高血圧管理,生活様式の改善によって脳卒中の死亡率,発症率は過去数十年の間に大幅に低下した.しかし最近の統計においても脳卒中の人口千人あたりの発症率は男5.2/女4.6,死亡率は男1.3/女1.1と今なお高いレベルを維持している.この数字が示すように,脳卒中の特徴は,死亡率はそれほど高くはないが,後遺症による寝たきり,痴呆,機能予後/生活の質の低下が多く発生することであり,それが個人・家族・社会に及ぼす損失は測り知れないほど大きい.従って,脳卒中治療の最前線において死亡率を下げる努力がなされることは当然としても,研究・開発の主たる目的は,急性期における脳損傷の拡大を抑制し後遺障害を軽減する方法の確立に向けられなければならない.脳卒中において脳が損傷される最も基本的な機序は脳虚血である.脳虚血-脳循環・代謝についての本格的な研究は20世紀後半に始まり,現在では分子生物学的研究が主流となっている.しかし先端的分子生物学的研究については画期的な発見が期待される反面,in vivoの病態から遠ざかってしまう危険性が指摘されている.その成果をtrans-lational researchを通じて臨床応用に結び付けるためには,動物モデルを用いた研究を,脳虚血病態についての総合的理解に基づいて,正しく効率的に行わなければならない.病態の総合的理解なくして十全な治療はあり得ない.編著者,共著者は過去数十年間における脳虚血研究の発展を身をもって体験してきた世代である.我々がこれまでに培い蓄積した経験と知識をここで1冊の本に纏めておくことは,若い研究者が脳虚血病態を全体的,総合的に理解する一助となるに違いないと考えたことが,本書を企画した最大の理由である.今迄に蓄積された膨大な知見を網羅することは到底不可能であるが,脳血流測定法,CT・PET・MRI,神経生化学の基礎,動物モデル等については,著名な研究者諸氏の惜しみない御協力を得た.本書の内容を格段に充実させてくれた共著者各位の御努力に対して敬意と謝意を表したい.編著者自身は脳梗塞,脳浮腫,くも膜下出血という,脳血管障害における代表的脳病態について執筆した.各々の病態についての研究の流れがどのように枝分かれし,それらが他方における分子生物学的研究の流れとどのように合流し,さらにこれらの流れの総体が現時点における臨床的諸問題とどのように関連しているかという歴史的・総合的理解を目指して論述を行った.各研究分野における代表的論文は,出来る限り多く引用した.著者の記述が不十分な箇所は随所に見出されるであろうが,その場合には引用した原著を是非とも御参照いただきたい.読者各位における‘温故知新'を促すことも,本書の目的の一つである.さて私にとって,本書の執筆はまさにドン・キホーテ的難行苦行であったが,それを終えて私の脳裏に形成された考えを簡潔に記したい.

 20世紀の多くの物理学者はアインシュタインを含めて,自然は『シンプルであるべし』とした.また生物学も,近代に誕生した人間機械論の延長として発展してきた.しかしそれは間違った確信であり,現実の自然の姿ではない.不確定性理論を【創】始したハイゼンベルグは,「(自然は)複雑に入り組んだ,出来事の織物としてその姿を現す.そこでは,様々な種類の結びつきが交錯し,重なり合い,連結し,またその結果その織物の姿が決定されていく」と述べている.つまり事物の本質は物自体ではなく,物と物との相互関係にあるとした.一方生物学においては,物と物との相互関係は“機序”として捉えられ,その本質は究極的には生存を目指す合目的性であると考えられている.生命においては,ハイゼンベルグが描写した自然の渾沌が,時空において限定的ではあるが秩序によって置き換えられる.疾病とは健康な状態における秩序が何らかの要因によって撹乱されることであり,その機序の解明を通じて現代医学は大きな成果を収めてきた.分子生物学的研究は主に脂質,蛋白質,核酸の分子構造と相互関係の解析を中心として現在も急速な発展を続けている.しかし近年におけるさらに新しい発見は,これらの物と物との相互関係が,それらが存在する細胞内外の環境,特に活性酸素・フリーラジカルによって大きく影響されるということである.活性酸素に曝される時,生命は原始の自然-生成と変化と消滅が渦巻く渾沌の内に投げ出される.本書においては,先ず脳虚血病態に関して既に確立された生化学的・分子生物学的機序を示し,次にそれらが活性酸素・フリーラジカルによってどのように変容するかについて解説した.最近の知見は,活性酸素が虚血性脳損傷の発生に極めて重要な役割を果たすことを明らかに示している.しかし活性酸素をどのように制御すれば,虚血性脳損傷に対する治療効果が得られるかという問題に対する取り組みは始まったばかりである.この重要な問題に対する研究者諸氏の関心を高めることに本書が幾分なりとも貢献できたとすれば,編著者にとってそれ以上の喜びはない.

