この本は最近はやりの,家庭での料理の楽しみ方などによく出てくるレシピ(材料は鶏肉とタマネギ,調味料はしょう油大さじ3,酢小さじ1,などなど)を書くつもりで仕上げました.
 私は料理を食べることが大好きで,自分で作ることも大好きです.以前は特に興味もなかったのですが,36歳の時に単身赴任してから料理の楽しさに目覚めました.子供の学校のこともあり,一人で郡山に行きました.食事などその辺でちょっと買ってくるか,食べに行けばよいなどと考えていました.しかし,外で買った物や外食はあまり好みにあわず,それなら自分で作ってしまえ,と思いました.ところが簡単と思っていた鶏のから揚げが,火が強すぎて中が生肉であったり,ハンバーグがバラバラになったり,コロッケが爆発したりと散々でした.そこで,最も無難と思われた煮物のレシピを家内に教わり,やっとまともな夕食にありつけるようになりました.ところで,皆さんも,自分で食事を作ってみるとわかると思いますが,レシピ通りに作ると,まあまあの物はできるのですが,おいしいお店のものとはかなり違うのです.きっと,おいしい餃子の中身には,とても想像もつかないものがたくさん入っているのでしょう.テレビでやっていましたが,タレントさんが,牛スジ肉の煮込みが評判の店に行って食べた所,想像もつかないおいしさであり,秘訣を聞いたが教えてくれない.やっと何十回か通って,レバーのミンチも入っているらしい事がわかったと話していました.まあ,だから高いお金を払って外に食べに行くのでしょう.
 CTが出た頃は,患者さんを動かさないように工夫すれば,そこそこ誰がやっても同じような検査ができました.CT機器が発達し,ヘリカルCT,マルチスライスCTが開発されるに至っては,それこそ多くの要因がありすぎ,患者さんを前にして途方にくれることもあり得ます.そこで我々の長い経験と多くの人達の知恵をもち寄ってプロトコール集が作られました.これにより我々の完全フィルムレス,ペーパーレスの運用も良好なものとなりました.しかしこの本はあくまで,レシピであり,まあまあの合格点ぎりぎりのものしかできないと思ってください.各施設,各機器にあった,最もよいCT画像が,あなたの工夫によって生まれ得るのです.ちょっとした工夫で,ダイナミックCTが利用されるようになったのと同様,あなたの“秘密の味”を入れることによって,すばらしい検査や画像ができ上がるかもしれません.この本がきっかけで,画像検査や画像診断のおもしろさに気がつき,楽しみながら仕事をして下さる医療人が一人でも増えることを願います.

   2005年2月
   櫛橋民生


目 次

1章  この本の使い方  <櫛橋民生>  1
     1)対象者  1
     2)目次や索引の重要性  1

2章  どうしても避けられない基本事項  <浮洲龍太郎>  3
 1.マルチスライスCTの登場と医療現場への影響  3
 2.本書の用語について  4
   A)装置  4
     1)マルチスライスCT  4
     2)DAS,data acquisition system(データ収集装置)  4
     3)空間分解能,高コントラスト分解能  4
     4)密度分解能,低コントラスト分解能  5
     5)時間分解能  5
     6)スリップリング  5
   B)撮影  5
     1)ヘリカルスキャン  5
     2)コンベンショナルスキャン  5
     3)ヘリカルピッチ  5
     4)コリメーション  5
     5)管球回転速度  5
     6)コーン角  6
   C)画像  6
     1)容積データ  6
     2)再構成間隔  6
     3)冗長データ  6
     4)部分容積効果  6
     5)等方性  6
     6)補間再構成  6
     7)再構成厚  6
     8)再構成間隔  6
     9)アーチファクト  7
   D)HRCT,多断面構成,三次元表示など  7
     1)High resolution CT; HRCT(高分解能CT)  7
     2)Multiplanar reconstruction; MPR(多断面再構成)  7
     3)Virtual bronchoscopy; VB(仮想気管内視鏡)  7
     4)Virtual colonoscopy; VC(仮想大腸内視鏡)  7
     5)CT angiography  7
   E)その他  8
     1)自動注入器  8
     2)心電図同期ユニット  8
     3)CT値  8
     4)造影剤  8
     5)造影剤の副作用  8
3.マルチスライスCT検査の基本  8
   A)入室から検査開始まで  9
   B)スキャンパラメータの設定  10
   C)画像表示のポイント  10
   D)造影剤の使用法  11
4.Recipeはいかが?  11

