序
心臓血管疾患を担当する外来，病棟，ICU/CCU，手術室では，救急処置を要する場面に遭遇することがまれではなく，現場の若手医師や看護スタッフは，こうした事態に的確に対処することが求められている．心臓手術や大血管手術は年々増加し，最近の統計では年間4万5千人を超す手術がわが国で実施されている（日本胸部外科学会報告，2001年8月）．これからも手術数の増加傾向は続くと考えられ，心臓血管手術患者の診療，看護を担当する若手医師や看護スタッフは，心臓血管外科に関する基本的知識や技術の習得を日頃から心がけている必要がある．
本書は，外科治療を要する心臓血管疾患をわかりやすく解説し，その手術と患者管理のポイントについて述べている．多数の心臓血管手術を担当している若手医療スタッフが執筆しているので，基本的知識とともに，実際の看護に直接役立つ実践的内容が豊富に含まれている．
循環器疾患の特徴は，症状の急変がまれではないことである．その際，担当看護職員はあわてることなく，状況を把握して迅速な処置をとることが必要である．医療担当者は，こうした要請に応えるべく日夜研鑽を重ねているが，必要とされる知識の量は多く，限られた情報の中で迅速な判断を迫られることもある．
本書は，心臓血管疾患をこれから勉強しようとする学生や若手スタッフ，また毎日忙しく働いている看護スッタフのために，心臓血管外科を理解するのに必要な知識をコンパクトにまとめ，わかりやく示すことをめざした．本書によって新人の医療，看護スタッフは新たな知識を吸収することができ，ベテランのスタッフは自分の知識をリフレッシュすることができるであろう．本書がテキストブックやレファレンスとして活用され，心臓血管疾患の患者管理と看護に役立つことを期待している．
2003年9月
編者
1．心臓血管外科，ICU（集中治療部）の基本的知識 〈安達秀雄〉 1
A．循環器（心臓血管）疾患の診療 1
1．循環器疾患の診断 1
2．循環器疾患の治療 3
B．心臓血管外科手術の特徴 5
1．手術治療の適応 6
2．人工心肺の使用と手術数の推移 7
C．ICUの役割と緊急症例の受け入れ 10
1．ICUの役割 10
2．緊急症例の受け入れ 10
D．手術前後の検査項目 11
1．入院時一般検査項目 11
2．虚血性心疾患 11
3．心臓弁膜症 11
4．先天性心疾患（成人） 12
5．胸部大動脈疾患 12
6．腹部大動脈疾患 12
7．術前一般処置 12
8．術後管理指示項目 13
2．心臓手術の補助手段─人工心肺─ 〈百瀬直樹〉 14
A．人工心肺の歴史と目的 14
B．体外循環回路と構成部品 15
1．カニューレ 17
2．脱血回路 17
3．送血回路 17
4．送血ポンプ（血液ポンプ） 17
5．人工肺 18
6．貯血槽 19
7．心筋保護 19
8．温度管理 20
C．体外循環のモニタ 21
1．患者側モニタ 21
2．人工心肺側モニタ 22
D．体外循環の実際 23
1．情報の収集と体外循環プランの作成 23
2．組み立て 24
3．充填 24
4．ヘパリンの投与 24
5．カニューレの挿入 25
6．体外循環の開始 25
7．冷却 25
8．完全体外循環 26
9．大動脈遮断 27
10．心筋保護液の注入 27
11．体外循環の維持 28
12．復温開始 29
13．大動脈遮断解除 29
14．心拍動再開 29
15．体外循環からの離脱 30
16．体外循環の終了 31
17．カニューレの抜去 31
18．プロタミンの投与 31
19．人工心肺内残血処理 31
E．人工心肺の特殊性 31
F．想定される事故の分析と具体策 32
1．人工心肺の停止 32
2．気泡の送り込み 33
3．酸素加不良 34
4．回路の抜けや破損 35
5．血液の凝固 35
6．誤薬と異型輸血 36
7．不適当な心筋保護 36
8．吸引や脱血の異常 36
9．汚染（感染） 37
3．心臓血管外科手術の麻酔 〈平崎裕二〉 38
A．全身麻酔総論 38
1．麻酔の定義 38
2．全身麻酔の歴史 38
B．麻酔管理に用いられる薬剤 39
1．全身麻酔薬 39
2．麻薬性鎮痛薬（オピオイド） 39
3．筋弛緩薬 40
4．循環作動薬 40
5．冠血管拡張薬，血管拡張薬 41
6．抗凝固薬 41
C．麻酔中のモニタ 41
1．循環器系のモニタ 43
2．呼吸器系のモニタ 45
3．血液凝固のモニタ 45
4．体温 45
D．麻酔の実際 46
1．概要 46
2．手術前回診 47
3．麻酔前投薬 48
4．麻酔の準備 48
5．手術室入室，麻酔導入 48
6．体外循環確立までの麻酔管理 49
