熊本大学医学部放射線医学教室の興梠征典助教授が編集者となり,わが国の若手神経放射線科医らが協力して「脳脊髄MRAの読み方」という著書を著すことになったが,MRAが臨床に必須の検査法となりつつある現在,誠に時宜を得たものであり,日常診療上も有益な著書となったことを心から喜んでいる.興梠助教授は熊本大学放射線科では神経放射線と血管系のInterventional Radiologyを中心に診療・研究活動を行ってきた若手研究者の一人であるが,最も得意とする脳脊髄のMRAについての著書を世に送ることは誠に喜ばしいことである.

 中枢神経の画像診断で脳血管造影は最も重要な検査法の一つとされ,古くから広く実施されてきたが,検査に伴う合併症の頻度が高く,できれば非侵襲的な検査法に置き換えることが望まれてきた.MRAは血流からの信号を周囲の動きのない組織と較べて増強ないし低下させて血管を描出する方法として発展してきたものである.MRAの利点は非侵襲的で鮮明な画像が得られ,Time of Flight(TOF)法やPhase Contrast法では造影剤を使用せず,また,放射線被曝のない利点がある.このような多くの利点のためにMRAは広く臨床に用いられるようになり,全身の血管性病変のみならず中枢神経系では閉塞・狭窄性疾患,動静脈奇形,動脈瘤,もやもや病などをはじめとする多くの血管性病変に応用されるようになった.最近になり,水溶性造影剤Gd-DTPAを静注後に高速のMR撮像を行い,MR血管造影を行う方法が開発されてきた.本法ではTOF法に較べて飽和や乱流による画質低下がなく,空間分解能も優れている点が強調されているが,頭蓋内病変では動静脈が重なるという欠点がある.今後,非侵襲的血管造影法の将来を考える場合,CT血管造影,超音波ドップラー法とMRAをどのように使いわけるかが,重要となることが考えられる.

 今回,興梠助教授らが著した「脳脊髄MRAの読み方」ではMRAの原理から最近の進歩まで,正常解剖,各種血管性病変の読み方,神経血管圧迫病変,脳腫瘍におけるMR血管撮影の意義など文献を広く引用しながら詳しく解説している.中でも興梠助教授が得意とする頸部狭窄性病変,頭蓋内動脈瘤,静脈洞血栓症などの診断におけるMRAの役割,適応,実施法,読み方などについて詳しい記述を行っている.本書を通読することによって脳脊髄の血管性病変におけるMRAの臨床のすべてを理解することができる.

 最近,MRAの保険適応が認められるようになり,MRAの臨床応用についての関心が高まってきている.本書はMRIに携わる多くの関係者,医師,放射線技師,看護婦,検査技師などがMRAの理解を深め,日常診療の診断,技術向上を計るには最適の著書と考え,本書を広く推薦したいと思う.

  2000年8月

    熊本大学放射線科教授

    高橋睦正

序文

 MR angiography(MRA)は,血管を非侵襲的に検査できる優れた方法として急速な発展をとげてきた.生理的な血流情報である,血管以外の構造を評価できる,ボリュームデータが得られるといった通常のX線血管撮影にない利点も有している.空間分解能や末梢血管の描出能は通常のX線血管撮影に及ばないものの,MR装置の進歩,新しい撮像法や画像処理法の開発などにより,撮像時間の短縮や画質の著明な向上が得られてきている.躯幹部や四肢におけるMRAは現時点で臨床評価がまだ必ずしも定まっているとは言えないが,脳のMRAは臨床応用が開始されてすでに長い年月が経過しており,多くのデータが蓄積されている.現在では脳血管性病変のスクリーニングや経過観察に日常臨床上必須のものとなっている.本邦で広く普及している脳ドックにおいてもMRAが主要検査項目の一つとなっているが,スクリーニングにおけるMRAの診断精度に関しては現状では施設間あるいは読影者間での差がかなり大きい.よってMRAの特徴・限界の十分な理解,撮像法の適切な選択や読影のトレーニングなどが重要である.

