聖マリアンナ医科大学に救急救命センタが開設されたのは1980年である.

 開設当初より我々の放射線科は深く関わてきており,現在では同センターの常勤医師1名当直医オンコール等の体制も出来上がり24時間対応している.この20年近い歳月は新しい画像診断モダリティの最も発達した時期であり,それが救急医療にも導人され画像診断の果たす役割が想像を絶する程大きくなってきている.しかし,我々の施設における画像診断検査では一次,二次救急の85%,三次救急の60%が単純写真であり,その基本的読影力の重要性は以前と全く変わていないことをここで強調しておきたい.

 放射線診断の各分野でCT,MRI,USなど新しいモダリティに偏りすぎている現在,救急放射線診断は最もgeneralradiologyの伝統が残ている分野といてよい.即ち,それに関わる放射線科医は1)患者や臨床医に対して誠実であること,2)即座に読影後,次のステプを示唆し,それを実行できること,3)画像所見の結果を臨床家に説得力をもて説明することができること,4)現場にいて読影,検査,IVRなどを行う用意があることなどが求められる.

 本格的な高齢社会の到来,医療保険の基盤となる環境の変化によって21世紀の医療は大きく変わていくことは間違いないようである.医療資源に無駄がないか,効率的かどうかの観点から,プライマリケアー,急性疾患,老人医療を中心とした改革が行われ,我々医師はそれらに無関心ではいられなくなるであろう.

 本書の筆者は日常放射線科医として救急画像診断に情熱をもって関与している「働き手」であり,日常診療に役立つものと確信している.救急の現場にいるつもりで,症例から学び取ていただければ幸いである.とくに検査の適応,順位性,IVRの適応については施設の事情によて異なる面があり,夫々の施設に画像診断の専門家を含めたdecision teamによる医療がこれから望まれることを強調したい.

 最後に中外医学社企画部小川孝志氏に感謝の意を述べ,筆を置きたい.

1998年9月

石川 徹


I.救急疾患の基礎知識  明石勝也

  A.救急医療の特殊性  2

   1)救急患者の特徴  2

   2)救急診療の手順  2

  B.緊急対処の基本  3

   1)バイタルサイン  3

   2)緊急対処法  5

   3)救急医薬品の使い方  6

II.救急疾患における画像診断の進め方  佐伯光明

  A.各種画像診断の特徴  9

   1)単純X線写真  9

   2)超音波検査  9

   3)CT検査  10

  B.実際の画像診断の進め方  11

   1)最初の重症度の判定には画像診断は関係なく常に初期治療が優先する  11

   2)生命に直接関わるような病変を優先する  11

   3)侵襲的検査の適応  12

   4)経時的変化の重要性  12

  C.非外傷性救急疾患での画像診断  14

III.ICU,重症患者のポータブル胸部単純X線写真  栗原泰之

  A.ポータブル胸部単純X線写真の特徴  18

  B.気胸・胸水のチェック  19

  C.water volumeのチェック  21

  D.tubes&linesのチェック  23

   1)中心静脈栄養カテーテル  23

   2)endotrachealt ube  23

   3)tracheotomy tube  26

   4)Swan Ganz catheter  26

   5)naso-gastric(NG)tube  26

   6)chest tube  28

IV.外傷性救急疾患における画像診断

 1.頭部外傷  川口 洋  30

 2.顔面外傷  石川牧子  36

 3.頚椎外傷  塚本 浩  44

 4.頚部外傷  石川牧子  50

 5.胸部外傷  中島康雄  54

  A 鈍的外傷  54

  B 次の検査  62

 <腹部外傷>

 6.肝  若林雅人  68

 7.脾  山内栄五郎  74

 8.腎  野坂俊介  78

 9.腸管・腸間膜  岩崎善衛  84

 10.膵  星川嘉一  88

 11.骨盤外傷  星川嘉一  92

 12.四肢骨折  北川あず真  100

 附.外傷学会損傷分類  佐伯光明  106

  A.日本外傷学会肝損傷分類  106

  B.日本外傷学会脾損傷分類  107

  C.日本外傷学会膵損傷分類  107

  D.日本外傷学会腎損傷分類  108

  E.日本外傷学会消化管損傷分類案  109

  F.日本外傷学会胸郭・肺損傷分類112

  G.日本外傷学会心・大血管損傷分類案  114

V.非外傷性救急疾患における画像診断

 <脳神経>

 1.stroke(脳卒中)川口 洋  118

  A.脳塞  118

  B.高血圧性脳出血  126

 2.くも膜下出血  今野彰子  128

 3.脳炎髄膜炎  塚本 浩  132

 4.髄麻痺  塚本 浩  136

 <呼吸循環器>

 5.胸痛/心大血管  山口敏雄  142

 6.胸痛/呼吸器疾患  新美 浩  148

 7.呼吸困難/心不全  黒木一典  156

 8.呼吸困難  荒川浩明  160

  A.ARDS  162

  B.好酸球性肺炎  164

  C.BOOP  166

  D.過敏性肺臓炎  166

  E.特発性間質性肺炎  168

  F.膠原病肺  168

 9.肺炎/健常者  新美 浩  170

 10.肺炎/免疫不全患者  荒川浩明  176

  A.non-AIDS  176

  B.AIDS  178

 11.肺炎/非感染性肺炎  新美 浩  180

 <腹部>

 12.腹痛/胆道系疾患  山内栄五郎  186

  A.急性胆嚢炎  186

  B.閉塞性黄疸  192

 13.腹痛/急性膵炎  宮崎 治  194

 14.腹痛/虫垂炎  野坂俊介  198

 15.腹痛/肝細胞癌破裂  岩崎善衛  202

 16.消化管出血  南部敦史,岩崎善衛,今西好正  206

 17.腸閉塞  宮崎 治  210

 18.腎尿路疾患  白川久美子  214

 19.婦人科疾患  笹下 薫  220

 20.非外傷性救急椎骨軟部疾患  北川あず真  228

  A.脊椎  228

  B.関節症  230

  C.腫瘍性骨疾患  232

VI.小児救急画像診断  野坂俊介

 ■外傷

  A.鈍的腹部外傷  234

  B.四肢の骨折  235

  C.被虐待児症候群  239

 ■非外傷

  A.中枢神経系  240

  B.胸部  241

   1)喘鳴  241

   2)咳そう・発熱  243

  C.腹部247

   1)腹痛  248

   2)嘔吐  257

   3)腹部膨満  260

 索引  265