臨床医は日常診療において,日々多くの選択を必要とします.この選択を適確に下していくには,当然多数の著書や論文から得た正確で新しい知識を必要なときに,瞬時に引きだすことが重要で,そのためには多くの経験も必要です.

 我々放射線科医も当然臨床医ですが,画像診断医には多くの経験は必要でしょうか?当然必要で,学んだことをうまく臨床現場で利用できるか否かは経験によるものが大でしょう.著書や論文を多数読み,過去の症例やティーチングファイルを見ていけば,相当な能力がつきますが,それを臨床現場でうまく引き出すには経験が役立ちます.

 非常に良く勉強しているのだが,臨床現場で画像を質問されたときに,その知識の必要なものを要領良く引き出せてうまく説明できなければだめなのです.これが出来れば,当然日常の画像診断レポートも臨床医が知ろうとしている画像を作成し,簡潔で,要領を得た診断で,次の検査の指示もある良質なレポートが作成可能となります.このトレーニングがしっかりなされている放射線科医が多数いれば,「医療の包括化」「画像診断のボーダレス化」「テレラジオロジーを活用した読影企業の増加」など色々言われていますが,私は全く心配していません.真に必要な画像検査の選択や正しい読影は我々の専門なので,医療の包括化で我々の存在価値はさらに上がるでしょう.いくら読影企業が増加しても,良質なレポートを作成できる診断医の数は限られており,引っぱりダコになるでしょう.ボーダレス化し,臨床医が読影に参加しても,全体像を読みとれるのは放射線科医のみです.肩痛患者の肩の単純写真から肺癌を指摘可能なのは我々放射線科医なのです.

 私事で申し訳ありませんが,私が専門医試験を受験した1980年代には,日本語の教科書,成書というのがほとんどありませんでした.それこそ日常現場での経験を大切にし,英語の本や論文を中心に勉強しました.私は英語の教科書「Paul and Juhl's Essentials of Roentgen Interpretation」を3回読み,さらに専門医会のテキストを勉強して受験しました.その後,日本語の本が巷にあふれ出し,英語の本を読む必要性もかなり減っています.今の若い先生もPaul and Juhlの教科書をほとんど知らないようです.これら日本語の本は各々優れた内容で,特色を持っています.それではなぜ,その様な時期に,「胸部CT・MRIマニュアル」を出版するのかということです.目的は2つです.1つは我々の施設で,20年に及んで行われている卒後教育を広く利用していただきたいからです.2つ目は胸部画像診断が好きでない放射線科医が読んでも良いかなという本を作りたかったからです.そのためには画像を多く示すのはもちろん,読影に必要ないくつかのポイントを「Key」としてまとめ,さらに最低限知っておくべき,分布,好発年齢,鑑別診断などを「チェックリスト」としました.我々は毎日,仲間の読影医から症例を当てられ,上記のトレーニングを繰り返し行い,皆の前で答えていくのですが,それと同じことをこの本で得られればと思います.

 卒業してからの5年間(スーパーローテーション開始後は6年間)の卒後教育が,general radiologist育成に重要で,専門分野の研究とは別の意味での一生の財産となる知識をこの本により楽しく得られればと願います.

  2003年10月

    編 者


1章 胸部CT・MRI検査法と正常解剖   2

 1.胸部X線CT検査

 2.胸部MRI検査

 3.胸部CTの再構成画像

 4.正常CT解剖

2章 肺腫瘍   22

 1.肺過誤腫

 2.形質細胞肉芽腫/炎症性偽腫瘍

 3.結核腫

 4.硬化性血管腫,肺胞上皮細胞腫

 5.clear cell(suger)tumor

 6.キャスルマン病/巨大リンパ節過形成

 7.アミロイドーシス

 8.粘表皮癌

 9.腺房細胞癌

 10.カルチノイド腫瘍

 11.最大径2cm以下の早期肺腺癌(野口分類)

 12.類上皮血管内皮腫/血管内細気管支肺胞腫瘍

 13.(異型)腺腫様過型性/気管支肺胞腺腫

 14.小細胞癌

 15.細気管支肺胞上皮癌

 16.腺癌

 17.扁平上皮癌

 18.大細胞癌

 19.パンコースト腫瘍,上肺溝腫瘍

 20.肺癌非典型例:石灰化した肺癌

 21.子宮筋腫の肺転移

 22.肺転移(血行性肺転移)

 23.石灰化を伴う肺転移

 24.肺癌非典型例:ブラ壁発生肺癌

 25.肺癌非典型例:肺結核に合併した肺癌

 26.血管周囲細胞腫

 27.肺内リンパ節

 28.小リンパ球型とリンパ芽球型リンパ腫(BALT低悪性度リンパ腫を含む)

 29.悪性リンパ腫

 30.ウェーゲナー肉芽腫

3章 肺感染症   84

 1.細菌性肺炎

 2.吸引性肺炎(嚥下性肺炎)

 3.非定型肺炎症候群:マイコプラズマ肺炎

 4.結核

 4−1 初感染結核

 4−2 再燃性結核症

 4−3 粟粒結核

 4−4 結核の他の画像所見

 5.非結核性抗酸菌症(非定型抗酸菌症)

