MRIが臨床に用いられるようになってから,骨・関節や軟部組織疾患における画像診断は大きく変化した.骨の描出能,利便性,経済性から,あいかわらず,骨・関節の画像診断は単純X線写真から行われることが多いが,画像診断の次のステップとして,MRIが行われることが圧倒的に多くなった.その理由として,従来の画像では到底得られなかった濃度分解能や断層面の任意性が挙げられる.事実,MRIの出現により初めて軟骨の描出が可能となり,骨髄や靱帯も明瞭に描出されることになった.また,半月板や椎間板も矢状断や冠状断など任意方向において明瞭に描出が可能となった.その結果,無侵襲性検査であることと相まって,MRIは多くの関節造影を置換し,脊椎疾患のスクリーニングあるいは精査として用いられるようになった.これまで,画像診断がほとんど無力であったスポーツ外傷に代表される軟部組織の損傷や軟部腫瘍の診断においても,その適応は急速に拡大した.今やMRIは整形外科領域の診療において,必要不可欠な画像診断モダリティであり,これを避けることは不可能な時代といえる.

 そこで,いつもポケットに入れて持ち歩けるサイズに留めながら,日常診療に役立つ内容を盛り込んだ整形外科領域疾患のMRI診断書を作ることを目的としてこのマニュアルを編集した.本書には2つの特徴がある.第1は,整形外科医と放射線科医が共同で執筆に当たったことである.内容が臨床や画像のみに偏ることなくバランスをとることで,整形外科医にも放射線科医にも役に立つ内容とすることを目的とした.第2は,読者が見やすいように,各疾患ごとに,1)症例呈示,2)読影のポイント,3)疾患の解説,4)チェックリストから構成した.症例呈示ではMRIを中心とし,必要があれば他の画像も用いた.読影のポイントでは,呈示症例あるいは疾患のMRI読影上の重要事項を箇条書きにまとめた.疾患の解説では,疾患の概略やMRI所見を簡潔にわかりやすく概説した.チェックリストでは,疾患と関連した疫学,分類,用語など重要事項を箇条書きにまとめた.症例呈示や疾患の解説のみを,拾い読みしてもよい内容とすることを心掛けた.

 このMRIマニュアルが,整形外科や放射線科の研修医には整形外科領域MRIの入門書として,また,この領域を診療している医師にはMRIに関連した知識の整理が行えるハンドブックとして,日々の診療に役立てば望外の幸せである.

1998年 1月

    福田国彦

    浅沼和生

1.解剖 <福田国彦> 1

  頚椎  2

  胸椎,腰椎  4

  肩関節  6

  上腕  8

  肘関節  10

  前腕  12

  手関節  14

  股関節  16

  大腿  18

  膝関節  20

  下腿  22

  足関節  24

  

2. 関節疾患 <尾尻博也> 27

  慢性関節リウマチ  28

  変形性関節症  30

  色素性絨毛結節状滑膜炎  32

  滑膜骨軟骨腫症   34

  滑膜血管腫  36

  アミロイド骨関節症  38

  

3.部位別関節疾患  41

 ■顎関節 <辰野 聡> 42

  顎関節症(顎内障)  42

 ■肩関節 <辰野 聡> 46

  反復性肩関節前方脱臼  46

  インピンジメント症候群  50

  腱板損傷  54

  SLAP病変  58

  肩甲上神経障害  61

  ガングリオン  64

 ■手関節 <辰野 聡> 68

  三角線維軟骨断裂  68

  骨壊死  72

  手根管症候群  76

 ■股関節 <辰野 聡> 79

  Perthes病  79

  大腿骨頭壊死  82

  一過性大腿骨頭萎縮症  86

  大腿骨頭すべり症  89

 ■膝関節 <橋本 透> 92

  ACL損傷  92

  PCL損傷  94

  側副靱帯損傷  96

  半月板損傷  99

  円板状半月板  102

  半月板嚢腫  104

  膝蓋腱・大腿四頭筋腱損傷  106

  Segond骨折  108

  滑膜嚢腫  110

 ■足関節 <辰野 聡> 112

  足関節靱帯損傷  112

  足底筋膜炎  116

  アキレス腱黄色腫  119

  アキレス腱周囲炎・腱炎・断裂  122

  

