はじめに

 神経疾患や精神疾患は,診察が難しい,治療がわからない,あまり診療したくないと考えている先生方が多いのではないでしょうか.たしかに神経疾患を診療するためには,ある程度専門的なトレーニングが必要となるかもしれません.精神疾患を診療するためには,とりわけ専門的な知識が必要かもしれません.しかし,日常臨床の現場では,神経症状あるいは精神症状を伴う一般身体疾患をもつ患者さんを診療する機会が多いのではないでしょうか.あまりにも専門的な神経症状あるいは精神症状の場合ならば,専門医に紹介するほうがよいかもしれません.しかしながら,比較的ポピュラーな神経症状あるいは精神症状ならば,ご自分で診療されてみたらいかがでしょうか.先生方の外来に通院している一般身体疾患をもつ患者さんが神経疾患あるいは精神疾患を伴ってきたとき,すべて専門医に紹介するわけにはいかないのではないでしょうか.
 本書は,神経内科あるいは精神神経科を専門とされないかかりつけ医の医師,一般診療科の医師,研修医を対象としたものです.ある神経疾患(神経症状)あるいは精神疾患(精神症状)が疑われる患者さんが受診した際,かかりつけ医の医師や一般診療科の医師,研修医がどのように考え,どのように治療していけばよいかについて簡潔にまとめたものです.実際に患者さんを診療した際,病態や治療に必要なことがらをわかりやすく記述しています.特に薬物療法に関しては,具体的かつ実践的な内容を盛り込んでいます.日常臨床でポピュラーな神経疾患(神経症状)あるいは精神疾患(精神症状)が疑われる患者さんを診療した際,該当する項目を読んで頂くだけで当面の対策が立てられるように工夫されています.
 本書を通じて,神経内科あるいは精神神経科を専門とされない先生方の診療スキルの向上に多少なりともお役に立てれば著者の喜びとするものです.

2007年1月 著者


目次

 神経疾患,精神疾患診療の必要性

【第1部】神経内科疾患
 1.パーキンソン病の臨床診断―これだけ知っていれば診断は容易―
 2.脳血管性パーキンソニズムの診断と対応―見逃されやすい病態―
 3.パーキンソン病に対する薬物療法
 4.抗パーキンソン病薬投与の実例
 5.気をつけたい抗パーキンソン病薬の副作用
 6.アルツハイマー病とは?―病気の具体的な説明のしかた―
 7.アルツハイマー病の臨床診断
 8.アルツハイマー病に対する薬物療法―ドネペジル投与の実際―
 9.アルツハイマー病にみられる行動障害・精神症状に対する薬物療法
 10.アルツハイマー病にみられる行動障害・精神症状に対する薬物療法―事例呈示―
 11.一般外来で遭遇しやすい脳血管障害と認知症状を伴う患者さん―診断のこつ―
 12.脳血管性認知症とは?―病気の具体的な説明のしかた―
 13.脳血管障害と関連する皮質下性認知症とは?
 14.一般外来で遭遇しやすい脳血管障害と認知症状を伴う患者さん―治療と対応―
 15.パーキンソン病に認知症状が加わった場合の考え方
 16.歩行障害のみかたと鑑別
 17.むずむず脚症候群
 18.頭痛の診断―かかりつけ医の先生方が最小限知っておくべきこと―
 19.片頭痛に対する薬物療法の実際
 20.緊張型頭痛に対する薬物療法の実際
 21.三叉神経痛・顔面痛に対する薬物療法の実際
 22.てんかんの薬物療法の実際
 23.四肢のしびれ,痛しびれに対する薬物療法の実際
 24.一過性全健忘―認知症と間違われることがある―
 25.見逃してはいけないめまい,ふらつき

【第2部】精神神経疾患
 1.日常臨床に役立つうつ病・抑うつ状態の診断と治療の原則
 2.抗うつ薬の実践的な使用法
 3.気をつけたいSSRI,SNRIの副作用
 4.うつ病・抑うつ状態に対する指導のしかた
 5.患者さんから質問されるうつ病診療の疑問点に対する回答の実際
 6.認知症とうつ病・抑うつ状態の鑑別は可能か?
 7.生活指導で解決できる睡眠障害への対応
 8.睡眠薬の実践的な使用法
 9.睡眠薬を飲んでもまったく寝られないと訴える場合に考えること
 10.レム睡眠行動障害
 11.パニック障害
 12.内気な性格? 社会不安障害とは?
 13.不安症状(不安障害)を訴える患者さんの診断と対応
 14.不安症状(不安障害)に対する薬物療法の実際
 15.不合理なこととわかっているが,やらなければ気がすまない
   ―強迫性障害の薬物療法―
 16.身体表現性障害とはなにを意味するか?
 17.心気症,心気症状とは?
 18.慢性疼痛を訴える患者さんに対する薬物療法の実際
 19.いわゆるヒステリーとはどのような医学的病態を指すのか?
 20.幻覚・妄想を訴える患者さんの病態
 21.皮膚寄生虫妄想(Ekbom症候群)
 22.抗精神病薬の実践的な使用法
 23.抗精神病薬リスペリドンが著効を示した事例
 24.抗精神病薬の副作用とその対策
 25.悪性症候群とは?
 26.クロナゼパムの使用に慣れると治療スキルが拡がる!
 27.自動車の運転をしてはいけない疾患とは?―てんかんをもつ患者さんへの対応―

 索 引