緒言−21世紀の国民病 血栓症の制圧に向けて
血栓症の制圧−これは極めて壮大なテーマである.人体という無限の小宇宙の中で起こる普遍的かつ複雑な事象を理解し,操作しようとする,人間の挑戦的で切実な営みである.
近年,長距離旅行後の肺血栓塞栓症による所謂エコノミークラス症候群が話題になり,地震後の避難生活中にも多発して問題になったことは記憶に新しい.欧米においては,癌による死亡者の割合は全死因の約15%であるが,心筋梗塞,脳梗塞,肺塞栓などの血栓症によるものは40-50%に上る.我が国における血栓症による死亡者の割合は,生活の欧米化が進み,飽食の時代が続くにつれて次第に増加し,癌による死亡者の割合である約30%に追い付き,追い越す勢いである.血栓症も多数の疾患関連遺伝子と環境因子が関与する多因子疾患であるから,多少の遺伝的多型による人種差があることを考慮しても,今有効な手を打たねば血栓症による死亡者の割合はいずれ欧米のレベルに達する可能性が高い.しかも心筋梗塞,脳梗塞は本人の生活の質の低下のみならず介護者に多大な負担をもたらす点において,最も深刻な21世紀の国民病であり,その征圧は我が国の最重要課題の一つであると編者は考えている.
編者が所属する国際血栓止血学会や日本血栓止血学会では,多数の有能な研究者達によって血栓形成の分子機構とその制御,血栓症の診断,あるいは予防と治療の研究が推進されており,まさに日進月歩,目覚ましい成果があがりつつある.そこで,血栓止血領域の最先端の重要事項を網羅した成書の必要性を痛感し,本書を企画した次第である.
編者が最近特に注目している事柄は,先ず,血栓止血学の誕生以来その基盤となってきた液相での凝固反応に,細胞即ち固相での作用が加えられ,修正されたことである(細胞性凝固反応仮説,表紙の図).これは,血小板や血球,内皮細胞と凝固関連蛋白質との相互作用が血栓形成とその制御のみならずその後の多彩な細胞性反応の引き金となっていることを理解する上で誠に合理的であり,一種のパラダイムシフトと呼んでもよい.また,2001年にヒトゲノム計画の中間報告(概要),続いて2003年に終了宣言が出され,約32,000個の遺伝子の中に血栓止血に関係する蛋白質の基本構造を持った多数の遺伝子が同定されたことや,それらの遺伝子を標的した所謂ノックアウトマウスが作製され,それぞれの先天性欠損症のモデル動物として個体における凝固反応の機能解析に貢献していること,多くの凝固関連遺伝子の多型と血栓症の相関関係が発見されていることも特筆すべき最近の進歩である.他の領域から血栓に関係する新しい因子が登場したり,既に知られていた因子の解析が進み,重要性が再認識されたりしていることも忘れてはならない.いうまでもなく血栓形成の3大要因は血液,血流,血管であり,本書では,凝固のみならず血流や血管の分野で国際的に活躍しておられる研究者にも御執筆を依頼して,血栓形成の分子機構を統合的に理解する基盤を築くことを企図した.
私事にわたるが,編者は1978年に鹿児島大学医学部を卒業し,恩師井形昭弘先生(前第3内科教授,元鹿児島大学学長,現名古屋学芸大学学長)の下で神経内科の研修に励んでいた頃に偶然血友病の頭蓋内出血の症例の主治医となり,丸山征郎先生(現臨床検査医学教授)の指導の下で脳卒中を主体とする臨床凝血学の研究を開始した.その後,この領域の研究を続ける為に,国内で最先端である自治医科大学の青木延雄先生(元血栓止血部門教授,元東京医科歯科大学第1内科教授)の下へ,続いて世界の最高峰の一つであるSeattleのWashington大学のEarl Davie先生(生化学部門教授)の研究室に送り出して頂いたが,四半世紀余りを経て,疾病構造の変化に伴い脳梗塞が脳卒中の主役に踊り出て,今や血栓症の治療,予防の主なターゲットの一つとなっており,運命的な回帰に既視感と使命感を覚える昨今である.
最後に,東京女子医科大学の内山真一郎教授,理化学研究所の小嶋聡一博士,名古屋大学の松下正博士,国立循環器病センターの宮田敏行部長,熊本大学岡嶋研二助教授(現名古屋市立大学教授),鹿児島大学の丸山征郎教授には本書に含まれる7つの分野の内容構成と担当執筆者の選択において貴重なご助言を頂いたこと,以前我が国初の分子病態学の教科書の刊行に尽力して頂いた中外医学社の荻野邦義氏には今回も企画の段階から全面的なご協力を頂いたことを記して,深甚の謝意を表したい.
