第2版の序

 本書の第1版を出版してはや3年余が経過し,幸いにも読者に恵まれ改訂版を上梓できる機会を得た.著者にとってはまことに喜ばしい.

 世の中はしかしまことに目まぐるしく変化している.臨床で使用される医薬品も,画期的な新薬の登場で劇的に変化することもあれば,長所が明確でなくとも「何となく使いやすい」というだけで,いつの間にか旧薬を駆逐してしまうこともある.麻酔,ICU領域での薬に関する最近の最大のトピックが,ラボナールR製造中止事件であったことは異論なかろう.設備の老朽化と採算割れを理由に,1997年8月にメーカーサイドより突然,製造中止が発表されたが,その直後からの麻酔科医師たちらによる機敏な反論により,10月29日の記者会見で撤回されたのは記憶に新しい.今回の薬価改訂で大幅に値上げが認められたのは「災い転じて」の口かも知れないが,ご同慶の到りである.安くて良い商品は消費者にとっては確かにありがたいが,製造コストさえ賄えぬ価格を強要されては,メーカーもさすがにつらかろう.

 この事件から幾つもの問題が考えられるが,通常の工業製品なら当然であるはずの,品質と価格の関係が医薬品には当てはまらないことは注意しなくてはならない.つまり良いものは高く,安物はそれなりの品質という常識が,医薬品ではそうならないのである.

 本書巻末の「各薬剤の基準薬価」を見て頂ければ分かるが,その領域で絶対的ともいうべき薬剤が,単に「古い」という理由で非常に低い価格設定がなされているのである.たとえばエピネフリン(ボスミンR)・アミノフィリン・ジゴキシン・アトロピン・クロルプロマジン・フロセミド(ラシックスR)・ジアゼパム,などがそうである.新薬が高いのは開発費用ももちろん大きな因子であるが,薬剤の価格はかなり政策誘導的に決定されているのである.現在の薬価政策が続けば,こうした古くからの薬剤はいずれ不当に葬りさられ,代わりにメーカーの利益を確実に確保できる薬品のみが市場に流通する事態になりかねない.不用意に新製品に飛びつく習性も(もしそうした医師がいればという話であるが)改めねばなるまい.

 しかしそうした時代の試練に耐えて生命を永らえる優れた薬品も少なくない.改訂の作業に当たって改めて旧版を見直し,そこに記載された薬剤のほとんどが命脈を保っていることに安心した.しかしなかにはすでに販売中止になった薬剤もあり,これらは新版では削除した.代わって新薬を追加したため,若干収載薬は増えた.最後に基準薬価は1998年3月の改定によるものである.読者諸賢の日々の臨床の参考になれば幸いである.

1998年9月

福家伸夫 

目次

1吸入麻酔薬 〈後藤隆久〉1

1.亜酸化窒素(笑気) 3

2.イソフルラン 5

3.セボフルラン 7

4.エンフルラン 9

5.ハロタン 10

 6.キセノン 11

2静脈麻酔薬 〈後藤隆久〉13

1.チオペンタールナトリウム・チアミラールナトリウム 15

2.ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール(R)) 17

3.塩酸ケタミン 19

4.プロポフォル 21

3筋弛緩薬 〈後藤隆久〉23

1.臭化ベクロニウム 26

2.臭化パンクロニウム 28

4.塩化ツボクラリン 30

5.塩化スキサメトニウム(塩化サクシニルコリン) 32

4局所麻酔薬 〈南部隆〉34

1.塩酸ブピバカイン(マーカイン(R)) 36

2.塩酸メピバカイン(カロボカイン(R)) 38

3.塩酸リドカイン(キシロカイン(R)・ペンレテープ(R)・リドカイン(R)) 39

4.塩酸プロカイン(オムニカイン(R)・バンカイン(R)) 42

5.塩酸ジブカイン(ペルカミン(R)) 44

6.塩酸テトラカイン(テトカイン(R)) 46

7.塩酸プロピトカイン(シタネスト(R)) 48

5鎮痛薬 〈南部隆〉50

A.麻薬

1.タラモナール(R)(ドロペリドール+クエン酸フェンタニル) 52

2.フェンタニル(ファンタネスト(R)) 54

3.塩酸モルヒネ・塩酸モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R)) 56

4.硫酸モルヒネ徐放剤(MSコンチン(R)) 59

5.塩酸ペチジン(オピスタン(R)) 55

6.リン酸コデイン(リンコテ(R)・コデイン(R)・リン酸コデイン(R)) 64

B.拮抗性鎮痛薬

1.ペンタゾシン(ペンタジン(R)・ソセゴン(R)・トスパリール(R)・ヘキサット(R)・ペルタゾン(R)) 66

2.塩酸ブプレノルフィン・塩酸ブプレノルフィン坐剤(レペタン(R)・ザルバン(R)・ハイマペン(R)) 68

3.酒石酸ブトルファノール(スタドール(R)) 71

4.臭化水素酸エプタゾシン(セダペイン(R)) 73

C.非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)

