この度「気管支喘息診療ハンドブック」を上梓することになりました.ご承知のように生活環境の多様化にともない,アレルギー性疾患は増加の一途を辿っておりますが,なかでも喘息はわが国で罹患数500万人以上といわれ,小児から高齢者に至るまでのあらゆる年代においてみられる代表的な呼吸器疾患とされています.幸い喘息病態の研究はこの15年間に著しい進歩を遂げ,ステロイド吸入療法が確立され抗アレルギー薬が開発されたこともあり,喘息は医師の管理下において良好に維持治療することができるようになりました.したがって,喘息の診断や治療法についての基本的な考え方は,如何なる診療領域の医師においても知っておかなければならない事項となっています.
 これまでに喘息に対する診療ガイドラインが国際的にもわが国においても公表されてきました.これらのガイドラインでは,喘息に関わる諸問題を全般にわたり網羅的に書かれており,ともすれば呼吸器領域を専門としない方にとっては理解することが困難な場合がありました.そこで喘息を診療する上で解りやすく解説され,実践の臨床にすぐに役立つ本が望まれていました.本書ではこれらの要望にお応えするために,多数の喘息患者を診療されているエキスパートの先生方に大変多忙な中にもかかわらず執筆していただきました.それというのも,喘息という疾患の診療には実践で得られた診療のノウハウが重要であり,病気を管理する際に大変参考となるからです.こうして作成された本書には,喘息診療のエッセンスが至る所に散りばめられています.
 本書は,喘息の診断,治療,疫学と病態の大項目から構成されています.診断,治療においては,これらの基本的知識やコツが系統的に解説されています.また,治療に不可欠な患者さんへの説明では,日常診療でしばしば患者さんから受ける質問をとりあげQ&A形式にまとめていただきました.そして,喘息の疫学や病態については,最新のデータや研究成果に基づいた考え方が提示されています.
 本書は,喘息治療に携わる医師にとって不可欠な診療情報を提供しています.日々,進歩する喘息対策のあり方を知っていただき明日への診療に役立てていただければ編者としてこの上ない幸いです.
 最後に,本書の編集に多大なるご尽力をいただいた中外医学社稲垣義夫氏に深く感謝いたします.

2005年10月
永井厚志


◆目次◆

◆1.気管支喘息の診断  1
A.喘息診断の手順 <永井厚志> 2
 1.喘息診断の基本  2
 2.喘息を疑うポイント  3
 3.診察開始時の重症度判別と注意点  4
 4.喘息の診断手順  4
 5.症状からの診断手順  6
 6.呼吸機能からの診断手順  6
 7.喘息診断の要点  8
B.問診のコツ <木原令夫> 9
 1.NIHとGINAにおける問診  9
 2.問診のコツ  11
  1)喘息を伴う呼吸困難を主訴として来院した場合  11
  2)来院時,まったく症状がみられない患者の場合  12
 3.問診表の有用性  12
C.身体所見のとり方 <松本 強> 16
 1.急性喘息増悪の身体所見  16
  1)視診  18
  2)バイタルサイン  19
  3)身体所見  21
  4)聴診所見  21
  5)他覚的所見:PEF,FEV1.0,Sao2と身体所見の関係  23
  6)重症気管支喘息増悪  23
  7)気管支喘息と鑑別を要する疾患  24
D.臨床検査  29
D-1.喘息診断を目的とした検査 <井上洋西> 29
 1.診断は疑いに始まる  29
 2.喘息の診断基準  30
 3.気道可逆性の検討  31
  1)測定の準備  31
  2)測定の適応と禁忌  32
  3)測定装置と吸入装置  32
  4)吸入手順  33
  5)可逆性の算定法  33
  6)手順と限界  33
 4.気道過敏性検査  34
  1)気道過敏性検査の適応  34
  2)気道過敏性検査の禁忌  35
  3)気管支誘発試験に好ましい機器  35
  4)評価  35
  5)安全性  36
  6)測定の限界  37
  7)注意事項  38
D-2.気管支喘息の増悪因子を調べるための検査 <松井 潔 榊原博樹> 39
 1.喘息の発症に関わる危険因子  39
 2.増悪因子の診断の重要性  40
 3.in vivo検査  42
  1)皮膚反応によるIgE抗体の検出  42
  2)気管支吸入負荷試験  44
  3)食物負荷試験  44
  4)アスピリン喘息の診断  44
 4.in vitro検査  47
  1)非特異的IgE抗体測定  47
  2)特異的IgE抗体測定  47
  3)ヒスタミン遊離試験  48