 最後に,私が今日まで曲がりなりにも勉強と研究を続けることが出来たのは,第一に多くの優秀な研究者との出合いに恵まれたこと,第二に糟糠之妻が内助の功を尽くしてくれたことのお陰である.改めて深い感謝を捧げる次第である.第三に,ゴータマ・ブッダが2,500年程前に残した言葉が時に脳裏に蘇り,私を叱咤激励してくれたことも付け加えたい.無数の先人の言葉の内で,生と死について最も‘ラジカル'な認識を表したその言葉を次の世代の研究者にお伝えすることをもって,拙文の掉尾としたい.

『自己を灯明(島)とし,自己を頼りとして,他人を頼りとせず,法(真理)を灯明(島)とし,法を拠り所として,他のものを拠り所としないように.』

ブッダ臨終の言葉

『さあ,修行僧たちよ.そなたたちに告げよう.もろもろの事象は過ぎ去るものである.怠ることなく修行を完成しなさい.』

  2003年10月

    浅野孝雄


目次

第1部 脳血流・代謝・機能測定法

A.脳血流の測定法<菅野 巖>  2

 1.脳血流量測定の理論  2

  a)脳血流量の定義  3

  b)トレーサの導入  3

  c)トレーサの平均通過時間に基づく脳血流量測定法  4

   1)拡散性トレーサによる測定理論  5

   2)非拡散性トレーサによる測定原理  8

  d)トレーサの分布量に基づく脳血流量測定法  8

 2.実際の脳血流量測定法  10

  a)非侵襲的計測の方法  10

  b)測定法と脳血流量解析方法  10

   1)2次元測定法の時代  10

   2)3次元測定法の時代  12

  c)実際の脳血流量測定法  13

   1)123I-IMPオートラジオグラフィ(ARG)法  13

   2)99mTc標識HM-PAOと99mTc標識ECD  14

   3)PET-H215O測定法  14

   4)造影剤による非拡散性トレーサとしての脳血流測定法  14

  d)定量的脳血流量の臨床上の意義  15

  文献  16

B.機能的診断法 : PET<菅野 巖>  17

 1.PETの概要  17

 2.PETトレーサ  19

   1)15O標識トレーサ  20

   2)11C標識トレーサ  20

   3)18F標識トレーサ  20

   4)13N標識トレーサ  20

   5)比放射能  20

 3.PET装置  21

   1)ガンマ線検出器  21

   2)3D-PET装置  22

   3)吸収減衰補正  22

   4)Dual-PET  23

   5)PET-CT  23

 4.PET測定モデルと臨床応用  23

   1)15O標識ガス定常吸入法  24

   2)15O標識トレーサ短時間測定法  25

   3)脳ブドウ糖消費量  26

   4)神経受容体分布とその活性  26

   5)脳機能賦活マッピング  27

  文献  28

C.脳代謝の機能的診断法 : functinal MRI<長岡 司,田村 晃>  30

 1.fMRIの原理  30

 2.fMRIの画像処理  31

 3.fMRIの発展  32

 4.臨床応用への問題点  34

  文献  34

D.脳虚血の画像診断 : CT, MRI<長岡 司,田村 晃>  35

 1.CTスキャン  35

 2.MRI-T1・T2強調画像  36

 3.MRI-FLAIR  36

 4.拡散強調画像  37

 5.脳灌流画像  39

 6.MR angiography  41