平成17年7月 一瀬白帝
図説 血栓・止血・血管学を推薦する
血液は,血管が一旦破綻したら直ちに止血しないと個体の生存に関わる反面,血管内で固まって血栓を形成する血栓症も個体に致命的な障害を与える.一方,人間は動脈(血管)とともに老いるといわれているが,動脈硬化は血液の凝固と極めて密接な関係にある.この様に考えるとデリケートな血栓,止血の仕組み,そしてその場となる血管は長寿にとって最も重要な課題を担っており,その総合的理解と解明は未来長寿社会の創造に不可欠の課題であるといえる.老年病,成人病は生活習慣病と改称されたが,その中で特に脳血管性障害,心筋梗塞など血栓,止血,血管系の障害は極めて大きな比重を占めており,両者が解決すれば健康寿命は更に数年延びると期待されている.これらの背景を受けて,一瀬白帝教授は同学の士を糾合してこの分野の研究の成果の概観と総合的理解を目指して図説を上梓された.
本書には,底辺の広い当該分野の研究の最先端が総合的に判りやすく纏められており,学生,若手研究者,そして第一線の臨床医の知的要請に大きく貢献するであろうことを確信している.
私事に亘って恐縮であるが,私は1971年鹿児島大学に赴任した際,わが国の最も切実な脳血管性障害を研究の柱に掲げ,これを凝固学的立場から攻めることを企画した.それに応えて丸山征郎教授(現鹿児島大学臨床検査医学教室)が新しい道を開かれ,やや遅れて一瀬教授が参加された.一瀬教授は,その後この分野で次々と世界的な業績を挙げ,ワシントン大学で準教授,1992年には山形大学分子病態学教室の教授に招かれた俊秀である.これまでの目覚ましい研究が多くの優れた共同研究者の協力を得て今回ユニークな図説となって結実したことを非常に嬉しく思っている.
本領域は近年,飛躍的に進歩しており,もはや昔日の面影はないが,この分野の今後の展開が未来の人類の健康と幸福に直結していることを信じて疑わない.
本書が医学生を初め若手研究者,そして老年病に関係している全ての医療関係者に広く読まれ,本領域の研究が健やかにして幸せな未来長寿社会の構築に寄与することを確信して,推薦の辞に代えたい.
2005年8月名古屋学芸大学 学長 井形昭弘
目次
1.止血機構と血栓症 オーバービュー <齋藤英彦> 1
はじめに 1
A.止血機構 1
B.血液凝固機序 2
C.血液流動性維持機構 4
D.血栓症 4
2.21世紀の血栓症研究と倫理:特にヒトを対象とした遺伝子解析の基礎および臨床研究のために <加藤久雄> 7
はじめに 7
A.ヒトを対象とした遺伝子解析研究のための倫理ガイドライン 7
B.ヒト遺伝子解析研究を行うにあたって注意すること 9
おわりに 13
1◆血管
1.血管病の分子病態 オーバービュー <丸山征郎> 16
はじめに−第8の臓器:血管とその病態− 16
A.血管病とは何か? 16
B.生体諸システム制御臓器としての血管内皮細胞 16
C.血管平滑筋細胞の機能とその病態:形質転換 18
D.老化と血管:“ヒトは血管とともに老いる” 18
おわりに 21
2.血管と内皮の構造 <山下 篤 浅田祐士郎> 22
はじめに 22
A.動脈の構造 22
B.静脈の構造 24
C.内皮細胞の構造 25
3.血管/内皮細胞の機能と血流の作用 <安藤譲二> 27
A.血流に起因する流れずり応力 27
B.流れずり応力に対する内皮細胞応答 27
C.流れずり応力に対する遺伝子応答 29
D.血流刺激の情報伝達 31
4.脈管形成(血管発生),血管新生,動・静脈形成 <佐藤靖史> 35
はじめに 35
A.血管形成のプロセス 35
B.動・静脈の形成 37
最後に 40
5.造血・血管幹細胞の分化 <新井文用 須田年生> 41
はじめに 41
A.造血細胞・血管内皮細胞の発生 41
B.造血幹細胞・血管内皮細胞の共通前駆細胞 44
C.造血幹細胞の分化 45
D.血管内皮細胞の分化 47
E.成体における幹細胞 47
おわりに 48
6.血管内皮の向流動性機構 <小嶋哲人> 51
はじめに 51
A.血液凝固抑制機構 52
B.線維素溶解(線溶)活性化機構 54
C.抗血小板凝集抑制機構 55
おわりに 55
7.細胞接着蛋白質 <横崎恭之> 57
はじめに 57
A.血管内皮インテグリン 57
B.血管新生とインテグリン 58
C.インテグリンによるTGFβの活性化 60
D.細胞表面facilitator 61
E.動脈硬化 61
F.展望 62
