改訂2版の序

 「今日の乳幼児健診マニュアル」が出版されてから8年以上が経過している.少子化傾向はますます進み,平成9年で15歳以下の小児人口と65歳以上の老人人口が15.6%と同率となり,20〜30年後には老人人口が全人口の30%を占めることが予測されている.それと共に高齢化社会を支える子どもの健全育成が強く叫ばれている.今や子どもの健全育成は親の願いであるばかりではなく,社会の要求でもある.子どもの健全育成の大きな柱が公的乳幼児健診である.これからは,乳幼児健診の果たす役割はますます大きくなるであろう.

 母子保健法の改正,地域保健法の実施により,子どもの健全育成は地域の市町村が都道府県と連携を取りながら責任をもって行うようになった.乳幼児健診は集団健診と委託健診(個別健診)に分けられるが,以前のマニュアルによる集団指導型の健診から,個々の家庭や子どもに合った,多様なニーズに答えるきめ細かい健診がこれからは要求されている.個別健診にしろ集団健診にしろ健診の質は向上せざるを得ないであろう.本書が出版されて以来,身体計測値(平成2年調査),予防接種法の改正(平成6年),地域保健法の実施(平成9年4月)などがあった.本書はそろそろ改版の時期となったが,幸いなことに,本書は多数の読者に利用され175B社会的背景の変化に対応すべく改版の運びとなった.第1版と同様,著者二人が協力して一緒に,全章をチェックし,新しい時代に対応できるように改正した.もとより,総ての家庭や子どもの多様なニーズの全てを記載することは不可能であるので,これからの乳幼児健診に必要な基本的知識や技能を記載するようにした.

 本書が第1版同様,多数の読者に利用されることを願ってやまない.本書がわが国の子どもたちの幸せに結びつくことを祈っている.お気付きのことがありましたら,どんなことでも結構です.遠慮なく御連絡ください.

 