 7.MRIによる超急性期脳虚血の画像診断  43

  文献  45

第2部 虚血による脳血流・代謝・脳機能の変動と脳損傷

A.脳代謝<久保田勝>  48

 1.脳のエネルギー代謝  48

  a)エネルギー産生系  48

   1)嫌気的解糖系  48

   2)好気的リン酸化  48

  b)脳のエネルギー消費  49

  c)神経細胞死とエネルギー代謝  50

 2.細胞内代謝調節  53

  a)情報伝達(signal transduction)  53

   1)細胞外シグナル分子(first messenger)  53

   2)細胞膜受容体の情報伝達系  53

   3)細胞内因子(second messenger)  56

  b)DNAから蛋白質合成の調節  60

     細胞周期とアポトーシス  61

 3.蛋白質代謝  61

   ポストゲノムサイエンスからプロテオミックス(プロテオーム)へ  61

   1)蛋白質の基本構造  61

   2)蛋白質の立体構造(コンホメーション)を助けるシャペロン  62

   3)折りたたみパターンとしてのαへリックスとβシート  63

   4)蛋白質量の調節-プロテアソーム  63

   5)神経系での蛋白質  63

 4.リン脂質  68

  a)生体膜の構成脂質  69

  b)リン脂質のフリップ・フロップ  70

  c)膜流動性  71

  d)ラフトの構造  71

  e)シグナル伝達に関与するリン脂質  73

   1)ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)  74

   2)スフィンゴミエリン(SM)  74

   3)スフィンゴシン-1-リン酸(S-1-P)  75

   4)リゾホスファチジン酸(LPA)  75

  f)膜リン脂質の虚血負荷の影響  75

 5.モノアミン,その他  79

  a)ドパミン  79

   1)主なドパミンニューロン系  80

   2)ドパミンと強化学習(オペラント学習)  80

   3)ドパミントランスポーター  81

  b)ノルアドレナリンとアドレナリン  82

  c)セロトニン  82

  d)グルタミン酸  83

   1)イオンチャネル型受容体(iGluR)  83

   2)代謝調節型受容体(mGluR)  84

   3)グルタミン酸トランスポーター  85

  e)GABA(γ-アミノ酪酸)  86

  文献  86

B.局所脳虚血における血流・代謝の変化<田村 晃>  91

 1.ischemic thresholdとischemic penumbra  91

 2.電気生理学的活動と脳血流量  91

 3.神経細胞傷害と脳血流量  94

 4.penumbra領域の傷害とspreading depression  97

 5.代謝障害,浮腫と脳血流量  97

  文献  99

C.局所脳虚血モデル<田村 晃>  102

 1.脳虚血の実験動物モデル  102

 2.ネコ中大脳動脈(MCA)閉塞モデル  104

 3.ラット中大脳動脈(MCA)閉塞モデル  105

  a)血管外からの中大脳動脈閉塞モデル  105

   1)MCA近位部閉塞モデル(Tamuraモデル)  105

   2)MCA遠位部閉塞+両側総頸動脈閉塞モデル(Chenモデル)  108

   3)MCA遠位部閉塞+同側総頸動脈閉塞モデル(tandem occlusion model ;