8.プロテアーゼ活性化受容体 PAR <丸山征郎> 65
はじめに 65
A.PAR-1:プロトタイプのPAR 65
B.PAR-2:炎症と疼痛の受容体 67
おわりに 69
9.高脂血症/動脈硬化と血栓症 <近藤博和 堀内久徳 北 徹 横出正之> 71
はじめに 71
A.動脈硬化巣における血栓形成のメカニズム 71
B.高脂血症/動脈硬化と血栓症 73
おわりに 78
10.脳梗塞 <清水美衣 篠原幸人> 81
はじめに 81
A.脳梗塞分類 81
B.血流障害の発生機序 82
おわりに 86
11.心筋梗塞 <水野 修 島田和幸> 88
はじめに 88
A.冠動脈プラークの形成と破綻 88
B.冠動脈プラークの破綻と血栓形成 90
C.冠動脈硬化と感染症 90
D.心筋梗塞発症の日内変動 91
おわりに 92
12.末梢動脈閉塞症 <有吉秀男 左近賢人> 93
はじめに 93
A.急性(末梢)動脈閉塞症 93
B.慢性動脈閉塞症 96
おわりに 98
13.静脈血栓塞栓症(静脈血栓症) <小林隆夫> 99
A.定義 99
B.病因・病態生理 99
14.エコノミークラス症候群−肺血栓塞栓症− <牧野俊郎> 109
はじめに 109
A.肺血栓塞栓症 109
B.成田国際空港と空港クリニック概要 111
C.ECS診断と救命処置のポイント 118
D.ECSの今後の展望 118
2◆血小板
1.血小板と血栓 オーバービュー <藤村欣吾> 120
はじめに 120
A.止血,血栓症発症の概略 120
B.止血,血栓形成の分子機構 120
展望 129
2.血小板の産生機構 <小島 寛 長澤俊郎> 131
A.巨核球造血の特徴 131
B.トロンボポエチンの発見 132
C.巨核球造血に関与する転写因子 133
D.血小板は巨核球胞体突起形成を経て産生されるか? 134
E.apoptosisは血小板産生に関与しているか? 136
F.残された問題 136
3.血小板の形態 <鈴木英紀> 139
A.正常血小板の微細構造 143
B.異常血小板の超微形態 144
4.粘着,凝集,放出の分子機構 <尾崎由基男> 147
はじめに 147
A.血小板粘着の機序 147
B.血小板顆粒放出の機序 149
C.血小板凝集の機序 149
D.接着蛋白と信号伝達 150
5.血小板のシグナル伝達機構 <西川政勝> 154
はじめに 154
A.血小板活性化のシグナル 154
B.血小板の抑制性シグナル 161
おわりに 163
6.血流と血小板機能 <杉本充彦> 166
A.血小板粘着・凝集メカニズムの古典的概念 166
B.生理的血流状況下における壁血小板血栓形成メカニズ ム 167
7.血小板の膜蛋白質GPIb/V/IXとBernard-Soulier症候群 <藤元貴啓> 174
A.GPIb−IX−V複合体 174
B.Bernard−Soulier症候群 177
C.最新の動向・展望 181
8.インテグリンαIIbβ3(GPIIb−IIIa)とその異常症:血小板無力症 <冨山佳昭> 183
はじめに 183
A.インテグリンの構造 183
B.血小板無力症の分子異常 184
今後の展望 190
9.血小板とヌクレオチド/ヌクレオシド <小田 淳 中山 章 藤田博美> 192
緒言 192
A.ADP/ATPと血小板 192
B.ADPに関連する抗血小板薬 194
C.アデノシン 196
D.最新の動向・展望 196
10.その他の血小板膜糖蛋白 <諸井将明> 199
A.Integrinα2β1(GPIa/IIa) 199
B.CD36(GPIV,GPIIIb) 201
C.GPVI 201
D.最新の動向・展望 203
11.vWFとvon Willebrand病 <松下 正> 205
はじめに 205
A.von Willebrand 病発見までの歴史 205
B.vWFの生合成と分泌 205
C.vWFの機能 207
D.von Willebrand病 211
E.vWFの血栓症における役割 213
12.vWF切断酵素/ADAMTS13 <坂野史明 小亀浩市> 218
1.vWFとvWF切断酵素 218
2.ADAMTS13の発見 218
3.ADAMTS13の一次構造 219
4.各ドメインの役割 219
5.ADAMTS13の酵素学的性質と活性測定法 220
6.新しい活性測定法 221
7.ADAMTS13遺伝子の変異 221
8.マウスのADAMTS13 223