 6.クリプトコッカス症

 7.アスペルギルス症

 7−1 非浸潤性アスペルギルス症,アスペルギローマ

 7−2 亜浸潤性アスペルギルス症,慢性壊死性アスペルギルス症

 7−3 浸潤性アスペルギルス症

 7−4 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

 8.AIDSにおけるカリニ肺炎

 9.ウェステルマン肺吸虫

 10.レジオネラ肺炎

 11.非定型肺炎症候群:クラミジア肺炎

 12.非定型肺炎症候群:オウム病

 13.免疫不全患者(AIDS以外)の肺感染症

 13−1 免疫不全患者(AIDS以外)と感染症:肺結核

 13−2 免疫不全患者(AIDS以外)と感染症:カンジダ症

 13−3 免疫不全患者(AIDS患者)と感染症:サイトメガロウイルス

4章 胸部の先天性疾患  128

 1.気管気管支軟化症

 2.奇形気管気管支分岐(気管気管支と副心臓支)

 3.先天性気管支閉鎖症

 4.ウィリアム−キャンベル症候群

 5.先天性嚢胞性腺腫様奇形

 6.肺分画症

 7.肺動静脈瘻

 8.先天性肺低形成症候群

5章 胸部の外傷  144

 1.胸壁損傷

 2.気管と気管支の損傷(破裂,断裂)

 3.胸膜損傷(気胸,縦隔気腫,胸水,胸管損傷)

 4.肺実質損傷(肺挫傷,肺裂傷)

 5.横隔膜破裂

6章 塵肺症  154

 1.珪肺症

 2.石綿(アスベスト)関連疾患/石綿肺(アスベスト肺)

 3.超合金肺

 4.塵肺症と悪性腫瘍の合併

7章 慢性びまん性肺疾患  162

 1.慢性びまん性肺疾患;病変のパターン分類

 2.器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎

 3.通常型間質性肺炎

 4.放射線肺障害

 5.神経線維腫症

 6.サルコイドーシス

 7.ランゲルハンス細胞組織球症

 8.リンパ管(平滑)筋腫症または肺結節性硬化症

 9.肺胞蛋白症

 10.癌性リンパ管症

 11.肺気腫

 12.消失肺症候群,巨大嚢胞性肺気腫

 13.気管支喘息

 14.びまん性汎細気管支炎

 15.剥離性間質性肺炎

 16.リンパ性間質性肺炎

8章 免疫活性の変化による疾患  194

 1.リウマチ性疾患

 2.全身性エリテマトーデス

 3.進行性全身性硬化症(皮膚硬化症)

 4.アレルギー性肉芽腫性血管炎と肉芽腫症

 5.レフレル症候群(単純性肺好酸球増多症)

 6.慢性好酸球性肺炎

 7.急性好酸球性肺炎

 8.過敏性肺炎/外因性アレルギー性肺胞炎

 9.薬剤誘因性肺疾患

 10.リポイド肺炎

 11.皮膚筋炎,多発性筋炎

9章 気管・気管支  216

 1.気道充実性異物

 2.気管腫瘍

 3.嚢胞性線維症

 4.dyskinetic cilia 症候群,カルタゲナー症候群

 5.スワイヤー ジェームス症候群

10章 肺血管異常  226

 1.肺血管内腫瘍塞栓

 2.肺高血圧症

 3.肺血栓塞栓症

 4.肺動脈瘤

 5.肺水腫

 6.肺血症性塞栓症

11章 縦隔腫瘍  240

 1.胸腺腫

 2.胸腺癌

 3.胸腺脂肪腫

 4.良性奇形腫とその穿孔例

 5.胚細胞腫瘍

 6.悪性リンパ腫

 7.結核性リンパ節炎

 8.サルコイドーシス

 9.骨肉腫肺転移・リンパ節転移

 10.気管支原性嚢胞

 11.食道嚢胞,食道重複嚢胞

 12.中皮(心膜,または胸膜心膜)嚢胞

 13.神経原性腫瘍

 14.(側方)髄膜瘤

 15.髄外造血

 16.胸腔内甲状腺腫,縦隔内甲状腺腫

 17.縦隔脂肪沈着症(縦隔脂肪腫症)

 18.胸腺カルチノイド

12章 縦隔のびまん性病変  284

 1.線維性縦隔炎

 2.食道自然破裂症候群

13章 胸膜,胸壁  290

 1.CTとMRIにおける胸水と腹水の鑑別のポイント

 2.胸部領域以外の病変による胸水

 3.ストレートバック症候群

 4.非外傷性横隔膜ヘルニア

 5.一過性葉間胸水貯留

 6.医原性胸水

 7.穿通性膿胸

 8.出血性膿胸

 9.一次性自然気胸

 10.二次性自然気胸

 11.孤立性線維性胸膜腫瘍

 12.石綿肺に合併した悪性中皮腫

 13.石綿肺非合併悪性中皮腫

 14.慢性膿胸に合併した悪性腫瘍

 15.胸壁腫瘍:デスモイド腫瘍

 16.Askin腫瘍

 17.悪性胸水/強膜転移

14章 IVR  326

 1.CT下生検

 2.CTガイド下ドレナージ

 3.CT下マーキング

15章 完全フィルムレス病院における胸部CT・MRIのモニター診断  334

 1.完全フィルムレス病院における胸部CT・MRIのモニター診断

 2.胸部CT・MRIのモニター診断に必要な機能

 3.完全フィルムレス運用のための良好なレポートシステム

 4.肺癌CT検診の低線量化とモニター診断

索引