7．体外循環 49
8．体外循環離脱 49
9．体外循環離脱後 50
10．手術終了，集中治療室移送 51
E．各手術の麻酔 52
1．虚血性心疾患に対する手術の麻酔 52
2．弁膜症手術の麻酔 52
3．大血管手術の麻酔 55
4．虚血性心疾患と手術 〈山口敦司〉 59
A．冠動脈バイパス手術の対象疾患 59
1．冠動脈の解剖 59
2．病態生理 60
3．冠動脈病変の危険因子 61
4．冠動脈バイパス手術の適応 61
5．手術成績と術前危険因子 62
B．冠動脈バイパス手術の実際 62
1．人工心肺使用下バイパス手術 62
2．心拍動下バイパス手術 64
3．冠動脈バイパス手術に用いられる代表的なグラフト 65
C．心筋梗塞合併症に対する手術 69
1．心室中隔穿孔 69
2．心室破裂 69
3．乳頭筋断裂 69
4．左室瘤あるいは拡大した左室に対する手術 69
D．術後合併症 70
1．術後出血 70
2．術後心機能障害 71
3．脳梗塞 71
4．腎不全，肝機能障害，呼吸機能障害 71
5．術後感染症 73
E．クリニカルパス 73
F．術後短期経過および長期予後 73
5．心臓弁膜症と手術 〈川人宏次〉 74
A．大動脈弁疾患 74
1．症状 74
2．病態生理と手術適応 74
3．手術 74
4．術後管理のポイント 79
B．僧帽弁疾患 80
1．症状 80
2．病態生理と手術適応 80
3．手術 80
4．術後管理のポイント 83
C．連合弁膜症 84
D．三尖弁疾患 84
1．病態生理 84
2．症状 84
3．手術 84
4．術後管理のポイント 85
E．感染性心内膜炎 86
1．病態生理 86
2．診断 87
3．治療 87
F．Maze手術 87
1．適応 87
2．手術 88
3．術後管理のポイント 88
6．先天性心疾患と手術 〈安達秀雄〉 89
A．心房中隔欠損症 89
1．概念と病態生理 89
2．診断 90
3．手術治療 90
4．術後管理 91
B．心室中隔欠損症 92
1．概念と病態生理 92
2．診断 93
3．手術治療 93
4．術後管理 94
C．動脈管開存症 95
1．概念と病態生理 95
2．診断 95
3．手術治療 95
4．術後管理 96
D．バルサルバ洞動脈瘤破裂 96
1．概念と病態生理 96
2．診断 97
3．手術治療 97
4．術後管理 97
E．エブスタイン奇形 97
1．概念と病態生理 97
2．診断 97
3．手術治療 98
4．術後管理 98
7．心臓腫瘍と手術 〈野口権一郎〉 99
A．概念 99
B．分類と疫学 99
1．原発性心腫瘍 99
2．原発性心膜腫瘍 100
3．続発性（転移性）心臓腫瘍 100
C．臨床症状 101
1．心膜腫瘍 101
2．心筋腫瘍 101
3．心内膜腫瘍 101
D．各腫瘍の特徴 102
1．粘液腫 102
2．脂肪腫 102
3．線維腫 102
4．横紋筋腫 102
E．検査と診断 103
1．胸部X線 103
2．心電図 103
3．経胸壁および経食道エコー 103
4．CT，MRI 103
5．血管造影 103
F．治療 104
1．粘液腫 104
2．横紋筋腫 104
3．悪性腫瘍 104
G．管理のポイント 104
8．胸部大動脈疾患と手術 〈川人宏次 安達秀雄〉 105
A．胸部大動脈疾患の分類 105
B．AAEと上大動脈瘤 107
1．症状と病態 107
2．手術 107
C．弓部大動脈瘤 109
1．症状と病態 109
2．手術 109
3．遠位弓部大動脈瘤の手術 112
D．下行大動脈瘤 113
1．症状 113
2．手術 114
E．胸腹部大動脈瘤 116
1．症状 116
2．手術 117
9．腹部大動脈瘤と手術 〈安藤 敬〉 118
A．解剖 118
B．臨床症状と画像診断 119
C．手術適応 121
D．手術前の全身評価 121
E．手術治療 121
F．手術合併症 123
G．手術成績 123
10．循環補助（IABPとPCPS） 〈村田聖一郎〉 124
A．大動脈バルーンパンピング（IABP） 124
1．原理と効果 124
2．IABPの適応と禁忌 125
3．装着手技と使用法 126
4．合併症 127
5．IABP挿入患者の看護のポイント 127
B．経皮的心肺補助（PCPS） 128
1．経皮的心肺補助（PCPS）の原理と効果 128
2．PCPSの適応 129
3．装着手技と使用法 130
4．合併症 130
5．PCPS患者の看護のポイント 132
6．看護スタッフによるPCPS準備 133
索引 135