9.最新の動向・展望 223
13.TTP/HUS <藤村吉博> 227
はじめに 227
A.病型分類 227
B.病態生理 227
C.先天性TTP(/HUS) 228
D.後天性TTP 231
E.後天性HUS 232
14.血小板の骨格蛋白質とその異常−May−Hegglin異常− <国島伸治> 237
はじめに 237
A.静止期血小板の骨格とその異常 237
B.血小板活性化に伴う骨格の再構成 238
C.May−Hegglin異常 238
D.白血球封入体を伴う巨大血小板性血小板減少症の遺伝子異常 238
E.白血球封入体を伴う巨大血小板性血小板減少症におけるMYH9異常 239
F.MYH9異常症の鑑別診断法 240
おわりに 240
15.血小板の放出蛋白質 <江角泰治> 243
1.血小板由来成長因子 243
2.組織成長因子−β 243
3.その他の増殖因子 243
4.インターロイキン1β 243
5.β−トロンボグロブリン関連ポリペプチド,血小板第4因子 245
6.RANTES(regulated on activation,normal T cell expressed and secreted) 245
7.CD40リガンド,可溶性CD40リガンド 245
8.先天性顆粒異常症(Storage pool欠損症) 246
9.最新の動向・展望 246
16.特発性血小板減少性紫斑病と本態性血小板血症 <桑名正隆> 248
はじめに 248
A.特発性血小板減少性紫斑病 248
B.本態性血小板血症 252
C.最新の動向・展望 253
17.ヘパリン起因性血小板減少症 <宮田茂樹 今中秀光> 255
はじめに 255
A.病態 255
B.臨床経過 257
C.診断 258
D.治療 258
E.症例提示 261
F.今後の動向・展望 261
18.各種疾患と血小板機能異常 <横山健次> 264
はじめに 264
A.糖尿病 264
B.骨髄増殖性疾患 265
C.肝疾患 266
D.尿毒症 266
おわりに 267
3◆凝固反応
1.凝固反応と血栓 オーバービュー <中川雅夫> 274
はじめに 274
A.凝固因子の分子遺伝学的背景 274
B.構造と機能 274
C.血栓形成機序 276
D.凝固反応と病態 276
E.血栓症の臨床疫学 278
F.診断,治療,予防 278
2.フィブリノーゲンの基礎と臨床 <諏合輝子> 280
A.フィブリノーゲンの構造とフィブリン形成反応 280
B.フィブリノーゲン欠損症 282
3.XIII因子の分子病態学 <惣宇利正善 一瀬白帝> 286
はじめに 286
A.XIII因子の構造 286
B.XIII因子の生合成 287
C.XIII因子の活性化と機能 289
D.先天性XIII因子欠損症 290
E.先天性XIII因子欠損症の診断と治療 291
F.先天性XIII因子欠損症の分子病態 291
G.XIII因子関連疾患 292
H.最近の動向・展望 293
4.プロトロンビンの基礎と臨床 <山崎泰男 森田隆司> 295
はじめに 295
A.プロトロンビンの構造 295
B.Glaドメインの構造と機能 295
C.プロトロンビン遺伝子の構造 296
D.プロトロンビンの分子異常症 297
E.プロトロンビンの活性化機構 298
F.トロンビンの生理機能 301
おわりに 303
5.第X因子 <森下英理子> 305
はじめに 305
A.X因子の遺伝子構造 305
B.X因子の蛋白構造 305
C.X因子の活性化機構 306
D.X因子の生理機能 307
E.X因子の不活性化 308
F.先天性第X因子欠乏症 308
G.後天性第X因子欠乏症 310
H.最新の動向・展望 311
6.VII因子の基礎と臨床 <高宮 脩> 313
A.VII因子機能 313
B.VII因子分子の構造 314
C.VII因子遺伝子 318
D.遺伝子多型と血栓症 319
E.VII因子の測定 319
F.FVII欠乏症 320
G.先天性VII因子欠乏症の遺伝子診断 321
H.先天性VII因子欠乏症の治療 322
I.最近の動向と展望 322
7.IX因子の基礎と臨床 <新井盛大> 328
A.第IX因子遺伝子 328
B.第IX因子の機能 328
C.血友病B 330
D.最近の動向・展望 333
8.第VIII因子の基礎と臨床 <嶋 緑倫> 336
はじめに 336
A.FVIIIの基礎 336