◆2.気管支喘息の治療  51
A.喘息治療の基本 <黒川真嗣 足立 満> 52
 1.増悪因子の除去  52
 2.合併症の治療  53
 3.急性増悪(発作)時の治療法  53
  1)喘息急性発作の治療薬  53
  2)喘息発作の治療手順  55
 4.喘息の長期管理における治療法  57
  1)長期管理薬の治療薬  57
  2)喘息の長期管理の段階的薬物療法  61
B.急性発作の対策と治療法 <藤井 宏 石原享介> 64
 1.発作の初期診断,治療のポイント  65
 2.家庭における喘息発作の管理  66
 3.救急外来における治療  67
  1)小〜中発作の治療  67
  2)大発作および重積発作時の治療  69
  3)その他の治療法  72
 4.入院治療の条件  72
C.喘息の日常管理  76
C-1.誘因とその対策 <森田園子 新妻知行> 76
  1)アレルゲン  76
  2)大気汚染物質  79
  3)呼吸器感染症  79
  4)運動および過換気  80
  5)気候変化  80
  6)二酸化硫黄  80
  7)食物,食品添加物  81
  8)薬物  81
  9)激しい感情表現  81
  10)タバコの煙  82
  11)その他  82
C-2.重症度による日常管理  84
 a.喘息治療管理薬 <庄司俊輔> 84
  1)ステップによる重症度分類  84
  2)日常管理薬(長期管理薬を中心に)  87
  3)ステップごとの日常管理(長期管理)  89
  4)小児科における分類(参考)  93
 b.喘息コントロールの目標と長期管理 <大田 健> 95
 1.喘息コントロールの目標  95
  1)喘息治療の目標  95
  2)喘息のコントロールとは?  96
 2.目標達成のための喘息の長期管理  96
  1)治療方針の立て方  96
  2)薬物療法の実際  96
  3)JGL 2003とGINA 2002の比較  99
 3.今後の動向  101
  1)治療中の重症度分類  101
  2)新しい吸入療法と治療効果  101
  3)ヒト化抗ヒトIgE抗体療法  102
C-3.ピークフロー測定による喘息の管理 <佐藤長人 永田 真> 104
 1.喘息診断におけるピークフローの有用性  104
 2.ピークフロー測定の実際  105
 3.ピークフロー測定値の評価  105
 4.ピークフロー測定による喘息の管理  108
C-4.ステロイド薬の使用法 <上村光弘 工藤宏一郎> 110
 1.効果発現機序  110
 2.ステロイドの種類  110
  1)吸入ステロイドについて  110
  2)ステロイド全身投与について  112
 3.長期管理におけるステロイド療法  113
 4.急性増悪におけるステロイド療法  114
 5.副作用と対策  114
 6.Steroid-sparing agent  115
C-5.β2刺激薬の使用法 <平野綱彦 山縣俊之 一ノ瀬正和> 117
 1.β2刺激薬の作用機序と薬理作用  117
  1)アドレナリンβ受容体の構造  117
  2)β2受容体の細胞内シグナル伝達経路  117
  3)β2受容体の局在と機能  118
  4)β2刺激薬とステロイドの相互作用  118
 2.β2刺激薬の剤型と特徴  119
  1)吸入型β2刺激薬  119
  2)経口β2刺激薬  124
  3)貼付β2刺激薬  124
C-6.テオフィリンの使用法 <相沢久道 光武良幸> 127
 1.気管支拡張作用  127
 2.抗炎症作用  130
 3.テオフィリンの抗炎症作用の機序  131
 4.副作用  132
 5.気管支喘息治療でのテオフィリンの位置づけ  133
C-7.抗アレルギー薬の使用法 <玉置 淳> 135
 1.抗アレルギー薬の種類と作用機序  135