3章  フィルムレス環境下でのマルチスライスCT画像の取り扱い      <櫛橋民生>  13

4章  疾患別プロトコール集    17
    ・各プロトコールの記載形式  <櫛橋民生>  18
   1)脳神経・頭頚部  <浮洲龍太郎>  19
     1.頭部単純  19
     2.頭部外傷  22
     3.頭部造影  24
     4.脳動脈  26
     5.脳腫瘍術前  30
     6.眼窩骨折  32
     7.顔面外傷  34
     8.副鼻腔,下垂体腺腫術前  36
     9.頚部の腫瘍・炎症  38
     10.CCF(内頚動脈海綿静脈洞瘻)  40
     11.頭蓋頚椎移行部  42
     12.頚部動脈  44
     13.中耳  46
   2)胸部  <藤澤英文>  48
     1.胸部スクリーニング  48
     2.びまん性肺疾患  50
     3.非腫瘍性肺疾患精査(肺炎,結核,非定型抗酸菌症ほか)  52
     4.気胸精査,ブラ  54
     5.肺腫瘤-1 原発性肺腫瘍(疑い)初回・術前検査  56
     6.肺腫瘤-2 転移性腫瘍,follow up症例  60
     7.肺腫瘤-3 肺動静脈瘻,動静脈奇形  62
     8.縦隔腫瘍精査  64
     9.胸膜・胸壁病変  66
     10.胸部外傷  70
     11.仮想気管内視鏡(virtual bronchoscopy)  72
   3)腹部・骨盤  <武中泰樹>  74
     1.上腹単純  74
     2.上腹造影  76
     3.全腹部単純  78
     4.全腹部造影  80
     5.骨盤単純  82
     6.骨盤造影  84
     7.腹部アンギオ  86
     8.膵腫瘍  88
     9.膵腫瘍(多相撮影)  90
     10.尿路結石  92
     11.腎ダイナミック  94
     12.肝ダイナミック  96
     13-1.肝CTAP  99
     13-2.肝CTA  100
     14.DIC-CT  102
   4)骨軟部  <藤澤英文>  105
     1.骨盤骨折  105
     2.関節内骨折  108
     3.骨軟部腫瘍  111
     4.関節内遊離体  114
     5.椎体  117
   5)大血管  <武中泰樹>  120
     1.胸部アンギオ  120
     2.肺塞栓  122
     3.下肢静脈  126
     4.大動脈解離(急性期)  128
     5.大動脈解離(経過観察期)  130

5章  広範囲のMSCTの上手な使い方  <浮洲龍太郎>  133
     1.躯幹転移検索  134
     2.肝癌および転移検索  136
     3.肺塞栓  138
     4.脊髄動静脈奇形,硬膜動静脈瘻  140

6章  マルチスライスCT総論  <武中泰樹>  143
 1.スキャンパラメータ  143
   A)検出器の構成  143
   B)DAS,data acquisition system(データ収集装置)  144
   C)コリメーション  145
   D)ヘリカルピッチ  145
   E)実際に検査を行う際の考え方  146
 2.画像の作成と3DCT  147
   A)画像の作成と運用  147
   B)種々の3D処理  148
     1)3D処理の関係  148
     2)MPR系  148
     3)MIP系  149
     4)VR系  150
 3.アーティファクト  150
 4.造影剤  150
   A)全般的な注意  150
   B)投与経路の確保と注入  151
   C)注入速度と留置針の関係  151
   D)注入量と注入速度  152

索引  153

◆コラム
  マルチスライスCTと医療被ばく  29
  留置針と感染防止  61
  肝癌に的を絞った検査  97
  32スライス以上のマルチスライスCT  124