B.血友病Aの分子生物学的基礎と臨床 339
C.インヒビター 344
D.最新の動向・展望 344
9.第V因子 <山崎鶴夫 松下 正> 347
A.FVとは 347
B.FVの凝固促進機能 347
C.FVの異常に伴う出血傾向 348
D.FVの抗凝固機能 350
E.最新の動向・展望 351
10.組織因子(Tissue Factor,CD142)の基礎と臨床:TFのゲノム特性および好中球TF <中村 伸 今村隆寿 岡本好司 上倉由有子> 353
はじめに 353
A.TFのゲノム・遺伝子特性 353
B.好中球でのTF発現 355
C.Blood−borne TF 357
D.好中球TFの役割 359
おわりに 360
11.接触系因子の基礎と臨床 <岡村 孝> 362
はじめに 362
A.接触相活性化開始機序 362
B.接触系因子の構造および機能 363
C.接触系因子活性化の臨床的意義 365
D.XII因子発現調節 366
E.先天性凝固XII因子欠損症および血栓症との関連 367
まとめ 368
12.凝固と補体系反応 <藤田禎三> 370
はじめに 370
A.補体系の概略 370
B.補体活性化の認識分子 371
C.認識分子に結合するセリンプロテアーゼ 373
D.エフェクター機構 374
E.レクチン経路の生体内における役割(MBL欠損症) 375
F.最新の動向・展望 375
13.凝固と炎症 <岡嶋研二> 377
はじめに 377
A.炎症反応における凝固系の活性化 377
B.凝固系の活性化による炎症反応の増悪 379
C.凝固制御物質による炎症反応制御 380
おわりに 382
14.血液凝固因子・血小板に作用するヘビ毒タンパク質 <山崎泰男 森田隆司> 385
はじめに 385
A.血液凝固カスケードと血小板凝集 385
B.血栓止血反応に影響を及ぼすヘビ毒由来の攻撃タンパク質 385
C.C型レクチン様タンパク質 387
D.ディスインテグリン 389
E.血液凝固系に作用するヘビ毒以外の生物毒素 390
F.出血因子(金属酵素) 390
G.血管内皮増殖因子(VEGF)とVEGF受容体結合タンパク質 390
H.Cysteine−rich secretory protein(CRISP) 391
まとめ 393
15.血友病の遺伝子治療 <小澤敬也> 395
はじめに 395
A.AAVベクターを用いた血友病Bに対する遺伝子治療 395
B.血友病 A に対する遺伝子治療 399
おわりに 400
16.血友病患者のインヒビター <瀧 正志> 402
はじめに 402
A.インヒビターの発生 402
B.インヒビターの特性 404
C.インヒビター患者の止血治療 405
D.免疫寛容導入療法 407
E.最近の動向・展望 407
17.抗リン脂質抗体症候群 <山崎雅英> 410
はじめに 410
A.疾患概念 410
B.歴史 411
C.基礎疾患 411
D.疫学 412
E.臨床症状 412
F.検査成績 412
G.血栓形成機序 414
H.抗リン脂質抗体の多様性 415
I.治療 416
J.劇症型抗リン脂質抗体症候群 419
結語 420
18.その他の後天性インヒビター−後天性抗凝固因子抗体− <家子正裕> 422
A.凝固第VIII因子インヒビター 422
B.凝固第V因子インヒビター 424
C.プロトロンビン・インヒビター 424
D.von Willebrand因子インヒビター 425
E.その他の凝固因子に対する後天性インヒビター 425
F.最近の動向・展望 428
19.播種性血管内凝固症候群 <和田英夫> 431
はじめに 431
A.症状,止血学的所見 431
B.非炎症性と炎症性DIC 432
C.基礎疾患,診断法 433
D.治療法ならびに予後 435
4◆抗凝固反応
1.抗凝固系と血栓 オーバービュー <鈴木宏治> 440
はじめに 440
A.抗凝固系 440
B.抗凝固系と感染症 446
おわりに 447
2.Protein Cの基礎と臨床 <山本晃士> 449
A.Protein Cの基礎 449
B.Protein Cの臨床(先天性Protein C欠乏症を中心に) 450
C.Protein Cをめぐる最新の動向と展望 454
3.Protein Sの基礎と臨床 <濱崎直孝> 456
はじめに 456
A.プロテインSに関する基本的情報 456
B.凝固制御因子の異常と血栓症 460
