私が医師国家試験を受験したのは第97回,今から4年ほど前になります.ちょうどその頃は問題数が330題から550題へと大幅に増加し,試験区分もランダムになるなど(以前はAから順に行われていた),とかく学生を戸惑わせるような変革が次々と起きていた時期でした.しかしながら4年経過した記念すべき第100回医師国家試験を迎えても,なおそうした流れは収まる気配がありません.第97回前後で非公開になっていた国試が第100回からは再び公開性となり,全ての問題が組み合わせ式解答ではなくなるなど,医学生の皆さんにとってはハラハラするような変化が依然として起こっています.また平成17年からは共用試験も本格稼動し,ハラハラする学年はより一層低学年へと拡大したようです.
 しかしどれだけ試験が増えようと中身が変わろうと,医学は科学であるとの基本を忘れず,その論理的裏づけを着実に学んでいけば恐れることはありません.私自身,学生時分は常にそうした意識で取り組んでいました.様々な風評・噂の類に惑わされることなく,自分に一番合う方法(ノートにまとめるなど)で医学を理解する作業を続けておりました.実際にそうした作業を繰り返すことで各種の試験において特別の対策を練る必要もなく,結果としてスムーズなパスへとつなぐことができました.またそれらの地道な学習は医師になった後も大いに役立ち,本を読むような時間的・精神的余裕のない状況下にあっても,頭に入っている病態生理の知識と実際の所見とを照らし合わせることで大方の対応が可能でした.そういった個人的な経験を通しても,学生時代に十分に時間と労力とをかけてじっくりと医学を勉強することが,医師としての基盤造りにおいて大変重要だと思います.
 一昨年,「医学生のためにイラスト入りのわかりやすいテキストを作成して欲しい」という依頼を中外医学社から頂いた際には,大きなやりがいを感じると共に大変な責任に身の引き締まる思いでした.それからというもの,“学生に近い立場だからこそ読者の目線に立った説明を書けるはず”という信念を持ち続けながら1年近くかけて原稿を完成させました.また中外医学社にも何度も何度も編集と校正を重ねて頂きました.草稿執筆から実に丸2年,ようやくこの度の刊行にまで漕ぎ着けました.その間,中外医学社企画部の小川孝志氏,編集部の秀島悟氏の両氏は終始一貫して私のわがままを暖かく受け入れ続けて下さいました.その御苦労を考えるとまったく頭の下がる思いです.この場を借りまして深く御礼申し上げます.また浅学菲才の身である私が作成した原稿を厳しくチェックし,より医学的に正確なものへと導いてくれた呼吸器学のエキスパートである父・永井厚志氏にも深謝致します.さらに,私の原稿のミスを指摘し,よりわかりやすい文章表現へと惜しまぬ協力をしてくれた大学の同期でもある泉本典彦君にも大変感謝しております.
 そして最後に.本書がひとりでも多くの医学生の役に立ち,スムーズな国家試験対策へとつながりますことを心より願っております.

2006年8月
永井恒志


目次

§1 呼吸器感染症
 総論
 各論
  I.気道感染症
     1.急性上気道炎
     2.急性喉頭炎
     3.急性気管支炎,急性細気管支炎
  II.肺実質感染症
   A.細菌性肺炎
    総論
    各論
    各論 市中肺炎
     1.肺炎球菌
     2.インフルエンザ桿菌
     3.モラキセラ・カタラーリス
     4.レジオネラ
    各論 院内肺炎
     1.黄色ブドウ球菌
      (1)肺化膿症
      (2)膿胸
     2.緑膿菌
     3.肺炎桿菌(クレブシエラ)
     4.嫌気性菌
   B.非細菌性肺炎
    総論
    各論
     1.マイコプラズマ
     2.クラミジア
      (1)オウム病
      (2)クラミジア肺炎
     3.ニューモシスチス・カリニ
   C.肺真菌症
    総論
    各論
     1.アスペルギルス
      (1)アレルギー型:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
      (2)非侵襲型:肺アスペルギローマ
      (3)侵襲型:アスペルギルス肺炎
     2.クリプトコッカス
     3.カンジダ
   D.肺抗酸菌症
    総論
    各論
     1.結核菌
      (1)肺結核症
      (2)粟粒結核
     2.非定型抗酸菌

§2 閉塞性肺疾患
 総論
 各論
     1.慢性閉塞性肺疾患
      (1)肺気腫
      (2)慢性気管支炎
     2.びまん性汎細気管支炎

§3 拘束性肺疾患
 総論
 各論
     1.間質性肺炎
     2.塵肺
      (1)珪肺
      (2)石綿肺

§4 免疫性肺疾患
 総論
 各論
     1.気管支喘息
     2.アスピリン喘息
     3.PIE症候群
      (1)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症とPIE症候群
     4.過敏性肺臓炎
     5.サルコイドーシス
     6.Goodpasture症候群
     7.Wegener肉芽腫症
     8.アレルギー性肉芽腫性血管炎

§5 肺腫瘍
 総論
 各論
     1.原発性肺癌
     2.転移性肺腫瘍
     3.肺良性腫瘍
      (1)肺過誤腫
      (2)硬化性血管腫

§6 代謝異常性肺疾患
 総論
 各論
     1.肺胞蛋白症
     2.肺胞微石症

§7 機能性呼吸障害
 総論
 各論
     1.過換気症候群
     2.睡眠時無呼吸症候群
     3.CO2ナルコーシス

§8 嚢胞性肺疾患
 総論
 各論
     1.気管支拡張症
     2.肺分画症
     3.肺嚢胞症

§9 肺循環障害
 総論
 各論
     1.肺血栓塞栓症
     2.原発性肺高血圧症
     3.肺動静脈瘻

§10 胸膜疾患
 総論
 各論
     1.気胸
     2.悪性胸膜中皮腫

§11 縦隔疾患
 総論
 各論
     1.縦隔気腫
     2.縦隔腫瘍
       縦隔腫瘍〈各論〉
      (1)胸腺腫
      (2)神経原性腫瘍
      (3)胚細胞腫瘍
         胚細胞腫瘍〈各論〉

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