     Brintモデル)  108

   4)エンドセリン血管外投与モデル  109

  b)血管内MCA閉塞モデル(intraluminal MCA occlusion model)  109

   1)血管内糸上げモデル(intraluminal thread model)  109

   2)光化学反応による血栓性MCA閉塞モデル

     (photochemical thrombosis model)  112

  c)ラットの系統差  112

  d)ラットの血管構築  114

  文献  115

D.動物モデルにおけるMRI,fMRI<長岡 司,田村 晃>  119

 1.機器の選定  120

 2.動物モデル  120

 3.撮影の準備  120

 4.撮影中のモニタリング  123

 5.動物における他のfMRI撮影方法  123

  文献  124

E.虚血による脳高次機能障害とその評価法<田村 晃>  125

 1.行動機能の評価法  125

  a)運動量の評価法  125

  b)神経症状の評価法  125

   1)定性的神経学的評価法  126

   2)定量的神経学的評価法  127

 2.高次機能(行動学習機能)の評価法  127

  a)受動的回避学習  127

  b)能動的回避学習  129

  c)迷路(空間認知)学習  131

   1)T(Y)字型迷路装置  131

   2)8方向放射状迷路実験装置  131

   3)水迷路実験装置(モリス型水迷路装置)  133

  d)学習の神経細胞傷害への影響  134

  e)飼育環境の学習への影響  134

 3.局所脳虚血と学習行動障害  135

  a)局所脳虚血モデルにおける行動・機能  135

   1)自発運動量・運動機能  135

   2)神経学的評価  136

  b)局所脳虚血モデルにおける高次機能  137

   1)受動的回避学習  137

   2)能動的回避学習  138

   3)迷路学習  139

 4.全脳虚血と学習行動障害  143

  a)全脳虚血モデルにおける運動量・高次機能  143

  文献  145

F.虚血遠隔部に生じる脳損傷<中根 一>  148

 1.遠隔部変性の種類  149

   1)順行性変性またはワーラー変性  149

   2)順行性経シナプス変性  149

   3)逆行性変性  149

   4)逆行性経シナプス変性  150

 2.遠隔部変性の所見  150

   1)順行性変性(ワーラー変性)  150

   2)順行性経シナプス変性  150

   3)逆行性変性および逆行性経シナプス変性  152

 3.遠隔部変性の診断の意義  155

   1)脳血管性病変との鑑別  155

   2)遠隔部変性の治療の可能性  155

  文献  155

G.一過性脳虚血における海馬CA1

  ニューロンの死と再生<桐野高明>  157

 1.海馬CA1領域の一過性虚血による神経細胞死  157

 2.遅発性神経細胞死  158

 3.グルタミン酸説  159

 4.虚血耐性  161

 5.海馬における神経再生  163

  文献  165

第3部 脳血管障害急性期の病態と活性酸素<浅野孝雄>

I.脳梗塞…168

A.活性酸素についての基礎知識  170

 1.地球上における酸素の発生  170

 2.活性酸素・フリーラジカルとは何か?  172

  a)酸素分子の構造  173

  b)活性酸素種間の反応  176

  c)活性酸素の毒性  177

  d)一酸化窒素  178

 3.脂質過酸化  180

  a)生体膜リン脂質  180

  b)非酵素的脂質過酸化  182

  c)酵素的脂質過酸化  184

  d)活性酸素種/脂質過酸化の測定  187

  e)内因性抗酸化システム  188

   1)スーパーオキシドジスムターゼ  188

   2)カタラーゼとペルオキシダーゼ  189

   3)グルタチオンペルオキシダーゼ  189

   4)ビタミンEとビタミンC  190

   5)チオレドキシン,グルタレドキシン,ペロキシレドキシン  191

   6)その他の抗酸化物質  192

   7)内因性抗酸化システムの意義―特に老化に関して  192

 4.細胞内酸化還元状態(redox state)  194

  a)細胞内酸化還元状態の形成  194

  b)酸化的リン酸化とredox state  195

  c)活性酸素と細胞内シグナル伝達  197

  d)ミトコンドリアにおける活性酸素の発生  198

 5.活性酸素とapoptosis  200

  a)ミトコンドリアにおけるCa2+沈着  200

  b)ミトコンドリア・膜透過性遷移(MPT)  202

  c)シトクロムC放出へのBcl-2蛋白の関与  204

  d)シトクロムC放出によるカスパーゼカスケードの賦活  205

  e)細胞内小器官の相互的影響(cross-talk)による細胞死の促進  206

  f)カスパーゼ カスケードの抑制  208

 6.活性酸素と細胞内シグナル伝達  209

  a)セカンド メッセンジャーとしての活性酸素  210

  b)FRによるシグナル伝達の制御  210

  c)外的刺激による細胞内活性酸素発生とその役割  211

   1)細胞内に存在する様々な活性酸素発生源  211

   2)細胞膜関連オキシダーゼおよびGTP結合蛋白による活性酸素の生成  212

   3)細胞膜表面受容体刺激による活性酸素生成  212