 2.抗ロイコトリエン薬  138
 3.Th 2サイトカイン阻害薬  139
 4.軽症間欠型(ステップ 1)に対する使用法  140
 5.中等症以上に対する使用法  141
C-8.喘息の教育入院 <安井修司> 144
 1.クリニカルパスを利用した喘息患者の教育入院  144
 2.リハビリテーション医学からの教育入院  146
 3.その他の教育入院システム  147
 4.実施可能な喘息教育モデル  148
C-9.妊婦と喘息 <東田有智 岩永賢司> 151
 1.喘息に及ぼす妊娠の影響  151
 2.妊娠,分娩に及ぼす喘息の影響  151
 3.妊娠中の喘息の管理  152
  1)環境因子  152
  2)薬物療法  152
C-10.手術と気管支喘息 <東田有智 佐藤隆司> 157
 1.術前の評価  158
 2.術前のコントロール  159
 3.インフォームドコンセント  159
 4.前投薬  159
 5.麻酔導入  160
 6.気管内挿管  160
 7.術中管理  161
 8.発作時の対応  161
 9.抜管  161
 10.術後管理  161
D.患者への説明 <大田 健> 164
・喘息とはどのような病気ですか  164
・喘息に何故なったのでしょうか  164
・発作を起こさないためにはどのような注意が必要ですか  164
・発作が収まらないときにはどうすればよいのでしょう  165
・薬を止めることはできないのですか  165
・気管支拡張薬の副作用にはどのようなものがあるのですか  165
・ステロイドは怖い薬ときいています.使い続けてもよいのですか  166
・抗アレルギー薬とはどのようなものなのでしょうか  166
・気管支拡張薬の吸入はどのくらいの回数を使ってもよいのですか  166
・運動療法は喘息によいのですか  167
・転地療法は喘息によいのですか  167
・私の喘息は子供にうつるのでしょうか.また,子供が喘息にならない
          ようにするにはどのような注意が必要ですか  167
・発作と心理的なストレスと関係がありますか  168
・喘息は進行する病気なのですか  168
・喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)とはどう違うのですか  168
・鼻ポリープと喘息とはどのような関係があるのでしょう  169
・たばこは喘息に悪いのですか  169
・咳喘息といわれました.どのような病気なのでしょうか  169
・食べ物で気をつけなければならないことはありますか  170
・運動すると喘息になります.運動はできないのですか  170
・花粉症の人は喘息になりやすいのですか  170
・アトピー性皮膚炎がありますが,喘息になりやすいのでしょうか  171

◆3.気管支喘息の疫学と病態  173
A.喘息の疫学 <中澤次夫> 174
 1.有症率の現況  174
  1)成人喘息の有症率,有病率  174
  2)小児喘息の有病率  177
  3)有症率の増加の原因  178
 2.臨床所見  178
 ■喘息死  180
  1)疫学  180
  2)死亡状況,死亡と関連する諸事項  182
B.気管支喘息の病態とその対策 <福田 健> 184
 1.喘息における気道の病理  184
  1)炎症の部位  184
  2)炎症細胞浸潤  185
  3)気道上皮剥離  185
  4)気道リモデリング  185
 2.喘息における気道炎症の機序  186
  1)Th 2サブタイプT細胞の役割  186
  2)気道上皮細胞の役割  187
 3.気道過敏性亢進,気道閉塞,気道リモデリングの機序  187
  1)気道過敏性の機序  187
  2)気道閉塞の機序  188
  3)気道リモデリングの成因  189

索引  193