 このような現状を考慮し本書の編集に当たっては,脳脊髄の血管性病変を一通り網羅しさらにMRA独自の適応についても触れる,撮像や読影の方法など基本がわかるようにする,写真を豊富に盛り込む,読影のポイントを具体的に解説する,最近の知見を織り込む,などに留意した.特に,各種MRAをどう使い分けるか,画像再構成における工夫および元画像をどう使うか,MRAに特有のアーチファクトの解説,読影に際して初学者が陥りやすいピットフォールなど,臨床の現場での撮像や実際の読影に役立つ情報を入れるように心がけた.また最低限知っておくべき臨床的事項,例えば脳動脈瘤の好発部位,未破裂脳動脈瘤の自然史,頸動脈分岐部病変の臨床的意義・治療方針などについて簡潔に記載し,本書を読むだけである程度の情報が得られるようにした.執筆を依頼した先生方はいずれも,脳脊髄領域のMRAの第一人者として現在活発に研究されている若手の放射線科医である.本書が脳脊髄領域のMRA検査に携わる方々のお役に立てば幸いである.

  2000年8月

    熊本大学医学部放射線医学教室助教授

    興梠征典


目 次

1.自己・非自己識別システムの進化  大田竜也,笠原正典

 A.適応免疫システムを構築する主要な分子群の起源と進化  2

  1.抗原受容体--B細胞抗原受容体とT細胞抗原受容体  2

  2.MHCの進化と起源  8

 B.自然免疫システムを構築する分子群の起源と進化  11

  1.補体系  11

  2.NK細胞による細胞傷害  13

  3.Toll受容体  15

 C.無脊椎動物で観察される組織適合性  17

  1.海綿動物における組織適合性  17

  2.ホヤにおける組織適合性  18

2.主要組織適合抗原の構造と機能--抗原提示  篠原信賢

 A.MHC遺伝子  23

  1.主要組織適合性遺伝子複合体  23

  2.クラスI遺伝子  23

  3.クラスI分子の立体構造  26

  4.その他のクラスI様遺伝子  28

  5.クラスII遺伝子  28

  6.クラスIIMHC分子の立体構造  29

  7.MHC内に存在するMHC分子構造遺伝子以外の遺伝子  29

 B.MHC分子の機能: 抗原提示  30

  1.Ir遺伝子とMHC拘束  30

  2.Ir遺伝子  31

  3.T細胞抗原認識のMHC拘束  32

 C.ペプチド断片とMHC分子との複合体形成  33

  1.クラスII MHC分子とペプチド断片との親和性  33

  2.クラスI分子とペプチド断片との結合  34

 D.MHC分子の細胞内合成,会合とペプチド提示  34

  1.クラスI提示経路とクラスII提示経路  34

  2.クラスI MHC分子の合成,輸送および細胞内ペプチドの結合  35

  3.クラスII分子の合成,輸送と細胞外抗原の提示  35

  4.MHC分子とペプチドの結合の特異性  37

 E.アロ抗原のT細胞による認識  38

  1.同種移植拒絶反応に関与する細胞  38

  2.アロMHC抗原の認識  39

  3.マイナー移植抗原  40

3.移植抗原認識機構と急性拒絶反応  榊田 悟,藤原大美

 A.宿主T細胞による移植抗原の認識  45

  1.移植抗原とは  45

  2.移植抗原としてのMHCとT細胞の強いアロ反応性  46

  3.非主要組織適合性抗原(マイナーH抗原)  47

  4.移植抗原の直接認識(direct recognition)と

    間接認識(indirect recognition)  48

  5.in vivo移植片拒絶反応におけるアロ抗原認識経路の意義

    --in vitro反応はin vivoの結果を予測するか?  50

 B.急性拒絶反応のメカニズム  51

  1.生体内で移植抗原提示を行う細胞とは?  51

  2.移植抗原感作の場─所属リンパ組織か移植臓器か?  53

  3.近年急速に集積される樹状細胞の起源,分化,生体内動態に関する新知見

    --樹状細胞活性化は免疫応答(拒絶反応)のマスターキーか?  53

  4.MHCを認識するT細胞のフェノタイプと機能