C.日本人特有の凝固制御因子異常と血栓症:プロテインSの役割 460
D.最新の動向と今後の展望 462
4.トロンボモジュリンの基礎と臨床 <小山高敏> 464
A.TM分子の構造と機能 464
B.TM発現の調節 466
C.TM遺伝子変異 466
D.TMと癌 468
E.TMの抗炎症作用・神経細胞保護作用 468
F.血漿中TM 468
G.血漿中TM測定の臨床的意義 469
H.最新の動向・展望 469
5.血管内皮プロテインCレセプター <福留健司> 473
はじめに 473
A.PCおよびAPCの血管内皮細胞への結合 473
B.EPCRの構造と機能 473
C.EPCRの発現パターン 474
D.PCの活性化反応 477
E.EPCRの欠損症 477
F.最新の動向・展望 478
6.凝固インヒビター−ATの基礎と臨床 <辻 肇> 483
はじめに 483
A.ATの構造と機能 483
B.AT遺伝子 484
C.AT欠損症の臨床 484
D.先天性AT欠損症の診断 485
E.治療と予後 488
最新の動向・展望 488
7.ヘパリンコファクターIIの基礎と臨床 <小出武比古> 490
はじめに 490
A.分子構造 490
B.遺伝子 492
C.生理機能 492
D.構造と機能相関 492
E.先天性HC II欠乏症 495
F.HC II欠乏症の遺伝子解析 495
G.KOマウスとその病理 496
8.TFPIの基礎と臨床 <加藤久雄> 498
はじめに 498
A.TFPIの構造と機能 499
B.TFPIの臨床研究 504
C.最新の動向・展望 506
9.プロテインZとZPIの分子病態学 <岩田宏紀 一瀬白帝> 510
はじめに 510
A.プロテインZの構造 510
B.プロテインZの機能 510
C.プロテインZ依存プロテアーゼインヒビター 513
D.ヒトのPZ欠損症とモデル動物 513
E.PZの生合成と血中濃度 513
F.プロテインZと血栓性疾患 514
G.今後の展望 515
10.β2−グリコプロテインIの基礎と臨床 <渥美達也> 517
はじめに 517
A.β2−グリコプロテインIの基礎 517
B.β2−グリコプロテインIの臨床 521
11.HRGの基礎と臨床 <重清俊雄> 525
A.HRG(histidine−rich glycoprotein) 525
B.先天性HRG欠乏症 526
C.家族性HRG増加症 527
D.最新の動向・展望 527
5◆線溶反応
1.線溶系と血栓 オーバービュー <松尾 理> 532
はじめに 532
A.線溶系とは? 533
B.線溶活性発現の分子メカニズム 533
C.血栓とは? 535
D.線溶系と血栓のリンク 536
E.線溶系の臨床応用としての血栓溶解療法 536
おわりに 539
2.プラスミノーゲンの分子病態学 <菅原宏文 一瀬白帝> 540
はじめに 540
A.構造 540
B.Plgの代謝 543
C.機能 544
D.先天性Plg欠損症(I型Plg欠乏症) 545
E.先天性Plg異常症(II型Plg欠乏症) 546
F.モデル動物における各種病態との関連 546
G.最新の動向・展望 547
3.tPAの基礎と臨床 <浦野哲盟> 549
はじめに 549
A.tPAの構造 549
B.tPAの局在 549
C.tPA活性の制御 550
D.tPAによるプラスミノーゲン活性化機構とフィブリンの影響 551
E.tPA欠損症の症状と遺伝子欠損動物の発現型 552
F.神経系におけるtPA の役割 552
G.薬剤としてのtPA 553
H.最新の動向・展望 553
4.uPAの基礎と臨床 <小嶋聡一> 555
はじめに 555
A.uPAの構造 555
B.uPAの機能 557
C.uPAの発現と活性の調節 558
D.uPAの臨床 561
E.uPAをめぐる今後の臨床開発研究 563
5.ストレプトキナーゼとスタフィロキナーゼの基礎と臨床 <上嶋 繁> 567
はじめに 567
A.ストレプトキナーゼ 567
B.スタフィロキナーゼ 569
C.最新の動向・展望 572
6.ウロキナーゼ受容体と細胞膜ドメイン:その基礎と病理 <高橋 敬 岩崎香子> 575
はじめに 575
A.GPIアンカー型受容体の動態と意義 576
B.uPA−uPARの病態生理 581
C.uPA−uPARの栄養生理学的モジュレーション 582
おわりに 584