1.アスピリン 75

2.メフェナム酸(ポンタール(R)) 78

3.インドメタシン(インテバン(R)他) 81

4.ジクロフェナク(ボルタレン(R)) 86

5.イブプロフェン(フェルデン(R)) 91

6.ピロキシカム(フェルデン(R)) 95

 7.フェルルプロフェンアキセチル(リップフェン(R)・ロピオン(R)) 99

6カテコラミンおよび類似薬 〈新見能成〉101

1.塩酸エフェドリン 103

2.塩酸フェニレフリン 105

3.塩酸メトキサミン 107

4.塩酸ドパミン 109

5.塩酸ドブタミン 111

6.ノルエピネフリン 113

7.エピネフリン 115

8.塩酸イソプレナリン 108

7強心薬(非カテコラミン) 〈新見能成〉120

1.ジゴキシン 122

2.アミノフィリン 125

3.オルプリノン 110

4.ミルリノン 125

5.アムリノン 110

8降圧薬・血管拡張薬 〈三枝宏彰〉134

A.ニトロ剤・冠拡張薬

1.ニトログリセリン 136

2.硝酸イソソルビド(ニトロール(R)・フランドール(R)) 138

3.ニコランジル(シグマート(R)) 139

B.カルシウム遮断薬

1.ニフェジピン 140

2.塩酸ジルチアゼム 141

3.塩酸ベラパミル 143

4.塩酸ニカルジピン 145

C.血管拡張薬

1.塩酸トラゾリン 146

2.プロスタグランディンE1(アルプロジルアルデファックス(R)) 147

3.プロスタグランディンE1(リポ型) 148

D.β遮断薬

1.プロプラノロール 149

E.その他

1.カンシル酸トリメタファン 151

2.メシル酸フェントラミン 152

3.塩酸ヒドララジン 153

4.レセルピン 154

 5.ニトロプルシドナトリウム(ニトプロ(R)) 156

9抗不整脈薬 〈三枝宏彰〉158

1.塩酸リドカイン 160

2.塩酸プロカインアミド(アミサリン(R)) 161

3.リン酸ジソピラミド(リスモダンP(R)) 162

4.塩酸メキシレチン(メキシチール(R)) 163

10トランキライザー類(注射薬) 〈照井克生〉165

A.ベンゾジアゼピン系

1.ジアゼパム(セルシン(R)・ホリゾン(R)) 167

2.ミダゾラム(ドルミカム(R)) 169

3.フルニトラゼパム(ロヒプノール(R)・サイレース(R)) 171

B.向精神薬類

1.塩酸クロルプロマジン(コントミン(R)・ウィンタミン(R)) 173

3.レボメプロマジン(ヒルナミン(R)・レボトミン(R)) 176

4.ハロペリドール(セレネース(R)・ケセラン(R)) 178

5.ドロペリドール(ドロレプタン(R)) 181

11気管支喘息治療薬 〈徳竹修一〉183

1.アミノフィリン 185

2.硫酸オルシプレナリン(アロテック(R)) 186

3.硫酸サルブタモール(ベネトリン(R)) 187

4.エピネフリン 188

5.塩酸イソプレナリン 189

6.ステロイド類(気管支喘息治療の適応薬) 190

7.塩酸ブロムヘキシン(ビソルボン(R)) 191

12麻酔前投薬 〈照井克生〉192

A.自律神経作用薬

1.硫酸アトロピン 194

2.臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ(R)) 196

3.塩酸ピレンゼピン(ガストロゼピン(R)) 197

B.鎮静薬

1.ジアゼパム(セルシン(R)・ホリゾン(R)) 198

2.フルニトラゼパム(ロヒプノール(R)・サイレース(R)) 200

3.ニトラゼパム(ベンザリン(R)・ネルボン(R)) 202

4.エスタゾラム(ユーロジン(R)) 204

5.フルラゼパム(インスミン(R)) 206

6.トリアゾラム(ハルシオン(R)) 208

7.ブロチゾラム(レンドルミン(R)) 210

8.ゾピクロン(アモバン(R)) 212

9.オキサゾラム(セレナール(R)) 214

10.ブロマゼパム(レキソタン(R)・セニラン(R)) 216

C.ヒスタミン遮断薬(H2遮断薬を含む)

