序 文

 この本は薬に関する本である.そして,2つの大きな特長を持っている.1つは,単なる薬の本に止まらず,救急医療で遭遇する機会が多い種々の疾患や病態等の治療手順の中で,薬物療法の占める位置を簡潔かつ明瞭に示した治療の手引書を兼ねていることである.薬物による治療は,それ自体が主体となる場合もあるし,外科的治療をするまでの単なるつなぎ的な役割でしかない場合もあり,そして多くはそうであるが,薬物療法と他の療法を組み合わせて治療をしている.これらにおいて,薬物療法の限界を知らねばならないのは当然である.また,一般的に用いられている薬でも,保険で認められていないものや,国内に商品がないものもあり,それらも注釈をつけ言及した.本書のもう1つの特長はその構成にある.疾患等の概要を述べた後に経時的な変化と治療方針をあげ,中でも詳述を要する治療には[治療1 …]というように番号をふり,あとでその詳細を述べ,さらに各項の最後に薬の一般名,商品名,使用法,禁忌,副作用を一覧表にして載せるという構成をとった.読む際にページを先にめくったり,また前に戻ったりで,面倒臭いかもしれませんが,ご容赦願いたい.

 これらの観点で執筆をお願いしましたが,早々にご執筆いただいた先生方には,編者の努力不足のため,刊行が予定より遅れたことをお詫び申し上げるとともに,構成の統一上,編者が多少手を入れさせていただきましたことをお許し下さい.

 経験豊富な方々が実際に即した治療の指針を示して下さったので,小さな本とはいえ,大変中味の濃い本にでき上がったと自負し,救急の現場で必ず役に立つと確信しております.多くの方々に利用していただき,ご批判やご教示をいただければ幸いです.

 ご執筆いただいた先生方には心から御礼申し上げるとともに,本書の企画の段階から刊行まで,一貫して努力して下さった中外医学社の荻野邦義氏はじめ編集部の関係諸氏に感謝申し上げます.

  平成12年10月26日

  黒川 顕


目 次

I 病 態 1

  1.CPAOA〈篠崎正博〉 2

  2.出血性ショック〈武山直志,田中孝也〉 10

  3.敗血症性ショック〈福田充宏〉 15

  4.アナフィラキシーショック〈後藤英昭,行岡哲男〉 24

  5.頭蓋内圧亢進〈横田裕行〉 28

  6.痙攣〈横田裕行〉 34

  7.悪心・嘔吐〈坂本照夫〉 42

  8.下痢〈坂本照夫〉 50

  9.腹痛〈坂本照夫〉 58

  10.疼痛〈新井正康,相馬一亥〉 67

  11.発熱〈新井正康,相馬一亥〉 77

II 疾 患 89

  1.脳出血〈高里良男〉 90

  2.脳梗塞〈島 健,平松和嗣久〉 97

  3.クモ膜下出血〈黒川 顕〉 104

  4.外傷性頭蓋内出血〈畝本恭子〉 111

  5.高血圧クリーゼ〈坂本哲也〉 120

  6.髄膜炎〈坂本哲也〉 000

  7.急性心筋梗塞〈長尾 建,林 成之,上松瀬勝男〉 139

  8.狭心症〈長尾 建,林 成之,上松瀬勝男〉 150

  9.不整脈〈田中啓治〉 159

  10.肺水腫〈田中啓治〉 168

  11.気管支喘息発作〈丸川征四郎,大家宗彦,上野直子〉 179

  12.ストレス性胃出血〈石川雅健〉 188

  13.急性膵炎〈原口義座〉 196

  14.糖尿病性昏睡〈中谷壽男〉 210

  15.低血糖性昏睡〈中谷壽男〉 219

  16.肝性昏睡〈大友康裕〉 223

  17.急性腎不全〈兼坂 茂〉 233

  18.破傷風〈藤見 聡,杉本 壽〉 240

  19.ガス壊疽〈金子直之〉 246

  20.熱傷〈田中秀治〉 254

  21.アセトアミノフェン中毒〈大橋教良〉 263

  22.ベンゾジアゼピン中毒〈大橋教良〉 268

  23.シアン中毒〈黒川 顕〉 273

  24.パラコート・ジクワット中毒〈鈴木幸一郎,木村文彦,宮軒 将〉 279

  25.有機リン中毒〈浅利 靖〉 287

  26.急性アルコール中毒〈浅利 靖〉 292

III 救急関連病態や処理時の治療 297

  1.気管内挿管〈中村敏弘〉 298

  2.人工呼吸器管理中の鎮静〈中村敏弘〉 305

  3.不穏・不眠時の薬の使い方〈黒川 顕〉 309

  4.深在性真菌症〈木村昭夫〉 316

  5.重症患者における抗菌薬の使い方〈木村昭夫〉 323

  6.DICの予防と治療〈丸藤 哲〉 333

  7.小外科手術における局所麻酔薬の使い方〈高橋 聡〉 347

索 引 355