7.tPA,uPAのクリアランスシステム <関 泰一郎 有賀豊彦> 586
1.肝臓によるPAのクリアランスと受容体 586
2.tPAのクリアランス 587
3.マンノース受容体によるtPAのクリアランス 587
4.LRPによるtPAのクリアランス 589
5.uPAのクリアランス 590
6.uPAの受容体とLRPによるuPAのクリアランス 590
7.アシアロ糖蛋白質受容体によるuPAのクリアランス 590
8.肝臓における線溶系因子のクリアランスの調節 590
9.今後の展望 591
8.α2−PIの基礎と臨床 <岡田清孝 松尾 理>595
はじめに 595
1.ヒトα2−PIの遺伝子 595
2.ヒトα2−PIの構造 596
3.ヒトα2−PIの機能 597
4.先天性α2−PI欠損症と異常症 598
5.臨床的治療 600
6.マウスα2−PIの遺伝子 600
7.マウスα2−PIの構造と機能 600
8.α2−PIの遺伝子欠損マウス 601
おわりに 602
9.プラスミノーゲン・アクチベター・インヒビターの基礎と臨床 <井原勇人 浦野哲盟> 606
はじめに 606
A.PAI−1 606
B.PAI−1の立体構造とPAの活性阻害機構 606
C.PAI−1による血管内線溶活性制御 607
D.PAI−1の発現調節 608
E.肥満,インスリン抵抗性における循環器 疾患危険因子としてのPAI−1 609
F.PAI−2の構造と機能 611
G.最近の動向と展望 612
10.TAFIの基礎と臨床 <石井秀美> 614
A.TAFIの名称と発見 614
B.TAFIの生化学的性質 614
C.TAFI活性化 614
D.TAFla不活性化 616
E.TAFlaの線溶阻害機序とC末端リジン 617
F.TAFIと病態 617
11.癌と細胞線溶 <新谷憲治> 620
はじめに 620
A.PA/plasminシステムと細胞外マトリックスの溶解 620
B.uPA/uPARシステムと細胞の分裂,増殖,接着,移動反応 621
C.uPA,uPAR,PAI−1,PAI−2 の発現様式 622
D.uPA/plasmin抑制による癌治療の試み 624
E.線溶系因子のノックアウトマウスを用いた癌研究 625
おわりに 625
12.物理的障害と凝固・線溶 <伊藤要子> 629
A.温熱と凝固・線溶 629
B.血管内皮細胞と凝固・線溶 631
C.放射線照射と凝固・線溶 633
D.磁場と凝固・線溶 635
E.最新情報 636
13.線溶系と増殖因子 <小嶋聡一> 638
はじめに 638
A.線溶系因子による増殖因子の機能調節 638
B.増殖因子による線溶系因子の産生調節 642
6◆出血と血栓症の治療
1.出血と血栓症の治療 オーバービュー <日笠 聡 垣下榮三> 646
はじめに 646
A.止血機構からみた出血の治療 646
B.出血性疾患の止血治療 647
C.血栓症の治療 649
おわりに 651
2.血液製剤 <高松純樹> 653
はじめに 653
A.種類 654
B.投与法 655
C.血友病製剤の副作用 655
D.抗体(インヒビター)に対する治療 656
まとめ 658
最新の動向・展望 658
3.出血と血栓症の治療−輸血 <半田 誠> 659
A.出血性疾患における輸血療法の位置づけ 659
B.血小板輸血 659
C.新鮮凍結血漿 662
D.血漿分画製剤の適応 663
E.血栓性疾患における輸血治療の位置づけ 663
F.出血性疾患に対する輸血治療の今後の展望 663
4.ビタミンKとワルファリン <白幡 聡> 664
1.ビタミンKの構造と機能 664
2.ビタミンK欠乏性出血症 665
3.ビタミンK製剤投与後の凝固系の反応 665
4.ビタミンK製剤の投与方法 665
5.ビタミンK製剤の副作用 666
6.新生児・幼若乳児へのビタミンK製剤の予防投与 668
7.ワルファリンの作用機序 669
8.ワルファリンの適応症と投与方法 669
9.最新の動向・展望 671
5.ヘパリンとその他の抗凝固薬(ヒルジン,抗Xa薬) <朝倉英策 御舘靖雄 林 朋恵> 673
はじめに 673
A.未分画ヘパリン 673
B.低分子ヘパリン 676
C.ダナパロイドナトリウム(ダナパロイド) 676
D.ヒルジンとその誘導体 676
E.アルガトロバン 678
F.Ximelagatran(キシメラガトラン)−melagatran(メラガトラン)のプロドラッグ− 678
