患者数170万人と推定される脳卒中は,最大の要介護性疾患であり,国民死亡原因の第2位(1995年),疾患別一般診療医療費の第1位を占める.今後の人口高齢化に伴い,この状況は益々悪化するであろう.脳卒中診療に従事する人材は現在でも不足しており,大学等における脳卒中教育も不十分である.さらに,若い臨床医・研修医,コメディカルに役立つ実践的な脳卒中診療の解説書はほとんどない.

 最近,画像診断技術の急激な進歩や超急性期治療薬の開発・臨床応用が進んでいる.ちなみに,米国では血栓溶解薬が「初の脳卒中治療薬」として公認され,欧州では脳卒中専門病棟の整備の必要性が宣言されている.今後わが国でも,脳卒中診療体制の変革,これを支える臨床医,医療技術者の育成が求められるであろう.中外医学社より『脳卒中診療ハンドブック』の出版企画が持ち込まれたのは,こうした脳卒中診療新時代の到来を実感しつつあった1996年秋のことであった.

 本書の編集にあたり,実戦的な解説書の作成を目標の第一とした.執筆者も我々の脳卒中診療チームのスタッフ,レジデント諸君にお願いし,一部は外科脳血管部門,リハビリテーション部門スタッフの協力も得た.我々の施設で実際に行っている診断,治療法の記述を中心とし,内容の不統一もできるだけ避けたつもりである.

 本書が脳卒中の診断・治療に苦労されている全国の臨床医や研修医,コメディカルの方々,さらに21世紀の脳卒中診療を担う後輩諸君に,少しでも役立てば幸いである.終わりに,本書の企画から完成まで始終お世話になった中外医学社の荻野邦義,森本俊子の両氏に深謝する.

    1998年3月

    峰松一夫

目 次

§1  脳卒中診療のための基礎

     1.脳・脳血管の解剖… 2

     2.脳卒中の病理… 7

     3.脳卒中と脳循環代謝… 11

     4.脳卒中急性期の各種病態(脳浮腫,出血性梗塞,

遠隔効果等)… 17

§2  脳血管障害の分類と診断

     1.これまでの脳血管障害分類とその変遷… 22

     2.新しい脳血管疾患分類の概要―米国NINDS分類第III版… 24

     3.無症候性脳血管障害・血管病変… 26

     4.一過性脳虚血発作… 28

     5.脳出血… 30

     6.くも膜下出血… 33

     7.動静脈奇形による頭蓋内出血… 36

     8.アテローム血栓性脳梗塞… 39

     9.心原性脳塞栓症… 43

     10.ラクナ梗塞… 47

     11.その他の脳梗塞… 49

     12.血管性痴呆… 51

     13.特殊な原因による脳血管障害… 53

§3  脳卒中の疫学・統計

     1.脳卒中死亡率と有病率… 60

     2.脳卒中の危険因子… 64

     3.脳卒中の病型別頻度… 68

     4.脳卒中の予後… 70

§4  脳卒中の症候

     1.意識障害… 74

     2.運動麻痺… 78

     3.感覚障害… 80

     4.視野障害… 82

     5.瞳孔異常,眼球運動障害… 84

     6.その他の脳神経障害… 88

     7.運動失調… 90

     8.失語,失読,失書… 92

     9.半側空間無視… 96

     10.その他の高次脳機能障害… 98

     11.ラクナ症候群…103

     12.偽性球麻痺と失禁…107

     13.代表的な脳卒中症候群…109

     14.脳ヘルニア徴候…114

     15.頭痛とめまい…118

§5  脳卒中の検査

     1.CT…124

     2.MRI…129

     3.脳血管撮影…134

     4.MRA…139

     5.CT angiography(CTA)…141

     6.頸部血管エコー検査…145

     7.Transcranial Doppler(TCD)…153

     8.SPECT…158

     9.PET…161

     10.心・大血管の評価…165

     11.血小板機能および血液凝固学的検査…170

     12.免疫学的検査…172

     13.その他の検査(脳波,神経耳科学的検査)…174

§6  診断の実際

     1.初期診断と検査計画法…178

     2.脳卒中と間違えやすい疾患とその鑑別…182

     3.脳卒中病型の鑑別診断(出血と梗塞)…185

     4.脳梗塞の臨床病型診断…187

     5.部位診断…191

     6.脳卒中の重症度診断…195

     7.脳卒中スケール…198

§7  急性期治療の実際

     1.救急処置…202

     2.補液と栄養管理…204

     3.合併症とその対策…207

     4.急性期の血圧管理…212

     5.TIAへの対策…214

     6.脳出血の治療(外科的治療の適応も含む)…216

     7.くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の治療…219

     8.動静脈奇形による頭蓋内出血の治療…223

     9.脳梗塞の急性期治療…225

     10.急性期治療薬の適応と禁忌…228

     11.アテローム血栓性脳梗塞の急性期治療…232

     12.心原性脳梗塞の急性期治療…235

     13.ラクナ梗塞の急性期治療…238

§8  再発予防と慢性期管理

     1.再発予防とリスク管理…242

     2.脳梗塞の再発予防(内科的治療)…244

     3.脳梗塞の再発予防(外科的治療)…247

     4.脳循環代謝改善薬の使い方…250

     5.脳血管性痴呆の治療・予防…254

§9  リハビリテーション

     1.急性期のリハビリテーション…256

     2.回復期の理学療法・作業療法…258

     3.言語障害のリハビリテーション…262

     4.心理学的ケア…266

     5.在宅・地域リハビリテーション…268

§10  生活指導

     1.食 事…274

     2.運 動…279

     3.喫煙と飲酒…280

     4.その他…281

重要用語…282

索 引…303