CT,MRI の登場以来,中枢神経の画像診断は飛躍的な進歩をとげ,臨床に重要な情報を提供してきた.最近では多列検出器 CT や 3 次元撮像 MRI の発達によりボリュームデータを用いた画像が容易に得られるようになり,画像の高分解能化が進んでいる.また実際臨床の場において,MRI や CT による高分解能画像が求められる機会が増加している.高分解能画像で観察することでより正確な評価や診断が可能となる.今後 3 テスラ MRI も臨床に応用され始め,画像の高分解能化はますます加速するものと思われる.
 さて,分解能が高いことは画像診断に重要なことであるが,分解能とはどういうことであろうか.分解能とは簡単に言えば,空間的に位置の違いを見分ける力(空間分解能),濃度の差を見分ける力(コントラスト分解能),時間的な差を区別する力(時間分解能)の 3 つがある.中枢神経の画像診断において,これらの分解能においてさまざまな撮像法の追求,工夫がなされてきた.しかし,中枢神経の各領域別に「どの撮像法が実際役に立つか」と聞かれると施設や画像機器により違いがあるであろう.
 本書はまず各中枢神経の各構造をよくみるためにはどのような撮像法が役に立つか,またその撮像法でどこまでみえるのかを示し,高分解能画像による正常解剖を取り上げた.次に高分解能画像が役に立つと思われる疾患を取り上げて解説した.その症例は日常診療で高分解能画像が有用であったものを選択し,各症例において診断のコアとなる部分を添付し理解しやすいように努めた.また最新の知見を多く採用し,高分解能画像が少しでも日常臨床に取り入れることができるように心掛けた.巻末には各撮像法の簡単な原理や利点,欠点を付した.
 多種多様な画像撮像法があるなか,日常のルーチン撮像に 1 つ別の撮像法を追加することで十分な診断に至ることも少なくない.本書はこのような日常ルーチン撮像に追加すると診断への手助けになると思われる撮像法や表示法を多く記載している.本書が脳脊髄疾患に携われる脳神経外科医,神経内科医,放射線科医,診療放射線技師の方々にお役に立てば幸いである.
 最後に症例を提供していただいた熊本大学医学部脳神経外科学講座の倉津純一教授,同神経内科学講座の内野 誠教授,同耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座の湯本英二教授,同小児科学講座遠藤文夫教授,また神経放射線診断学の恩師である産業医科大学放射線医学教室の興梠征典教授,熊本大学名誉教授の高橋睦正先生に心より感謝を申し上げる.また出版に尽力していただいた中外医学社の小川孝志氏,森本俊子氏に心よりお礼を述べたい.

2007 年 3 月
熊本大学大学院放射線診断学助教授
平井俊範


目次

第1 章 よくみえる画像とは?
 A.3 次元データ(ボリュームデータ)を用いた画像
 B.撮像法
 C.表示法
 D.各画像診断法の選択

第 2 章 各構造におけるよくみえる画像
 A.脳表面をみる
   脳溝,脳回,血管を同時にみる
 B.脳灰白質をみる
 C.脳神経をみる
 D.海綿静脈洞・下垂体をみる
  1)dynamic MRI 法
  2)造影 CISS 法
 E.頭蓋骨をみる
 F.脊椎,脊髄をみる
  1)3D CT
  2)造影 3D MRI 像
  3)高分解能 heavily T2 強調像
 G.神経路をみる
 H.脳血管をみる
  1)動脈性病変
  2)脳毛細血管性病変
  3)脳静脈性病変
  4)動静脈シャント性病変
 I.脳脊髄液をみる

第 3 章 疾患各論
 症例1.遺残三叉神経動
   2.三叉神経痛
   3.顔面痙攣
   4.舌咽神経痛
   5.脳動脈瘤(スクリーニング;MRA)
   6.脳動脈瘤(精査;CTA)
   7.脳動脈瘤(精査;3D angiography)
   8.前床突起近傍内頸動脈瘤
   9.脳動脈瘤術後(術後評価)
   10.脳動静脈奇形
   11.硬膜動静脈瘻(海綿静脈洞部)
   12.硬膜動静脈瘻(S 状静脈洞部)
   13.静脈性血管腫
   14.毛細血管拡張症
   15.脳動脈解離
   16.もやもや病
   17.頸部頸動脈狭窄
   18.内頸動脈無形成
   19.頭蓋内動脈狭窄
   20.静脈洞血栓症
   21.孤立性皮質静脈血栓症
   22.脳表ヘモジデリン沈着症
   23.血管周囲腔拡大
   24.くも膜嚢胞
   25.類上皮腫
   26.松果体嚢胞
   27.前庭神経鞘腫
   28.鞍結節髄膜腫
   29.錐体斜台部髄膜腫
   30.髄膜腫の硬膜静脈洞浸潤
   31.頸静脈孔神経鞘腫
   32.頭頸部悪性腫瘍の神経周囲性進展
   33.中枢神経系原発性悪性リンパ腫
   34.下垂体腺腫
   35.神経膠腫の術前評価
   36.くも膜顆粒
   37.前床突起の粘液嚢腫
   38.Bell 麻痺
   39.肥厚性硬膜炎
   40.先天性皮膚洞に合併した髄膜炎
   41.頭蓋縫合癒合症
   42.中脳水道狭窄症
   43.異所性灰白質
   44.下垂体性小人症
   45.視床下部過誤腫
   46.線維性骨異形成
   47.神経線維腫症 1 型に伴う頭蓋骨・顔面骨形成異常
   48.脊髄空洞症
   49.割髄症
   50.係留脊髄
   51.脊髄硬膜内髄膜播種
   52.家族性アミロイドポリニューロパチー
   53.癒着性くも膜炎
   54.脊髄硬膜動静脈瘻
   55.脊髄髄内腫瘍
   56.後縦靱帯骨化症
   57.関節リウマチに伴う環椎軸椎亜脱臼
   58.頭蓋頸椎移行部奇形

第 4 章 撮像法のまとめ
 A.3 次元 T1 強調像
  1)撮像原理
  2)スピンエコー T1 強調像と比較した利点と欠点
  3)臨床応用
 B.高分解能 heavily T2 強調像
  1)CISS 法の撮像原理
  2)スピンエコー T2 強調像と比較した利点と欠点
  3)臨床応用
 C.拡散テンソル tractography
  1)撮像原理と表示法
  2)臨床応用
 D.MRA(MR angiography)
  1)頭部 MRA の撮像法と表示・読影法
  2)CTA と比較した MRA の利点と欠点
  3)臨床応用
 E.造影 MRA(contrast−enhanced MRA)
  1)撮像法と表示法
  2)MRA と比較した造影 MRA の利点と欠点
  3)臨床応用
 F.MR−DSA
  1)撮像法と表示法
  2)MRA と比較した MR−DSA の利点と欠点
  3)臨床応用
 G.灌流画像(perfusion−weighted image)
  1)原理
  2)臨床応用
 H.拡散強調画像(diffusion−weighted image)
  1)撮像原理
  2)臨床応用
 I.SWI 法
  1)簡潔な撮像原理と表示法
  2)T2*強調像と比較した利点と欠点
  3)臨床応用
 J.CT angiography(CTA)
  1)撮像法
  2)画像表示法
  3)脳動脈瘤の精査における血管造影と比較した CTA の利点と欠点
  4)臨床応用
 K.3D angiography
  1)撮像法
  2)画像表示法
  3)脳動脈瘤評価における 3D angiography の利点と欠点
  4)アーチファクト
  5)臨床応用

索引