G.抗Xa薬 679
6.漢方薬・生薬 <丸山征郎> 682
A.生体異物の代謝と漢方薬 682
B.出血,血栓症に使用される漢方薬/生薬 684
おわりに 685
7.線溶療法 <峰松一夫> 686
A.線溶療法の原理 686
B.急性心筋梗塞 687
C.虚血性脳血管障害 688
8.抗線溶療法 <新谷憲治> 692
はじめに 692
A.抗線溶剤 692
B.抗線溶療法の適応疾患 692
9.虚血性脳血管障害の抗血栓療法 <内山真一郎> 698
はじめに 698
A.抗血小板療法 698
B.抗凝固療法 703
10.冠動脈疾患の治療 <後藤信哉> 711
A.冠動脈疾患と血栓 711
B.できてしまった血栓を溶解し,心筋血流を再開させる血栓溶解療法 711
C.血栓形成を予防する抗血栓療法 712
D.最新の動向,展望 717
11.血栓症の外科的治療 <應儀成二> 720
はじめに 720
A.動脈血栓症 720
B.静脈血栓症 722
おわりに 724
12.血管病の幹細胞療法 <室原豊明 古森公浩> 726
はじめに 726
A.血管新生と血管発生 726
B.胎生期における血管内皮前駆細胞 727
C.成人における内皮前駆細胞の存在と後天的血管発生の可能性 728
D.細胞移植による血管新生療法 729
E.自家骨髄単核球細胞の移植による血管再生療法−臨床応用− 730
F.TACT trial 732
まとめ 732
13.血管病の遺伝子治療 <岩畔英樹 浅原孝之> 734
はじめに 734
A.虚血性疾患に対する遺伝子治療 734
B.血管再生治療の最前線 737
おわりに 740
7◆凝固・線溶・血小板・血管検査など
1.血栓止血関連検査 オーバービュー <渡辺清明> 744
はじめに 744
A.血小板検査 744
B.von Willebrand因子の検査 745
C.凝固線溶関連検査 746
D.遺伝子検査 747
おわりに 748
2.血小板系検査 <尾崎由基男> 750
はじめに 750
A.スクリーニングテストとしての血小板数と出血時間 750
B.血小板停滞率(粘着能,凝集能) 752
C.血小板凝集能 753
D.血小板放出能 755
E.フローサイトメトリー法による活性化血小板検出 755
3.凝固系検査 <新井盛大> 757
A.凝固時間 757
B.血液凝固因子定量 760
4.抗凝固検査 <内場光浩 岡嶋研二> 764
A.アンチトロンビン 764
B.トロンビン−アンチトロンビン複合体 766
C.プロテインC 766
D.プロテインS 768
最新の動向・展望 769
5.線溶検査 <和田英夫> 770
はじめに 770
1.ELT 770
2.Fibrinogen 770
3.FDP/D−dimer 772
4.PLG/PI/PPIC 773
5.GE−XDP/GE−FDP 773
6.PA/PAI 773
7.新しいマーカー 774
8.抗線溶療法ならびに線溶療法時のモニター 774
6.その他血管機能検査など(脈派を含む) <有吉秀男 左近賢人> 776
A.診察室で 776
B.画像診断 779
おわりに 780
7.凝固波形解析 <嶋 緑倫 松本智子> 781
はじめに 781
A.凝固波形解析の原理 781
B.凝固波形解析の応用 782
8.血栓症の遺伝子診断検査 <濱崎直孝> 789
はじめに 789
A.遺伝子検査前の一般的事項 789
B.血栓症遺伝子検査の実際 792
おわりに 795
9.血栓症とSNPs <村田 満> 796
はじめに 796
A.遺伝的要因は血栓性素因にどれだけ関与するか 796
B.SNPと疾患 797
C.血液凝固線溶因子,血小板などの遺伝的多型と血栓症 798
D.SNPsと薬剤反応性 800
E.血栓症とSNPs研究の問題点 800
10.ゲノム,トランスクリプトーム,プロテオーム解析法 <奥田智彦 宮田敏行> 803
A.ゲノム,トランスクリプトーム,プロテオームとは 803
B.ゲノム解析法 804
C.トランスクリプトーム解析法 805
D.プロテオーム解析法 806
E.最新の動向・展望 808
11.血液凝固関連因子の遺伝子改変動物 <水口 純> 810
はじめに 810
A.血液凝固カスケードとKOマウス 810
B.KO マウスから得られたユニークな結果 813
C.胎齢と致死性 813
D.KO マウスの問題点と次世代のKOマウス 816
索引 821