1997年9月吉日

前川 喜平

青木 継稔

目 次

§1.乳幼児健診概説

A.乳幼児健診の目的…1

B.乳幼児健診システムとプログラム…1

   1) 実施方法と実施主体…1

   2) 健診の適期と回数…3

   3) 健康診査の時期と保健指導の重点…3

   4) 行政的定期健康診査の実施過程…3

C.ハイリスク児の概念…6

D.マススクリーニング…8

 1.スクリーニング(よりわけ検査)…8

  a.スクリーニングの定義…8

  b.スクリーニングテストの評価…9

  c.スクリーニングテストの選択…9

   1) 受容性…9

   2) 信頼性…11

   3) 妥当性…11

   4) 費用便益…12

 2.乳幼児健診とスクリーニング…12

  a.集団健康診査…12

  b.包括的健康管理…12

  c.個別健診…13

  d.集団健康管理とサーベイランス…13

 3.スクリーニングと精密検診…13

  a.第一次スクリーニング…13

  b.第二次スクリーニング…14

  c.第三次,精密検診…14

E.健診医の役割と心構え…15

§2.健診法の実際

A.問診による評価法…23

 1.問診に必要な基本的事項…23

  a.胎児に影響を与える諸因子…24

   1) 配偶子病…24

   2) 遺伝子病…29

   3) 胎芽病・胎児病…30

    a) 感染症…31

    b) 奇型症候群,特異な顔貌の疾患…33

    c) 薬物および化学物質…40

    d) 母親の疾病…41

    e) 放射線…42

    f) 重症妊娠中毒症…43

    g) 喫煙・アルコール…43

    h) M臍帯・胎盤の異常…43

    i) 出生順位・母親の年齢…43

    j) 居住地の高度…43

  b.低出生体重児と在胎週数…43

   1) 低出生体重児の呼び名の使い分け…43

   2) 在胎期間の短い児の呼び名…43

   3) 在胎期間に比較して出生体重が

     著しく軽い児の呼び名…43

   4) 出生体重が重い児の呼び名…44

   5) 出生児身体計測値よりの考察…44

   6) その後の身体発育と発達…44

   7) 頭 囲…46

  c.アプガースコアーとその意味…46

  d.脳障害のときにみられやすい

    新生児期の症状…48

  e.無症候性脳障害児の診断…48

   1) 新生児期の診断…49

    a) 在胎週数の評価…49

    b) 新生児の行動および反応による

      評価…49

    c) 泣き声…49

    d) 哺乳力…49

    e) 状 態…49

   2) 乳児健診…50

  f.新生児期における神経学的異常と

    予後…50

   1) 脳障害の可能性のある因子,

     あるいはハイリスク因子…50

   2) 脳障害の時にみられやすい症状

     および症候…50

   3) 神経学的異常所見…50

  g.変質徴候の診かた…51

  h.器 具…51

 2.月年齢別問診項目…53

  a.一般の質問項目…54

  b.月年齢別問診項目…55

   1) 1ヵ月…55

   2) 2ヵ月…55

   3) 3ヵ月…56

   4) 4ヵ月…57

   5) 5ヵ月…58

   6) 6ヵ月…59

   7) 7ヵ月…60

   8) 8ヵ月…61

   9) 9ヵ月…62

   10) 10ヵ月…63

   11) 11ヵ月…64

   12) 12ヵ月…65

   13) 15ヵ月…66

   14) 18ヵ月…67

   15) 1歳9ヵ月…68

   16) 2歳…69

   17) 2歳6ヵ月…70

   18) 3歳…70

   19) 4歳…71

   20) 5歳…71

B.身体発育および栄養状態の評価…72

 1.身体計測法…72

  a.身 長…72

  b.体 重…73

  c.頭 囲…73

  d.カウプ指数…80

 2.発育の評価…82

  a.これまでの発育と発育曲線…82

  b.計測値の評価…82

  c.身長の評価…82

  d.体重の評価…84

  e.頭囲の評価…84

C.一般小児科的診察法…86

 1.全身状態および行動…86

 2.皮膚,粘膜所見…87

 3.リンパ節…88

 4.頭 部…88

 5.顔 面…89

 6.耳…89

 7.眼…91

 8.鼻…92

 9.口腔と咽喉…92

 10.頚 部…93

 11.脊 柱…93

 12.胸 部…93

   1) 肺の打聴診…94

   2) 心臓の打聴診…94

 13.腹 部…95

 14.外陰部…97

 15.肛 門…97

 16.四肢・関節・筋肉…97

D.神経学的発達の診かた…98

 1.神経学的発達診察の目的…98

 2.神経学的診察法…99

  a.姿勢の診かた…100

   1) 背臥位…100

   2) 腹臥位…100

   3) 坐位(お坐り姿勢)…103

   4) 立位(立っち姿勢)…105

   5) 寝返りとハイハイ…105

   6) 起立と歩行…107

  b.姿勢反射の診かた…110

   1) 垂直懸垂…110

   2) 水平懸垂…110

   3) 背位懸垂…110

   4) 引きおこし反応…111

   5) パラシュート反応…113

   6) ヴォイタ反射・コリス水平反応・

     逆懸垂位…114

  c.その他の有用な反射…114

   1) モロー反射…114

   2) 非対称性緊張頚反射…115

   3) 立ち直り反射…115

   4) 跳びはね反射…116

  d.筋緊張の診かた…116

   1) 背臥位姿勢…117

   2) 腹臥位姿勢…117

   3) ランドー反射…117

   4) 引きおこし反射…118

   5) その他…118

   6) フロッピーインファント…119

 3.発達スクリーニングテスト…119

  a.乳幼児健診における発達スクリー

    ニングテスト…119

  d.行動発達について…122

  c.言語発達について…122

  d.生活習慣の自立について…124

  e.乳児期の発達テストの境界および

    異常児についての取り扱い…124

  f.幼児期の発達テストの境界および

    異常児についての取り扱い…124

 4.主な月年齢の神経学的な検査…124

  a.1ヵ月児…124

  b.3〜4ヵ月児…127

  c.6ヵ月児…127

  d.9〜10ヵ月児…128

  e.1歳児…129

  f.1歳6ヵ月児…129

  g.2歳児…130

  h.3歳児…130

  i.4歳児…131

  j.5歳児…131

 5.精神発達の年齢別確認と異常の判定

   および事後措置…131

  a.1歳児…131

  b.1歳6ヵ月児…132

  c.2歳児…132

  d.3歳児…133

  e.4歳児…133

  f.5歳児…134

 6.言語発達の年齢別確認と異常の判定

   および事後措置…134

  a.1歳児…134

  b.1歳6ヵ月児…135

  c.2歳児…135

  d.3歳児…136

  e.4歳児…136

  f.5歳児…137