    --拒絶反応におけるT細胞間相互作用  56

  5.T細胞のリンホカイン産生能の分極化と拒絶反応

    --拒絶反応におけるTh1/Th2パラダイムの行方?  59

  6.T細胞以外のエフェクター機構  60

4.慢性拒絶反応と異種移植片拒絶反応  榊田 悟

 A.慢性拒絶反応  69

  1.慢性拒絶反応とは--その臨床的病態と組織学的特徴  69

  2.移植後細動脈硬化症(TVS)とその病理

    --慢性拒絶反応におけるresponse to injury modelとその実験的検証  71

  3.慢性拒絶反応とT細胞のアロ免疫応答  74

  4.臨床的慢性拒絶反応の治療戦略に求められるもの  75

 B.異種移植片拒絶反応  75

  1.ブタからヒトへの異種移植と超急性拒絶反応 hyperacute rejection(HAR)  76

  2.遅延型異種移植反応 delayed xenograft rejection(DXR)  78

  3.異種移植におけるT細胞応答の可能性  78

  4.臨床利用に向けた異種移植拒絶反応制御の試み  79

  5.異種移植における移植免疫以外の問題--xeno-zoonosis  80

5.移植抗原特異的免疫抑制  藤原大美

 A.T細胞活性化機構  87

  1.T細胞活性化  88

  2.副刺激シグナル  90

 B.副刺激シグナル修飾による免疫寛容誘導  94

  1.抗原提示細胞の機能  94

  2.副刺激不在下でのTCR刺激により誘導される負の応答  94

  3.アナージーとアポトーシスの関係  98

 C.移植免疫応答における免疫寛容  99

  1.ドナーB細胞の前感作による免疫寛容誘導  100

  2.ドナー細胞を用いたアロ抗原提示による免疫寛容誘導の限界とその原因  101

  3.T細胞アポトーシス誘導理論に基づいた移植免疫の寛容導入  102

 D.キメリズムと免疫寛容誘導  104

  1.キメリズムの誘導  104

  2.臓器移植後に観察されるキメリズム  104

  3.免疫寛容誘導におけるpassenger leukocyteの役割  105

  4.キメリズムの誘導,passenger leukocytesの役割および免疫寛容の相互関係  106

6.免疫抑制剤  大塚一幸,広井 純,妹尾八郎

 A.開発の歴史  113

 B.免疫抑制剤の分類  114

 C.主な免疫抑制剤とその作用機序  116

  1.purine核酸合成阻害剤  116

  2.特異的情報伝達阻害剤  120

  3.リンパ球表面機能阻害  128

  4,その他  130

7.HLA抗原タイピングと臨床移植における意義  成瀬妙子,猪子英俊

 A.HLA抗原を構成する遺伝子  140

  1.HLA抗原とは  140

  2.HLA遺伝子領域  141

 B.HLA抗原タイピング  143

  1.血清学的検査法  143

  2.細胞学的検査法  144

 C.HLAのDNAタイピング  145

  1.HLA遺伝子のDNAタイピング  145

  2.HLA DNAタイピング方法  148

  3.HLA DNAタイピングの利点  152

  4.日本におけるHLA DNAタイピングの精度  152

 D.HLAタイピングの臨床移植における応用とその意義  153

  1.HLAタイピングの移植医療への応用  153

  2.骨髄移植とHLA  154

8.腎移植  田邉一成

 A.適 応  160

  1.生体腎ドナーの適応  161

 B.腎移植の現状とその成績  162

  1.腎移植の現状  162

  2.腎移植の成績  162

  3.免疫抑制法  162

 C.拒絶反応の病態生理  170

  1.超急性拒絶反応  171

  2.促進型急性拒絶反応  171

  3.急性拒絶反応  171

  4.慢性拒絶反応  172

 D.拒絶反応のモニタリング  174

 E.問題点,対策,将来  175

9.心移植  中田精三

