味.油物,香辛料の指導 105

 2.肝性脳症を伴う肝不全例の低蛋白食 106

 3.糖尿病合併肝硬変患者の食事療法 107

 4.過栄養性脂肪肝患者の栄養指導 108

 5.腹水時の塩分制限 109

C.インターフェロン療法

 1.インターフェロン療法の適応と禁忌 110

 2.インターフェロンの種類と有効性 112

 3.慢性B型肝炎とC型肝炎のインターフェロン投与法の違い 115

 4.インターフェロン−βの投与期間 119

 5.インターフェロンの副作用 120

 6.効果を左右するウイルス要因 123

D.肝臓用薬

 1.肝庇護剤の種類とその薬効薬理 125

 2.BRMの種類と薬効薬理 127

 3.抗ウイルス経口薬の種類と薬効薬理 128

§4.肝臓病の診断と治療

A.急性肝炎

 1.急性肝炎と診断する根拠 130

 2.肝炎ウイルスによる急性肝炎の病像の違い 132

 3.肝炎ウイルス以外の急性肝炎の原因ウイルス 134

 4.E型肝炎 136

 5.HBsAg陽性はB型肝炎か 138

 6.急性肝炎は慢性化するか 139

 7.重症肝炎の診断・治療 140

 8.肝炎ウイルスマーカー陰性の急性肝障害の診断 142

 9.グルコース点滴の必要性 143

10.退院時期の決め方 144

B.劇症肝炎

 1.劇症化の予知法 145

 2.急性型と亜急性型の臨床的特徴 148

 3.劇症肝炎の治療法 150

 4.急性肝炎の劇症化と肝炎ウイルス 152

 5.劇症肝炎経過のモニター法 153

 6.血漿交換適応と効果 154

 7.劇症肝炎に対する肝移植の評価 155

C.慢性肝炎

 1.慢性肝炎の病理組織診断 157

 2.HCV抗体陽性はC型肝炎か 161

 3.B型慢性肝炎とC型慢性肝炎の腹腔鏡像,肝生検組織像 163

 4.B型肝炎とC型肝炎のインターフェロンの有効性 166

 5.ラミブジン 167

 6.慢性肝炎の進展と血小板数 169

 7.C型肝炎ウイルス遺伝子におけるハイパーバリアブルリージョン 170

 8.B型肝炎ウイルスキャリアの劇症化(重症化) 174

 9.肝硬変移行判断法 177

 10.針刺し事故の対応 179

 11.肝炎以外の疾患が併発した場合の薬物療法 182

D.肝硬変

 1.肝線維化,肝硬変の血清マーカー 184

 2.腹腔鏡肝生検の有用性 187

 3.AST(GOT)・ALT(GPT)の治療目標値 188

 4.血小板数10万以下は肝硬変か 190

 5.アルコール性肝障害と断酒の効果 191

 6.インターフェロン療法の適応 192

 7.急性増悪時の治療法 194

 8.食道静脈瘤の治療法の選択 196

 9.HBVとHCVによる肝硬変の差異 202

 10.肝硬変患者の薬物療法 204

E.肝 癌

 1.肝癌の種類 206

 2.小肝細胞癌の画像診断 208

 3.肝細胞癌の腫瘍マーカー 212

 4.腫瘍生検の適応,方法,合併症 215

 5.胆管細胞癌の画像診断 219

 6.肝細胞癌の内科的治療と外科的治療 221

 7.PEI療法の実際 223

 8.TAE療法の実際 225

 9.肝臓の前癌病変とは 227

 10.早期肝細胞癌とは 229

F.アルコール性肝障害

 1.血清γ−GTP値の意義 230

 2.ウイルスマーカー陽性でかつアルコール多飲者の診断 231

 3.断酒とAST(GOT),ALT(GPT),γ−GTPの正常化 233

 4.アルコール性肝障害と肝癌の合併 234

G.自己免疫性肝疾患

 1.自己免疫性肝疾患の種類 235

 2.自己免疫性肝炎の診断基準 237

 3.自己免疫性肝炎の維持療法 240

 4.原発性胆汁性肝硬変の診断基準 241

 5.ウルソ酸の適応と投与法 244

 6.原発性硬化性胆管炎の自己抗体 245

 7.UDCAと原発性胆汁性肝硬変,肝移植の適応 246

 8.コルチコイド無効例の対策 247

 9.Autoimmune cholangiopathyとは 248

H.薬物性肝障害

 1.薬物服用から薬物性肝障害発症までの期間 249

 2.診断は 251

 3.治療は 253

 4.DLSTの方法 255

 5.胆汁うっ滞型で黄疸改善後もALP,γ−GTPが上昇する場合 256

I.体質性黄疸

 1.診断は 257

 2.Gilbert病の診断と発生機序 259

 3.Crigler−Najjar症候群の診断と発生機序 261

J.代謝性肝障害

 1.背景肝疾患のない肝性脳症を来す先天性代謝疾患 263

 2.肝アミロイドーシスを疑う臨床像 266

 3.ヘモクロマトーシスの診断と治療 268

 4.Wilson病の遺伝子医学 270

 5.ヘモクロマトーシスの遺伝子医学 272

 6.長期高カロリー輸液による肝障害 274

 7.糖尿病に伴う肝障害の治療 275

K.感染性肝障害

 1.肝膿瘍のドレナージ治療 277

 2.胆管癌と寄生虫性肝疾患 280

L.妊娠と肝疾患

 1.妊婦の肝疾患の診断と治療 281

§5.胆道疾患の診断と治療

 1.閉塞性黄疸の診断 284

 2.胆道ドレナージ法の選択法 285

 3.胆石症の治療法の選択 286

 4.胆嚢内隆起性病変の画像診断 288

 5.胆嚢内の小隆起性病変の腹腔鏡的胆嚢切除術 290

 6.肝内結石症の治療法 292

 7.ESWLで破砕可能な胆石とは 294

 8.胆道ジスキネジーとは 295

 9.コメットサインの意義 296

§6.肝臓病のトピックス

 1.HBVの遺伝子型 298

 2.ウイルス肝炎における肝細胞傷害機構 300

 3.B型肝炎ウイルス発症のメカニズム 302

 4.HGV, TTVとは 303

 5.HGV, TTVは肝炎ウイルスか 306

 6.肝線維化のメカニズム 309

 7.肝発癌の機構の考え方 310

 8.肝細胞増殖因子とは 312

 9.HCVと肝炎の消長 316

 10.肝臓病の遺伝子治療 317

 11.日本における肝移植の現状 319

 12.肝臓病とアポトーシス 322

 13.Seroconversionの意義 324

 14.Pre−core領域の遺伝子突然変異と重症肝障害 326

 15.Tumor necrosis factorの意義 328

 16.コレステロール結晶形成促進蛋白の意義 329

 17.コレステロール胆石の石灰化機序 330

索 引 331