4.感染症 <入江健夫> 127

  急性骨髄炎  128

  慢性骨髄炎  130

  化膿性関節炎  132

  結核性関節炎  134

  Brodie膿瘍  136

  蜂窩織炎  138

  軟部膿瘍  140

  

5.骨・軟部損傷 <福田国彦> 143

 ■筋損傷  144

  筋挫傷と筋内血腫  144

  筋ストレインと筋断裂  148

  化骨性筋炎  151

 ■腱損傷  154

  腱炎と腱断裂  154

 ■骨損傷  157

  ストレス骨折  157

  骨挫傷  160

  

6.骨腫瘍  163

 ■骨形成性腫瘍 <浅沼和生> 164

  類骨骨腫  164

  骨芽細胞腫  166

  骨肉腫  168

  血管拡張型骨肉腫  172

  傍骨性骨肉腫  174

 ■軟骨形成性腫瘍  176

  内軟骨腫 <浅沼和生> 176

  骨軟骨腫 <浅沼和生> 178

  骨膜性軟骨腫 <浅沼和生> 180

  軟骨芽細胞腫 <浅沼和生> 182

  中心性軟骨肉腫 <浅沼和生> 184

  末梢性軟骨肉腫 <宮崎秀一> 186

  淡明細胞型軟骨肉腫 <宮崎秀一> 188

  間葉性軟骨肉腫 <宮崎秀一> 190

 ■線維性骨腫瘍 <宮崎秀一> 192

  非骨化性線維腫  192

  悪性線維性組織球腫  194

 ■血管性骨腫瘍 <宮崎秀一> 196

  血管腫  196

 ■その他の腫瘍 <宮崎秀一> 198

  脂肪腫  198

  骨巨細胞腫  200

  Ewing肉腫  204

  脊索腫  206

  アダマンチノーマ  208

  転移性骨腫瘍  210

 ■骨腫瘍類似疾患 <藤川 浩> 212

  骨嚢腫  212

  動脈瘤様骨嚢腫  214

  好酸球性肉芽腫  216

  Paget病  218

  線維性骨異形成  220

  

7.軟部腫瘍  223

 ■良性腫瘍 <藤川 浩> 224

  脂肪腫  224

  神経鞘腫  226

  腱鞘線維腫  228

  血管腫  230

  腱鞘巨細胞腫  232

  びまん性神経線維腫  234

 ■低悪性度腫瘍 <藤川 浩> 236

  デスモイド  236

 ■悪性腫瘍  238

  悪性線維性組織球腫(MFH) <吉川卓志> 238

  平滑筋肉腫 <吉川卓志> 240

  横紋筋肉腫 <吉川卓志> 242

  PNET(primitive neuroectodermal tumor) <吉川卓志> 244

  悪性神経鞘腫,MPNST <増井文昭> 246

  滑膜肉腫 <増井文昭> 248

  脂肪肉腫 <増井文昭> 250

  胞巣状軟部肉腫 <増井文昭> 252

  悪性黒色腫 <増井文昭> 254

 ■腫瘍類似疾患 <吉川卓志> 256

  サルコイドーシス  256

  結節性筋膜炎  258

  Morton神経腫  260

  

8.骨髄疾患 <入江健夫> 263

  Gaucher病  264

  骨髄腫  266

  白血病  268

  悪性リンパ腫  270

  経年的骨髄信号変化  272

  

9.脊椎疾患 <武内弘明> 273

  脊柱管狭窄症  274

  後縦靱帯骨化症  277

  黄色靱帯骨化症  280

  化膿性脊椎炎  282

  結核性脊椎炎  284

  椎間板ヘルニア  287

  滑膜嚢胞  290

  破壊性脊椎関節症  292

  脊椎分離症  295

  脊椎すべり症  298

  椎間板術後変化  300

  

索引  303