 7.社会性の発達の年齢別確認と異常の

   判定および事後措置…137

  a.1歳児…137

  b.1歳6ヵ月児…137

  c.2歳児…138

  d.3歳児…138

  e.4歳児…138

  f.5歳児…139

 8.生活習慣の自立と年齢別確認と異常の

   判定および事後措置…139

  a.1歳児…139

  b.1歳6ヵ月児…139

  c.2歳児…140

  d.3歳児…140

  e.4歳児…140

  f.5歳児…140

 9.行動上の問題…141

  a.乳児期の育児上の問題と

    行動上の問題…141

  b.幼児期の育児上の問題と

    行動上の問題…142

 10.視覚スクリーニング…144

  a.0ヵ月児…144

  b.3〜4ヵ月児および乳児期全般…145

  c.1歳児および1歳6ヵ月児…146

  d.2歳児〜5歳児…148

 11.聴覚スクリーニング…148

  a.難聴児スクリーニングのための

    問診項目…148

  b.難聴が疑われる乳幼児の確認事項

    および異常の判定…149

  c.難聴が疑われた場合の事後措置…152

 12.発達遅滞児,障害児の取り扱い方…153

  a.経過観察…153

  b.専門医への紹介…153

  c.その他の機関への紹介…153

E.その他の診察法…154

 1.眼科的診察法…154

 2.耳鼻科的診察法…159

 3.歯科的診察法…161

 4.整形外科的診察法…165

  a.先天性股関節脱臼…165

  b.先天性筋性斜頚…167

  c.先天性内反足…167

  d.外反扁平足…168

  e.O脚とX脚…168

  f.四頭筋拘縮と股関節の運動制限…170

  g.脊 柱…170

   1) 脊柱の生理的発達…170

   2) 異常姿勢…172

  h.上 肢…173

§3.症候別健診の実際−診断法と事後措置

A.症候別診断法と事後措置一覧表…174

B.主な症候の解説…181

 1.成長,発達に関する相談…181

  a.ことばが遅い,どもり…181

  b.下肢を着かない…182

  c.歩かない,歩き方がおかしい…182

  d.夜 尿…183

  e.おむつがとれない…184

  f.指しゃぶり…185

  g.寝ぼけ・夜泣き…185

  h.頭がいびつ…186

  i.体重が増えない…187

  j.背が低い…188

  k.落ち着きがない…188

  l.利き手…189

 2.病気・異常の相談…190

  a.てんかん…190

  b.脳性麻痺…190

  c.精神遅滞…191

  d.境界児,軽度障害児,学習障害

    リスク児…192

  e.先天性代謝異常症…193

  f.奇形・奇形症候群…194

  g.遺伝相談…194

§4.育児栄養相談・保健指導

A.乳幼児健診と小児の健康管理の目標…198

B.乳幼児健診の内容とおもな項目…198

C.育児指導と保健指導の原則…199

   1) 日本人の育児観…200

   2) 育児の背景…200

   3) 日本人の育児特性…201

   4) 個人特性(個性)…201

   5) 予測される情緒発達,知的発達…202

   6) 親子関係…203

   7) 言語機能の発達…203

   8) 育児の最高責任者である母親に

     期待されること…204

   9) 家庭環境…205

D.生活パターンとしつけの指導…206

   1) 睡 眠…206

   2) 排 泄…206

   3) 衣 服…206

   4) 寝具と寝かせ方…207

   5) 清潔と入浴…207

   6) 住 居…207

   7) 日光浴と外気浴…208

   8) 鍛 練…208

   9) 排尿,排便のしつけから生活習慣

     自立…208

E.栄養指導…210

   1) 母乳栄養…210

   2) 人工栄養…211

   3) 離 乳…211

   4) 幼児食…211

   5) 栄養上の問題…211

F.発達刺激…215

G.安全と事故防止…216

H.親子関係における行動特性と精神病理…216

I.育児相談の注意…219

J.月齢年齢によりみられやすい育児相談

  の内容と指導法…221

§5.乳幼児健診後の追跡・支援システム−フォローアップシステム

A.追跡支援のシステムとネットワーク…224

 1.市町村が中心となって行うべきこと…224

 2.保健所が主体となって行うこと…226

 3.追跡支援システムの流れ…226

B.個々の境界児や異常児からみた具体的

  な対応…225

 1.いわゆる「障害児」に含まれる疾患

   あるいは状態に何があるか…228

 2.障害児のケアに含まれる事柄…228

 3.障害児のケアの具体的実践としての

   母子保健サービス…230

  a.障害児とその家族への

    ヘルスプロモーション…230

  b.障害児とその家族に対するヘルスプロ

    モーションの柱となるべき事項…230

  c.障害児とその家族に対する母子保健・

    小児保健などのサービス…230

 4.障害児のケアに対する地域のサービスを

   中心としたシステムとネットワーク…233

 5.障害児のケアからみた市町村および

    保健所など行政面からの役割分担…234

  a.市町村が中心となって行う

    障害児のケア…234

  b.保健所における障害児のケア…234

付 表…237

1 乳児定期健康診査の記録…238

  乳児健診票,共通部分…240

  乳児各月齢特有部分…241

  幼児健診票,共通部分…242

  幼児各年齢特有部分…243

2 乳児定期健診スケジュール(例)…245

  定期健診(スクリーニング)の内容…246

3 乳児身体発育パーセンタイル曲線…247

  乳幼児の身長体重パーセンタイル表…249

  乳幼児の平均値・標準偏差

  (体重・身長・胸囲・頭囲)…250

  体格指数…254

  KAUP-DAVENPORT指数…255

  身長体重指数…257

  体表面積計算図表…258

  KAUP指数の計算図表…258

4 法による予防接種…259

  予防接種一覧表,予防接種予診表…260

  各種ワクチンの主な副反応と接種不適当,

     要注意…262

  ジフテリア,百日咳,破傷風の予防接種…263

  コレラ,インフルエンザ,および日本脳炎

     の予防接種…263

  予防接種スケジュール(例)…263

  接種不適当者および接種要注意者…264

  予防接種事故に対する給付…264

  幼稚園,学校における伝染病…265

  学校保健法による第2類伝染病の登校停止

     期間…265

5 改訂版日本版デンバー式発達スクリーニング

     検査…266

  小児行動評価研究会の小児異常行動調査表…267

6 児童憲章…269

  児童の権利宣言(抜粋)…270

7 乳幼児の健康診査および保健指導に関する

     実施要領…271

  三歳児健康診査の実施について…275

  日本人の栄養所要量…279

  健康づくりのための食生活指針…280

  平成9年度母子保健法改正による母子保健

     事業の実施主体の変更(予定)…282

索 引…285