◆ 2版の序
 “こどもの発疹のみかた?急性発疹症へのアプローチ”の第1版が出版されて,まだ2年しか経っていないというのに,感染症の世界はどんどん変化していっている.ウイルスの変化はヒトを駆逐するかのように,手を変え品を変え,我々人類を脅かしている.重症急性呼吸器症候群(SARS)のニュースが遠のいたかと思っていた矢先,トリインフルエンザの流行,さらには新型インフルエンザの恐れなど息着く暇もないほどである.
 この間に,感染症法の一部改正,結核予防法は2005年に50年ぶりに大きな改正が行われた.また,予防接種法も改正され,2006年4月から麻疹・風疹のMRワクチンが欧米に習って,2度の定期接種となった.これによって麻疹の流行,風疹罹患による先天性風疹症候群の発生を抑えられることが期待されている.こういった変化を取り入れ,この本をより新しい内容にして,日常診療に則した内容にしたいとの著者達の意向を汲んで,改編することになった.
 各疾患を最新の内容で見直し,予防接種法の改正部分の解説などに留意した.また,一般的に使われる薬剤はジェネリック薬品の使用頻度が増加しているものの,すべてを網羅できないことから最も知名度の高い薬品名のみを記載した.
 小児の感染症における病態は,時に成人と大きく異る場合がある上,皮膚病変にも惑わされることがしばしばである.この本が少しでも日常診療の役にたって頂けたらと願っている.

2006年5月
日野治子

◆ 初版の序
 皮膚科は大変に間口が広く,アトピー性皮膚炎をはじめとする湿疹・接触皮膚炎や薬疹などの診断と治療はもちろん皮膚腫瘍の手術をするし,エリテマトーデスや糖尿病の皮膚病変など全身疾患を診る.一方で,細菌・ウイルスなどの感染症も幅広く診療しなければならない.特に急性発疹症に分類される疾患は外来の診療で最も悩む疾患群の一つである.
 急性発疹症はウイルス・細菌などの感染症で,かつ急に皮膚病変を伴って発症するが,疾患そのものが多種にわたる上,鑑別にも多くの疾患が関与してくる.しかも患者の年齢層は新生児から高齢者まで非常に広くに及ぶ.最近は新興・再興感染症もからみ,なお一層複雑になってきている.
 ところで,小児が成長していく過程では多くの疾患と戦って打ち勝たなければならない.中でも感染症はウイルス,細菌など多岐にわたり,その病態は成人の病態と甚だしく異なり,成人例の知識では役立たないことがまれならず生じる.
 今までに小児に好発する急性発疹症に分類される疾患に関してきちんとまとめられた冊子がなかったように思う.これらの疾患はその鑑別に大変苦労することが多く,すぐ身近において開いてみるテキストが欲しかったことは数知れず経験している.そこで,小児の疾患に精通しておられる先生方と,わかりやすいテキストを作ってみようということになった.まず,できるだけ日常診療中に遭遇する機会の多い,身近にある疾患を選んで取り上げた.さらに,各々の先生方が最も得意とした疾患について書いてくださった.典型的な例の経過のほかに,修飾された非典型的な経過をたどる場合についても記載していただいた.
 また,できるだけ便利なようにと,予防接種,さらに小児用薬剤についてもすぐに利用できるようにつけ加えてある.予防接種は実際どのようにされているのか皮膚科医が詳しく知る機会が少ないため,最低限の知識として載せた.
 疾患の性質上常に新しい事実が生じてきて改版が必要になるかもしれないことは今から覚悟の上である.
 この冊子を暇なときにはチラッと時間つぶしに,または診断に困ったときには辞書のように,みていただければ幸いと思っている.

2004年3月
日野治子


目次

■ I.こどもの発疹のみかた -- 総論 <日野治子> …1
 A.皮膚病変の特徴 …3
  1.主に紅斑・丘疹が出現する疾患 …3
   a.麻疹 …3
   b.風疹 …3
   c.突発性発疹 …3
   d.伝染性紅斑 …6
   e.伝染性単核症 …6
   f.Gianotti病とGianotti-Crosti症候群 …6
   g.猩紅熱(溶連菌感染症) …7
  2.水疱を生じる疾患 …7
   a.水痘 …7
   b.単純ヘルペス …7
   c.手足口病 …8
  3.蕁麻疹を生じる疾患 …8
  4.多形滲出性紅斑を生じる疾患 …9
  5.その他の症状 …9
  6.診断と鑑別 …10
 B.学校保健に関する事項 …14

■ II.疾患ごとの特徴とみかた …21
  1.麻疹 <佐々木りか子> …22
  2.風疹 <日野治子> …30
  3.突発性発疹(HHV-6,HHV-7感染症) <多屋馨子> …39
  4.伝染性紅斑 <日野治子> …50
  5.エンテロウイルス感染症 <川上理子> …59
   A.手足口病 …61
   B.非定型発疹症 …65
  6.単純へルペスウイルス感染症 <小松崎眞,本田まりこ,新村眞人> …72
  7.水痘・帯状疱疹ウイルス感染症 <吉田正己> …81
   A.水痘 …81
   B.帯状疱疹 …85
  8.伝染性単核症 <日野治子> …93
   A.伝染性単核症 …93
   B.その他のEBV感染症について …102
  9.サイトメガロウイルス感染症,Gianotti-Crosti症候群 <丸山智恵> …105
   A.サイトメガロウイルス感染症 …105
   B.Gianotti-Crosti syndrome(GCS) …109
  10.B型肝炎ウイルス,Gianotti病 <森嶋智津子> …119
  11-a.膿痂疹,SSSS <西嶋攝子> …129
   A.伝染性膿痂疹 …130
   B.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS) …132
  11-b.黄色ブドウ球菌によるスーパー抗原関連発疹症(毒素性ショック症候群・新生児MRSA発疹症) <岡田隆滋> …134
   A.毒素性ショック症候群(TSS) …135
   B.新生児MRSA発疹症(スーパー抗原性発疹症) …137
  11-c.溶血性連鎖球菌感染症(猩紅熱) <日野治子> …145
  12.川崎病 <馬場直子> …153

■ III.予防接種 <日野治子> …161
  実際の予防接種 …167
   1.定期接種 …167
   2.臨時接種 …168
   3.任意接種 …168
   4.その他の予防接種 …169
  予防接種に際して注意すべきこと …169
付)小児に使うことの多い薬剤一覧 …173
   1.抗生物質 …174
   2.鎮静・催眠剤 …178
   3.解熱・鎮痛剤 …179
   4.抗ヒスタミン剤 …180
   5.抗アレルギー剤 …180
   6.抗ウイルス剤 …181

索引 …183