  d)転写因子および遺伝子発現に対する活性酸素の関与  215

   1)AP-1  215

   2)MAPキナーぜとAP-1活性化  216

   3)NFκB  218

   4)STAT,ARE  219

B.虚血性脳損傷発生機序  220

 1.脳梗塞発生機序 : カルシウム説を中心として  220

  a)虚血性神経細胞死の多様性  220

  b)ラット,マウス局所脳虚血における脳梗塞の組織学的判定基準  221

  c)局所脳虚血領域におけるコアとペナンブラ  223

   1)脳梗塞治療におけるぺナンブラの意義  223

   2)Coreにおける細胞死の機序  224

   3)梗塞巣のぺナンブラへの拡大  225

   4)ペナンブラにおける細胞死発生機序―小胞体損傷の役割  227

   5)Spreading depression : 永久局所脳虚血における役割  230

   6)血流再開後の梗塞拡大  232

   7)梗塞拡大の時間経過 : 動物モデル,臨床例における違い  232

 2.虚血脳における遺伝子発現  233

  a)虚血脳における遺伝子発現の波  233

  b)虚血脳における遺伝子発現/炎症反応  235

  c)コアにおける遺伝子発現  235

  d)アポトーシス関連遺伝子の発現  236

  e)コアおよびペナンブラにおける遺伝子発現  236

   1)NOSとNO  237

   2)TNF-α  237

   3)NFκB  237

   4)COX-2  238

   5)インターロイキン  238

   6)成長因子  239

   7)MAPKカスケード  239

  f)熱ショック蛋白発現領域  241

  g)低酸素領域におけるHIF-1の発現  242

  h)Spreading depressionによる即時性初期遺伝子(IEGs)の発現  243

 3.アストロサイト(AC)の役割  244

  a)アストロサイトgap junctionによるニューロン活動の修飾  244

  b)虚血脳におけるアストロサイトの保護的作用  245

   1)アストロサイトによる細胞外グルタメートの取り込み  246

   2)アストロサイトから放出される中間代謝産物  246

   3)アストロサイトの抗酸化機能  247

  c)虚血脳におけるアストロサイトの傷害的作用 : 遅延性脳梗塞体積増大

    (delayed infarct expansionとの関連について  247

   1)遅延性脳梗塞体積増大(delayed infarct expansion)  248

   2)梗塞および脳浮腫の拡大と炎症性サイトカインの発現  248

  d)グリア細胞の活性化  249

   1)ミクログリアの活性化  250

   2)アストロサイト活性化の機序  250

   3)反応性アストロサイト  251

   4)Gap junctionとspreading depression  252

  e)活性化アストロサイトによるS100Bの産生と,その梗塞拡大への関与  253

   1)Down症,Alzheimer病,脳梗塞などの

     脳病変におけるS100Bの産生とその役割  253

   2)S100Bの細胞内カルシウム上昇作用  255

   3)S100Bの細胞毒性  256

   4)ラット永久中大脳動脈閉塞モデルにおける

     S-100Bの発現と梗塞拡大との関連  256

   5)薬剤によるアストロサイト活性化の抑制とその治療効果  257

 4.脳微小循環の障害  263

  a)ネコ局所脳虚血モデルにおけるrCBFの変動パターン  264

  b)小動物(齧歯類)永久MCAOモデルにおける微小循環障害  265

  c)血流再開モデルにおける微小循環障害 : 血小板および白血球の役割  266

  d)血小板凝集,白血球粘着の生化学的機序と,微小循環に対する影響  268

  e)血小板凝集,白血球粘着抑制薬による脳微小循環改善効果  269

  f)脳微小血管内皮細胞の関与 : 活性酸素の役割  270

   1)接着因子の発現と活性酸素  271

   2)内皮細胞と脳実質細胞の相互作用  273

 5.虚血脳におけるフリーラジカルの発生とその病的意義  274

  a)全脳虚血モデル  276

  b)局所脳虚血モデル  278

  c)活性酸素産生亢進の機序  279

   1)xanthine/hypoxanthineの酸化  279

   2)アイコサノイド生成  280

   3)ミトコンドリア機能の変化  280

   4)浸潤白血球によるROS産生  280

   5)モノアミン  280

   6)NADPH oxidase  281

   7)活性酸素種間の反応  281

  d)NOの生成とその役割  281

   1)NOS-1(neuronal NOS)  281

   2)NOS-2(inducible NOS)  282

   3)NOS-3(endothelial NOS)  282

   4)NOの作用の複雑性282

 6.虚血性脳損傷において重要なフリーラジカルの作用  283

  a)膜脂質,蛋白質,DNAの損傷  283

   1)膜リン脂質過酸化  283

   2)蛋白システイン基の酸化  283

   3)アミノ酸の酸化  283

   4)PARPの活性化  284

  b)NFκB活性化  284

  c)Ca2+ホメオスタシスの破綻  285

  d)NOと細胞内pH  285

  e)解糖系,ミトコンドリア電子伝達系の抑制  285