1.塩酸ヒドロキシジン(アタラックスP(R)) 218

2.シメチジン(タガメット(R)) 220

3.塩酸ラニチジン(ザンタック(R)) 222

4.ファモチジン(ガスター(R)) 224

13利尿薬 〈徳竹修一〉226

1.フロセミド(ラシックス(R)) 228

2.ブメタニド(ルネトロン(R)) 230

3.カンレノ酸カリウム(ソルダクトン(R)) 231

4.アセタゾラミド(ダイアモックス(R)) 233

5.D-マニトール(マンニゲン(R)・マンニットール(R)他) 235

6.グリセリン(グリセオール(R)) 236

14凝固,線溶系作用薬 〈福家伸夫〉237

1.ヘパリン・低分子ヘパリン(=ダルテパリン・フラグミン(R)) 239

2.硫酸プロタミン 241

3.ウロキナーゼ 242

4.組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA) 244

5.ワルファリン(ワーファリン(R)) 246

6.アンチトロンビンIII(アンスロビンP(R)・ノイアート(R)) 249

15蛋白分解酵素阻害薬 〈福家伸夫〉251

1.メシル酸ガベキサート 253

2.メシル酸ナファモスタット 255

3.ウリナスタチン 257

16抗痙攣薬 〈小澤みどり〉259

1.フェニトイン(アレビアチン(R)・ジフェニルヒダントイン(R)・ヒダントール(R)) 261

2.カルバマゼピン(テグレトール(R)・テレスミン(R)・レキシン(R)) 264

3.ジアゼパム(セルシン(R)・ホリゾン(R)) 267

4.硫酸マグネシウム(マグネゾール(R)) 269

17ホルモン製剤 〈小澤みどり〉271

A.ステロイド

1.リン酸ヒドロコルチゾン(クレイトン(R)・コルチクール(R)・水溶性エキセレート(R)・水溶性ハイドロコートン(R)・メデコート(R)) 271

2.コハク酸ヒドロコルチゾン(エキセレート(R)・サクシゾン(R)・ソルコーテフ(R)) 273

3.コハク酸プレドニゾロン(水溶性プレドニン(R)) 276

4.コハク酸メチルプレドニゾロン(ソルメドロール(R)) 280

5.リン酸デキサメタゾンナトリウム(デカドロン(R)・オルガドロン(R)・コルソン(R)) 283

6.リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロン(R)) 283

B.インスリン

速効型インスリン(ノボリンR40・100(R)・ヒューマリンR(R)・インスリンノボアクトラピッドMC(R)・イスジリン(R)) 294

18消毒薬 〈赤澤訓〉276

1.グルコン酸クロルヘキシジン 297

2.ポピドンヨード 303

3.消毒用アルコール 306

4.塩化ベンザルコニウム(第四アンモニウム塩系消毒薬) 308

5.塩化ベンゼトニウム(ハイアミン(R)) 312

19子宮収縮薬 〈照井克生〉313

1.オキソトシン(アトニン-O(R)・シントシノン(R)) 315

2.マレイン酸エルゴメトリン(エルゴメトリン(R)) 317

2.マレイン酸メチルエルゴメトリン(メテナリン(R)) 318

3.ジノプロスト(プロスタグランディンF2α・プロスタルモンF(R)) 319

20その他 〈赤澤訓〉297

1.ネオスチグミン(ワゴスチグミン(R)) 320

2.酒石酸レバロルファン(ロルファン(R)) 322

3.塩化ナロキソン 326

4.フルマゼニル(アネキセート(R)) 328

5.塩酸ドキサプラム(ドプラム(R)) 330

6.ダントロレンナトリウム(ダントリウム(R)) 333

7.炭酸水素ナトリウム 334

8.カルシウム製剤(塩化カルシウム(R)・カルチコール(R)) 337

9.カリウム製剤(K.C.L.(R)・アスパラK(R)) 340

付各薬剤の基準薬価 〈福家伸夫〉342

薬品名索引 358