 A.心移植の適応  182

 B.心移植の現状  185

 C.免疫抑制療法と拒絶反応  187

 D.心移植の成績と移植心の生理  189

 E.国内での心移植  191

 F.心移植の将来  192

10.肝移植  田中紘一,上本伸二

 A.適応疾患  198

 B.移植の現状  199

  1.脳死肝移植  199

  2.生体肝移植  200

  3.免疫抑制療法  200

 C.拒絶反応の病態生理  201

  1.急性拒絶反応  201

  2.慢性拒絶反応  202

  3.ABO血液型不適合移植における拒絶反応  203

 D.拒絶反応のモニタリング  203

  1.急性拒絶反応  204

  2.慢性拒絶反応  205

 E.今後の課題  206

  1.急性拒絶反応  206

  2.慢性拒絶反応  207

  3.ABO血液型不適合移植  207

11.肺移植  青江 基,伊達洋至,清水信義

 A.肺移植の歴史と現況  210

  1.歴 史  210

  2.保在方法,液  211

  3.免疫抑制剤  213

  4.生体部分肺葉移植  214

  5.本邦での現況  215

 B.適 応  216

  1.脳死肺移植  216

  2.生体部分肺葉移植  219

 C.成 績  220

 D.モニタリング  221

  1.呼吸機能  221

  2.経気管支肺生検  221

  3.体 温  222

  4.免疫抑制剤の血中濃度  223

  5.拒絶反応の治療  223

  6.サイトメガロウイルス感染  223

 E.現状での問題点と今後の対策  224

12.小腸移植  吾妻達生

 A.腸管免疫の特殊性  227

 B.腸管移植の適応  228

 C.腸管移植の歴史  228

 D.拒絶反応と移植片対宿主病 graft-versus-host disease(GVHD)  230

 E.腸管移植の現況  231

  1.国際小腸移植シンポジウムによる現況  231

  2.術後経過の特徴/慢性拒絶反応  232

  3.生体腸管移植について  233

  4.各移植施設における腸管移植  233

 F.臨床小腸移植の実際  234

  1.手術手技  234

  2.免疫抑制法ならびに拒絶反応  235

  3.術後感染症  236

13.骨髄移植とGVHD  平岡 諦

 A.移植の年次推移と多様化  240

 B.ドナー別,急性GVHDの頻度  241

 C.急性GVHDと生存率  241

 D.Hyperacute GVHD  243

 E.Minor histocompatibility antigen  243

 F.HLA不一致血縁者間移植とGVHD  244

 G.非血縁者間骨髄移植とHLA-C  245

 H.NK細胞とGVHD,GVL効果  246

 I.PBSCT,CBTのGVHD  247

  1.PBSCT(末梢血管細胞移植)  247

  2.CBT(臍帯血移植)  247

 J.急性GVHDの制御  248

  1.第一相の制御  248

  2.第二相の制御  248

  3.第三相の制御  249

 K.慢性GVHDの病態とautologous GVHD  251

  1.ラット・自家(同系)GVHDの発症機序  251

  2.ヒト自家GVHD  253

  3.慢性GVHDにみられる免疫異常  253

 L.graft-versus-leukemia効果  253

  1.GVL効果  253

  2.GVLとGVHDは分離できるか  254

  3.HLA-CとGVL効果  254

 M.新規の移植方法  255

  1.non-myeloablative transplantation(mini-transplant)  255

  2.haplo-identical transplantationとtolerance誘導  256

 N.免疫再構築と感染症対策  257

  1.CMV感染症  258

  2.EBVによるリンパ増殖症候群  258

索 引  263