  f)サイトカインの役割  285

 7.脳は何故,フリーラジカルによる損傷を受けやすいのか?  286

 8.抗酸化薬による脳梗塞治療の展望  289

II.脳浮腫…292

A.脳浮腫という病理学的概念の成立  294

 1.脳浮腫研究の始まり  294

 2.血液・脳関門―概念の形成  295

 3.BBBおよび細胞外腔に関する電顕的研究の推移  297

 4.脳浮腫についての概念の統一  299

B.新しい脳浮腫の分類 : vasogenic edemaとcytotoxic edema  300

 1.Klatzoの脳浮腫分類  300

 2.Starling's principle  301

 3.Vasogenic edema  302

  a)脳complianceについて  302

  b)血漿蛋白がBBBを透過する機序  303

  c)脳内に貯留した蛋白と脳水分量の関係  304

  d)浮腫液が脳細胞に及ぼす影響  304

  e)浮腫液の吸収  305

  f)脳浮腫のメディエーター(mediators of edema)  305

 4.Cytotoxic edema  305

  a)Gibbs-Donnan equilibrium  306

  b)Double-Donnan system  307

  c)Cytotoxic edemaにおける脳細胞の膨化  308

 5.Astrocytic swelling  309

  a)細胞外液K+濃度調節におけるアストロサイトの役割  310

   1)ニューロンおよびグリアによる[K+]oの吸収  310

   2)Potassium spatial buffering  310

   3)細胞外液K+濃度調節機序間の連関  311

  b)脳anoxiaとastrocytic swelling  312

   1)細胞外液K+濃度上昇によるアストロサイトの膨化  312

   2)細胞外液acidosisおよびCO2の増加  312

   3)細胞外液中glutamateとastrocytic swelling  313

   4)アラキドン酸およびその他の物質とastrocytic swelling  313

  c)アストロサイト膨化の周囲細胞に対する影響  314

   1)微小循環の障害  314

   2)Krogh's cylinder-intercapillary distance  315

   3)Regulatory volume decrease(RVD)とEAAの放出  315

  d)アストロサイト細胞膜の水チャンネル―aquaporin 4の役割  316

C.虚血性脳浮腫  320

 1.永久局所脳虚血モデルにおける大脳半球脳浮腫  320

 2.ラットpMCAO-大脳半球および大脳皮質に

  おける水,Na+,K+含量およびalbumin透過性の経時的変化  321

 3.永久局所脳虚血初期(0〜6-12h)  324

  a)局所血流量(rCBF)の低下と脳浮腫の発生  324

  b)脳インピーダンスの変化  325

  c)Idiogenic osmoles  325

  d)Ionic or cellular edema  326

  e)脳微小血管内皮細胞・Na+pumpの役割  328

  f)ネコMCAOにおける脳浮腫のbiomechanics  331

  g)虚血中心部と辺縁部における浮腫の進行  331

  h)ラットMCAO・大脳半球脳浮腫の進行について  332

 4.浮腫進行期(12-72h)  334

  a)浮腫進行のbiomechanics  334

  b)BBB-tight junction形成の脳組織による誘導とin vitro modelの確立  335

  c)Tight junction構成蛋白  336

  d)BBB(血液・脳関門)透過性に影響を及ぼす物質とその作用機序  338

   1)NO/cyclic GMP  338

   2)アラキドン酸と活性酸素  339

   3)炎症性サイトカイン  340

   4)その他のedema mediators  343

 5.浮腫消退期(72-168h)  344

  a)虚血脳におけるangiogenesis  344

  b)血管新生に関与する因子 : VEGF  345

   1)VEGFの一般的な性質,作用  345

   2)BBBに対するin vivoの作用  347

   3)in vitro BBBモデルに対する作用  347

   4)脳虚血モデルにおけるVEGFの発現  348

   5)脳におけるVEGFの作用-therapeutic angiogenesis  349

  c)その他の血管新生因子  350

 6.虚血性脳浮腫のまとめ―治療への手がかり  352

  a)虚血性脳浮腫初期  352

  b)虚血性脳浮腫進行期  353

  c)虚血性脳浮腫消退期  354

 7.血流再開と脳浮腫  354

  a)ヒト脳梗塞および動物脳虚血モデルにおける再灌流障害  354

  b)血流再開による脳浮腫増悪の機序  355

  c)抗酸化薬の再灌流障害抑制作用とその臨床における証明  357

III.くも膜下出血急性期の脳病態…358

A.くも膜下出血急性期における直接的脳損傷の発生  360

 1.意識レベルと予後との相関  360

 2.動脈瘤破裂が引き起こす頭蓋内圧と脳血流量の変動  361

 3.くも膜下出血急性期脳損傷についての臨床例および動物モデルにおける検討  362

B.一過性全脳虚血における脳微小循環障害 :

  no-reflow phenomenon  366

C.一過性全脳虚血における脳の選択的

  脆弱性(selective vulnerability)  368

 1.脳の一過性全脳虚血に対する選択的脆弱性  368

 2.選択的脆弱性の原因  369

 3.アストロサイト・ニューロンにおけるglutamine-glutamate/GABA cycle  370

 4.遅発性神経細胞死(delayed neuronal death : DND)  370

D.SAH直後の脳損傷とその治療可能性  372

 1.SAH直後の脳微小循環障害  373

 2.SAHによる直接的脳損傷に対する治療の可能性  373

  a)脳灌流の改善  374

  b)選択的脆弱性に対する脳保護  374

IV.くも膜下出血亜急性期の病態 : 脳血管攣縮…376

A.‘脳血管攣縮'という臨床的概念の形成  377

B.くも膜下出血後の動脈壁器質変化  380

 1.くも膜下血腫溶血によって惹起される炎症反応  380

 2.CVSにおける脳動脈壁器質変化  381

C.初期の実験的研究  383

 1.脳軟膜動脈の刺激による収縮  383

 2.脳血管収縮物質の検索  383

 3.研究の行き詰まり  384

 4.脳軟膜動脈のカルシウムに対する反応  385

D.脳の血管構築と脳血流調節機構  386

 1.頭蓋内動脈の解剖学的構築  386

  a)脳血管における内圧低下―軟膜動脈吻合の意義  386

  b)Monro-Kellie doctorineの修正  387

 2.脳血流調節機序―自動調節能の発見  387

  a)血圧変化に対する脳軟膜の収縮・拡張  387

  b)脳血流自動調節能の発見  388

  c)自動調節能の障害(dysautoregulationとvasoparalysis)  388

 3.代謝性調節(metabolic control)  389

  a)CO2に対する脳血管の反応  389

  b)CO2による脳血管拡張の機序  390

  c)脳代謝・血流連関(CBF-metabolism coupling)  390

  d)アデノシンの役割  392

 4.筋原性調節(myogenic control)  393

 5.神経性調節(neurogenic control)  396

  a)脳血管に分布する神経の経路  398

  b)脳血管への神経分布  398

  c)傍血管神経に含まれる神経伝達物質  399

  d)神経伝達物質の脳血流に対する作用  400

  e)神経性調節機序の新たな可能性  400

E.脳血管壁におけるメカノトランスダクション  402

 1.Myogenic responseに関与する機序  403

  a)伸展による血管平滑筋細胞膜脱分極  403

  b)膜メカノセンサーとしてのイオンチャンネル  404

  c)諸酵素とセカンドメッセンジャーとしてのカルシウム  406

   1)細胞内カルシウムレベルと張力発生の関連  406

   2)ホスファチジルイノシトール代謝産物による情報伝達  406

   3)Myogenic responseにおけるカルシウム感受性の変化  406

  d)カルシウム感受性調節機序  408

   1)プロテインキナーゼCとMAPK  408

   2)Rho A  409

   3)ホスホリパーゼ活性化とG蛋白  410

   4)血管平滑筋におけるメカノトランスダクション  412

 2.脳血管拡張に関与する機序  413

  a)Flow-mediated vasodilation :内皮細胞の役割  414

  b)膜イオンチャンネル : K+channelの活性化  416

   1)カルシウム感受性K+channel (KCa channel)  416

   2)ATP感受性K+channel(KATP channel)  417

   3)膜電位感受性K+channel(KV channel)  418

   4)Inward rectifying K+channel (KIR channel)  418

  c)cAMP-プロスタサイクリン  418

   1)cAMPの作用機序  418

   2)プロスタサイクリン  419

  d)Nitric oxide/cGMP  420

   1)NOの作用の濃度による違い  420

   2)cGMP/protein kinase Gの細胞内Ca2+濃度低下作用  420

   3)NOS抑制薬とNO/活性酸素との相互作用  421

   4)eNOS賦活物質  421

   5)NOが定常的脳血流に及ぼす影響  421

  e)脳循環調節におけるNOの役割  422

   1)脳血流代謝連関  422

   2)アシドーシスによる血管拡張  424

   3)Hypercapniaによる血流増加におけるNOの役割  424

   4)脳血管内皮細胞eNOSに対するhypercapniaの影響  426

   5)ハイポキシアによる血管拡張におけるNOの役割  426

  f)内皮細胞由来過分極因子(EDHF)  427

 3.内皮依存性収縮因子(EDCF) : エンドセリン  428

F.くも膜下出血後,脳動脈に生じる変化とCVSとの関連  432

 1.SAH/CVSによる脳動脈の器質的・機能的変化  432

  a)動脈壁器質変化がCVS発生にはたす役割  432

  b)内皮細胞損傷の発生と炎症反応  434

  c)平滑筋細胞壊死(myonecrosis)  435

  d)動脈壁の物理学的性質(physical properties)と基礎緊張(basal tonus)  435

 2.内皮細胞損傷に起因する血管収縮・弛緩調節機序の異常  437

  a)内皮細胞・血小板の相互作用 : プロスタサイクリンとトロンボキサンA2  437

  b)内皮細胞由来収縮因子 : エンドセリン  439

   1)SAH後のET-1産生とCVSとの関連  439

   2)ET-1拮抗薬のCVS抑制効果  440

  c)内皮細胞依存性の弛緩因子 : 一酸化窒素(nitric oxide : NO)  441

   1)SAHによるEDRF/NO産生低下  441

   2)EDRF/NOに対する脳動脈拡張反応の低下  443

   3)NOおよびNO供与体によるCVSの予防・治療  444

   4)K+チャンネル  445

   5)ET-1とNOのCVSへの関与  447

 3.くも膜下出血後,脳血管平滑筋に生じる変化  448

  a)PKCの化学構造と作用  448

  b)PKC,MAP kinase,tyrosine kinase,およびrho kinaseの

    平滑筋収縮への関与と環状ヌクレオチドとのクロストーク  449

  c)PKCと環状ヌクレオチドの膜イオンチャン

    ネルに対する作用のクロストーク  451

  d)リン脂質メデイエーター  452

 4.脳血管攣縮における平滑筋収縮・弛緩制御機構の異常  454

  a)PKC活性化によるイヌ脳底動脈の収縮  455

   1)イヌ脳底動脈におけるPKC依存性収縮  455

   2)PDA収縮のPLA2およびcGMPによる抑制  456

  b)SAHモデルにおける脳主幹動脈PKC依存性収縮の賦活  456

   1)イヌSAHモデル脳底動脈攣縮はCa2+非依存性収縮に起因する  456

   2)SAH後脳底動脈におけるジアシルグリセロール増加  456

   3)SAH後脳底動脈basal tonus維持機構

     のCa2+依存性収縮からCa2+非依存性収縮への移行  456

   4)攣縮脳動脈においてDAGが増加する機序  458

  c)PKC活性化に関与する機序  458

   1)攣縮脳動脈DAG含量についての諸報告  458

   2)攣縮脳動脈PKC活性化についての諸報告  458

   3)攣縮脳動脈において活性化されるPKCのサブタイプ  459

   4)攣縮脳動脈におけるカルポニンとカルデスモンの減少  459

   5)PKC活性化におけるカルパインの役割  459

   6)攣縮脳動脈平滑筋における細胞内Ca2+レベル  460

  d)攣縮動脈におけるtyrosine kinase,MAP kinase,およびrho kinaseの活性化  461

   1)攣縮脳動脈におけるtyrosine kinase活性化  461

   2)攣縮脳動脈におけるMAPK活性化  461

   3)攣縮脳動脈におけるRho-kinase活性化  461

   4)Rho-kinaseを活性化するリガンドおよび細胞内メディエーター  461

  e)脳血管攣縮とbasal tonus  462

   1)攣縮脳動脈における壁張力  462

   2)動脈myogenic responseにおける三つのフェーズ  463

   3)脳動脈攣縮における平滑筋収縮についての新たな見方  464

G.活性酸素と脳血管攣縮466

 1.イヌSAHモデル髄腔内における活性酸素の

  発生と,その脳血管攣縮発生への関与  466

  a)OxyHbによる活性酸素の生成  468

  b)脂質過酸化物の脳動脈収縮作用  468

  c)SAH後髄腔内における脂質過酸化  469

   1)活性酸素の検出  469

   2)髄腔内脂質過酸化物の検出  470

   3)髄腔内内因性抗酸化物質のSAH後の変化  472

  d)抗酸化薬による動物SAHモデルにおける脳血管攣縮抑制作用  472

   1 )AVS〔nicaraven : 1/2-bis(nicotinamide)-propane〕  473

   2)エブセレン  473

   3)21-aminosteroid  474

   4)AVS,エブセレン,21-aminosteroid臨床成績の比較  474

   5)鉄イオン キレーター  475

   6)SOD,catalase  475

   7)その他の抗酸化薬  476

 2.脳動脈に対する活性酸素の作用  476

  a)In vivoにおけるネコ軟膜動脈への活性酸素の作用  477

  b)In vitroにおける抽出動脈切片への活性酸素の作用  477

  c)過酸化物のin vitro,およびin vivoにおける脳動脈への作用  478

 3.血管平滑筋細胞シグナル伝達に対する活性酸素の作用  479

  a)蛋白キナーゼ活性および遺伝子発現  479

   1)チロシンキナーゼ  480

   2)MAPキナーゼとAkt(protein kinase B)  481

   3)遺伝子発現  481

  b)カルシウムシグナリング  483

   1)活性酸素の血管平滑筋カルシウムシグナリングへの作用  483

   2)オキシヘモグロビンの血管平滑筋カルシウムシグナリングへの作用

     ―活性酸素との関連―  484

  c)ROSが膜リン脂質代謝に及ぼす作用  485

  d)活性酸素によるPKC活性化  486

   1)制御ドメインの直接的修飾  486

   2)ROSによるチロシンリン酸化を介するPKC活性化  486

   3)PLC,PLD,PLA2産物によるPKC活性化  487

H.脳血管攣縮の全体像と治療戦略489

文献  492

索引…612